season2 第1章 「あの頃の私」
*これは実際に経験した中学1年生頃の経験をもとに書いた小説です。「全10話」*
「あの頃の私は、よく笑っていた。だから、自分でも気づかなかった。いつから私は、ひとりになることを選ぶようになったのか。」
小学5年生の頃までの私は、明るくて、よく喋る子だった。
いわゆる「陽キャ」。
髪を染めたり、ピアスをしたり、ネイルをしたり、メイクをしたり。
今思えば、かなり自由に過ごしていたと思う。
もちろん、先生に注意されることもあった。
それでも先生たちとは仲が良くて、友達とも毎日のように笑っていた。
休み時間になれば、
「先生ー!」
と教卓の所へ行ったり、廊下で先生を見つけて話しかけたり。
友達とくだらない話をして、笑いすぎて怒られたことだってあった。
とにかく色んな先生と沢山話してた。
学校は、私にとって当たり前に楽しい場所だった。
――少なくとも、あの頃は。
小学6年生になってから、少しずつ変わった。
休み時間になると、先生のところへ行って話すことは変わらなかった。
先生と話す時間は好きだった。
でも、友達がそこへ来ると、私は自然とその場を離れるようになった。
教室の窓から校庭を見る。
誰かと話すわけでもなく、ただ校庭を眺める。
長い休み時間になると、渡り廊下へ行くことも増えた。
そこから見える校庭を、ぼんやり眺める。
別に、誰かに「一人になりたい」と言ったわけじゃない。
自分から「一人になろう」と決めたわけでもない。
気づいたら、そうしていた。
みんなの中にいるより、少し離れたところから見ているほうが楽だった。
それでも、友達に話しかけられれば笑った。
先生に、
「Ami、今日どうしたの?」
と聞かれれば、
「何もないですよ!」
と笑った。
私はまだ、自分が何を抱えているのか分かっていなかった。
小学6年生の後期。
さらに、少しずつ何かがおかしくなっていった。
私は、自分の気持ちをうまく言葉にできなくなっていた。
悲しいのか。
苦しいのか。
寂しいのか。
それとも、何も感じていないのか。
自分でも分からなかった。
ただ、気持ちを抱えたまま、自分自身を傷つけてしまうことがあった。
ある日、手に絆創膏をたくさん貼っていた。
それを見た担任の先生が、私に声をかけた。
「Ami、大丈夫?」
その瞬間、心臓が少しだけ跳ねた。
本当は、
「大丈夫じゃない」
と言いたかった。
「苦しい」
「助けて」
そう言えたら、何かが変わったのかもしれない。
でも、私の口から出てきたのは、
「……大丈夫。」
その一言だけだった。
先生はしばらく私を見ていた。
でも、それ以上は無理に聞かなかった。
私はその場を離れた。
廊下を歩きながら、心の中で何度も思った。
――どうして「大丈夫」って言っちゃったんだろう。
本当は大丈夫じゃないのに。
でも、その頃の私には、それ以外の言葉が分からなかった。
「大丈夫」と言っておけば、誰にも心配をかけない。
「大丈夫」と言っておけば、これ以上聞かれない。
「大丈夫」と言っておけば、普通の自分でいられる。
そんなふうに思っていたのかもしれない。
そして、小学校卒業の一週間前。
私は体調を崩した。
いつものように笑うこともできなくて、先生と話すことも難しかった。
でも、養護の先生になら何か伝えられる気がした。
直接話す勇気はなかった。
だから、私は手紙を書いた。
紙に、自分の気持ちを少しずつ書いていった。
書いている途中、何度も手が止まった。
こんなことを書いていいのかな。
先生に迷惑をかけないかな。
そんなことを考えながら、それでも最後まで書いた。
そして、その手紙を先生に渡した。
次の日。
養護の先生は、いつもより私のことを気にかけてくれていた。
「Ami、大丈夫?」
「……はい。」
また「大丈夫」と答えそうになった。
でも、先生はそれだけで終わらせなかった。
「無理してない?」
私は少し黙った。
「……分かんないです。」
初めて、「大丈夫」以外の言葉が出た。
先生は何も急かさなかった。
ただ、私の話を聞いてくれた。
そのとき私は思った。
もしかしたら、
ちゃんと話を聞いてくれる人がいるのかもしれない。
でも――
その場所とも、もうすぐお別れだった。
小学校の卒業式。
いつもの教室。
いつもの廊下。
いつもの先生。
それが全部、最後になる。
私は新しい制服を着て、中学生になる。
新しい学校。
新しい先生。
新しい友達。
「今度こそ、普通に過ごそう。」
そう思った。
また笑える。
また友達と話せる。
また先生とくだらない話ができる。
そう信じていた。
そして、春。
私は中学校の門をくぐった。
入学式。
知らない顔。
知らない校舎。
知らない先生。
胸の中が少しだけざわついた。
それでも私は、
「大丈夫。」
と自分に言い聞かせた。
まだ、このときの私は知らなかった。
入学してたった数週間で、教室に入れなくなることを。
自分を見失ってしまうことを。
そして――
そんな私を、もう一度見つけてくれる先生と出会うことを。
私がこれから過ごす中学一年生は、
私にとって、
「居場所」という言葉の意味を知る一年になる。
これは、その始まりの物語。




