第84話 まやかし
白石は安堵した様子で話しかける。
「そっちも勝ったのか」
「まあな。それよりこっちに来てくれ。魔法の安全地帯を見つけたんだ。ゲーム終了まで戦わずに済むぞ」
鎌倉は三好達を手招きする。
真っ先に動いたのは西園寺だった。
彼女は杖の先端を鎌倉に向ける。
鎌倉が僅かに眉を動かした。
「どうした」
「あなたは鱧さんですね」
「は? 何言ってんだ。鱧はこれだろうが」
鎌倉が生首を持ち上げて主張する。
対する西園寺は顔色一つ変えずに応じた。
「演技が下手ですね。方言のイントネーションが抜け切っていませんよ」
鎌倉が真顔のまま固まる。
数秒後、彼はニタリと嫌な笑みを浮かべてみせた。
「あー……ほんまに?」
「ハッタリです」
「うわ、騙されたわ。やるやんサイちゃん。騙し討ちで一気に殺せると思ったのに」
残念がる鎌倉の全身に靄がかかり、次の瞬間には鱧の姿となっていた。
一方で生首は鱧から鎌倉のものに変化している。
白石が驚愕して後ずさる。
「これは藤堂の幻術……」
「おお、よう分かったね。チキン君から貰ったんよ」
鱧は生首をその場に落とす。
彼は鉈を回しながら説明した。
「奴隷には【死体漁り】ってスキルがあってな。他プレーヤーの死体から初期スキルを奪えるんや。典型的な大器晩成タイプやねー」
鱧は生首に頭を載せる。
靴底でぐりぐりと踏み躙りつつ、彼は嘲るように言った。
「こいつもだいぶ粘ったけど、幻術で隙を作ったら殺せたわ。ゲームシステム無しなら負けてたかもなぁ」
「そうですか」
西園寺がいきなり火球を放つ。
鱧はノールックで魔法の障壁を作って防いだ。
そこに火球が連続で命中するも、障壁が破損することはない。
特に慌てた様子もなく鱧は告げる。
「やめときって。無駄やから」
「……本当の実力を隠していましたね」
「そりゃなあ。僕が雑魚やと思ってたら油断するやろ?」
おどけた態度とは対照的に、鱧には欠片の油断もなかった。
目の前のプレーヤー達が何をしようと対応できるように意識を張っている。
緊迫感の漂う中、三好は密かに自身のスキルを確認していた。
内容を斜め読みした後、彼は緊張しつつも頷く。
(たぶんこれなら……大丈夫だ)
己の考えが正しいであろうこと認めた三好は、勇気をもって歩み出す。
その目は鱧を見つめていた。




