任務その4 酒の席には死の罠があると心せよ!
「それでは本日もお疲れ様でした!かんぱーい!!」
「わー!飲むぞー!」
「かんぱーい!」
賑やかな掛け声とともにそこかしこでグラスのぶつかり合う音がする。騎士団長であるアルフレッドの意図しない(笑)提案により、騎士団員達のほとんどが酒場へと繰り出していた。
「ひっさびさの奢りで飲む酒ってば、染みわたるぅ~っ!」
「団長ごちになります!!」
「………………うむ」
浮かれた若い騎士団員達が、早速ごくごくと酒を飲みながら、飲み会を開いてくれたアルフレッドへと感謝の意を告げる。勿論、この場は全て上司の奢りであるから、いつもなら恐れをなして近づかないようにしている騎士団員達も、今は陽気に話しかけていた。
かく言うアルフレッドの方は、彼の可愛い書記官だけを誘うはずが、思いもよらず大所帯になり、険しい表情のまま(※だからそれが通常運転だって)淡々と騎士団員達の謝意に頷いた。
ただ一人、補佐官の青年だけはその表情を見て、あれ?もしかして俺、間違った……?──と、ようやく己の過ちに気が付き、一人背筋を凍らせてはいるものの、今のところ食事会は順調に進んでいた。
「団長も飲んでください。ささ」
「…………あぁ」
料理が皆の席に振舞われ始めると、団員の一人が早速といったように、アルフレッドの元へ酒を注ぎにやって来る。酒場を貸切ってはいるものの、人数が多いため、仕方なく書記官のマーガレットと二人席に座ることになった騎士団長のアルフレッドであったが、予想通り騎士団員からお酌という名の邪魔をされていた。
「さ!団長!どうぞ豪快にいっちゃってください!まだまだお酌したい奴らいっぱいいますんでね!」
「………………(ぷるぷる)」
キラキラと期待の眼差しを向けられ、心なしか酒を持つ手が震えるアルフレッド──なんと彼は全くの下戸であった!!
だがその事実は決して余人には知られてはならない超☆極秘事項DA!もし知られてしまえばそこには死あるのみなのDEATH!!
そんな恐ろしい死の罠を目の前にして、アルフレッドは罠にわなわなと打ち震えることしかできず(笑)一向にその腕は注がれた酒を持ち上げる気配はない。
何なら今まで酒を注がれぬよう、ほとんど飲み物に手を付けていなかったのだが、目の前に座る彼の可愛らしい書記官が、アルフレッドに酒を注ぎたそうにしてたので(※おそらく妄想)、それを期待して元々あった飲み物を飲み干したと言うのに……。
思いもよらぬ伏兵に自身の戦略を覆されたアルフレッドは、既に注がれてしまった目の前の酒を燃えるような眼差しでひたすら睨む。このまま睨み続けて蒸発してしまえば……などと割とアホなことを考えているアルフレッドだったが、周囲の団員達からは「やべぇ……あの視線、こんなまずい酒飲めるか!って意味?」「いやいや、こんなちょっとじゃ足りねーよ!って意味だろ」と様々な憶測を呼んでいる。
膠着状態の戦況──だがしかし、この状況を打破したのは思いもよらぬ人物からの一言であった。
「団長、それ飲まないんですか?」
「っ──!?!(ぎっくーんっ!!)」
何とその言葉を発したのは、彼と同じテーブルに座る、愛しのマーガレット書記官であった!
あからさまにビクッとするアルフレッド。動揺のあまり手が震えてしまうも、幸い(?)酒は無事で、彼は「あ」とか「う」とか意味のない声を漏らすのみ。いざ参らん!と勢い勇んで挑んだ大戦の食事会も、指揮系統は既にズタボロであった。脳内ではミニ伝令が「緊急事態!緊急事態!」と半泣きで叫びまくっている。
とはいえアルフレッドは全くこれっぽっちも逆立ちしたって酒が飲めない──飲んだらすぐに気分が悪くなるか、最悪意識を失うしかないのだ。
もしそんなみっともない姿を、愛しのマーガレット書記官に見られようものなら……彼はこの戦で大敗を期すだろう。何なら不名誉な戦死となってしまうかもしれない。いや、愛の為に殉死なら少しはカッコいいか……──などと綺麗な言葉に脳内で言い換えたところで、所詮は好きな子の前でだっせぇ姿を晒して、恥ずか死ぬぅっっ!だけなのである!
にっちもさっちもいかずに、険しい表情を(※通常運転が過ぎて最早草w)更に険しくしたアルフレッドだったがしかし、そんな彼の窮地を救ったのは、またもや彼の愛しの書記官であった!
「いらないならそれ、私がもらっちゃってもいいですか?」
──サっ!……ごくごくごくっ!ぷはーっ!──
「っっ!?!?!!?!」
なんと彼の愛しの書記官は、あろうことか上司の手からその杯ごと酒を奪うと、そのままごくごくと豪快にそれを飲み干したのだ!これにはアルフレッドだけでなく、同僚の騎士団員も目を見開きぽかんとしている。
「あ~、美味しかった♪ふふ、あ、団長すみません。今、団長のも注ぎますね」
と言って愛しのマーガレット書記官──改め酒豪マーガレットは、飲み干した杯を未だ固まったままの上司へと戻すと、元々テーブルの上にあったピッチャーからトクトクとノンアルコールのお茶を注ぐ。「あたしの酒を余所に注ぐんじゃないわよ?」と言わんばかりに並々と(というか既にだいぶ零れてしまっている)注がれたそのお茶は、最後の砦(※下戸じゃないもん!飲めるもん!ていう無駄なプライド)を破られそうになっていたアルフレッドの窮地を見事に救ったのである!!
勝利の女神がまさに降臨した瞬間であったが、頭真っ白になっていたアルフレッドは、既に半分意識を失っていたため、残念ながらその奇跡を覚えていることが叶わなかった。そんな彼の脳内ではミニ伝令が「衛生兵!衛生兵!」と、必死に指揮官の回復を試みている。
その後も固まったままのアルフレッドをよそに、酒豪は彼の元にお酌をしにやって来る団員達から代わりにお酌を受け、それを次々と飲み干していった。まさに救世の英雄の如き豪胆な飲みっぷりである!
そんなこんなで戦線を半ば途中離脱しかけていたアルフレッドであったが、ようやく彼の脳内衛生兵が任務を完了し(※単純に時が解決しただけ)へっぽこ指揮官を戦線へと復帰させた。
「…………はっ!」
「あ、戻ってきた」
意識を取り戻したへっぽこ指揮官ことアルフレッドを、側で心配そうに見守っていたのは補佐官の青年である。
上司に殺されそうな勢いで睨まれ、苦心して二人席にした補佐官だったが、上司が脳内衛生兵のお世話になるような事態となり、同じ執務室勤務として書記官こと酒豪こと英雄マーガレットの助力(主に上司の介護)をすべく、同じ席に着いた次第であった。
「団長が固まっている間、マーガレット書記官が頑張ってお酒を飲んでくださってたんですよぉ?まぁ私もだいぶ飲まされましたけどね……ひぃっく!」
などと補佐官がのたまうので、思わずギッ!!と睨みつけてしまうアルフレッドであったが、既に酔いがだいぶ回っているせいか、補佐官の青年はいつもよりも動じない。しかも何なら上司であるアルフレッドよりも彼の書記官に近い位置で酒を飲んでいるではないか!
なんて不届きな……と、ゴゴゴゴゴ……と腹の底から不穏な何か(※恐らくここ一番の蒼雷)が出てきてしまいそうなアルフレッドであったが、それをグッと堪えて手元のお茶の並々と入った杯を飲み干した。
「わ~!いい飲みっぷり!流石団長!」
「わ~!流石です!」
「………………(にこっ)」
何故かただお茶を飲み干しただけであるのに書記官と補佐官の二人から褒めたたえられて、ご機嫌になるアルフレッド(※しかしその笑顔は悪魔も飛んで逃げ出すほどの恐ろしさだ!)。何ならその数十倍の酒をこの二人は飲み干しているわけだが。
しかしそんな記憶など一つもないアルフレッドは、愛しのマーガレットから尊敬の眼差しで見られ(※絶対に妄想)まんざらでもない様子だ。
最早この戦、勝利は目前──と確信し、油断したその瞬間!
「あ~、団長やるときゃやりますねぇ。まさかの間接キッスとは」
「っっ*>@Q!?@;!?*!!っ?!」
──ビカッ!ズバババーンッ!パリン!パリンッ!パリリリーンッッ!!──
ほとばしる蒼雷!最後の最後に補佐官の青年が言い放った禁断のワード──間接キッスなる言葉に、騎士団長アルフレッドの脳内キャパはあっという間に完膚なきまでに完全にオーバーしてしまったっ!!
人的被害は幸いなかったものの、間接キッスをもたらしてくれた記念の杯をはじめ、店内のそこかしこで食器やランプなどが壊れてしまっている。
だがしかし、そんなことは想定内。例え損害賠償でアルフレッドの懐が痛もうが、恋する彼の心は全くもってこれっぽっちも少しの罪悪感もなく、いやむしろ少しは悪いと思えよと突っ込まれそうなほどに痛まない。何なら間接キッス記念に、この酒場に記念碑の一つでも立ててやってもいいくらいだし、ナイスアシストをしてくれた騎士団員達には特別報酬でもくれてやろうかな?なんて思う次第だ!
そんなちょっと可笑しな脳内桃色妄想でニヤつく上司をよそに、蒼雷による被害ですっかり酔いの醒めた補佐官は、怒り心頭の酒場のオーナーに、「すみません!全部団長のツケで!!すみません!すみませぇーんっ!!」と悲痛な叫びをあげるのだった。
補佐官「(やってしまった……まさか間接キッスだけであんなになるとは………)」
書記官「あ、補佐官さん。そのお酒、もう飲まないんですか?(ひょい!ごくごく!!)」
補佐官「ちょっ……!!」
アルフ「(怒)…………ズモモモモモ!!」
補佐官「ひぃぃっ!!ま、まだ口付けてないやつなんで……!!(間接キッスの濡れ衣なんかで死にたくない!!)」




