表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙の女神  作者: もり
42/42

番外編.ごめんね。大好き。

 

「別にね、シルヴァンのことが嫌いなわけじゃないの。ううん、大好きなの。でもね、時々……本当に時々なんだけどね、シルヴァンにいじわるしたくなっちゃうの。あの可愛い柔らかなほっぺをつねったりしたくなるなんて、私……きっと悪い子なんだわ。ねえ、シンディ。どうしたらいい? どうしたら、いい子になれる?」


 王城の立派な厩舎の中、王妃の愛馬シンディと他の馬とを区切る馬房の柱に背中をつけて、膝を抱えて座り込んでいるのは、このモンテルオ王国の王女——ジュリエッタだ。

 まだ四歳だというのに、周囲に大人の姿はなく、他の馬たちは心配そうに耳を動かしている。


『あら、ジュリエッタはいい子よ。ちっとも悪い子なんかじゃないわ』

「どうして? だって、シルヴァンはとっても可愛いのに、時々いじわるしたくなるのよ?」

『それはどうして?』

「……わからないわ。でもみんなが、『殿下、殿下』って言ってるのを聞くと、もやもやって嫌な気持ちになってくるの」

『そう……。それは、ジュリエッタが悪い子なんじゃなくて、みんなが悪いのよ』


 鼻をぶるると鳴らして厳しく言うシンディの言葉を聞いて、ジュリエッタは慌てた。

 急いで立ち上がり、柵の外からシンディに向かって首を振る。


「違う、違う! お母さまも、お父さまも、みんなだって、とっても優しいわ! でもお母さまは、シルヴァンを産んでからお体の調子がよくなくて、まだベッドから起き上がれないし、お父さまはお忙しいから……」

『なるほどねえ。でもね、ジュリエッタ。そういう気持ちはちゃんとみんなに言ったほうがいいわよ? 大人っていうのは、どうしても手のかかる小さな子供のほうにかまってしまうからね。ほら、ジュリエッタを心配して王様が来たわよ?』


 シンディが軽く足踏みして鼻先で厩舎の入り口を示す。

 はっとしたジュリエッタが振り返ると、心配顔のフェリクスが急ぎ中へと入ってきた。


「ジュリエッタ! ここにいたのか! 皆、心配して城中が大騒ぎなんだぞ!? 母様もどれほど心配しているか……」

「……ごめんなさい」


 フェリクスの声は厳しいが、ジュリエッタに駆け寄り抱きしめた腕は、子供には苦しいほど強い。

 ジュリエッタは父の大きな背中にぎゅっと抱きついて、震える声で謝罪した。

 こうして父に抱きしめてもらえば、嫌な気分はあっという間に消えていく。


「謝罪は母様や城の皆にしなさい」

「……はい、わかりました」


 フェリクスは厳しい表情、厳しい声で言いつけたが、それでもしょんぼりしたジュリエッタの頬に優しくキスをした。

 それだけでジュリエッタの目に涙が溢れたが、頑張って堪える。

 そして無事なジュリエッタの姿に、すれ違う人たちが皆、安堵の笑みを浮かべているのを目にして、ジュリエッタはとても反省した。

 さらに母の部屋へ入った途端、シルヴァンの大きな泣き声と、母が昼用のドレスを着て起き出していたことに驚いた。


『ジュリエッタ!』


 ジュリエッタの姿を目にして急ぎ駆け寄ったレイチェルは、手を伸ばしたジュリエッタを強く抱きしめた。


『無事でよかったわ! みんな心配したのよ? 鳥達が厩舎にいると教えてくれたけど、心配で心配で……。本当に無事でよかった!』

「母さま、ごめんなさい……」

『あなたが無事だったのなら、それでいいの。でも、心配をかけたみんなには、ちゃんと謝らなくてはダメよ? シルヴァンまで心配しているのか、何をしても泣き止まなかったんだから』


 ジュリエッタの頬や額に何度もキスを繰り返しながら、レイチェルは涙まじりに叱った。

 気がつけば、シルヴァンはすっかりおとなしくなっている。


「レイチェル、心配だったのはわかるが、起きてはいけないと言っただろう? ジュリエッタも無事だったんだ。早く横になりなさい」

『……ええ、そうね』


 父の言葉で、なぜ母が起き出していたのかに気付いたジュリエッタは、さらに深く反省した。

 すねている場合じゃなかった。

 こんなにも自分を心配して大切にしてくれる両親がいて、ドナたちがいて、何よりシルヴァンは可愛い弟なのだ。


「父さま、母さま、ドナ、みんなも……本当にごめんなさい。もう勝手にいなくなったりしません」


 神妙な面持ちで謝罪したジュリエッタは、乳母の腕の中にいるシルヴァンに近づき、その柔らかな頬を優しく撫でた。


「シルヴァンもごめんね。大好きだからね」


 そう囁いたジュリエッタに、シルヴァンは青色の大きな瞳をじっと向けて、にっこり笑った。

 まだ歯の生えていないその顔があまりに可愛くて、今度はその柔らかな頬に、ジュリエッタはキスをしたのだった。




いつも、ありがとうございます。

この『沈黙の女神』書籍購入者特典が配布されます店舗さまの情報を、活動報告にてお知らせしております。

また早いお店では、年内に店頭に並ぶようです。

それでは、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ