任務その17 強敵(※恋敵)現る!!
くっ!時間がっ……(´Д`|||)!
その日、騎士団長執務室勤務の書記官であるマーガレットは、庭園の東屋で昼食をとっていた。いつもなら食堂で済ますのだが、珍しく頂き物の野菜を消費する為に自分で弁当を作り、折角だからと外で食べる為にやって来たのだ。
普段はあまり来る機会の無い庭園。しかし王城の管理している庭とあって、花々が美しく咲き誇っており、目にも楽しい。綺麗な花を眺めながらの昼食を楽しんでいると──
──ガサガサッ──
「あら……?ねぇ、そこの貴方。どうしたの?」
庭木の奥にいる不自然な人影に気が付き、マーガレットは声をかけた──
********
「あれ?団長もテイクアウトですか?」
「……あぁ……」
食堂でアルフレッドに声をかけてきたのは部下の補佐官である。どうやら彼も食堂のメニューをテイクアウトしたようだ。
「団長がテイクアウトってなんか珍しいですね」
「……あぁ……」
「あ、そういえばマーガレットさんもお弁当持って外で食べるとか言ってましたね」
「(びくーんっ!)」
勘の良い補佐官の言葉にビクつくアルフレッド。テイクアウトしたランチを手に偶然を装い、お弁当持参のマーガレットとお昼を共にする壮大な計画を実行中だ!
何なら「それはどんな料理だ?」「よかったら団長も食べます?はい、あ~ん♡」的な流れで、あわよくばマーガレットの手料理を味わっちゃおうという心づもりである!
「マーガレットさんが、庭園の花が見頃みたいって言ってましたよ?あ、団長も行きます?俺も折角だからちょっと行ってみようかと思ってて」
「……(ぬーん)」
ここで自分もついて行くと言う勘の悪い補佐官である。しかしマーガレットと二人きりというシチュエーションに耐えられないアルフレッドは、不満げに眉を寄せつつもコクリと頷いた。
そんなこんなで仲良く(?)上官と部下の二人は、テイクアウトのお昼を持って庭園へと向かった。
だがそこには愛しのマーガレットとは別に先客がいたのである。
****
「次はこれがいいな、おねぇさん」
「これ?わかったよ~。はい、あ~ん」
「あ~ん♪」
──パクリ──
「ん~!おいひぃ~!このビリビリくる刺激的な味わいが最高だね!」
「えへへ~、そうかな~?ふふふ~」
──ピシャァァァンッ!ドガガガーンッ!!──
「あら、雷……?急に天気が……」
庭園の中を迸る蒼雷に、マーガレットは周囲を見回した。勿論、蒼雷の原因はアルフレッドであるわけだが、彼女はまだ気が付いていない。
「おねぇさん、どうしたの?」
「ん~、お天気悪くなってきたのかなって思って。でも晴れてるから大丈夫かな?」
「大丈夫だよ~。ねぇねぇ、それよりもっと お弁当ちょうだい?」
「ふふ、本当に食いしん坊さんね。じゃあ次はどれにしよっか~?」
庭園の東屋でまるで恋人同士さながらに昼食をとる二人──一人はアルフレッドの恋するマーガレット書記官であり、もう一人は見知らぬ少年である。
自分がマーガレットの手作り弁当を食べる心づもりでいたアルフレッドは、子供とはいえ別の男が彼女に「あーん♪」してもらっている衝撃的な光景に、蒼雷の発動が止まらなくなってしまった!すぐ隣にいた補佐官も結界石で防いでいるものの、アルフレッドの鬼蒼雷のヤバさに冷や汗ものである!
すると補佐官の願いが通じたのか、マーガレットが二人に気が付いたようだ。
「あれ?お二人もお外でお昼ですか?」
「っ……あ、あぁ……」
「まぁ、そうなんですね。よかったらこちらどうそ?ここからだと庭園もよく眺められますので」
「う、うむ……」
マーガレットの声掛けによってようやく蒼雷が収まったアルフレッドである。横の補佐官は「えーと……俺やっぱ食堂で食べよっかなー」とか言って後ずさろうとするが、鬼上官からガシッ!と腕を掴まれ、逃亡は失敗に終わった!勿論、自らが進言して共にやって来たのだから自業自得である!
仕方がないので鬼上官の恋敵らしき少年について問いかける。
「……と、ところでマーガレットさん。こちらの少年は一体どなたで……?」
「この子はミカ君。お腹が空いているって言うから一緒にお弁当を食べてたんですよ。ねー」
「ねー♡」
そう言ってまるで恋人同士のように少年とうなずき合うマーガレット。当然、童貞騎士のこめかみには、ブチッとぶっとい青筋が浮かび上がり、激しい蒼雷がバチバチとその全身を襲う。とばっちりを受けた補佐官は、胃がキュウッと縮こまって、最早昼食を取るどころではない!
ここは一刻も早くこの上官暴走案件を脱することが優先だと思い、少年の方に声をかける。
「えとミカ君はどうしてここに?見るからに良いとこの坊ちゃんみたいだけど、お腹を空かせてたってのもどうしてなのかな?親御さんは?」
「おねぇさん♡次はこれが食べたいな」
「ん?これ?」
「そうそう。あーんしてほしいな♡」
「あー……そういう感じねー(めっちゃ無視されたー!( ; ゜Д゜)▼500)」
ミカ少年に思いっきり無視された補佐官は特大のショックを受けた!精神力マイナス500のダメージである!だが彼は割りといつも他の団員達からもスルーされており、何なら無視されるのが通常運転の残念な男だ!
一方の少年は、マーガレットに対しては猫撫で声で「あ~ん♡」を要求してご機嫌だ。その態度を見る限り、補佐官など足下にも及ばないくらいイイ性格をしているのだろう。
「はい、あーん」
「あ~ん♡」
──ガシッ!!──
「っえ?!団長?!」
役立たずの補佐官に代わり、目の前のやり取りに耐え切れなくなったアルフレッドがついに手を出してきた!「あーん」しようとしたマーガレットの手首をがっしりと掴んでそれを阻止している!
ちなみに初めてエスコートではない形でマーガレットの手に触れた童貞騎士であるが、「あーん♡」を阻止するのに必死で本人は気がついてはいない!
「えと?団長どうされました?」
「……(ぬーん)」
手首を掴んだはいいものの、その後のことを何も考えていなかった童貞騎士である。憤怒の表情のまま頭の中は大混乱中だ!
その時、地の底を這うような冷たい声が響いた。
「ちょっとおじさん?おねぇさんに何してるの?」
「っ!?っ!?っ!?」
──ピシャァァアンッ!!──
確かに少年から見ればいい歳のおじさんだが、恋する童貞騎士にとってはガラスのハートが傷ついてしまう案件だ!ブロークンハートの蒼雷が思いっきり発動してしまう。
「ミカ君、おじさんは私の上官なの。だから怖いおじさんじゃないのよ?」
「ふ~ん、おじさんなのにねぇ……」
「……(ずーん( TДT)▼10000)」
なんとアルフレッドは愛しのマーガレットにも、おじさん呼ばわりされてしまった!蒼雷すら出ないほどのショックである!精神力にマイナス10000の極大ダメージだ!
「あー……、ほら。このくらいの年齢の子にとったら我々は皆、おじさんですから。ね?」
フリーズしている上官に代わり、補佐官が微妙なフォローをかます。二十代前半の自分はお兄さんだよな?と心の中では上官のアルフレッドを裏切り中だ!
「年齢どころか見た目もおじさんじゃん!」
「!!そ、それは……(確かに強面の熊みたいな顔面だけども!!)」
違うとも言い切れずに言葉に詰まる補佐官。何だかんだでアルフレッドの顔面へのフォローは諦めている、補佐官とは名ばかりの全く補佐のできてないポンコツ補佐官だ!
「人間見た目じゃないのよ?ミカ君。団長はものすごく強くてカッコいいんだから!」
「っ!!!!!(///∇///)△500000000」
──ぱぁぁぁぁぁぁっ!!──
愛する嫁であるマーガレットのカッコいい発言に、アルフレッドの精神力が超回復した!プラス500000000アップだ!しかも最近覚えたての光魔法までついでに発動する!現状ただ光るだけの騎士団長だが、何かしらのエネルギー源か光源として使えないかと魔法師団が絶賛研究中だ!
そんな光る騎士団長と魔法師団の仕事ぶりはさておき、目下の問題はこの少年である。
「えぇぇ?おねぇさんはこんなおじさんが好みなの?僕の方がカッコよくない?」
「ミカ君?」
「だって僕の方がずっと若いし、ずっと見た目も良いし、背もこれから伸びる予定だし」
明らかにマーガレット狙いの少年。見た目は10~12歳くらいだが、女性へのアピールは大人顔負けである。
「んー、確かにこれからもっと成長したらミカ君もカッコよくなるだろうね~」
「もー、そういうことじゃなくて、今も僕の方がカッコいいでしょ?こんなおじさんよりさ!」
「……(ぬーん(#-_-))」
「うわぁ……(怖いもの知らずの子供って怖えぇぇ……)」
先ほどから上官をディスりまくっている失礼な少年に、隣に座る補佐官は生きた心地がしなかった。マーガレットの「団長カッコいい」発言で気を取り直したかに見えたアルフレッドだが、今はいつでも起爆可能状態だ!
「だからさ!僕をおねぇさんのお婿さんにしてよ!」
「!?!?!?!?!(ΣΣΣ( ̄□||||!!↑↑↑30000」
──ピシャァァァンッ!どんがらがっしゃーん!──
なんと十代前半の少年に先を越されてプロポーズされてしまった!ショックを受けたアルフレッドの蒼雷の威力が30000アップした!
チート級のバフがけをされた蒼雷に、離れたところでランチを楽しんでいた騎士団員達が直撃を食らう!
「やべ蒼雷が──うぐぉっ!(´д`|||)↓10000」
「大丈夫か!補給係──ってグッフゥッ!(T△T)↓10000」
「衛生兵っ!?そこはあぶな──ふんぎゃっ!(´Д`|||)↓10000」
次々とやられていく騎士団員達。当然HP はゴリゴリ削られあっという間に戦闘不能だ!彼らもただテイクアウトをしてきただけなのに、とんだとばっちりである!
そんな憐れな犠牲者達はさておき、少年による突然のプロポーズである。割と本気なのか、少年はマーガレットの前に跪くと手をそっと握り、まるで姫に傅く王子のように愛を乞う。
「僕、こんな気持ちになったのは初めてなんだ。おねぇさんの作った料理は美味しくって……おねぇさんの料理を一生食べさせてもらいたい。だから僕のお嫁さんになってくれないかな?……だめ?」
「えぇと……ミカ君がお婿さんですか?」
「そう!これでも僕っていいとこの子息だから、おねぇさんに苦労はさせないよ!だからどうかな?」
「う~ん……」
食い気味に迫られるも、首を傾げてどこか困惑するマーガレット。補佐官は、彼女の困惑の原因に気が付いていた。
「はっは~ん……なるほどなるほど……(嫁が欲しいマーガレットさんは甘えたい年下はアウトオブ眼中なんだろうな~φ(゜_゜)▲鑑定中)」
ならば見た目がおじさんだろうが、頼りがいのあるアルフレッドの方がまだお婿さんとして可能性がある。まぁ強面すぎる顔面の方が一般的にはアウトオブ眼中だろうが、それについて補佐官は全力で見ないことにした!
「……おねぇさん?」
「う~ん、ミカ君の気持ちは嬉しいけど……やっぱり歳も離れているし……」
「歳なんか関係ないよ!愛があれば大丈夫でしょ?」
「!!(うわ!スゴイなこの子!団長もこれくらいマーガレットさんにアピールできればいいのに!!!(゜ロ゜ノ)ノ▲解析中)」
「そうかもしれないけど~、でも私は平民だし~……」
「それも大丈夫だよ!平民だとしても貴族家に養子にしてもらってから嫁げばいいだけだし!」
「!!!(おぉぉぉ!この子本気じゃん!てかこのセリフ、団長にも見習わせたい!団長!寝てる場合じゃありませんよ?!(/ロ゜)/▲通信中)
「…………(しーん)」
思考どころか心臓まで停止してんじゃないかというくらいに反応の無い上官に向けて、必死で脳内会話を送ろうとする補佐官。だが一向に通じる様子はない!
一方、ミカ少年はそんな騎士達など目に入っていない様子で、マーガレットに向けて必死で自分をアピールしている。
「迷うことはないから、ね?段取はぜ~んぶ僕の方でやっておくからさ!だからお願い!おねぇさんのことが好きになっちゃったんだ!」
「えぇぇぇ?」
(うぉぉっぉ!!ついに言った!ハッキリと好きって告白してる!!)
「!`。?!∞¥@!?!◎↑▼」
──ピシャァァァンッ!!──
反応の無いアルフレッド。だが蒼雷だけはビシバシとしっかり発動している!最早、告白シーンをキラキラ演出するだけの、人間ミラーボールDA★!
「ミカ君……!ありがとう!おねえさん、男の人から好きって言ってもらえたの初めてなの」
「えぇぇっ!!!?」
ちなみにこの「えぇぇっ!!!?」は補佐官の叫び声である。あれだけ“マーガレットは俺の嫁”感を出しているにも関わらず、まさか一度も「好き」と面と向かって言えていないなど思いもよらなかったのだ!
チラリと横の上官を見るも、完全に魂が抜け出てしまっている!だが蒼雷の発動に魂の有無は関係ないのか、抜け殻となったアルフレッドは、蒼雷発動装置と化していた!
そんな軍務の新たな兵器についてはさておき、告白の行方である!
「ミカ君、貴方の気持ちは嬉しいけど……でもおねえさんはまだ結婚する気はないの」
「えっ!?そうなの?!」
「え!?マーガレットさん、そうなんですか?!」
何故かしっかり会話に参加している補佐官をよそに、マーガレットは続ける。
「騎士団の仕事が楽しいし、料理とか洗濯とか……家事をちゃんとできる余裕もなくて……」
「そんなの気にしないよ!確かにおねぇさんの料理が気に入ったのが理由だけど、僕となら働かなくても食べていけるし!」
「……でもマーガレットさん、お相手が家事とかされるなら結婚してもよかったのでは?」
何故かここで微妙にミカ少年のフォローをする、アシスト下手な補佐官。王国最強の守護神のフリーズ中に、結婚というゴールを少年に決められかねない失態である!
「そうなんですけどね。実際には難しくないですか?やっぱり男性は女性に家庭に入ってもらいたいでしょうし……私としては大好きな騎士団で働きつつ生活していきたいんですけど……」
「……(ピクリ)」
マーガレットの放った“大好きな騎士団”という言葉に、僅かにアルフレッドが反応を見せる。補佐官はそれを見逃しはしなかった!
「えと、どこで働きたいって言いました?もう一回!」
「もう一回ですか?」
「えぇプリーズ!!」
「大好きな騎士団で……」
「(ピクピクピクっ!)」
「はい!もういっちょ!!ついでに騎士団での“で”を抜いて、“超”とかつけてみましょうか!!」
ここで騎士団長執務室勤務のスーパー補佐官が覚醒した!偶然とはいえとある言葉をマーガレット本人の口から言わせようという狙いだ!
「えぇ?騎士団超働きたい?」
「あぁ~!……惜しい!そうじゃなくて、ほら!頭に大好きなをつけて!もういっちょ!」
「???えぇと……大好きな騎士団ちょ──」
「チョーっと待ったぁぁーー!!!」
──ズビシィィッ!!──
あと一歩のところでミカ少年からの、ちょっと待ったコールである!うまくいけばフリーズ中の戦略破壊兵器を「大好き騎士団長」という言葉で完全覚醒させられる所だったが、その計画がすんでで止められてしまった形だ!
ちなみにもし覚醒できていたとしたら、アルフレッドの光魔法も限界突破し、伝説の聖人クラスになっていたはずだが、それもあえなく夢幻と消えたのである!神殿の大神官がこの事実を知れば、失意のあまり生き残った彼の最後の毛髪も儚く抜け落ちてしまっただろう!絶対に知られてはならない失態だ!
「チッ!あとちょっとだったのに!!」
「補佐官?」
「チッ!騎士団の野郎はどいつもこいつも油断ならないな……(ボソッ)」
「ミカ君?」
不穏な空気を醸し出す補佐官とミカ少年に、マーガレットだけがキョトンとしてわかっていないようだ。ちなみに覚醒しかけのアルフレッドは、いまだにマーガレットの手首を掴んだまま石化中である!
「えと……何だかよくわからないけど、そういうことだからごめんね?」
「えぇぇ……こんな可愛い僕が言ってもダメなの?」
「う~ん、やっぱり年下はねぇ……弟みたいでちょっと……」
「(がーん)……そんなぁ……」
「(団長!年上でよかったですね!)やっぱり年下じゃ結婚相手にはあれですもんね!おじさん顔でも頼りがいでは、うちの団長は群を抜いてますし!」
シレッとおじさん顔と言ってディスる補佐官である。だが一応、王国の危機は避けられたようだ!
その時、王城の方からこちらに向かってくる者がいた。
「いた!ミカエル!」
「んげっ……!」
「え?え?王太子殿下?!」
使用人や護衛達を大勢引き連れてこちらへ向かってくるのは、このサフィア王国の王太子であるケビンその人だ。
ケビンはミカ少年ことミカエルを見つけるとあっという間にやって来て、むんずと少年の首根っこを摑まえる。
「お前はマナーの勉強をサボってこんなところで……!叔母上が探してたぞ!」
「だって兄さま~。マナーとはいえあのマズイ料理を食べながらですよ?繊細な舌を持つ僕には耐えられません!」
「マズイとかありえないから!城のシェフが直々に作った料理なんだから、王国一うまいに決まってんだろ!」
「またまた~」
何やらミカ少年はケビンの親戚のようで、しかもマナーの授業を抜け出してきたようだ。これにはマーガレットや補佐官も驚いて二人のやり取りをぽかんと見守るばかり。アルフレッドだけが愛しのマーガレットの手首を掴んだまま、放心状態から回復できていない。
「とにかく戻るぞ!お前はすぐにサボるから、次にやらかしたらセラドに頼んで逃げ出さないような罰則付きにするからな!」
「えぇぇ!?やだそれ!じゃあせめて料理くらいは僕の好きなのにしてよ!このおねぇさんが作ったのがいい!」
「あぁ?!……と、マーガレット書記官か。すまない、従弟が迷惑をかけてたみたいだな」
「い、いえ……そのミカ君は殿下の従弟様なのですか?」
「あぁ、先王の王妹である叔母の息子のミカエルだ。ほら、ミカエル」
「は~い。おねぇさん、ごめんね?僕ミカエルっていうんだ。聞いての通り王様の親戚」
「わぁぁぁぁ……」
「うひゃぁぁぁ……」
この事実には流石のマーガレットも慄いて叫び声を上げた。何せ王族にあ~ん♡をして手料理を食べさせたのである。補佐官にしても王族相手に上官の方がマーガレットに相応しいとかぬかしたばかりだ。事と次第によっては腹切りものである。
だがケビンはすかさず気にするなとフォローと入れた。
「こいつは脱走癖があるんだ。だから王城でマナーの勉強をさせる為に来てたんだが……どうもマーガレット嬢になついたようだな……」
「そう!そうなんだよ!僕おねぇさんが一緒なら頑張れる!だからお願い!おねぇさんを僕の婚約者にして!」
──ピシャァァァンッ!!──
「ぐふうぅっ!!」
「うぎゃっ!!」
再びのプロポーズに、ケビンの護衛としてやって来た近衛騎士に向かって蒼雷が襲いかかる!普段はあまり被弾することのない者達だから、一撃必殺であっという間に戦闘不能だ!
「あー、それは絶対にダメだ(そんなことをしたら王国が破滅する)」
「なんで?!」
「ダメなもんはダメ!(マーガレット嬢には王国最強兵器を押さえておいてもらわなきゃいけないんだよ!)」
「ちぇー……じゃあせめて料理だけでもおねぇさんの作ったやつにして?」
「料理……?」
ミカエルの言葉に、怪訝な表情でテーブルの上の弁当に視線を向けるケビン。ハッとしたマーガレットが慌てて補足した。
「あ、えっと。ここでお昼を食べてたら、ミカ君……ミカエル様がじっと見つめてきたので……お腹空いているの?って聞いたらそうだと言うので、分けてあげたんです」
「おねぇさんの料理、すっごく美味しかったんだよ!僕、この人の料理が食べたい!」
「そうなのか?……これはマーガレット嬢の手作り?」
「は、はい。知り合いから野菜をたくさんもらったので作ってきたんですけど……」
「野菜!?ミカエルが野菜を食べたのか?!」
「え、えぇ……随分と気に入られたようで……」
「そんな馬鹿な……ちょっとすまん!」
──ヒョイッ!──
「あ!」
「あ──」
「あ?!」
かなりの偏食であるミカエルが野菜を食べたという事実に、ケビンがその料理をひょいと摘みあげて食べようとした。
だがケビンは王太子だから、毒見もせずに誰かの手料理を食べさせるわけにはいかない。慌てて生き残っていた近衛騎士がそれを止めようとしたのだが、それよりも先に動いた者がいた。
──ガシッ……っ!!!──
「いででででっ!!ちょっ!アルフレッド!痛いっ!!」
「………(ギリギリギリギリ……!)」
憤怒の表情でケビンの腕を捻り上げるアルフレッド(※ちなみにマーガレットの手首は未だ掴んだままである!)
「わ、わかったわかった!マーガレット嬢の手料理……とりあえずお前が味見しろって!!」
「……ふっ……(※何故かドヤ顔)」
男とはいえ幼気な少年のミカエルならまだしも、成人男性であるケビンにマーガレットの手料理を渡すのは許せないとばかりに、ついにアルフレッドは壮絶な怒りによって覚醒した!ケビンはすぐに状況を察して、アルフレッドに味見を任せる。
「どれ……ひとついただこう(※キメ顔)」
「あ、団長のお口に合えばいいんですが……どうぞ」
「うむ…………(※あーんと口を開けている)」
「ぶふぉっ!」
「くっ……!?」
自分で料理をつまむどころか、ひな鳥のように口をパカッと開けるアルフレッド。マーガレットからの「あーん」待ちである!そんな巨大なひな鳥を見て、真面目な近衛騎士達が思いっきり吹き出した。
何せ強面のおじさんの「あーん」だ。最恐顔面偏差値の巨大ひな鳥がいたら、そりゃ笑わずにはいられないだろう。巨大ひな鳥の幼馴染であるケビンでさえ、腹を抑えてプルプルと震えている。補佐官だけが「団長!やっとアピールできましたね!」と感動に打ち震えていた。
そしてついにひな鳥への給餌がおこなわれた!
──パクリ──
「っっ!!!こ、これは……っ!!」
「あー、ちょっとスパイスを入れすぎちゃったんですけど……」
そう言って可愛らしく「てへっ」とする書記官。対するアルフレッドのキュンドキメーターはぎゅんぎゅん振れまくりだ!
しかしその口内は火を吹きそうなほどに凄まじい刺激に襲われていた!
「………う…………(プルプルプルプル)」
「やっぱりお口に合わないですか……?」
「そ……いや……う、うまい……(ぶるぶるぶるぶる)」
本当は甘党で辛いのが苦手なアルフレッドだが、愛する女性の手料理である!強烈な辛さにぶるぶる震えながら耐え、意地でも飲みこみ何とかうまいと口にした。
「よかった!まだたくさんあるんでよかったらどうぞ?あ、みなさんもよければ」
「そ、そうか……(うわ……アルフレッドの目ぇ血走ってる……大丈夫かこれ?)」
「(わー!女性の手料理!ラッキー!)あ、マーガレットさん、いいんですか?折角なんでいただきます!」
マーガレットの言葉に手料理をつまむケビンと補佐官。既に王国最強騎士団長のアルフレッドが毒見をしている為、近衛騎士も特に注意はしてこない。だが若干の危険を感じたケビンは、すぐにはそれを口にせず補佐官が先に食べるのを待った。
「どれどれ……(パクっ)…………」
「…………」
「…………」
「…………ぐほっっ!!!が、辛っっっ!!」
激辛料理に耐え切れずに、おもっクソ吹きだした補佐官。その様子を見てケビンは「うん、ちょっと遠慮しておこうかな……」と、そっと料理を戻した。
「や、やっぱり辛かったですよね?ごめんなさい~!」
「えぇぇ?!そんなことないよ!すっごく美味しかったから!おねぇさんの手料理、僕一生食べていたいな!」
「ミカ君っ……!」
ここへ来てマーガレットの中で、超辛党であるミカエル少年の株がぎゅんっ!と上がった瞬間である!マーガレットの強烈な激辛料理を一生食べたいなどと、辛い物が苦手な甘党のアルフレッドには到底言えないセリフだ!
「あー……、ミカエルお前ってそんな辛党だったのか……」
「やっぱり刺激がないとね?おねぇさんもそうでしょ?」
そう言って激辛料理のおかわりを平気な顔をして平らげるミカエル少年。だが愛するマーガレットを取られてはなるまいと、甘党のアルフレッドも意地で食らいつく!大量にある激辛弁当に手を伸ばすと、がつがつと食べ始めた!
「うぐっ……ぐっ……むぶっ………!」
「お、おい……アルフレッド……大丈夫か?」
「(コクコクコクコク!)……………………んぐっ!」
アルフレッドは目を真っ赤にして今にも死にそうな顔をしながらも、激辛料理を咀嚼して飲み込んでいる。凄まじい執念である。だが流石に限界がきたのか、その動きがぴたりと止まった!
「……………(しーん)」
「……おい?どうした?」
「…………ぶはっ!!(。・゜゜Σ(´Д`|||)※モザイク処理中)」
──ごぉぉぉぉぉぉっ!!──
辛さの限界突破によって、アルフレッドの口から出てはいけないもの(※モザイク処理中)が出てしまう!だがその瞬間、凄まじい炎がそれを一瞬にして炭化させた!
「ひ、火魔法?!まさかっ!?」
これに驚いたのは周囲の人間である!アルフレッドと言えば元々希少な蒼雷の魔法しか使えないとされていたが、ここ最近は光魔法の才能が発現し、更には今しがた発動した火魔法である!
「えぇぇ?確かに火が出るほど辛かったけど、マジっすか!」
「いや……アルフレッドだからあり得ないこともない……何せアルフレッドだからな……」
適当に思えるケビンの発言だが妙に説得力がある。「確かにあの騎士団長だからな……(;´_ゝ`)」「ありえないこともない……( ; ゜Д゜)」などとまるで宇宙人についてでも語っているかのように噂されるアルフレッドだ。
だが本人は火魔法を吹くほどの辛さに襲われ、しかも愛する嫁の料理を吹いてしまい若干落ち込み気味だ。気まずげに俯いていると、マーガレットが声をかけてくる。
「だ、大丈夫ですか?団長」
「あぁ……すまない、マーガレット……折角の料理を……」
「いえ、いいんですよ。私どうも料理は苦手みたいで……」
「いや……辛いのがそこまで得意ではなかっただけで、十分うまかったぞ?」
「そ、そうですか?」
「あぁ」
「団長!!」
ここで思わず感極まってしまい「団長!」と叫んだのは空気の読めない補佐官だ!だがいつになくアルフレッドが男らしく決めているので、無理もないだろう。どうやら辛さで色々と吹っ切れたようである!
「料理くらい気にするな。こんなに作れて十分じゃないか。それに王城勤めなら食堂で何でも食べられるし、街に食べに行けばいい。結婚後についても料理人を雇えばいいだけだ。君はしっかりと働いて稼いでいるんだからな」
「そ、そうですよね。そうおっしゃっていただけると嬉しいです……団長」
「マーガレット……」
何故かとってもいい雰囲気になる二人。この急展開にケビンをはじめアルフレッドの恋を応援する者達は固唾を飲んで見守った。このまま二人が良い感じに恋人同士になってくれれば、王国も安泰である!
だがやはり最後にやらかす者がいるのがお決まりであった。それはもちろん恋愛ポンコツ騎士団長の部下のポンコツ補佐官である!
「はい!そこでマーガレットさん!先ほどのセリフです!大好きな騎士団──」
「超働きたい?」
ちがーう!となる一同。折角の甘い雰囲気がぶち壊しである!だが騎士団長のアルフレッドはニコニコと何故か嬉しそうだ。
「そんなに騎士団が好きなのか。これからもずっといてくれていい。俺の下でな」
「だ、だん──「団長ーーーー!!!」」
マーガレットの言葉に被せて叫ぶ補佐官。何でお前が叫ぶんだよ……と一同の白い目も気にせずに、感極まったポンコツ補佐官の叫びは庭園の空に響くのだった。




