任務その8 暗黒面(ダークサイド)に堕ちた騎士団長を救え!
街にはとある噂が流れていた──
『暗黒騎士が操る馬車に乗ったら死の世界に連れていかれる──』
まことしやかに流れるその噂は、先日真っ黒い呪い装備を付けたまま馬車を操り帰城したアルフレッドのことを指しているのだろう。たった一晩しか経っていないのに、噂が噂を呼び、人々を恐怖に陥れていた。
『王城では死の暗黒騎士が、兵士達を阿鼻叫喚に陥らせているらしい』
というかアルフレッドが暗黒騎士になる前から既に阿鼻叫喚の嵐である。だが禍々しい暗黒騎士姿のアルフレッドが王城に入っていったのは事実で、サフィア王城が魔王城と呼ばれる日も近いかもしれない。
『大神殿では夜ごと屍の山が積まれ、時折奇声が上がるらしいが、それもどうやら暗黒騎士の仕業らしい』
屍の山=影達もしくは騎士団員達。
奇声=ストレスにやられ気味の大神官の発狂する声。
暗黒騎士の仕業=アルフレッドが原因なので一応合ってはいる。
つまり要約すると、意外と的を射ている街の噂である。
そんなものが市井でまことしやかに語られているとは露知らず、騎士団長のアルフレッドは早速購入したばかりの呪い装備に身を包み、今日も仕事に励んでいた──
────────
「シュコー、シュコー……」
「「「…………」」」
早朝から始まる騎士団の訓練。団員達の前で仁王立ちするアルフレッドは勿論、全身暗黒装備だ!そんな騎士団長(え?本物?誰?)に対し、騎士団員達(祝☆初のまともな登場回!)は当然ながら困惑気味だ!
(おい、誰かあの装備にツッコめよ……)
(いやいやいや、普段の蒼雷でもヤバいのに、あんないかにも呪われそうなやつ、ツッコめるわけねーじゃん!)
(衛生兵、お前神聖魔法の治癒が使えるんだから、呪いへの耐性あるだろ?お前行けって!)
(わわわ、私は治癒専門で呪いの方はからっきしで……ぶっちゃけ蒼雷耐性も全然だし……)
真面目な顔で整列しつつも、後ろ手に組んだ腕のひじで互いをツンツンしながら、お前がいけよ、いやいやお前がいけって──と犠牲者という名の生贄役を押し付け合っている騎士団員達である。チキンな行動が目立ってはいるが、こう見えて王国一との呼び声高い実力者集団だ。
「シュコー、シュコー、シュコー…………シュゴッッ!!」
「「「(ビクッ!!)」」」
突如として暗黒面な息吹が詰まりを見せ、その音にビクゥッ!となった騎士団員達であるが、特に何事も起こることなかった。一体何が……と誰もがそう思った時、その原因たる人物がその場に現れた!
「団長~、こちらにいらっしゃったんですね。王太子殿下からの書状を承っております」
分厚い眼鏡を若干ずり落ちさせながら、トテトテと小走りにやって来たのは、アルフレッド付きのマーガレット書記官だ。
上官の可笑しな挙動の原因第一位であるマーガレットの登場に、騎士団員達は誰もが納得したのであるが、同時にあることに気が付く。
(おい、マーガレットさんが現れたのに、団長の蒼雷が発動しなかったぞ?!)
(え?!ホントだ!いつもなら2、3発あってもおかしくないのに?!)
(てゆーか補佐官の奴は何やってんだ?!団長がこっちにいる時にマーガレットさんを訓練場に来させたらだめだろっ?!)
この場にいない補佐官へのヘイトが一瞬にしてカチ上がった!きっと後で騎士団員達から補佐官へのお仕置きがあるに違いない!
そんなことはさておき、アルフレッドの蒼雷が発動しなかったという事実に、騎士団員達の困惑が広がっていく。
「ケビンからの書状か……シュコー」
「はい!騎士団の用事というよりは個人的なものだとおっしゃってました」
「わかった。後で見ておこう……シュコー」
アルフレッドは書状を受け取るとそれを懐にしまい込んだ。その瞬間、ボワッ──と書状に暗黒面なオーラが漂い、騎士団員達はごくりと唾を飲む。ちなみにケビンからの書状は、大神官から請求された解呪費用(※結構な金額)の明細だ!
知らぬ間に結構な借金を抱えていたアルフレッド(笑)だが、今はそれどころではない。何せ訓練場に愛しのマーガレットが来ているのだ。騎士団長として己の勇姿を見せる良い機会である。
「団長素敵!かっこいい!」なんて抱きつかれたらどうしよう──などと無駄な心配をししつつ、何でもない風を装いながら高まる期待に頬をポッと赤らめた。(※しかし兜で覆われてその表情は全く見えない!)
そんなチェリーボーイの妄想全開アルフレッドをよそに、マーガレットは首をコテンと傾げて口を開く。
「あ、でもすぐに確認してほしいっておっしゃってましたよ?」
「すぐに?そんな緊急の案件が……シュコー……」
「んー内容はちょっとわからないですけど……あ、取りにくいなら私が……」
そう言ってマーガレットはもたつくアルフレッドの代わりに懐の書状へと手を伸ばした!
「!??!っ!?!?シュゴッ!!(ビックゥゥンン!)」
愛しのマーガレットから触れられそうになり、思いっきりビクつくアルフレッド。確実に蒼雷が発動する重大案件だ!しかし──
──シーン……──
「………………?」
「………あれ?」
「蒼雷…………こない?」
覚悟していたにも関わらず、一向に発動しない蒼雷。騎士団員達の間に困惑が広がる。
そうこうしている間に豪胆なマーガレットは、いかにも呪われそうなアルフレッドの装備をものともせずに、その懐からさっさと書状を抜き取っていた。
ちなみにその間のアルフレッド(笑)は、石像の呪いにでもかかったように、ガチッと固まったままである。そんな事態に陥ってもなお、未だアルフレッドの蒼雷は発動していなかった。
これは確実におかしいと思った騎士団員の一人が、ついに勇気を出して上官へと声をかけた。
「団長!」
「……シュコー…………なんだ?」
自称俺の嫁であるマーガレット書記官との会話を邪魔されて、若干不機嫌そうな暗黒面の息吹を漏らすアルフレッド。先ほどまでは好きな子からの思わぬ触れ合いにカッチコチに固まってしまい、童貞感を出しまくっていたが、今はそれを一切感じさせないような威圧をバシバシ放っている。
「その……昨日マーガレット書記官と仕事終わりに街へ出られたとか……」
「あぁ……シュコー……それがどうした?……シュコー」
「えと、つまり…………デート……されたということでしょうか?」
(言った!言ったぞアイツ!!勇者だ!勇者がここにいる!!)
(やべぇ!絶対これまでで最大の蒼雷が発動するって!!)
騎士団員の誰もがそう思い身構えた瞬間──
「シュゴッ!!…………」
「「「!!!!!!」」」
──……シーン……──
「「「?!?!?!?」」」
確実に蒼雷が発動するように誘導したのにも関わらず、何も起きないことに、騎士団員達は確信した。
(おい!あの呪い装備を着ているからじゃないか?蒼雷が発動しないの?)
(あぁ、おそらくあれが何かしらの効果を発動して、団長の蒼雷を阻止しているんだろう)
(こ、これは俺たちにとって、かなりめでたいことなんじゃ……?)
騎士団員達の予測は正しかった。アルフレッドの購入した呪い装備は、装着した人物の魔力を大幅に食い、尚且つその魔法を不発にさせる呪いが付加されていたのだ。
普通であれば魔力を食われ過ぎて失神してしまう所だが、有り余る魔力の保持者であるアルフレッドには屁でもない。そして魔法を使わなくても最強であるアルフレッドにとって、蒼雷の不発は戦闘において大した影響がなく、何なら騎士団員達が被害に遭わないだけ、騎士団全体の戦闘力が上がったとも言える。
「つ、ついに俺たちも蒼雷の恐怖に怯えなくて済む時代がやって来たのか……?」
「や、やった……これでまともに日々を過ごせるっ!!」
戦闘や遠征以外ではアルフレッドの蒼雷は百害あって一利なしと言った所であるため、呪い装備がもたらした思わぬ福音に、騎士団員達の誰もが感動に涙した。だが──
「団長……?大丈夫ですか?息が聞こえないですけど……もしかして何か詰まったのでは?」
「「「!!?!?!!」」」
突然石のように動かなくなり、暗黒面な息吹も止まったアルフレッドを心配し、その兜に手を伸ばすマーガレット。やめろ!!危険だ!!──と団員達が息を飲んだ時──
──パアァァァァァッ!!──
「「「!!?!?!!」」」
眩い光がマーガレットの触れた場所から放たれ、辺り一面を真っ白に覆い尽くす。そしてようやく光が収まり目が見えるようになった時、そこにいたのは禍々しい暗黒騎士ではなかった。
「え?……団長?鎧が……」
「ん?……あぁ……無くなってるな……」
気が付けば呪われた鎧を装備していたはずのアルフレッドが、下着オンリーの姿で立ち尽くしている。解除不可の呪いがかけられていたはずだが、おそらく先ほどの光で消滅したのだろう。
一体どうしてそのようなことが起こったのだろうと誰もが不思議に思っている中、近くでその様子を見守っていた影二号だけはその理由を正確に把握していた。
(うわっ!書記官殿の付けているあの手袋……あれ神殿に持っていった衣装の中に入ってたやつじゃね?!あれも確か効果が残ってたような………もしかしてそれで鎧の呪いを解呪しちゃった系……?)
なんとマーガレット書記官が仕事中に着けている皮の手袋が、誤って神殿へ解呪依頼した衣装の中に紛れていたようである!おかげでその手袋は触れるだけでどんな呪いも解呪できるほどの祝福を得ていた!
ちなみに一度、暗黒面に堕ちたと思われたケビンからの書状(※請求書)も、今は普通に戻っている。(※さっきまでは呪われており、請求金額が二桁ほど値上げされていた)
「……漆黒の鎧……気に入っていたんだがな……」
暗黒装備が無くなってしまい、心なしかしょんぼりした様子のアルフレッド。(※しかし兜で見えなく……なってはない!恥ずかしいほどに色々丸見えだ!主にパンツとかパンツとかパンツとか!)
「あー……その、団長……」
「む……なんだ?」
若干凹み中の上官に対し、恐る恐る声をかける命知らずの騎士団員。
「あー、そのー……非常に言いにくいのですがー……」
「だから何だ?」
中々切り出さない部下に、俄かにアルフレッドの眉間にしわが寄る。暗黒面な兜を装備してた時には拝めなかった、赤裸々なアルフレッドの感情を目の当たりにし、ごくりと団員は息を飲んだ。そして──
「団長!パンツ(※ブリーフ)が丸見えです!」
「パッ……?」
一瞬何を言われたかわからない様子のアルフレッド(※実はブリーフ派)。だがとどめの一言がマーガレット書記官によって下される。
「あら、以前確かトランクス派だとおっしゃっていたような……?」
「──っ!!!?っ~#!‘+!?Q!っ?!」
──ピシャァァンッ!ドンガラガッシャーンッ!!──
団長ってブリーフ派なんだーと誰もが思っていたその時!ここ一番の災害級の蒼雷が発動した!
「ち、ち、ち、違うんだこれは!す、す、す、す、す、すまないっっ!!!」
──ズドドドドドドドドッ!!──
頭のてっぺんから足先まで、全身羞恥で真っ赤になったアルフレッドは、好きな子の前で下着姿という醜態を晒し(※ついでにトランクス派と見栄を張っていたのにブリーフ派だとバレてしまう)、恥ずかしさのあまり砂煙を巻き上げながら、経験値ウホウホな金属タイプスライムもびっくりな素早さで逃亡した。
ちなみに勇気を出して下着姿であることを進言した部下(※ボクサーパンツ派)は蒼雷をまともに食らい倒れた後、「ぶぎゅるっ!」と、逃げる上官に思っくそ、何なら野〇よりも酷い有様で踏みつけられている。
ブスブスとその場に残されたのは、蒼雷によって立ち上る幾筋もの黒煙と、屍の山となった憐れな騎士団員達(※ブリーフ派は少数)であった。そしてその中に一人、取り残されたマーガレット書記官は──
「えっとー、この書状……結局見てもらってないような……?」
地獄絵図と化した周囲の状況を全く関知せず、自身の仕事が全うできてないことを心配する肝っ玉の据わったマーガレット。(※ブリーフ派だろうがトランクス派だろうが、別にどっちでもいい派)
アルフレッドの隠し事(※ブリーフ派という事実)が発覚するという不測の事態があったものの、結局、呪いの暗黒装備は永遠に失われ、いつも通りの日常(※蒼雷に団員達がやられる日々)を取り戻したのである。
ちなみに下着姿のまま慌てて自分の執務室へと戻ったアルフレッドであるが、その姿を目撃していた一部の侍女達によって、新たな薔薇色の噂──
(※騎士団員達に襲われたアルフレッドが、補佐官にお清め×××をしてもらった後、やって来た王太子ケビンと修羅場の三角関係からのくんずほぐれつな3×を繰り広げるという妄想)
──が王城内に密かに広まっていくことを、この幸せな男ども──
アルフレッド(※ブリーフ派)
ケビン(※ブーメランパンツ派)
騎士団員(※トランクス派、ボクサーパンツ派半々)
補佐官(※ふんどし派)
──は知らない。
「新しい歴史がまた生まれたわっ!(By腐侍女)」
サフィアの王城は今日も平和であった。