第86話 終わらない絶望
三好は鱧の死体を見つめて脱力する。
彼は長く、深い息を吐き出すと、空を仰いだ。
「…………疲れた」
そう呟いた後、三好は自虐的に笑う。
人を殺した直後の発言として最低だと思ったのだ。
しかし彼は実際に疲労困憊で、訂正する気はなかった。
漂ってくる血の臭いで吐き気を催すこともない。
デスゲームを通して三好の心は荒んでいた。
そんな彼に西園寺が声をかける。
「大丈夫ですか?」
「まあ、そうですね……なんとか……」
三好は曖昧な返答をする。
彼は頭が上手く回らず、そのまま地面に座り込んでしまった。
そこに白石がペットボトルの水を差し出す。
「飲むか?」
「えっと、あー……」
振り返った三好は受け取るのを躊躇う。
歯切れの悪い反応で察した白石はペットボトルを開封して自分で飲んだ。
「毒入りと思ったか」
「すみません、反射的に疑ってしまって」
「いや、この状況じゃ仕方ないだろ。むしろ俺が駄目だな。すまん」
謝り返した後、白石は城下街を見渡す。
魔王の眷属とゾンビによってNPCの大部分がいなくなっていた。
建物も序盤の火災で多くが焼け落ちている。
見るも無残な光景を前に、白石は億劫そうに言う。
「これで一件落着……ってわけでもねえな」
「そうですね。まだ殺人プレーヤーが残っている可能性があります。油断せずにいきましょう」
「あの、俺が二人を守ります!」
会話が耳に入った三好が勢いよく挙手をする。
ほとんど無意識の発言だった。
西園寺と白石は意外そうな顔で三好を見た。
注目された彼は、途端にしどろもどろに説明をする。
「いや、あの……スキルでほぼ無敵なので、それを利用して守れたらいいかなぁと……」
「ありがたい提案です。ぜひお願いします」
「俺も同感だ。頼りっぱなしになるがよろしくな」
「任せてください! ところでゲーム終了までどこにいるのが一番安全ですかね」
「この城に立てこもるのが無難かと。星原さんと合流し、自警団の力を借りましょう」
話がまとまった三人が城に戻ろうとしたその時、街の南西部が光り輝いた。
そこから天を衝くほど巨大な樹木が伸び上がる。
黒々とした枝には夥しい量の実が垂れ下がっており、滴る果汁がモンスターと化して街を襲い始めた。
絶望的な状況を目の当たりにした三好は、さすがに笑うしかなかった。
「このゲームの運営って、ちょっと鬼畜すぎません? 最後まで生き残らせる気がないというか……」
「俺達に賞金を渡したくないのかもな。一人あたり数億円だし」
「もしくは退屈に感じないための工夫かもしれません」
好き勝手に喋りつつも、三人はそれぞれ武器を構える。
彼らに悲壮感はない。
数多の理不尽に晒されたプレーヤー達はこの局面においても折れない心を持っていた。
その後、三人はトゥルー・ライフ・クエストの終了時間まで戦い続けた。




