任務その20 熾烈な(※予約)争奪戦!
先日のドラゴン騒動から一週間、サフィア王国の王太子であるケビンはいつになく忙しい日々を送っていた。
「あー、新しいマンドラゴラ用温室の建設にドラゴン種の討伐計画、あとは魔法薬研究所の増設……やることたくさんだな~……」
面白そうというちょっとした悪戯心で開催したゲテモノ料理対決。蓋を開けてみればドラゴンへの変化というとんでもない成果が出ていた。おかげでケビンは実用化に向けて、様々な調整に追われている真っ最中だ!
「なんだケビン。疲れているなら俺の光魔法で治療してやろうか?」
「いや……まだ大丈夫だ。それにしてもアルフレッド。お前もだいぶ忙しいんじゃないか?最近は大神殿に呼ばれまくってるだろ?」
「あぁ、そうだな」
例の如くケビンの執務室に来ているアルフレッドも、光魔法の新たな活用法の為に忙しい日々を送っていた。そんな中、息抜きがてらケビンの所へ来ていたのだが、駄弁るのはいつもの恋愛相談ではなかった。
「だがマーガレットが色々気を遣ってくれるお陰で、そんなに大変じゃないぞ」
「ヘーソーナンダーヨカッタネー(=_=)」
「マーガレットが言うには、俺は働き過ぎらしいんだが、俺にはマーガレットがいるからな」
「へーソウナンダー(=_=)」
すっかりマーガレットの旦那気取りのアルフレッドの惚気を、無の心で聞き流すケビン。マーガレットからの愛の告白(※誤通信:前話参照)によって、今やアルフレッドは王国一の浮かれ男である!
「ふっ……何せ俺のマーガレットだからな(※ドヤ顔)」
「ウンウンヨカッタネー(=_=)」
休憩中とは言え仕事に追われ、全く話を聞いてない王太子ケビンである!しかしそんなチベスナの無関心に気づかず、アルフレッドは話を続けている。
「今でさえ書記官として十分に俺を支えてくれているが……そろそろ俺もけじめをつけないとと思ってな……」
「アーハイハイソーダネー(=_=)……って、え?!けじめっ!?」
「あぁ?そうだが?」
突然のけじめという不穏な単語に、チベスナ顔から一気に豆鉄砲ならぬ機関銃の弾幕を食らった鳩のように目を真ん丸に飛び出させたケビンである。
「えっと~……アルフレッドの考えるけじめとは一体……?」
「勿論、結婚のことだが?それがどうした?」
「~~~~~~っっ!!!」
アルフレッドの突然の結婚宣言に、最早仕事どころではないケビンである。何故ならアルフレッドは既にマーガレットと結婚まで秒読みと勘違いしているが、当然のことながらそれは大いなる誤解であるからだ。マーガレットの方には全く結婚の意志がないことは明らかである。
「あ~……その……だな。こないだの光通信の件だが……」
「(*´▽`*)にこっ」
「うっ……(めっちゃ笑顔!めっちゃ言い辛い!)……その~、あれは誤解だったんだ」
「ん……?誤解?」
浮かれまくるアルフレッドに対し、このまま誤解が進むと大変なことになるとケビンは一応真実を告白することにした。
念の為、衝撃を受けたアルフレッドから発動されるであろう蒼雷に備え、机の引き出しの中から結界の魔道具をそっと取り出し、手元に置く。
元々王族である彼に対し、王国を守る使命を持つ騎士団長の蒼雷が被弾することはないが、万が一ということがある。万全の準備を整えてからケビンはついに真実を告げた。
「その……あれは『ステーキが好きなら作りますよ』と打とうとしたんだ」
「ステーキ?」
「あぁ……アルフレッドがステーキを食べたセラドに怒っていただろう?だからマーガレット嬢がアルフレッドの為に自分がステーキを作るから、怒りを治めて欲しいと……そういうつもりで送った通信だったんだが……」
「……………ふむ、そうか」
ショックを受けて蒼雷が発動するかと思いきや、意外とアルフレッドは普通の反応だ。だが拗らせ童貞騎士の勘違いはケビンの予想の斜め上を行くものだった。
「俺の為に毎日手料理を作りたいと……
ポッ(*´▽`*)」
「んん??」
何故だか頬を乙女のように赤らめるアルフレッド。どう見ても勘違いが加速している。
「そんなプロポーズの言葉だったとは……こうなれば一日でも早く結婚をしなければならないな」
「いやいやいやいや、そうじゃないって!」
まさかのステーキ作ります宣言が、アルフレッドにとってはプロポーズの言葉に脳内変換されている!人々の救世主となった光の聖騎士は心まで童貞そのものだ!
だが勘違いされたままではとんでもないことになるのが目に見えている。ただでさえ忙しいのに新たな問題勃発で再びチベスナ顔になったケビンは、ガックリと項垂れた。
「ん?どうしたんだケビン。疲れが溜まっているのか?何なら今からでも治療するぞ?」
「いや……いい……というかお前普通に光魔法操作できるようになったのかよ」
「あぁ、こないだから自分の意志で発動できるようになったな」
「へーソッカー……(嫁効果絶大かよっ!)」
王国にとってアルフレッドが自在に光魔法を操れるようになったことはめでたいが、お陰で心労が倍加してしまったケビンである。
しかしこのまま誤解を放置し続けることは新たな問題が発生することは間違いないので、何とかするしかない。
「とりあえずお前、今日一日大神殿で光魔法の治療に当たれ。騎士団の奴らには俺から伝えとくからな。就業時間まで大神殿に詰めとくように」
「ん?あぁ……わかった」
とりあえずケビンは、物理的にアルフレッドを城から引き離すことにした。その間にマーガレットを呼び出してうまく説得し、あわよくばアルフレッドとのお見合いをセッティング、もしくはマーガレット本人からやんわりと誤解を解いてもらう方向のどちらかで調整するつもりだ。
そして休憩時間が終わり、アルフレッドが執務室を出ていくのを見計い、影のものに命じる。
「……マーガレット書記官を呼んで来い」
「はっ──」
こうしてアルフレッドのいない所で、新たな作戦が開始されたのだった。
*******
一方その頃──
「あれ?マーガレットさん、どこ行くんですか?」
食堂に休憩に行っていた補佐官が、マーガレットの姿を見つけて声をかける。彼女はいつものように王妃のお茶会に参加した帰りだろう。だが同じ執務室に戻るはずが、マーガレットは逆方向へ向かっている。
「あ、王妃様の付添でちょっと大神殿に。すみませんが戻るのが遅れます」
「そうなんですね。こっちは大丈夫なんで、気を付けて行ってらっしゃい。団長にも自分から伝えておきますよ」
「はい!すみませんがお願いします」
そう言ってにこやかに手を振る二人。だがこの様子を見て気が気でない者がいた。勿論、ケビンの命でマーガレットを迎えに来た影の者である。
「まずい……書記官殿も大神殿に向かってしまうぞ……!」
折角アルフレッドを大神殿に追いやったというのに、肝心のマーガレットまで行ってしまったら、ケビンが事情を説明するどころではない。
すっかりその気のアルフレッドが、マーガレット本人を目の前にしてどんな暴挙に出るかわかったものではないのだ。しかも王妃まで大神殿に行くと言うではないか。
すぐに影の者はケビンに指示を仰ぐ為に執務室へと戻った──
********
「おぉ!騎士団長殿、よう来てくれた!今日も治療の方を頼むぞ」
「あぁ……」
大神殿に着いたアルフレッドは、知らせを聞いてすっ飛んできた大神官に抱き着かれんばかりの勢いで歓迎されている。いつもなら神殿に祈りに来る信者や治癒魔法の依頼などで忙しくしているはずだが、アルフレッドの光魔法による特殊な治療が最優先事項のようだ。
「では早速こちらへ──」
と、大神官が案内しようとしたところで、神官から別の来客の知らせが届いた。
「お、王妃様がこちらに来られるようです!」
「何?王妃様が?」
驚いて視線を大神殿の入り口付近に向けると、先ぶれの者だろうか。近衛の者が来ているのがわかる。
特殊な治療を施しに来ているアルフレッドと違い、王族の突然の来訪に、大神官も困惑気味だ。
「とにかく王妃殿下をお招きする準備をせねば……」
「忙しそうだな……治療はまた今度の方がいいだろうか?」
「いや!それは困るっ!……それに騎士団長殿がおられた方が、王妃殿下の安全もより確かなものになるだろう。いてもらって困ることはない」
「そうか……なら護衛の一人として留まろう」
忙しそうな様子に、城に帰ることも視野にいれていたアルフレッドだが、大神官自ら問題ないと言うのだからそのまま留まることにした。
そうこうしている間に、先ぶれに続いて王妃が到着したようだ。外が俄かに騒がしくなり、大神官に続いてアルフレッドも、王妃を迎える為に出た。
神殿の入り口には、一際豪華な馬車が横付けされており、ちょうどそこから王妃が降りてきたようだ。他にも数台馬車が来ており、付き添いの侍女や官服を着た女性達も降りてくる。
一体何事かと神官達が目を丸くする中、王妃が出迎えに来た大神官を見つけてにこりと優雅な笑みを見せた。
「突然申し訳なかったわね。大神官」
「いえいえ、いつでも歓迎でございますよ、王妃殿下。して今日はどのようなご用件で?」
「あぁ、それなんだけど……ってちょうど騎士団長もいたのね。都合がいいわ」
「はい?」
「ふふ、まぁ立ち話もなんだから、お茶でもしながらお話しましょ?」
「は、はぁ……」
何故かアルフレッドの姿を見て笑みを深めた王妃。よくわかっていない男達をよそに、とりあえずは大神殿の中に入ることになったのだが──
「っ──!ま、マーガレット!」
「あ、団長」
王妃の付き添いの中にいたマーガレットの存在に、アルフレッドが気が付いた。王妃のいる手前、大げさに騒ぐことはできないが、動揺が半端ない。マーガレットの方もアルフレッドがいるとは思っていなかったようで、驚いているようだ。
「……なぜここへ?」
「それが……王妃様の付き添いなんですが……団長の方は?」
「俺はケビンからの要請で……その光魔法を使った治療をな」
「ははぁなるほど」
王妃達の後ろをついて行きながらヒソヒソと話す二人。思いもよらぬ場所で会ったが、一応二人とも仕事中である。
大神殿の荘厳な入り口を潜り、聖堂の脇にある廊下を進んで行く。王妃が来たからには、奥にある応接用の部屋を使うのだろう。
しずしずと厳かな空気の中、マーガレットと二人で並んで歩いていると、アルフレッドの中である種の感慨が生まれてくる。
「……式はやはり大神殿でするのがいいか……」
「えっ?」
「いや……」
思わず妄想が口に出てしまったアルフレッドである。すっかりその気で、結婚式を上げるのは大神殿がいいななどと現実的な計画まで立てている。
「その……マーガレットはどうなんだ?」
「どうとは?」
「やはり大神殿のような由緒あるところがいいだろうか」
「?そうですね?」
「なら今からしっかり予約を入れておかないとな」
「大神殿の予約ですか?」
「あぁ。心配しなくても大神宮には貸しがあるから大丈夫だ」
「??そうなんですね」
全く分かっていないマーガレットをよそに、何故か会話が成立している(と思っている)童貞聖騎士のアルフレッド。彼の中では結婚まで秒読み状態だ!
しかしマーガレットの中では……(あー、団長ってばそんなに信心深かったんだー)と、全くの別解釈である!
「そういえば最近では王妃様も大神殿の方の予約がどうとかおっしゃってますね」
「何?王妃様も……?」
結婚式場の予約の話をしているつもりのアルフレッドは、当然眉をひそめた。
王妃も大神殿を予約とは、国王ともう一度結婚式でも挙げるのか……?と、斜め上の妄想に取りつかれている。
「ええ、最近はものすごく熱心で……中々神殿側との予定が調整できないから、今日も急遽来たみたいで」
「そ、そうなのか?」
そんなに急いで結婚式を……?と、アルフレッドの勘違いが加速中である。
そうこうしている間に神殿奥の部屋にたどり着いたようだ。
「それで本日はどのようなご用件でしょうか?王妃様」
「それなんだけど……ちょっと耳を貸しなさい」
そう言って大神官に耳打ちする王妃様。何やら神妙な様子だ。
「ふむふむ……ほうほう……なるほど」
「ということでこちらの方を優先してほしいのよ」
「むむむ……」
「騎士団長殿の予約を入れるよりも、ずっと簡単でしょう?」
「!!!!」
王妃と大神官の会話にアルフレッドは衝撃を受ける。予約……つまり結婚式場の予約の枠を王妃に奪われそうな状況だ!
「横から失礼する。つまり自分の予約が無くなるということだろうか?」
「おぉ騎士団長殿。王妃様の要請だからな」
「なんと……」
突然の結婚式場の予約キャンセルの事態に青ざめるアルフレッド。というかそもそもまだ式場の予約などしていないことが、すっぽり頭から抜けている!
「大丈夫よ。騎士団長。いただいた予約枠はしっかり私たちが活用させてもらうわ。安心なさい」
「は──……」
王妃自ら釘を刺されれば、王国最強騎士団長でさえも、それ以上は何も言うことができない!
「寧ろ当分は大神殿に来る暇は無くなるわね。そこは覚悟しておいて」
「…………畏まりました(ずーん)」
当分は大神殿の式場予約をできないとまでとどめを刺されて、完全に意気消沈のアルフレッドである!
その後はほとんど放心状態で話を聞く余裕はなく、大神官の特殊な治療を終えて、王城へと戻ったのだった。
************
その後のケビンの執務室──
「──ということで、騎士団長殿は何事もなく城に戻られました」
「よかった……とりあえずは余計な展開は免れたみたいだな」
影からの報告を聞いてひと安心のケビンである。付き添いでマーガレットも大神殿に向かったと聞いた時はどうなることかと思ったが、事なきを得たようだ。
「それにしてもどういうことだったんでしょう?王妃様から何か言われて、それからずいぶんと落ち込んでおられたようですが……」
「さ~?まあ何事もなくてよかったんじやない?」
まさか結婚式場の予約が取れなくて落ち込んでいるとは思わないケビン達である。
「そういえば魔法薬研究室へ急ぎの予算追加要請が来てるようです」
「魔法薬?ドラゴン変化のやつじゃなくて?」
「ええ、王妃様の要請のようです」
「母上が?」
渡された書類に目を通すケビン。王妃直々の要請というのが引っ掛かる。
「光魔法を活用した発毛薬に美肌薬の研究費?何だこれ」
「さあ……?」
首を傾げる二人。だがこれこそがアルフレッドの暴走を止めた原因である!
~~リプレイ中~~
大神官に耳打ちする王妃
「ヒソヒソ(騎士団長の光魔法で美肌の魔法薬を作ろうと思うのよ)」
「ふむふむ……」
「ヒソヒソ(発毛に効くなら美肌にも効くはずだし?)」
「ほうほう……」
「ヒソヒソ(私名義で予算をとれば発毛薬の研究費もガッポリよ?)」
「なるほど」
「ということでこちら(※魔法薬)の方を優先してほしいのよ(ニッコリ)」
「むむむ……」
「騎士団長殿の(※ハゲ治療の)予約を入れるよりも、(※発毛薬を作るほうが)ずっと簡単(※お手軽)でしょう?」
「!!!!」
つまり王妃はこの時、結婚式場の予約枠でなく、アルフレッドという光魔法の予約を入れていたのだ!
「横から失礼する。つまり自分の(※結婚式場の)予約が無くなるということだろうか?」
「おぉ騎士団長殿。王妃様の要請(※騎士団長の予約融通)だからな」
「なんと……」
「大丈夫よ。騎士団長。いただいた予約枠(※騎士団長の光魔法)はしっかり私たちが活用(※美肌薬・発毛薬に)させてもらうわ。安心なさい」
「は──……」
「寧ろ当分は大神殿に来る暇(※大神官のハゲ治療)は無くなるわね。(※魔法薬の研究で忙しくなるから)そこは覚悟しておいて」
「…………畏まりました(ずーん)」
~~リプレイ終了~~
というのが事の真相である!
「団長~、また魔法薬研究室から来てほしいと要請が!」
「最近多いな……」
大神殿には呼ばれなくなったものの、魔法薬作成のために忙しくなるアルフレッドだった。




