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任務その5 恋の戦術は自信をもって(※ドヤ顔で)報告せよ!


「はぁ、それで間接キスごときで、顔を合わせづらいと……え?何お前、もしかしなくても〇〇(童貞)?」


「……………………(ムスっ)」



 飲み会の翌日、アルフレッドは登城すると早速昨夜の出来事をケビンに報告した。だが王太子として忙しいケビンにとってはいい迷惑の上、しかも内容が「ガキかよ!」と盛大に突っ込みたくなるような幼稚なものだ。正直呆れを通り越して、コイツこのまま出家したほう(一生童貞)が良いんじゃねーの?とケビンは思う次第である。



「あぁ~、まさかそういう捉え方になるとは………拗らせた〇〇(童貞)の妄想力怖い」


「……拗らせてはいない……慎重なだけだ……間違いがあってはいけないからな(※ドヤ顔)」


「あ~、はいはい。既にそれが恋愛面では大きな間違いなんだけど……まぁそれがお前だもんな。それで次はどうするんだ?たぶんというか絶対あっちは何にも気にしていないと思うぞ?」



 幼馴染の言葉にアルフレッドは暫し黙考した後、懐から書類を取り出し、それを渡した。ケビンはそれを受け取ると中を見て眉を顰める。



「……休暇申請書?……え?ナニコレ?しかもなんか赤字で色々書いてあるし」


「……戦術計画書だ」


「戦術計画書……え?何?どこぞにでも攻め込むの?マジ勘弁して?」


「……ふっ(※何故かドヤ顔)」



 絶妙にイラっとするドヤ顔もさることながら、戦術とかいう不穏な言葉ワードが出てきたので、思わず本音で突っ込みまくってしまったケビンだが、それがただの冗談で済まされないことをよく知っている。百戦敵なし最強の騎士団長であるアルフレッドは、恋愛面においては壊滅的かつ致命的な思考回路の持ち主なのだ!


 何せ以前、書記官であるマーガレットに何も知らない他部署の男が近づいた時など、ほんの些細な接触だけで、その男を傷害の現行犯で捕まえ牢屋にぶち込んだ前科がある。その時は回りまわってケビンに報告が来てようやく事態を収拾できたのだが、それ以外にも色々とやらかしてはその度にケビンが毎回尻ぬぐいをさせられる事態となっているのだ。だからこの拗らせ騎士団長(脳筋バカ)の考える恋愛成就法は、非常に厄介かつ、実害を伴うものであると覚悟しなければならない。


 ケビンは戦々恐々としながら、その戦術計画書なるものを読み上げた。



「え~、まずは見合い相手の調査……うん、これはうちの影たちの報告がもうすぐ上がって来るな。あとは何々?……見合いの必要性について説得?」



 ケビンが休暇申請書改め、戦術計画書を見て疑問をあげていく。それは元々見合いに至る経緯やその詳細についてマーガレット自身の手によって書かれたものであるが、そこに赤文字でアルフレッドが彼の考える恋愛戦術を追記したもののようである。……まぁそれが果たして恋愛戦術と呼んでよいものかどうかは非常に疑問だが。


 そんなケビンの疑問に対して、さも当然という態度でアルフレッドは補足しようと口を開く。何故かケビンよりも自分の方が恋愛上手であるかのような自信満々の様子だ。



「……彼女はわざわざ見合いなどする必要はない(※当然ドヤ顔)」


「うん、まぁお前的にはそうだろうけども。でも家族の為にって彼女の気持ちもわからなくはないぞ?何せ今現在恋人などいないみたいだからな」


「っ──!!」



 ケビンの一言に、アルフレッドの眉間にぐわッと皺が寄る。思わずケビンも咄嗟に蒼雷が来るかと身構えたが、幸いなことに()()大丈夫のようだ。


 内心ほっとしつつも、幼馴染の為にここは心を鬼にして事実を述べる。



「それでも説得って言ってもなぁ……仕事と結婚どちらをとるかってのは、難しいんじゃないか?やはり女性だし、良い相手がいたら結婚を取るのも当然だろうよ」


「っ……だが、結婚をしながらも仕事を続けることはできる…………俺と結婚すればいいだけだ(※ちょっと自信喪失気味もやっぱりドヤ顔)」


「だからそれを本人マーガレットにちゃんと伝えろ。まずは話はそこからだ」


「……わかっている……(※ドヤ顔……と思ったらあっという間に意気消沈)」



 ケビンの正論については、アルフレッドもよく理解している。彼とてこのままではいけないと思っているのだが、ケビンよりも認識が甘いのは事実で、マーガレットとの仲がそこまで進展していないとは思っていない。


 何なら昨夜の間接キッス(初めてのチュウ)事件で、アルフレッドの脳内では、既にマーガレットと結婚し、5人も子供をもうけているところまで妄想が膨らんでいる。後はその妄想をどうやって現実のものにするかだな──とのんきに(※ドヤ顔で)構えているのだが、現実はマーガレットは別の男とのお見合いを控えているわけで、片や傍で見ているケビンの方は早くどうにかしないと城──いや、国が壊滅する……と恐れ戦いているのが現状である。



「……とにかく、お前たちは互いにもっとよく知り合う必要があるんじゃないか?」


「……?彼女とは既に知り合いだが?(※何当たり前のこと言ってんの?ってドヤ顔)」


「仕事上ではな。だがプライベートでは互いのことなどほとんど知らないだろう?まずはそういう基本的なことを知ることからだ。というか二人きりで食事に誘えと言った時点で、そういう風になると思ってたんだが、ただの騎士団の飲み会になってるし……」



 幼馴染同士のケビンとアルフレッドでさえ微妙に認識の相違ができている現状、ヘタレのアルフレッドにマーガレットと恋愛的な意味での意志の疎通を図れというのがそもそも無理なのかもしれない。


 だがケビンとしては何としてもこの戦術計画書が完全に実行される前に、二人の仲を進展させるべきだと判断した。



「とにかくこの戦術計画書は一旦破棄だ」


──ビリッ!!──


「っ!?!??!?!?(※超絶衝撃顔)」


──ピシャァァアンッ!!──



 ケビンがアルフレッドの渾身の戦術計画書を破り捨てたその瞬間!凄まじい蒼雷が居室を揺らした!窓の外では激しく稲妻がほとばしり、「ぎゃー!!」「大丈夫かっ?!衛生兵!衛生兵―!!」と騎士団員達の悲痛な叫びがこだましている!


 王太子であるケビンの居室は、王族の空間と言うこともあって結界魔術が施されており内部での被害はないが、結界を通り抜けてその外側にまでアルフレッドの蒼雷の被害が出てしまったようだ。後で騎士団員達には何か労ってやらないとな……と内心ため息を吐きつつも、ケビンは王太子としてこの判断に誤りはなかったと思っている。何故なら──



「お前は見合いを潰す為だけに、街道や街を破壊するつもりかっ!この馬鹿ッ!!……全く、これを先に見ていなければどうなっていたことか……」



 ぶつぶつと文句を言いながら破り捨てた戦術計画書に再び目を通せば、そこには見合い会場となるマーガレット書記官の実家の街と道中の街道についての記載があり、しかもそこに赤文字で『封鎖』やら『爆破』、更には『拉致・監禁』などと不穏な言葉ワードが、『俺の嫁♡』『字も超絶可愛い♡』といった甘い(気持ち悪い)言葉に混ざって書かれているのだ。これを見逃すことはできない(できればハートマークのついている甘い(気持ち悪い)言葉は見たくはなったが)


 この不届きな騎士団長バカは、そもそもマーガレットが見合いに物理的・・・に参加できなければいいのだと考え、それを実行すべく街道にかかる橋や街の封鎖や破壊、更には見合い相手の拉致監禁を目論んでいたのだ!あと仕事中にも関わらずハートマークを散らすような甘い(気持ち悪い)ことを考えていたのだ!!


 流石にこれは看過することなど到底できず、ケビンは厳しい表情でアルフレッドを諭す。



「街や街道が使えなくなって人々が困れば、マーガレット嬢だって心を痛めるだろう。しかも彼女が勤める騎士団の団長がそれをするのだ。彼女が人々から恨まれでもしてみろ。それに見合い相手の拉致監禁だと?お前、そんな犯罪行為に意図せず関わってしまうマーガレット嬢になんて言うつもりだ?彼女を泣かせたいのか?!嫌われるだけだぞ!!」


「っ……!!!」



 マーガレットに嫌われるぞ、という単語パワーワードにビクゥッ!!と、ものすごく反応するアルフレッド。余程反省したのか蒼雷は発動せず、米粒のようにその気配が一瞬で小さくなり、目に見えて項垂れている。大きな熊のような巨体が、じめじめと今にもきのこが生えそうなくらいに湿っぽくてしみったれた雰囲気を醸し出しているのは、正直腹を抱えて笑ってしまいたくなるような光景だが、王太子として国を破壊しようと目論む騎士団長バカに容赦するわけにはいかない。


 このセリフ、結構使えるな──と次も何かあれば彼女に嫌われるぞと言ってやろうと心に決めたケビン(鬼畜)だが、彼とて幼馴染の恋が成就してほしいと思っていることに違いはない。だからこそ厳しい言葉で彼の背中を押してやるのだし、天下の最強騎士団長がこれしきでへこたれるはずもないと信じ言葉を続ける。



「そもそもこうして物理的に見合いの邪魔をするということは、お前自身、マーガレット嬢にフラれると思っている現れじゃないのか?そんなんでどうする?お前のマーガレット嬢への思いはそんなものなのか?!本人にぶつかることを避けて、他でどうにかしようなどと、騎士として情けないと思わないのかっ?!」


「っ──!!!!」


──ピシャァァンッ!!──


「あ、ヤベ、また落ちた」



 思いもよらぬ場面で蒼雷を落としたアルフレッドに、焦ってつい心の声が漏れ出てしまったケビンだが、しかしそれは己の言葉が深く相手に突き刺さった証拠でもある。


 しかし窓の外では「衛生兵ぇーっっ!!!!大丈夫かっ?!くっ……!ここで我々と違って雷に慣れていない衛生兵を狙うとはっ……卑劣な雷めっ!!!!」と非常に申し訳ない言葉が聞こえてきて、ケビンは後で衛生兵達にも特別手当を出してやらんとな……と酷くしょっぱい気持ちになったのだが、衛生兵の名誉(?)の負傷により、彼等の上司であるアルフレッドの恋愛に光明が差したのは間違いない。


 視線を向ければ当の本人は、目をこれでもかと見開き(まるで鳩が大砲を喰らって内臓が破裂する勢いに任せて目ん玉が飛び出たようなヤバいレベルで)固まっている。


 え、何その顔、怖い──とケビンが本気で後ろに仰け反るも、何故かその顔のままズイッと近づいてくるアルフレッド。そして重々しく告げた。



「…………まさしくその通りだ(キリッ)(※超絶ドヤ顔)」


「ひっ……!……あ、あぁ、そ、そうだな」



 目ん玉半分飛び出たゾンビのような顔でキメ顔を決められ、一瞬悲鳴を上げかけたケビンは、何とか堪えて顔を引きつらせながらも応えた。だがアルフレッドは何故か顔面を近づけたまま離れてはくれない。



「俺は間違っていた……彼女の周囲にばかり気を取られていて、俺自身が彼女にぶつかることを避けていた(※ゾンビ顔でドヤ顔)」


「う、うん、そうだな……」



 ガンガンに薬を決めたかのような血走った目で間近に見つめられながら、ケビンは首振り人形のようにコクコクと頷く。しかし心の中では、まさか本当に物理的にぶつかりに行ったりしないよな……?このゾンビ………と斜め上の心配を割と本気でしているのだが。


 そんなケビンの様子に気が付くことなくアルフレッドはそのままの姿勢で続ける。目ぇ血走ったゾンビが今にも王太子にキッスしそうになるほど顔を近づけた状態で。



「俺はこの胸に熱く溢れる気持ちを、きちんと伝えるように努力することを怠ってきた愚か者だ。騎士団を預かる団長としてこれほど恥ずかしいことはない。おかげで目が覚めた(※本気と書いてマジなんだけどやはりドヤ顔)」


「あ、あぁ……」



 墓場に眠る死者でさえ驚きに飛び上がって目が覚めるほどに恐ろしい形相で見つめられ、最早言葉も出てこないケビン。だが何やらアルフレッドは決意を固めたようで、これまで以上に饒舌にそれを語り始める。長くなりそうな予感にケビンが戦慄いた時、彼の居室の扉がコンコンと叩かれた。



「王太子殿下、お茶をお持ちしました」


「あっ!あぁ!入ってくれ!!」



 これぞ天の助け!!と思った、ケビンは速攻で入室の許可を出した。いつもなら人払いをして絶対に出さないでいた禁断の許可を。そして──



「失礼いたしま──……っ!!?!」



 入室の許可を得て、お茶のワゴンを押して入ってきた瞬間、何故か固まる侍女。互いを間近で見つめ合っていたケビンとアルフレッドも、侍女の足が不自然に止まったことに気が付き、そちらに視線をやる。



「………?」


「………………」


「………っはっ!!」



 三人ともに黙ったまま固まっていれば、最初に我を取り戻したのは、やって来た侍女だった。あからさまにビクッとしてから、ゆっくりと──だが何事もなかったようにお茶の用意をし始める。しかしその眼差しはどこか鬼気迫るような鋭さがあり、また口元は小さくそして高速に動いて何事かをぶつぶつと呟いているようだ。


 一体何が──と訝し気に思いつつも、侍女の方を振り向いたことで、ゾンビの如き恐ろしい形相のアルフレッドの顔は離れてくれたので、ケビンはようやく心の平穏を取り戻すことができた。そしてここぞとばかりに、用意されたお茶を飲む為に居住まいを正してアルフレッドにも席に戻るよう促す。


 流石のケビンでさえ、あの形相のアルフレッドを間近で見続けていては、心臓が持たない。というか朝早くからなんてもの見せてくるんだと、既に一日中働いたようなくらい疲れ切っていたので、ついつい気だるげなため息が漏れてしまう。



「はぁ……」


「ケビン?」


「いやすまん、大丈夫だ。朝からお前に()()()()ので疲れただけだ」


「それはすまん。何なら()()()()()()()()んだぞ?(俺が恋のアドバイスしてやる)」


「そうなったらそうなったで、()()()()()がな。今はとりあえず()()()()()()()(お前に恋愛の相談とか絶対無理)」


「わかった。じゃあありがたく()()()()()おく(恋のアドバイスを)」



 そんな風に会話をしつつテーブルの用意がされるのを待っていれば、何故かいつも以上に準備に時間がかかっているようだ。心なしか侍女の手が震え、茶器がカチャカチャと音を立てている。具合でも悪いのかとケビンは思ったが、時折窺うような視線を感じるから、普段見せないアルフレッドとの気安い雰囲気に驚いているだけだろう。


 ケビンは己をゾンビ(笑)から救ってくれた侍女を特に咎めることはせず、適当にアルフレッドをあしらいながらその準備を待った。そして──



「…………それでは失礼いたします」


「あぁ、すまないな」



 無事にお茶の用意を終えた侍女が頭を下げて部屋を出ていく。だが扉が閉まったその瞬間──



「きゃぁーっ!ヤバッ……!!ヤッバー!!」


 

 という黄色い悲鳴が上がったので、思わずティーカップを取り落としそうになったのだが、その後は特に何も聞こえてはこなかったので、それ以上気にすることなく幼馴染アルフレッドの為に再び恋のアドバイスに戻るのであった。


 その後、王城の侍女達の間で「やっぱり()()は殿下だったじゃない!」「でも()()もあるらしいわよ!」「朝から王太子殿下の居室で()()()()()()()()()のね」と薔薇色の話題で大いに盛り上がったのは言うまでもない。

 



アルフ「何か最近やたらと城の女性達に尻を見られるんだが……」

ケビン「あ?屁でもこいたのかお前」

アルフ「いやそんなことはないんだが……なんか妙に女性達から慈愛の目線で見られるというか」

ケビン「そういえば俺も最近、流石王太子殿下!王国一の攻め!とか言われるのを耳にしたな……」

アルフ「俺なんか、私は騎士団長×王太子派ですから!とか意味の分からない励ましをされたりもしたぞ?」

ケビン「なんだその派閥は?影に調べさせるべきか……?」


※やめた方が身の為ですw(作者談)

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