任務その13 緊急案件(※元カレ)発動中! ~その1~
再びの滑り込み!\(゜ロ\)(/ロ゜)/セーフ!
──サフィア王国騎士団執務室──
「あれ?マーガレットさん、今日は早いですね」
「おはようございます~」
早朝、補佐官が出勤したところ、既にマーガレットが先に来ていた。いつもよりもだいぶ早い時間である。
「今日自分だいぶ早く来たと思ったんですけど、まさかマーガレットさんに先を越されているとは思わなかったなー」
「あ~……」
何気ない補佐官の呟きに、苦笑を漏らすマーガレット。その様子に、おや?と思った補佐官は、荷物を置きながら問いかけた。
「何かあったんですか?」
「ん~ちょっと……」
いつもカラッとした性格のマーガレットにしてはキレが悪い。本人が言いたくないのであれば聞かない方がいいかもしれないが、彼女の事情は今や非常に重要な案件(※主にアルフレッド関連)に発展する可能性がある。通常と違う何かがあるのだとすれば、それとなく聞きださなければならない。
「えと、何か悩みがあれば聞きますよ?同じ執務室勤務のよしみじゃないですか」
「……でも~」
「ほらほら!遠慮なく!今ならまだアルフレッド様も来てないし!」
何ならアルフレッドが来る前に解決しておきたい。マーガレットの様子がおかしければ、アルフレッドの様子が更に大変なことになるからである。そう補佐官が急かすと、マーガレットは渋々と言った様子で口を開いた。
「その~実は……元カレが同じ王城勤務になりまして……」
「えっ!?元カレ?!」
──ピシャァァンッ!!──
「ぃってぇっ!」
その瞬間!猛烈な蒼雷がほとばしった!一撃必殺、再起不能の案件である!
だが幸いなことに補佐官の青年は、最近奮発して購入した魔法防御の魔道具を持ち歩いていた為、ちょっと強い静電気を食らった程度で済んだようだ。
「ふぅ、魔道具サマサマだな……って、ヒィッ!」
何とか蒼雷を防いだものの、振り返った先にいたのは勿論、上司である騎士団長のアルフレッドだ。死神も悲鳴を上げて逃げ出すほど恐ろしい表情のまま、執務室の出入り口で立ち尽くしている。
「……も、も、も、も、も──」
「あ、団長おはようございます~」
アルフレッドが元カレという単語に衝撃を受けている中、書記官のマーガレットは何事もなかったかのようににこやかに挨拶をした。
隣で見守る補佐官の青年は、「やべー……元カレって単語、団長に聞かれちゃったよ……どうしよう」と顔面蒼白である。しかしそこはアルフレッド専門の補佐官である。何とか話を逸らすつもりだし、何ならこのまま「え?団長の聞き間違いでは?」で通すつもりである。
「も、も、も、も、も……」
「あー、団長おはようございます。早いですね?朝ごはん食べました?」
「も、も、も、も、も……」
「え?も、勿論?そりゃーよかった!寮の食堂も早い時間から空いてますもんね!」
「も、も、も、も、も……」
「桃?やだなー、桃の時期はまだですよ」
「も、も、も、も、も……」
「あー、鶏モモ肉のモモでしたか!はっはっはっはっ!もういいですって!」
よくわからない会話で強引に話を逸らそうとする補佐官。対するアルフレッドは“元カレ”という単語が脳内辞書に載っていないのか、「も」しか発声できないようだ。相変わらず恋愛面においては非常に残念な男である。
このままマルッと何事も無かったように誤魔化せそうだと補佐官がしめしめと思ったその時──
「団長、実はちょっと相談が……その~元カレについてなんですけど……」
「!!?!!?!!?」
──ピシャァァンッ!!──
「うぎょぇっ!」
再びの元カレというワードに、凄まじい蒼雷がほとばしる!だが補佐官の青年は寸前で回避に成功した!魔道具効果による神回避発動である!
しかし残念なことに蒼雷の被害は執務室だけではなかった。威力を増した蒼雷が早朝の走り込みをしていた騎士団員達を襲う!
──ドンピシャァァンッ!!──
「ぎゃっ!」「ひぃぃっ!」という悲鳴がいつもの如く外から聞こえてくる。だが同時に「うぉっ!あっぶねぇっ!……ってあれ?俺もしかして生き残ってる……?」「神回避……?今俺、神回避した……?」という声も聞こえてきたため、何人かは生き残っているようだ。先日の長期遠征で団員達もレベルアップしたのだろう。
「ついに団長の蒼雷を超えた……?」「俺達もやればできるんだ!!うおぉぉぉぉ!」とそこかしこから浮かれた声が聞こえてくる。団員達が蒼雷を神回避したお陰で、いつもなら就寝中にも関わらず「衛生兵ー!衛生兵―!」と呼び出しを食らうはずの衛生兵(※アルフレッドのせいでブラック勤務中)も早朝から叩き起こされるのを神回避できたようだ。
そんな団員達の事情についてはさておき、マーガレットの元カレという衝撃の事実に震撼する男二人。童貞騎士アルフレッドは涙がチョチョ切れそうになっており、その傍らでは苦労人補佐官が荷物の中から常用の胃薬をあさり始めている。
「今日は一段と天気が悪いですねぇ」
アルフレッドの蒼雷を前にして、天気のせいと断言するマーガレットは、ちょっと……いやだいぶ変わった思考の持ち主だ!だがそんな所も童貞騎士アルフレッドには「キュンっ♡」となるポイントのようで、元カレの衝撃はどこへやら。頬を赤らめて「あー、確かにちょっと天気が悪いな……」などと、己の罪(※蒼雷発動)を天気のせいにして誤魔化している。
そんな風に状況はやや回復の兆しを見せていたが、よりにもよってこの男がやらかした。
「えっとー……カレ……えー、カレーのことですかね?ナン派?ご飯派?みたいなー?ははっ!」
「え?元カレのことですよ?」
「えー、もっとカレーが食べたいとかそういう……?モモカレー?餅カレー?」
何とか元カレという危険用語から話を逸らそうと、無理くりカレーの話題で誤魔化そうとする補佐官。女性からの相談事よりも自分の身の安全を図ろうとする姿はとんでもなく残念な様子だ!同僚の騎士達からも「アイツってモテなさそう」と普段から言わしめるほどの残念っぷりである!ポスト童貞騎士の称号がすぐそこまで迫っているぞ!
だがある意味補佐官よりも豪胆で男らしい性格のマーガレットには、そんな小賢しいポスト童貞騎士な誤魔化しはきかなかった。
「もうやだな~。カレーじゃなくて元カレですって。元カレ!前に付き合っていた彼氏のことですよ~」
「っっっ!!!!!」
──ピシャァァァンッ!──
「ウごっふっ!!」
『元カレ』よりも更に強力な『付き合っていた彼氏』という禁句に、先ほどよりも強烈な蒼雷が補佐官を襲う!魔法防御の魔道具のおかげで気絶しなかったものの、罰ゲームレベルのバチッとした痛みが補佐官の尻に直撃した!
「尻チョー痛ぇ……」
痛みに悶えて尻をさすりながら涙するその姿は、王城腐女子連盟の補佐官受け派が大喜びする非常に危険な案件だ!この場に補佐官受け派の腐女子はいないが、マーガレット書記官経由で王妃のお茶会にこの情報が拡散されることは間違いないだろう!
とまぁ王城腐女子連盟へ提供の話題についてはさておき、マーガレットの口から『前に付き合っていた彼氏』という死語を聞いた童貞騎士アルフレッドは、その場にがっくりと崩れ落ちた。どんな物理攻撃よりもよっぽど効果のある致死の精神攻撃である!
「(あー……団長乙っす)えっと、それでどんな相談ですか?」
人目もはばからず地面に手をついて項垂れる上官を余所に、補佐官はマーガレットに話を促した。ここまで来たならその元カレとやらの情報を聞くしかない。内容によっては、童貞騎士を戦闘不能から復活させられるかもしれないのだ。
「あ、はい。学生時代に付き合っていた人なんですが、どうも王城勤務になったみたいで。私が寮住まいなのを知って、一緒に住まないかって言って来てるんです」
「っ!?っ!?っ!?っ!」
──ドンガラガッシャーン!ピシャシャシャーン!!──
まさかの同棲案件に、ついに童貞騎士アルフレッドの蒼雷のリミッターが解除されてしまった!
ほとばしる蒼雷が部屋全体を覆い尽くし、補佐官の青年を襲う。一度や二度の衝撃ならまだしも、連続しての蒼雷の被弾に、流石の魔道具も耐え切れなかったのか、ぱりーんっ!という悲しい音と共に組み込まれていた魔石が砕け散った!
「ヒデブっ!(がーん!)」
蒼雷の肉体的な痛みよりも、高価な魔道具が壊れてしまった精神的痛みの方が大きい補佐官。ただいま脳内で魔石のお値段を含めた諸々の被害総額を計算中である!
傷心中の童貞騎士と共に懐が大いに痛くて崩れ落ちたい衝動に駆られるも、苦労人補佐官は何とか堪えて話を続けた。
「……えっとー、相手から復縁を求められているってことですか?」
「はい……そうなんです~」
「えと、ちなみにマーガレットさんはその元カレと復縁したいんですか?」
「いいえ、全く」
「(ピクッ)」
「つまりマーガレットさんには全くその気がない?」
「えぇ、全然。これっぽっちもですよ?」
「(ピクピクッ)」
念を押しして聞く補佐官の問いかけに、その気がないことをマーガレットが答えれば、いくらかアルフレッドのガラスの乙男心が復活したのか、その背がピクピクと反応し始めた。
「絶対にその相手とよりを戻す気はないってことですか?」
「はい。寧ろ付き合っていた当時もこちらはその気が無いのに、強引にそういうことにされていたというか」
「(ピクピクピクッ)」
「相手が貴族だったので断れなくて、食事に付き合わされたりした程度なんで……こちらとしては付き合っていたつもりはなかったんですけど~……」
「(ピクピクピクピクピクッ)」
ほぼ付き合っていたつもりがないというマーガレット。その実情がわかってくると同時に、まるで植物がにょきにょきと成長するかのようにアルフレッドが徐々に起き上がってくる。致死の精神攻撃から一応は復活したようだ。
「今も同じ王城勤務だと分かったら、寮の前で待ち伏せたりされて……とにかくしつこく付きまとわれているんですよ……」
「つまり相手は元カレではなくてストーカー?」
「ええと……そうなるんですかね?」
──ピカァァァァアンっ!!──
元カレ=ストーカーという構図が確定した瞬間、アルフレッドから蒼雷とは違った眩い光が放たれた!まるで神に後光が射すかのように神々しい光景だ!恐らく何かしらの光属性魔法に目覚めたようだが、詳細は調べてみないとわからない!ただ魔法師団への仕事が確実に追加されるので、師団長セラドがカチキレる未来は確定である!
一方その頃、王城近くの大神殿ではその凄まじい光属性を感知した大神官が「むむっ!?神の顕現かっ!?」とすわ一大事と机をガタガタさせて急に立ち上がろうとして、ぎっくり腰になってしまい「大神官様っ!お気を確かに!」「はっ!白目を剥いて昇天しかけているぞ!大変だ!」と、若い神官達をかなり心配させたが、後に電気マッサージ機(※アルフレッドの蒼雷を参考にした魔道具)による治療にて事なきを得ていた。
そんな魔法師団・神殿事情はさておき、マーガレットの元カレ案件、もといストーカー案件である。
「ストーカーか……許せんな……」
完全復活して立ち上がったアルフレッドは、怒りを滲ませた顔のまま拳を握りしめた!その瞬間、出勤時のため手にしていた愛用の筆記用具(※ファンシーな筆箱、密かに恋占いに使用していたシャーペン、相合傘に二人の名前を入れた消しゴム)が、バキィッ!メキョォッ!と悲惨な音を立てて粉砕される!その悲惨な姿はマルっとそのまま元カレ男の悲惨な未来だ!
このままでは王城内で凄惨な殺人事件が勃発すると感じた補佐官は、一計を案じた。
「もしかしてマーガレットさん、ストーカーを避ける為に早出しているんですか?」
「えぇ、そうなんです~……捕まっちゃうと寧ろ遅刻しそうになっちゃうんで……」
マーガレットの返答にこれはある意味チャンスでは?と補佐官は思った。ストーカーから守るとかなんとか理由をつけて、アルフレッドと一緒にいる機会を増やせばいいのだ。
だが肝心のアルフレッドは、「お」とか「う」とか声を発するものの、もじもじと頬を赤くして指先をつんつんするばかりである。おそらく俺が家まで迎えに行ってやるとでも言いたいのだろう。だが巨大な熊がもじもじしてても「あやとりでもしてんのかな?」くらいにしか見えない!
ヘタレなアルフレッドが一歩踏み出せないのはいつもの事なので、すかさず補佐官がフォローを入れる。恋愛面においても上官である童貞騎士の補佐をする敏腕補佐官(※自称☆)だ。
「団長がマーガレットさんを送り迎えしてはどうですか?」
「!!??(ガタガタガタッ!)」
補佐官の提案に激しく動揺したアルフレッドが、側にあった椅子につまずいた!王国騎士団長とは思えないほどの醜態っぷりだが、その目はキラキラと期待に満ちている!しかし──
「え、でも普通悪いですし。別にいいですよ。遠慮しときます」
「……(ずーん)」
童貞騎士の事情など知る由もないマーガレットは、普通にズバッとその提案を断った!おかげで童貞騎士は今にもキノコが生えそうなくらいジメっと落ち込んでいる!
「いやいや。ストーカー男がマーガレットさんに危害を加える方が怖いですから……ね?団長もそう思いますよね?」
「っ──!(ブンブンブンブン!)」
補佐官が強めに同意を求めると、アルフレッドが高速で頷きを返す。脳震盪を起こしそうなほどの激しいヘッドバンギングだが、その熱意は十分伝わってくる……というかあまりの迫力に断りにくい状況だ!
そんな男二人の作戦が功を奏し、マーガレットが「じゃあ、お願いしようかな」となった所で、何故かアルフレッドではなく補佐官が思いっきりガッツポーズを決めた。
「ヨッシャー!俺勝利!★やるじゃーん!って……あ」
「え」
「あ?」
ヨッシャー!という心の声が思いっきり漏れてしまった補佐官である!だがある意味彼もまた強心臓の持ち主だ。マルっと己の発言を無視することにした!
「……えー……あー……じゃあとりあえず出勤時と帰宅時には、団長が送り迎えするってことでいいですよね?団長?」
「あ、あぁ……勿論だ」
「よかったです!行きも帰りもマーガレットさんと一緒になれて!」
「!!!!」
──パアァァァァッ!──
再びアルフレッドから眩い光が放たれる!アルフレッド自身、昇天しそうな勢いだ!だがそれもあながち間違いではなかった。
この時、アルフレッドの脳内ではまるで結婚式に鳴らされるような鐘の音が「リンゴーン!」と鳴り響いていたのだ。一緒に出勤して一緒に帰宅する(※もちろん家は別々)なんて、まるで夫婦ではないか──と気持ち悪いくらいニヤニヤして幸せに浸っている。
一方の補佐官は、「あー、何とか団長の機嫌を直せてよかった!」と安堵の息を漏らしているが、これから先に起こりうるであろう更なる苦労については未だ考えが及んでいないようだ。潜入調査中の王太子直属の影が「これは大変なことになったぞ……!」と、急いで報告に戻ったので、後ほど呼び出しを食らうのは間違いない。すぐさま新たな胃薬が必要になることだろう!
当事者であるマーガレット書記官だけが、のほほんとしている。
「おかげさまで早起きしなくて大丈夫になりそうです~!団長ありがとうございます~」
「ふ……任せておけ(※頬を染めつつドヤ顔)」
ただの送り迎えではあるが大いなる前進である!暫くはこの恋愛フィーバーが続くだろう!
機嫌のいい上官から特別手当が出れば、補佐官の壊れてしまった魔道具の修理費用くらいは軽く出るかもしれない。気苦労の絶えない王太子ケビンの心もふっと軽くなるだろう。影達はアルフレッドの監視の必要がなくなり、騎士団員達の蒼雷の被害も抑えられる。神殿への負傷者の治療も減れば、大神官の抜け毛も少しは防げるかもしれない。アルフレッドの機嫌一つでいいこと尽くしだ。
だがその為にはこの元カレ案件を乗り越え、恋愛成就への道のりを確実なものにする必要がある。今ここに、サフィア王国にとって非常に重要で緊急な案件が発動したのだった──
長くなりそうだったんで話分けました。てかまだ続き書けてないけども((((;゜Д゜)))ガクブル
とぅーびーこんてぃにゅ~★




