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解釈不一致:EXORCISED EXOBRANCH   作者: 鮪屋樹聿
第一章 天忘錯史
10/10

ACT. 4 新しい人生に

 

 1


 

「──────────。」

 頭がぼーっと、する。

 なにか、考えないといけないことが、ある気がするんだけど…。

 そう出来ないようにしたんだっけ。そもそもそんな事は出来ないんだっけ?

 というか、何だろう。

 人の気配が、する─────?

「何だお前か、誰かと思ったわ……。まだ居やがったのか?」

 黒くて、ヒラヒラした服の男。名前は確か……?

「何しに来たの。」

「後始末。こんな寒ィのに、良い薪拾っといてキノコ育てる馬鹿は居ねェだろ?」

 男はそう言って、私が斬った獲物の残骸をつついている。

「……しっかし、『色欲』を冠しておいて最初の一人にゾッコンたァ、キャラ崩壊も良いトコだな。本気で目指してたんかねェ?あいつの『リアーナ』になる事をさ。」

 男が何を言っているのか、全く分からない。

 敵意も無いし、何をしたいのかも分からない。

「上手くいかねェもんだ。あっちが凄けりゃこっちはヘッポコ…けど完璧じゃねェから、壊しがいがある。」

「言葉遊びでお金を稼いでるの?」

「……金は稼いじゃいないが…仕事の内には入る、かもな?」

 そう言って、男は立ち上がった。

「ああそうそう。頃合だし、そろそろ新しいヒントをやろうか。」

「ヒント?」

「『御伽部隊』を潰したのは俺だよ、琳洞冴蓮───────。」

 男が言い切ると同時に、遠くからヘリコプターのローター音が迫ってきた。

 二機のヘリコプターはライトを地面に向け、何かを探るように蛇行させていたが、それらは私に気付くとピタリと止まった。

 背後を振り返ると、男の姿がいつの間に消えていた。

「?」

 整理がつかず、私は再び目を細めてヘリを見返す。

 これ、何か、まずい────?

 

 自らの失態の数々に気付いたのは、それから二日後の事だった。

 

『ネツァク地区『塔』消滅  都市機能は壊滅』

『V.S.解体  直轄特殊部隊のクーデター発生』

『相次ぐPHテロ 首謀者の女を撮影か』

 

「ええと…順番にお願いしていい?」

「ええ。顔色も戻りましたし、デブリーフィングといきましょうか。」

 衝撃的な言葉だらけのニュース記事を前に、私と琉彦は事件の振り返りを始めた。

 ネツァク地区における塔、もとい楔の消失は、都市機能そのものにも大きな打撃を与えた。

 ここへ電力を供給していた発電所の一部が、元長官の錯律痕により効率を底上げしていたのである。

 ある専門家は、この事件を通してネツァク地区の都市機能は一世紀前に巻き戻る事になると分析している。

 

 楔の消失事件は、条道派治安維持機構V.S.に属する青薔薇部隊によって起こされたクーデターの結果である。事件を受けたV.S.は実質的な解体に追い込まれており、青薔薇部隊の隊員、及びこれを監督していたヰ道麗副官を追放処分、並びに指名手配している。

 

 青薔薇部隊によるクーデターの後、該当地域で大規模な爆発が発生し、ネツァークスの塔が完全に消失。青薔薇部隊の一派による証拠隠滅の一環と考えられており、外界の異形による災害を人為的に引き起こす手段を手にしたテロリストの存在へ各地区は強い警戒を表明している。

 ネツァク中央放送は、現地でテロの首謀者と思しき人物の撮影に成功している────。

 

「─────はい、ちゃんちゃん。」

「いやいやいや。思ってた結果と違うんだけど!?」

 陽気に締めようとする琉彦へ、思わず身を乗り出してしまった。

 私達はひたすら異形絡みの事件に振り回されていただけなのに、コレはあんまりじゃ無いだろうか?最後に関しては全く身に覚えのないテロの首謀者にまで仕立てあげられてるし。

「アレもコレも異形のせいでした、ってスタンスは面目が立ちませんからね。少なくとも人間同士の間では、誰かのせいにしないと先に進めないんでしょう。」

「何だかなぁ…。」

「ま、他の地区の人達もそれ位は分かってる筈ですから。ネツァクを離れさえすれば、青薔薇の皆さんも何とかなるでしょう!」

「……琉彦くん、君は就職活動をした事はあるかね?」

「…?ある訳無いじゃないですか。」

「だよねえ。」

「……自分だってお尋ね者のくせに。人の心配してる場合ですか?」

 私の返しが少々癇に障ったのか、琉彦はむーっとしながらそう言い返した。

「うぐ………。」

 少なくとも表向きに名前は知られていない。琳洞冴蓮としての顔も割れていない。撮られたのは、新たな衣装で変わった姿形の方だ。

 けれど、尊敬する物語の住人から姿を借りて戦っている人間として、今回私は最低の結果を招いてしまったと心から反省しているのだ。

 映画の殺し屋に扮して殺人に走るのと、女児向けアニメのキャラでテロを行うのとでは訳が違うのだ……まぁ、やってないんですけど。

「────────あれ?」

 そう言えば。

 あの時、誰かに会って話したような……?

 この上ない程にぼーっとしてたけど、

 そこに現れた、男。あの黒装束の男と、何を話して何と言われたんだっけ──────、

 

「『御伽部隊』を潰したのは俺だよ、琳洞冴蓮。

 物語を進めろ。敵を狩り、謎を解くがいい。

 そして俺を、殺してみせろ──────。」

 

 2

 

 数日後。

 ありったけの荷物を詰みこんだトラックの傍らで、私と琉彦はバツが悪そうな顔をしていた。

「だから何だィその顔は?別に似合ってるって言ってるだろうに。」

「いや、どうせなら柄とか無いシンプルな色にしてくれって言ってんの!見る度目がチカチカするんだよコレ!」

「チカチカすんなら丁度いいだろ。向こうは街灯も少ないからねぇ。」

「チカチカってそういう意味じゃなくて!」

『向こうでの制服』と称した奇抜な柄の衣装を着させられ、私と琉彦はギリギリまでおばさんに抗議しようと団結していた。

 が、ことファッションの話題となるとテコでも意志を曲げないのがミランダ・バスケッティという女である。その後も色々抗議してみたものの、やはり店名にもなっている人間の威光には敵わなかった。

「『エディーコラ・バスケッティ二号店』。

 ま、これは一人前になったアンタらへのプレゼントだと思いなよ。」

 そう言って、おばさんははにかんでみせた。

 ティファレト地区に居られなくなった。私達はするべき説明を殆ど出来ず、そんな突拍子もない事しか伝えられていない。

 ただそれでも、彼女には全てお見通しだったらしい。

「向こうに着いたら連絡を寄越しな。あのバカは長距離ドライブが苦手みたいだからねェ。」

 そう言って、私達三人はトラックの方へ目線をやる。

「おーい!もう出れるぞー!」

 二号店の主、東頼人新店長サマである。

 これからの度が余程楽しみなのか、もう表情の輝きがピッカピカである。

 私達が散々抗議した制服のデザインすら、全く気にしていないようだ。

 屈託のない笑顔に苦笑いを浮かべて答え、私達は再度目を見合わせる。

「そいじゃあ、最悪の門出に。」

「役に立たない常識に。」

「───────────新しい人生に。」

 盃代わりに拳を突き合わせ、私達は別れた。

 助手席に乗り込むと、頼人が横から缶ジュースを差し出してきた。

「色々お疲れ。俺の知らない事も含めてな。」

「アンタはいいの。そのまま何も知らずに命を狙われてて。」

「とんでもねぇ言い様だなぁ……。」

 受け取った缶ジュースを軽くあおる。

 エンジンが吹かされ、トラックは武者震いでもするように縦へ振動した。

「まだ色々気掛かりだとは思うけど…おばさんとアンタが結んだ契約は続いてる。

 なら何があっても、私と琉彦はアンタを巻き込まないよ。」

 頼人の返事はすぐに返って来なかった。

 やがて、ぶっきらぼうな声が絞り出される。

「…俺だって自由になる為にここまで来たんだ。守られてばっかでいてやるもんか。」

「……ふふ。」

「笑うなって。何だよ?」

「いや……ならやっぱり、アンタの力は借りられないな〜って。」

「?」

 それは意図せず、誓いのように胸に刻まれた。

「別に、まだ頼りないってのは分かってる。」

「そうじゃなくて。」

「じゃあ、なんで。」

「レディ・シアノアが、そうさせてくれないから。」

 そう言って、私は窓を開けた。

 新鮮な風が顔を撫で、遥か遠くへ去っていく。

 炎と瘴気に包まれた夜を越えた空は、全てのわだかまりが嘘だったと錯覚する程の快晴に変わっていた。

 様々な選択の果てで勝ち取った、枝葉の先の小さな青空。

 小さな褒美。小さな勝利だ。

 To be continued...

お読みいただきありがとうございます。

以上がコミティア156にて頒布したエピソードです。

新章頒布された際には、また改めて更新いたします。よしなに!

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