任務その3 戦場に赴くが如く食事に誘え!
──カサ……──
夕方の執務室、もうそろそろ就業時間も終わりとなる頃、アルフレッドは自分の執務室でその知らせを受け取っていた。
「ぐぅぅ…………うぅうう…………っ」
「っ!?!?!?!(な、一体なにがっ!?)」
アルフレッドが知らせの中身を見た瞬間、眉間にシワがぐわッと押し寄せ、食いしばった歯の間からは、猛獣のような唸り声が漏れ出た。途端に執務室の中に不穏な空気が立ち込める。
件の知らせを上司へと渡した張本人である補佐官の青年は、やべぇ……あの手紙、一体どんな恐ろしい知らせが……と、まるでどこかで戦争でも起こるのではないかというような雰囲気にひやひやしていたが、実際は恋に悩むアルフレッドが王太子のケビンにあれこれと質問をし、それに対して返ってきた答なだけである。
そんな補佐官の不安をよそに、ヘタレな騎士団長のアルフレッドは、ケビンからの返答に険しい表情のまま(※それが通常運転)頭を抱えていた。
──食事に誘うなら今日!今すぐ!あと食事に誘うセリフくらい、自分で考えろ!俺はそこまで面倒みきれんっ!!──
「…………(ずーん)」
「あ、あの……団長?何か問題でも……?」
「いや…………」
まるで死地に赴くかのような重苦しい雰囲気に、補佐官の青年はついに我慢しきれずに問いかけた。だがアルフレッドの心は動揺でいっぱいいっぱいの為、補佐官の問いかけにただ反射的に沈んだような返事をするのみとなる。
おかげでその後数日間は、騎士団内で「戦の兆候が……」などとまことしやかに囁かれることになるのだが、デマの元凶であるアルフレッドはそれどころではない。何せ彼は今、一世一代の大勝負──それこそ負けてはならぬ大戦へと臨もうとしているのだ!
「食事……」
「食事?食事がどうかしたんですか?団長」
上司の言葉に反応した補佐官が、すかさず問いかける。上司との間には色々あるものの(主に身の危険とか命の危機とか)補佐官の青年は、いたって仕事に忠実な男である。上司が求めるものを先んじて理解して動き、その補佐をするのが彼の役目だ。
「いや……仕事の後に食事でもと思ってな……」
補佐官の言葉にアルフレッドは何とかそれだけを伝えた。そう、アルフレッドはマーガレットを食事に誘うつもりなのだ!
ヘタレな彼をそこまで決意させたのは、王太子で幼馴染のケビンからの痛烈な一言──一生マーガレットに恋心を気が付いてもらえないぞ!──というもの。
彼とて一生このままでいいとは思っていない。だがヘタレで恋愛下手な彼には、女性に対して自ら率先して何かをアピールするということが大変苦手であった。
そんなアルフレッドにケビンから渡されたのが、超重要で極秘な例の書類。それはどうやら雑誌などの切り抜きを集めたもののようで『キュンドキ!☆今時のカップル事情♡』という、まさに強面騎士団長のアルフレッドの対極に位置するような恋愛の極意が書かれた聖書であった。
そして早速その恋愛の聖書に基づき、マーガレットを食事に誘うべく苦心していたところだったのだが──
「お!いいですね!それみんな喜びますよ!最近は飲みにもいけてないですし!」
「………………」
何故かマーガレットを誘うはずが、補佐官の青年を含め騎士団員達を食事に誘ってしまったようだ。
アルフレッドの動揺をよそに、(自称)仕事のできる補佐官の青年は、早速と言って団員達への通達と段取りを始めてしまう。その様子をアルフレッドは険しい表情のまま(※くどいようだがそれが通常運転)見守った。特に苦言を呈することなく、補佐官のしたいようにさせていたアルフレッドの脳内では──
『騎士団の食事会なら俺のマーガレットも参加するだろう。ならば彼女を守る為に俺の隣の席を指定させよう。近づく男がいたら斬って捨ててでも俺の嫁を守らなければならないからな』
※一部妄想による過激な表現があります。
「席順を………」
「あ、はい!勿論!予約が取れるかは確認いたしますが、一応部隊ごとで分けさせますよ。まぁあとはおいおい自由に席を代わってもらって──」
「っ──!!!!」
──ピシャァァンッ!!!──
「アぃタぁっ!!」
席を自由に変更できると告げようとしたところで、上司の凄まじい蒼雷が補佐官を襲った。少し焦げ臭い匂いと共にぶすぶすと不穏な煙が立ち込める執務室。ちなみに書記官は現在他の部署へとお使い中だ。
「…………」
「…………」
暫く無言で見つめ合うアルフレッドと補佐官の二人。勿論、熱く見つめ合っているとはいえ、王城で働く女性達が大喜びする薔薇色のBでLな関係ではない。(とはいえ一部の女子の間では、騎士団長×補佐官、もしくは補佐官×騎士団長というカップリングも人気のようである)
「えぇっと……席順は…………変えない方が……いい、ですよ……ね?」
「…………(コクリ)」
補佐官は非常に空気の読める青年であった!ついでに言えばも雷耐性も高い為、蒼雷が飛び交う最も危険な(?)騎士団長の執務室勤務に不運にも大抜擢された経歴の持ち主であった!
うおぉぉぉ!あぶねぇぇっ!……と内心かなり命の危険を感じていた補佐官であるが、すぐに上司の意図するところを理解したようだ。
「では席順はかっちり決めて……えと、執務室勤務の我々は同じテーブルで──ってヒぃぃィッ!……っ(やっべ!めっちゃ睨まれてる!俺、殺される!!)……だ、だだだ団長と書記官のお、おおお二人はっ!……同じテーブルってことでっ──!」
「…………あぁ、それでいい」
「……(ホッ)」
補佐官が命の危機を感じるほどのアルフレッドの熱烈な(?)視線のおかげか、どうやら無事にマーガレットと同じ席になれたようだ。
「一か所だけ二人席とかどうすんだこれ……」とかなりの難題に頭を抱えている補佐官の青年をよそに、無事に(?)マーガレットを食事に誘うことのできたアルフレッドは、終業後の食事会へ向けて、いそいそと仕事を片付けるのであった。
ケビン「……って、お前が食事に誘ったわけじゃねーじゃん!」
アルフ「…………間違いがあってはいけないからな(キリッ!)」
ケビン「いや!既にそれが間違いだから!」