任務その9 騎士団員達よ!今こそ心を一つにする時である!
「総員配置につけ!!」
「はっ!!」
騎士団長アルフレッドの言葉に、騎士団員達が散開する。
ここは王国の西側──隣国にほど近いとある平原である。普段はのどかな田舎の風景が広がるこの場所は、今は物々しい空気に包まれていた。
「北側は魔法師団が迎え撃つ!お前達は俺の後に続き、逃げる魔物を漏らすことなく一掃しろ!」
「アイサー!!」
アルフレッドの指示に、騎士団員達は闘気を燃やしつつ、眼前に迫る魔物達を鋭く見据えた。
彼等が戦うのは大量発生の兆しを見せている魔物の群れ。地方へと情報収集をしていた影からもたらされた情報により、アルフレッド率いる騎士団と、魔法師団の者達が討伐にやってきたのだ。
いつもは戦などない平和な王城で蒼雷の恐怖に打ち震えながら訓練に勤しんでいる騎士団員達だが、今のアルフレッドは誰よりも頼もしい存在である。
「ふんっ!!!」
──ブオンッ!──バリバリバリバリィっ!!──
鋼の装具を付けた漆黒の軍馬に跨り、己の身長ほどもある大剣を一振りすれば、蒼い光を纏ったその刃から放たれる鋭い稲妻が、前方へ横一線の範囲攻撃となって敵を襲う。
小型の魔物は蒼雷の一撃で消滅し、中型はその姿を残しつつも戦闘不能状態でその場に倒れ伏す。その躯を怒濤のような勢いの軍馬が血肉をまき散らしながら踏みつぶし、残った大型の魔物へと突き進む。
将軍級の大型の魔物は蒼雷の一撃に耐え、向かってくるアルフレッドへと憎悪の雄たけびを上げた。
──ウオォォォォンッ!!──
常人ならばその凄まじい咆哮によって恐慌状態に陥り、身動きが取れなくなってしまうだろう。しかし王国最強の騎士団長であるアルフレッドにとっては、負け犬の遠吠えよりも恐れるに足りない囀り程度のものであった。
──ブォンッ!!──
迎え撃つ大型魔物が攻撃してくるよりも早く振り下ろされた大剣が、その剣圧だけで敵を真っ二つに切り裂いた。
ドシャッ!──と、魔物の巨体が崩れ落ち、手綱を引いて馬を留めたアルフレッドがその躯を冷酷な眼差しで見下ろしている。
「大人しく地に還るがいい──」
魔物という人間とは相いれぬ存在へ向けて贈られた餞の言葉。命を奪うことは自分達が平和に生きる為にする行為だ。殺し合うしかない相手に僅かな憐憫の情を向けたアルフレッドは、再び魔物の命を狩る為に馬を走らせた。その凄まじい闘いぶりは、まさに吟遊詩人が唄う英雄そのもの。誰もがその勇姿に胸を熱くするだろう。
そんな鬼神の如き闘いぶりのアルフレッドを、彼の部下である騎士団員達は後方で見守っていた。
「うわぁ……相変わらずの無双……さっすが団長」
「やべぇ……逃げた奴を一掃しろって言われてるけど、ほとんどいねぇ……」
まず最初にアルフレッドが蒼雷で魔物に大打撃を与えた後、零れた敵を騎士団員達が倒していく作戦だが、今日は一段と蒼雷の威力が凄まじいようで、いつも以上に仕事がないようである。
「ほら、あれじゃね?マーガレットさん、今日有休じゃん?それで団長いつもより焦ってんのかも」
──ぐしゃっ!ばきっ!──
「え?何々?どゆこと?」
──ザンッ!どぐぉッ!べちゃっ!──
「マーガレットさん、お見合いの予定があるとかで、実家に帰ってんのさ」
──ぐぎゃっ!ボキッ!どしゃっ!──
「あー、なるへそー。そゆことねー」
──ずぶっ!どばぁっ!ぐしょっ!──
スプラッタな効果音と共に数が少ないながらも迫りくる魔物を切り捨てながら、のんきな世間話を繰り広げる騎士団員達。こう見えてあの鬼騎士団長の訓練と蒼雷に耐え抜いてきた、相当な猛者達だ。
「でも早く討伐終わらせてどうするっての?マーガレットさん、とっくに実家に帰ってんでないの?」
──どぉぉぉんっ!──
「あ、団長の蒼雷がまた決まった──てか、早く終わらせてマーガレットさんを追っかけるんでない?」
──シュバババババッ!シャキーンッ!!──
「蒼雷からの無双切りヤバっ!──つか俺の予想。何なら見合い相手の男を先に殺りに行くと思う」
「俺もそう思う」
「俺も」
「俺も」
──ちゅどーんっ!!──
「あ、とどめの一発キタ!──つまりあの調子で見合い相手のとこに攻め込むってこと?」
「そりゃそうだろ。マーガレットさんが他の男と結婚なんてしてみろ。この国がどうなるか想像できるだろ?」
──ちゅどーんっ!ちゅどーん!ちゅどーんっ!ドガッ!バキバキバキバキィッ!どっしゃーんっ!ごぉぉぉぉぉっ………!──
「……うわぁ……つまりあれがマーガレットさんが別の男と結婚した場合の、王国の最悪の未来ってことな」
「そゆことだ」
「んだんだ」
「そだそだ」
悟りの境地に達したような騎士団員達の前に広がるのは、アルフレッドによってボコボコにされた魔物達の末路。まるで地獄絵図のようなその光景は、その場に一つの生命体すら存在することを許されぬほどの凄まじさだ。のどかな田舎の草原は、今は草木一本残さずに焦土と化している。
「てことはさぁ……この遠征を早く終わらせた方がいいってこと?」
「いや……でもそれで団長が見合い相手をぶっ殺してみろよ?騎士団がヤバくなる未来しかないだろそれ」
「あー、団長の不祥事で騎士団自体が解散?もしくは共犯とかいう形でお縄?うわっ!やっべぇじゃん!!」
「え?でもさ。戦闘終わらせて今から間に合うやつそれ?」
「全然間に合うってよ。それどころか王都から来るよりも近い。マーガレットさんの実家この辺だし、下手したらマーガレットさんよりも先に見合い相手の男のとこに辿り着く」
「マジやべーじゃん!それ!」
「うわ、オワタ……」
「てか補佐官は何やってんだよ!アイツが団長を止める最後の砦の役目を追ってんだろ?!こっちじゃなくてもっと別の場所に遠征に行かせろよ!」
ほとんど戦闘が終わりに差し掛かり、後は残る魔物がいないか索敵して討伐の後始末をするのみであるが、正直今はそれどころではない。魔物の大量発生よりもやべぇ状況が目の前に迫っているのだ。
「あ、団長こっち戻ってきた」
「てことは魔物の討伐終わったってことか?」
「てことは見合い男の命のカウントダウンが始まったってことか?」
「てことは俺達騎士団の終わりのカウントダウンが始まったってことじゃね?」
「「「ヤバイっ!!」」」
魔物との戦闘が終わったにも関わらず、先ほどよりも凄まじい殺気を放ち戻ってくる上官。その「既に何人も殺っちゃってマスけど何か?」みたいな凶悪犯の如き形相に、自分達の予測が正しいことを知り、団員の心は一つとなった!
「どうする?!もうあの人、遠征終わる気満々だぞ?!」
「とにかく団長の気を何かで引かないと!」
「何かっつったってあの人、マーガレットさん以外に見向きもせんだろ?!」
「それだ!それだよ!マーガレットさんの為だって言えばいいんだ!」
「けど何で?!マーガレットさんのこと思い出して、余計に突っ走らないか?!」
──スドドドドドドドッ!!!──
団員達が必死で考えを絞り出している間に、怒涛の勢いで迫るアルフレッド。一向に止まる気配の無いその様子は、このまま後始末を部下に任せて、己は一足先に戻るつもり──というかマーガレットの実家のある街へと赴くつもりなのだろう。そして殺るつもりなのだ。
アルフレッドの逞しいその肉体からビリビリと放たれる鋭い殺気は、彼の決意が本気であることを物語っている。
迫りくる騎士団長。部下達の前で止まることなくすれ違いざまに「先に行く──」とだけ告げて怒濤のように馬を走らせ去っていく。だがその背に向けて、ついに一人の勇者が声を張り上げた!
「団長っ!!マーガレットさんがっっ!!」
「っ──!!??」
──ヒヒィィンッ!!……──
既にすれ違ってからかなりの距離を行っていたはずなのに、マーガレットの言葉に反応し馬を止めるアルフレッド。馬首を返し振り向くその視線は鋭く、しかしマーガレットの話題を出したせいか、若干の恥じらいと共に赤らんでいる。だがそんな己の照れる姿を誤魔化すようにして、アルフレッドは勿体つけて口を開いた。
「……俺のマーガレットがどうした?」
「あ、えーっと…………あ、そだ!ま、マーガレットさんにお土産はいいんですか?」
「(ピクリ)…………土産だと?」
「そ、そうです!折角討伐に来ているんだし!特別なお土産なんか贈ったら、マーガレットさん喜ぶんじゃないかなーって……」
「っ──!!」
──ズドドドドドドドドッ!!──
マーガレットが喜ぶと聞いて、あっという間に戻ってきたアルフレッド。土産の話をした団員の目の前へとやって来たかと思うと、殺るつもりの顔のまま相手を問い詰める。
「……どんな土産だ?」
「あー……ほら、あれですよあれ!えーっと……」
いざ問い詰められていいものが思い浮かばない団員。しかしすかさず横にいた団員がその後を繋いだ!
「ま、魔石ですよ!ほら!おっきくて珍しいやつ!……確か高価なやつとかは、普通の宝石よりも女性達に喜ばれると聞いたような……」
「っ──!!!(カッ!!)」
団員の土壇場で出てきた必死の提案に、目をこれでもかと見開くアルフレッド。どうやら完全にその興味を引けたようだ。
「……魔石か……」
「そ、そうですよ!折角大規模な討伐に来ているんだし、団長が倒した魔物から取った特別な魔石なら、マーガレットさんも喜ぶはずですし」
「そうそう!団長が素敵な贈り物をすれば、マーガレットさんだって見合い相手の男の事なんて忘れて──むがっ!」
「馬鹿ッおまっ──!!」
「(ピクッ)……見合い……?」
うっかり見合いの言葉を出してしまった団員は、すぐさま別の団員によって口を封じられ、脇腹に猛烈なお仕置きを喰らって白目を剥いて気絶している。折角アルフレッドの気を見合い相手の男から逸らしたというのに、ここへきて振り出しに戻ってしまいそうな緊急事態だ。
「いえ!ほら!きっとマーガレットさんに見合うような魔石なら、喜んでもらえるってことですよ!」
「そーですそーです!折角なんでもっといいのを狙いましょ?ほらっ!確か近くにホワイトアントの巣があったような──」
「それだっ!!確かホワイトアントの女王の魔石は、喉から手が出るほど皆が欲しがる美しさとか!きっとマーガレットさんに似合いますよ!」
「ね?団長!」
「そうしましょ?団長!」
「「「団長っ!!」」」
「…………(ぬーん)」
商魂逞しい商人でさえ、ここまで必死になってオススメの波状攻撃をすることはないだろう。それほどに今の騎士団員達の心は一つになっていた!
「「「マーガレットさんの為ですから!!」」」
「っ──!!!……マーガレットの為……」
「「「そうです!マーガレットさんの為ですっ!!」」」
これほどまでに騎士団員達の心が一つになったことなど、かつてあっただろうか?今の彼らは口ではマーガレットの為と言いながら、自分達の未来の為、ひいては王国の未来の為に必死だった。そしてその一途な想いは、ついに死神アルフレッドの心を解かしたのである!
「……ホワイトアントの魔石か……確かにマーガレットに似合いそうだな……」
(((キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!)))
アルフレッドの一本釣り大成功である!この瞬間、騎士団員達は、自分達の未来を見事に救ったのだ!皆、作戦の成功を感涙にむせび泣く。これで上官が一般市民を〇〇しちゃう未来は避けられたはずだ!
ひしと互いを抱きしめ合う騎士団員達を余所に、既にアルフレッドはマーガレットの為にホワイトアントの討伐に向けて──というかその後のムフフな展開に思考を巡らせていた。
『確かに美しく珍しい魔石を贈ればマーガレットも喜ぶだろう。もしかしたら喜びのあまり飛びついてくるかもしれない。今からしっかりと予習(※脳内シミュレート)しておかなくては……』
などと若干エロスな予感に鼻血を垂らしながら、童貞の妄想をマックス繰り広げているアルフレッドであった!そんな彼に向けて騎士団員達は更なる追撃を試みる。
「早速アント狩りに行きましょう!何なら一番でっかくて綺麗なやつを狙いましょう!(早く終わりすぎては困るから!)」
「そうですね!ホワイトアントだけでなく、他のレア魔石も狙ってみるのもどうですか?(なるべく時間を稼がなくては……)」
「ちょっと離れてますけど南方の山岳地帯にダークベアの希少種が出たって噂がありましたよ?(物理的に引き離す作戦もいいんじゃないか?)」
いかにアルフレッドを足止めするかが重要だ。おかげで作戦は功を奏し、引き続き魔物の討伐が続けられることとなった。
彼等騎士団員達は、見事にマーガレットの見合い相手の男の命(──と自分達の未来)を救ったのである!
「よし!皆の者続け!魔物を一掃してやるぞ!!」
「「「おおっ!!」」」
勇ましいアルフレッドの掛け声に、一際大きく雄たけびを上げる騎士団員達。だが調子に乗って大風呂敷を広げたはいいが、それらの討伐に自分達もついて行かねばならぬことを、この時の団員達はすっかり忘れていた。
この後、アルフレッドを足止めするための魔石収集行脚(※レア魔石出るまで帰れまテン)が約一か月ほども続くとは、誰が予想できただろうか?
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後日──
「おかえりなさい、皆さん。討伐随分長かったですね?そんなに大変だったんですか?」
約一か月にも及ぶ長期遠征を終え、ズタボロの状態で帰城した騎士団員達を迎えたのは、いつもと変わらぬ様子のマーガレット書記官であった。
騎士団の未来の為に遠征の引き延ばしを試みた騎士団員達だったが、マーガレットの為という呪文に憑りつかれたアルフレッドによって、王国の端から端の隅々まで奔走する羽目となった。
勿論最初からそんな長期間の遠征が予定されていたわけではないため、物資や食料は現地調達。長引く遠征の疲労は、野宿では到底回復することができず、何なら寝ずの討伐なんかもざらにあり、最長で4日も睡眠無しという戦闘まであった。流石にこれには猛者ぞろいの騎士団員達も悲鳴を上げたのは言うまでもない。
「誰だよ魔石が土産にいいって言ったの」
「てかレア魔石が他にもあればいいとか言った奴のせいじゃね?」
「ホワイトアントだけでも超きつかった……」
「マジで死ぬかと思った……てか既に死んでた」
後悔先に立たずとはまさにこのことである。
そんな死地を潜り抜けてようやく戻ってこれた王都。汗と涙でドロドロの状態で、誰かがボソッと呟いた。
「そう言えば見合いってどうなったんだろ……」
「え?お見合いですか?」
団員の言葉にすぐさま反応し、答えるマーガレット。この一か月間、マーガレットの為という呪文を皆で唱えながら、ひたすらレアな魔石ゲットを目指して戦いに明け暮れていたのだ。当初の目的をすっかり忘れていたが、見合いの結果がどうなったのか団員達は気になってしょうがなかった。
そしてそれに対するマーガレットの答えは──
「実家の近くで魔物の大量発生が予測されたっていうので、避難指示が出たからお見合いは延期になったんですよ。相手の方も別の所に避難してたんで、私も途中で王都に戻りました」
ニコッと無邪気な笑みを向けるマーガレット書記官。ちなみに上官のアルフレッドは今は王太子のケビンへと報告に行っていて、この場にはいない。
「え……つまり俺達の苦労って……」
「意味なし……?」
「最初っから避難してていなかった……?」
「そもそもお見合い延期……?」
「あの無駄な魔石行脚……する必要もなかった?」
「一か月もボロボロになりながらやったのに……?」
「「「う、嘘だろーっ!!??」」」
マーガレットの言葉に、バタリとその場に倒れ伏す騎士団員達。その悲痛な叫びは、魔物を倒しまくったお陰でちょっとだけ平和になった王国の空に、虚しく消えていくのであった──
作者「あー、ついに我慢しきれずに普通の戦闘シーンを冒頭入れてしまった!」
団員「蒼雷が初めてまともな使われ方した回でしたね!」
作者「そーそー!普段は君たちをドッカンドッカンするだけの設定だからね!」
団員「ヒデェ」




