任務その21 蒼雷注意!二人っきりの執務室
サフィア王国、騎士団長執務室──
「団長、おはようございます」
「あぁ、マーガレットおはよう」
今日もいつも通りに出勤してきた騎士団長のアルフレッドと書記官のマーガレットである。しかし執務室メンバーがいつもより一人足りない。
「あら?補佐官はまだ出勤していないのですか?」
「あぁ……どうも風邪を引いたそうでな。熱が出たとかで今日は休みだ」
「まぁ……そうなんですね」
○○は風邪を引かないというが、しっかり熱を出して休んでいる補佐官である。
「でもそれなら団長の光魔法で治療できるんじゃないですか?」
「あぁ、そうしようとしたんだが、貴重な光魔法を自分が使わせてもらうのは忍びないとかで、断られたんだ」
「まぁ……遠慮されたんですね」
実際の所は、ほんのちょびっとしか熱は出ておらず「あ~、折角熱出して休みになったのに、光魔法でちゃっちゃと治療されるとかだりぃわ~」という理由で断っただけである!ある意味合法的なサボりと言えよう!
「じゃあ今日は補佐官の分もしっかり働かないとですね!」
「あぁ、すまんが頼む」
そんなこんなで始まった二人きりの執務室勤務である。
「団長、こちらの書類の決裁をお願いします」
「わかった。すぐにしよう」
「こちらの再来週の建国祭の警備についてですが、王太子殿下へ提出する資料を先にまとめてしまいますね」
「あぁ、頼む。わからない所があれば声をかけてくれ」
二人きりの執務室であるが、意外にもスムーズに進んでいた。何ならやる気に満ち溢れたアルフレッドのお陰で、いつもよりも仕事がはかどる勢いである。
実際のところ、普段なら騎士団員達や他の部署の人間が何かと執務室に来るのだが、今は上官の恋路を気遣って、敢えて誰も訪れないようにしている。王城全体を通しての、恋愛成就大作戦中だ!
暫く二人で黙々と作業を続けたところで、マーガレットが声をかけた。
「そろそろお茶でも入れましょうか」
「あぁ……そんなに時間が経っていたか。そうだな、休憩しよう」
「ふふ、わかりました。今準備してきますんで、ちょっと待っててくださいね」
そう言ってマーガレットは湯を沸かしに一旦執務室の外へと出て行った。その後ろ姿を見送りながらアルフレッドは「今の新婚夫婦みたいだったな……」と頬を赤らめる。実際はいつもと変わらぬやり取りなのだが、補佐官がいない二人きりの状況がアルフレッドの妄想を加速させていた。
マーガレットが戻ってくるまでの間、一人きりになるとつい、あれこれと考えてしまう。
(そう言えば新婚夫婦は、こんなやり取りをすると聞いたな……)
~★~☆~★~妄想中~★~☆~★~
『おかえりなさい、アナタ』
『うむ、今帰った。お、今日はカレーか』
『えぇ、アナタの大好きなカレーです』
『あぁ、楽しみだ』
『あ、お風呂も沸いてますよ?どうしますか?』
『う~ん、どうしようかな』
『ふふ、ごはんにします?それともお風呂にします?それとも──
──わ♡た♡し♡?』
~★~☆~★~妄想終了~★~☆~★~
「!!!!!」
──ピシャァァァアンッ!!──
自らのピンクな妄想で動揺し、蒼雷を発動させてしまった童貞騎士である!ある意味、自家発電半端ない、超SDGSな男である!
おかげで執務室の外では蒼雷がしっかり発動し、被害者続出だ!
「ぎゃー!蒼雷っ!」
「いってぇぇぇ!なんでっ!?さっきマーガレットさん廊下にいたのに?!」
「てか団長一人でも蒼雷あるんかいー!」
折角団長の恋路を気遣って執務室を訪れないようにしていたというのに、今日も騎士団員達は仲良くみんなで蒼雷被弾中だ!
今日は騎士団の避雷針こと補佐官が休みの為、いつもよりも蒼雷増し増しである!
そんな騎士団員達の憐れな状況はさておき、アルフレッドの妄想は加速していく。
(いかんいかん……つい不埒なことを……マーガレットに申し訳が立たないな……)
童貞騎士とはいえ、真面目なアルフレッドはすぐさまイケナイ妄想を頭の隅へ追いやった。若輩者には刺激が強すぎたようだ。
(しかしマーガレットは料理もするようだからな。先日のレシピの件もそうだし、さぞかしエプロンも似合うんだろう……)
~★~☆~★~妄想中~★~☆~★~
『じゃあ折角だからカレーを先にいただこうかな』
『ふふ、わかりました。今準備しますからね』
そう言って白いフリフリのエプロンをひるがえし、キッチンへと向かう可愛い新妻。しかし何故かその後ろ姿は肌色多めだ!
『!!!そ、それは……まさか!!』
『ふふ、装備品はこのフリフリエプロンだけですよ……?
やっぱりご飯の前に──わ♡た♡し♡──にします?』
~★~☆~★~妄想終了~★~☆~★~
「!!?!!?」
──ピシャァァァンッ!ドンガラガッシャーん!!──
まさかのR18案件になりそうな展開に、鼻血を噴き上げながら蒼雷を大暴走させた童貞騎士!当然その妄想にも大人なモザイク処理が必要だ!
「ぎゃー!また蒼雷っ!」
「いってぇぇぇ!なんでっ!?さっきより威力UPしてる?!」
「てか団長一人なのにどうしてー!」
再びの蒼雷発動に、騎士団員達も阿鼻叫喚の嵐だ!あまりにも威力が強かった為、既に何人かは戦闘不能になってしまった!実質的なサボりの補佐官と違って、寧ろ彼等の方がお休みが必要だろう!
そんな戦闘不能者続出の騎士団員達はさておき、アルフレッドの妄想である!
(……はっ!何やら意識が飛んでいた!)
ピンクな妄想に若干昇天しかけていたアルフレッド。やはりレベル不足の彼にとっては、刺激が強すぎたようだ!
ちなみにそんなアルフレッドにイケナイ装備の余計な知識を植え付けたのは、幼馴染の王太子ケビンである!
経験豊富なケビンによって伝えられた幻の装備に、当時は「そんな防御力の低い装備に何の意味が……?」と疑問に思ったものの、年月を経てようやくその神髄にたどり着いたアルフレッドであった。ちょびっとだけ(※そっち方面の)レベルがアップしたと言えよう!とはいえ実践には程遠い状況であるが。
(マーガレットが風邪を引いたらいけないから、エプロン下の装備も贈らねばなるまいな……)
すっかり婿気取りでそんなことを考えるアルフレッド。しかし下着を含む服を付き合ってもいない女性に贈る変態さ加減については、全く気が付いていない!一歩間違えば通報案件である!
そうこうしている内に、マーガレットがお茶の準備をして戻ってきたようだ。
「団長~、お待たせしました!」
「あぁ、マーガレットおかえ──……」
──ピシャァァァンッ!!──
「!!?!?!?!」
何と!マーガレットが戻ってきて自家発電が一旦治まったはずが、再びの蒼雷発動である!
「な、あ、え、ぷ」
「あ?このエプロンですか?」
「(ブンブンブンブンっ!)」
「これ食堂で借りたんです~。お茶の準備で汚れたらいけないだろうからって」
何と!マーガレットはエプロンを装備して戻って来ていた!
当然、装備品はエプロンだけではないが、つい先ほどまでイケナイ妄想がはかどっていたアルフレッドは、すわ夢の現実化か!?と動揺が半端ない。何とか会話(※という名の首振り人形)するので精一杯だ!
「今準備しますね」
そうこうしている内に早速お茶を用意し始めるマーガレット。なんとか落ち着きを取り戻したアルフレッドは、準備を整えるマーガレットの様子を、期待の眼差しで見守った。
実際に結婚したらこんなやり取りが毎日あるのだろう。まぁ結婚してなくとも、毎日執務室でマーガレットにお茶を淹れてもらってはいるが。
「そう言えば今日の食堂のメニューなんだと思います?」
「ランチメニューか?」
「えぇ」
「うぅむ、なんだろうな……」
「カレーですよ。団長お好きでしたよね?」
「!?!?!?!?」
──ピシャァァァンッ!!──
まさかの妄想と同じメニューの登場に、再びアルフレッドの蒼雷が発動してしまう!カレーと聞いただけで自家発電できるくらいにビンビンだ!
お陰で執務室の外では蒼雷が大暴発し、騎士団員達が全員、医務室送りになってしまった!しばらく復帰は無理だろう!補佐官の仕事が増し増し確定である!
「団長、お茶入りましたよ」
「あぁ、すまない」
お茶が入りマーガレットからそれを受け取ろうとした時、二人の指先がチョンっと触れてしまった!
「!!!!!」
──ガチャン!──
「す、すみません!大丈夫ですか?!」
「いや、すまない。手元が狂った。」
「火傷はしなかったですか?!」
「問題ない。大丈夫だ」
実際に狂っているのは手元ではなく、童貞騎士の恋心なわけであるが、アルフレッドは動揺を隠しつつ大丈夫と伝えた。しかし──
「でも結構濡れちゃってますよ……髪の毛まで……そうだ!今なら空いてますし、寮のお風呂を使ったらどうですか?あ、でもお昼ももうすぐだし……今日はカレーだから早く行かないと無くなっちゃうし……
団長、ごはんにします?それともお風呂にします?」
「!?!?!?!?!(ブーーーーー!)」
──ピシャアァァァァン!!──
妄想と全く同じセリフに、ついにアルフレッドの限界が突破してしまった!蒼雷だけでなく、鼻血の大噴射である!
「きやーっ!大丈夫ですか?!団長!」
「…………(´Д`*)マ」
「マ?」
「マーガレットにする……( ´△`)ガクッ」
「???団長?──団長ーっ!!」
血塗れ(※鼻血)になりながらも、しっかりと己の願望を伝えたアルフレッドである。ちなみにマーガレットという選択肢(※わ♡た♡し♡?)がなかったことには気がついていない!
だが流石に刺激が強すぎたせいか、出血多量でアルフレッドは気絶してしまった!新妻に看病されるという甘い夢を見ながら医務室へGO!である!
そんなこんなで騎士団のほぼ全員が医務室送りになったサフィア王国騎士団。光魔法を使えるアルフレッドまでもダウンしたため、翌日はほぼ全員が休みとなった!
──翌日──
「おはようございまーす。昨日はお休みしちゃってすみません。いやー熱がスゴくって辛かったな~あはは」
しーん…………。
「あれ?団長?マーガレットさん?」
当然のことながらアルフレッドはいない!ついでにマーガレットも本日はもともと王妃の付き添いで公休だ!
「ん?なんだこれ……」
執務室の補佐官の机の上にポツンと残された紙切れ。そこには──
「え……?騎士団員の有休調整に団長の執務の処理……他の騎士団員の雑務処理……?」
それは本日唯一の出勤者である補佐官への仕事内容の伝言だ!団長のアルフレッドも同じ執務室勤務のマーガレットもいないから、当然のことながら全ての仕事が補佐官に回って来ている!
見れば書類の山が天井近くまで積まれており、それは一つや二つではない。なんなら他の騎士団員達の雑用まで全て含まれており、それをボッチで処理しなければならないのだ!
「な、なんで?!みんなどこいったのー?!」
休みの代償がとてつもなく大きくなってしまった補佐官だった。




