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奈緒  作者: 岡本圭地
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3/3

③密室空間


 気まずい雰囲気の中、真一は再び座卓を探す事にした。


「おかしいなぁ。この辺に、リュックが置いてあるはずなんですけど……」


 断りを入れるように、真一が言う。



 奈緒は警戒し、背中を丸めた。


 また胸を掴まれたら、堪らないからだ。



 やがて真一の両手が、座卓に辿り着いた。


 なんと、座卓は壁際まで移動していたのだ。


 家が激しく、揺れたためだろう。



 真一は座卓の上にある、リュックの中をまさぐった。


 懐中電灯らしき、筒状の物体を掴むと、スイッチを入れる。



 カチッ。


 キャア! と奈緒が悲鳴を上げた。


 懐中電灯の光が、奈緒の顔面を捉えていたのだ。



「ちょっと何すんの! 眩しいって!」


「あっ、すみません」


 真一は灯りを壁へと向けた。



 壁には、大きな丸模様が映し出された。


 その光の中に、沢山の埃が舞っている。



 次第に、明るさに目が慣れてくる真一と奈緒。


 やっと二人の間に、安堵の空気が流れた。




 真一は懐中電灯の光を、周囲に当ててみた。


 部屋の状況を、確認するためだ。



「うへっ!」


 真一が、部屋の入り口に灯りを向けた瞬間、変な声を出した。


 なんと、入ってきたドアが土砂に押され、折れ曲がっているのだ。


 隙間には、ギッシリと土が詰まっている。


 これでは、廊下へと出れない。



 窓は、どうだろう?


 部屋の窓は北と東に、二ヶ所ある。


 だが、どちらもシャッターを下ろした様に真っ暗だ。


 恐る恐る、窓ガラスに近づき、懐中電灯をかざしてみる。



 窓の向こう側を凝視すると、土と小石が敷き詰められていた。


 真一の背筋が、ゾクリとした。


 もし割れたら、大量の土砂が入ってくるだろう。


 真一は顔をしかめて、窓から後退りをした。

 


 これはもう、完全に閉じ込められてしまっている。


 この家全体が、土砂に埋まってしまったのだろう。


 真一は、そう推測した。




「……出れないの?」


 不安そうな奈緒の声がした。



 真一が振り返る。


「ええ。入ってきたドアも、窓も、土砂で開けられません」


「マジで? ……てかさ、あんたが私を家の中に引っ張ったんだからさ、責任取ってよ! なんとかして!」


 真一は顔を歪めた。



「いやでも、あの時は早く家の中に避難しないと……。あのままだったら、あなた死んでたかもしれないですよ?」


「はあっ? 何それ? 助けてやってんだから、感謝しろって言いたいわけ?」


「別に感謝しろとは……。と、とにかく、今は大人しく救助が来るのを待ちましょうよ」




 奈緒は、不貞腐れたような顔で腕を組んだ。


「……来んの? 救助?」


 真一は、痒くもない後頭部をボリボリ掻きながら答えた。



「かなりの土砂災害だと思いますから、すぐに消防や自衛隊が来るでしょう。ただ、そこからは時間はかかるかもしれませんね。恐らくこの家、完全に土砂に埋まってますから、簡単には、見つけられないでしょう」


「ええっ! 見つけてもらわないと、困るんだけど! 機械とか使って、掘り起こせないの?」



「闇雲に掘ったりはしないでしょうね。二次災害の危険性もありますから。やはり、時間はかかるでしょう」


 奈緒は、ガックリと肩を落とした。


「マジかよ……」



 それでも奈緒は、諦めきれない様子で、薄暗い天井を見上げた。


「じゃあさ、天井に穴を開けて出られないの?」


 真一が懐中電灯で、天井を照らした。



 それは無謀な考えだと、すぐに判断した。


 即座に首を振る。


「無理ですよ。穴を開ける道具がないし、たとえ開けたとしても、土砂が入ってきて、僕ら生き埋めになっちゃいますよ」



「……最悪、マジ最悪なんだけど」


 とうとう奈緒が、その場にへたり込んだ。


 同時に、奈緒の汗が畳に落ちる。


 真夏の密閉空間は、絡みつくような蒸し暑さだった。






つづく……


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