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エピローグ


 勇者の仲間たちは小高い丘の上から魔王城を見下ろしていた。魔王城は激しく爆発して、その閃光は遥か空の彼方まで打ち上がった。


「ちくしょう…あんた…いつも自分ばっかり…」


 女戦士が泣きながら悔しそうに呟く。その傍らには若き魔法使いと僧侶の姿もあった。2人とも泣きながら魔王城から放たれる閃光を見つめている。


 やがて閃光は光を失い。あたりには静寂が訪れた。魔王城は跡形もなかった。まるでそこに魔王城があったという面影すらない。全て衝撃と閃光に焼かれて消え去ったのだ。


「勇者様……そんな、そんなのあんまりです……」


 僧侶が泣きながら地面を叩いた。勇者は自らの生命を持って魔族を倒した。若き魔法使いが空を見上げ驚いたように呟く。


「し、信じられません。まるで魔族の気配を感じません…。まるでこの世界から魔族が消えてしまったような…」


 世界を覆っていた闇は全て綺麗に消え去っていた。女戦士が若き魔法使いを問い詰めるように叫んだ。


「魔族なんてどうでもいい! 勇者は!? 勇者の気配は!?」

「勇者殿の気配は…感じられません…」


 3人は涙するしかなかった。もう日が暮れようとしている。その時、ふと空を見上げた僧侶が気づいた。


「…あれは、何でしょう?」


 空から何かが降ってきている。光だ。淡い光が降ってくる。光はやがて魔王城のあった場所に集まると。何か違うものの姿に形を変えた。


「勇者か!?」


 3人は必死に獣道を抜け、魔王城があった場所まで走った。魔王城があった更地の上に一人の人間が倒れている。僧侶がその姿を見て驚いて声を上げた。


「マコちゃん!」


 マコだった。3人は呆然と眠っているマコを見下ろした。


「うぅ、う……」


 マコが呻き声を上げながら目を覚ました。思わず3人は武器手に取り構えた。しかしすぐに若き魔法使いが驚いたように声を上げた。


「いや、これは…魔王ではありません…魔力も魔族の気配も感じません」


 マコがゆっくり起き上がった。額の角は跡形もなく取れている。マコは僧侶の姿を見つけるとぽろぽろと涙を流した。


「僧侶様…ごめんなさい…」

「マコちゃん!」


 僧侶は武器を投げ捨てマコを抱きしめた。2人は嬉しそうに号泣した。女戦士も若き魔法使いも武装を解除しマコに近づいた。


「みんな、マコのせいで、ごめんなさい……」


 マコはしゃくり上げるように泣いている。マコには魔力も残っておらず、既に魔族ですらなかった。ただの一の人間だった。


「マコ、勇者はどうしたんだい?」


 泣き続けるマコに女戦士が優しく尋ねた。


「勇者様は…ひっく、自分の生命を魔力に変えて、マコを魔族の象徴から解き放ったの……」 


 若き魔法使いは静かにうな垂れた。


「勇者殿、あなたは、まさしく真の勇者でした」


 僧侶は神に祈り空を見上げた。夕焼けの空に暁の星が輝いている。


「ずっと、ずっと忘れません…勇者様…」


 3人はマコが泣きやむのを待ってそれぞれの国へ帰った。





 それからしばらくの月日が流れた。マコは僧侶の教会に残ることになり、立派な僧侶になるべく修行を積んでいる。


 女戦士は自由きままな傭兵として世界を旅して回っていた。もう魔族は消滅し、魔族との戦争は終結してしまっている。その世界の中で女戦士は自分の力が生かせる場所を求めて旅を続けている。


 若き魔法使いは国に帰り、人々の生活を豊かにするため日々魔法の研究を続けている。相手を傷つける魔法ではなく、違う魔法の使い方を日夜研究して過ごしている。


 僧侶は焼けてしまった自分の教会を再建し、マコと共に教会の勤めをしながら捨て子などの世話をしている。勇者のことを忘れるまで誰とも結婚せずに過ごすつもりだった。




 その日マコは教会の外で箒を持って教会の外を掃除して回っていた。空は雲ひとつなく青く、今日も澄み渡るような青空が広がっている。


 マコは勇者から貰った青いネックレスをぎゅっと握ってみる。寂しくなり心細くなった時は、いつも勇者が自分に与えてくれたネックレスを握りしめる。そうすればいつも側に勇者がいるように感じた。あの優しい声で自分を呼んでくれそうな気がしていた。


「マコ」


 そういつも勇者は優しく呼んでくれた。魔王であり敵であった自分を殺さず、優しく愛情を持って育ててくれた。


「マコ、マコってば」


 勇者の声が鮮やかに蘇り、楽しかった日々の思い出が浮かんでくる。もっと沢山の時を過ごしたかった。本当に結婚して勇者と幸せな生活を送りたかった。もっと話したいことは山ほどあった。


「マコ? 寝てるの?」


 マコははっと目を開けた。そこには自分を不思議そうに覗きこむ勇者の姿があった。自分は幻覚を見ているのだろうか…。マコはおずおずと勇者に触れた。そこには確かな実感があった。


「勇者さま…?」

「そうだよ。ただいま、マコ」

「勇者さまぁぁぁ!」


 マコは勇者に飛びついた。ぼろぼろと涙が滝のように溢れだす。勇者は飛びかかってきたマコを優しく受け止めた。


「どうして…マコ、もう、勇者さまが…死んでしまったかと…」


 勇者はマコの涙を指で拭いながら優しく微笑んだ。


「目覚めた場所が、精霊のほこらだったんだ。魔力は消えてるし、ここまで来るのにかなり時間がかかったよ」

「よかった…勇者さま…」


 マコはぎゅっと勇者の胸に埋もれた。懐かしい勇者の匂いだ。


「もう僕は勇者じゃない、そしてマコも魔王じゃない。そうだろ?」


 勇者の問いにマコは嬉しそうに頷いた。


「ゆ、勇者様!」


 教会の奥から僧侶と子供たちが驚いて飛んでくる。空には雲ひとつなく、どこまでも澄み渡るような青空が広がっていた。




(おしまい)

ご拝読いただきありがとうございました。

何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。

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