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第二話_B級同士の連携

ローデウスの魔王城を目指し、原生林を突き進む一行。

その道中は、決して平坦なものではなかった。


「…シロ、右だ!クロ、左を抑えろ!」


リュウの鋭い指示が飛ぶ。

前方から躍り出た数体のコカトリスに対し、シロとクロが左右から肉薄し、鋭い爪でその機動力を削ぐ。

モーフが小型の斧を振るい、正面から突進してくる個体を力任せに叩き伏せた。


「今よ、ユーファ!」

「任せて、お姉ちゃん!」


後方に控える一つ目魔族の姉妹、リーファとユーファが同時に杖を掲げる。

二人の魔力が共鳴し、巨大な二つの火球ファイヤーボールが放たれた。

紅蓮の炎がコカトリスを包み込む。


「やっぱ魔法は便利だなぁ。遠距離からドカンだもんな。」


シロが煤を払いながら感心したように呟く。


「馬鹿野郎、魔法なんかに頼らず己の腕一本で戦うのが本物の男だぜ!」


クロが己の拳を誇示するように笑う。


「…はは、まあそう言うな。俺としても、前衛が四人もいるってのは格段に楽で助かるぜ。」


牛のような角を持つ魔族、モーフが斧を肩に担ぎ直した。

B級パーティー『鳳仙花』の重鎮である彼は、見た目に反して細やかな気遣いを見せる。


「それにしても、モーフさんは羨ましいねぇ。こんな美人姉妹の魔法使いに囲まれて旅ができるなんてよ!」


クロの茶化すような言葉に、モーフは苦笑いを浮かべた。


「…何かと大変なんだぞ、これでもな。」


そんな軽口を叩きながら進む面々だったが、ふと、先頭を歩くリュウの鼻がピクリと動いた。


「…止まれ。何かおかしい。」


◇◇◇


少し進んだ先、一同は即座に気配を殺し、茂みの陰に身を潜めた。

慎重に木々の隙間から前方を探ると、そこには見覚えのある紋章の旗が翻っていた。


「…アマデウス軍!?」


中型の熊型魔獣ローグベア二体を鎖に繋ぎ、フルプレートの鎧に身を包んだ十人の魔族兵が隊列を組んで休んでいた。


「クラウハルト将軍だけじゃなかったの…?」


リーファが声を潜めて呟く。

兵士たちの話し声が、風に乗って微かに届いた。


『…クラウハルト将軍は一人で制圧すると言っていたが、本当に俺たちも進軍して良かったのか?』


『セルス様の直命だ。将軍には謀反の疑いもあると仰っていたからな。』


『確かに…。最近の将軍はアマデウス様の政策に否定的だった。監視の意味もあるんだろうな。』


その内容に、潜伏する六人の間に緊張が走る。


「…これ、セイジュウローさん、マズいんじゃないのか?」


モーフが眉をひそめる。

だが、リュウは静かに首を振った。


「あの人は普通じゃねぇ。それよりも、コイツらをどうにかしねぇとな。」


「まともにやり合っても、あの重装兵十人とローグベア相手じゃ分が悪いわよ?」


リーファの冷静な指摘に、リュウが獰猛な笑みを浮かべて舌なめずりをする。


「俺たちの方が身軽、しかも気づかれてねぇ。…それを利用する。」


◇◇◇


部隊の最後尾。

用を足しに列を離れた二人の兵士の後方、木の上からシロとクロが音もなく舞い降りる。

クロが背後から片方の兵士の兜を掴み、わずかに上方へズラす。


「ん?」


後頭部まで覆われた兜の死角。

兵士が違和感を感じたその瞬間、隙間から見えた首筋にシロの鋭い爪が突き立てられた。

シュパッ、と肉を裂く乾いた音と同時に大量の血を首から吹き出して膝をつく兵士。

異変に気付いたもう一人の兵士の反応は速かった。


「貴様らッ!」


振り向きざまに放たれた重厚な手甲の打撃がシロを襲う。

シロは両腕で受け止めるも、フルプレートの質量を乗せた一撃に、膝が折れそうになるほど押し込まれた。


「くそっ、重ぇ…!」


「敵は一人じゃねぇぜ!」


そこへクロが弾丸のように突っ込む。

力づくで兵士の兜をむしり取ると、叫ぼうとしたその口を強引に塞ぎ、喉元へ深く短剣を突き立てた。

崩れ落ちる兵士。

シロとクロは離れた位置にいる他の兵士に気づかれてないのを確認して軽く胸を撫で下ろすと、死体を草むらへ引きずり込み、再び草陰に姿を消した。


「…おい、あいつら遅くないか?」


不審に思った別の一人が振り返る。

その瞬間、死角からモーフの放った小型斧が空を切った。

ガィィィン! と硬質な衝撃音が響く。

斧は後頭部の兜に深く食い込んだものの、致命傷には至らない。


「なっ!?」


兵士は衝撃でよろめきながらも、視界を遮る斧付きの兜を忌々しげに脱ぎ捨てた。


「敵襲か!?」


素顔が露わになった刹那、影から飛び出したリュウの爪が、その喉笛を真横から一文字に切り裂いた。


「敵襲っ!敵襲!!」


隣にいたもう一人の兵士の叫びが響く。

その兵士に対し、モーフが動いた。


「返してもらうぞ!」


先ほどの兵士が脱ぎ捨て、未だ斧が刺さったままの兜をモーフが拾い上げ、質量兵器として振り回す。

不規則な軌道の打撃に兵士がバランスを崩した一瞬の隙、リュウが潜り込み、鎧の継ぎ目である脇の下へ鋭い短剣を深々と差し込んだ。


「今だっ!シロ、クロ!!」


短剣を押し込みつつ、声を上げるリュウ。

混乱する兵士たちを縫うように、シロとクロが草陰から駆け抜け、ローグベアを繋いでいた太い鉄の鎖を断ち切る。


「よし、放て!」


そして、モーフの合図で、リーファとユーファの呪文が完成した。


「いくよお姉ちゃん!」

「「ファイヤーウォール!!」」


左右から展開された炎の壁が、残った部隊とローグベアを包囲する。

鎖から解放されたローグベアが、炎の熱気により狂乱状態で暴れ出した。


「ガアアアアアッ!」


巨爪の一振りに、炎から逃げようとした魔族兵が鎧ごと粉砕される。

味方を襲い始めた魔獣と、背後から迫る炎。

逃げ場を失った兵士たちが次々と倒れていく。

そして、炎の壁から這い出してきた数人の兵士を、モーフとリュウが確実に仕留めていく。

最後に残ったのは、兵士との乱戦で傷を負い、逆上して吠えるローグベア一体。


「最後だ、合わせるぞ!」


四人の前衛が、同時に四方から踏み込む。

シロとクロが厚い毛皮に覆われた脚を斬って体勢を崩し、モーフの斧がその背中を叩き割る。

仕上げにリュウの爪が、鎧の隙間を狙うのと同じ精密さで、巨獣の心臓を深々と貫いた。


静寂が戻った森に、肉の焼ける匂いと重苦しい沈黙が漂う。


「ハァ、ハァ…。奇襲と奇策でなんとかってところだな。」


リュウが肩で息をしながら、血に濡れた爪を振るった。


「…この炎で他の魔獣が寄ってくる。急ぐぞ!」


モーフの一声で、六人は背後の戦場を一度も振り返ることなく、走り出す。

魔王ローデウスへ重要な情報を伝えるために。

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