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不器用な蒼雷の騎士団長は、平民の書記官に恋をする  作者: 雨音AKIRA


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任務その12 王国の双璧を操る黒幕を調査せよ!

危うく投稿間に合わないとこだった( ; ゜Д゜)ギリセーフ!


 サフィア王国の双璧と呼ばれるものがある。その名の通り、サフィア王国を守護する二つの存在のことだ。


 一つは王国最強と言われる騎士団長のアルフレッド。そしてもう一つは歴代最高の魔法使いと言われる魔法師団長セラドのことである。


 王国を守る騎士と魔法使いのそれぞれを統べる両団長は、これまで魔物の討伐や国の防衛に関して多くの功績を残してきた。だが互いに国を守る者として、それほど顔を突き合わせてきたわけではないし、これといって仲が良いわけでもない。あくまで国を守るという同じ目的を共にするだけの存在だった。


 そんな彼らの関係が崩れたのはつい先日のこと。アルフレッドのデートのお守りをセラドが任された一件が原因である。



「クッソが……!あの筋肉バカと筋肉カマ野郎め……!」


「し、師団長……大丈夫ですか?」



 激しい怒りを撒き散らせながら、苛立ったようにドンッ!と執務机を叩くのは、魔法師団長のセラドである。心配そうにその様子を見守るのは、セラドの補佐役の副師団長だ。



「大丈夫じゃねぇ……いい加減、騎士団の奴らの尻拭いにも嫌気がさしてきたところだ。オイ、騎士団からの要請については当分受けるな」


「は?え、でも……」


「魔法師団は騎士団の助っ人でもお守り役でもねぇ。何で俺らがいちいちあいつらの尻拭いをせにゃならんのだ?可笑しいと思わねぇか?あん?」


「た、確かにそうですが……」



 国の要請で魔法師団、騎士団合同で遠征に行ったはいい。だがその後に騎士団が長期遠征となったことで、魔法師団の負担はかなり大きくなった。何せ王都を守る騎士団がごっそり地方に行ってしまったのだ。王城の守護やその他、王都の警備についてほとんどがセラド達魔法師団の負担となり、またその後に長期遠征から戻ってきた騎士団には休暇が与えられたものの、魔法師団には特にこれといった休暇も褒賞もない。


 しかもその後に何故かアルフレッドのデートのお守りを王太子ケビン直々に任され、更には共に任務に就いた筋肉オネェのシナモンによって地獄を見せられたのだ。普段から研究塔に籠って日焼けしてないその華奢な首筋には、くっきりと赤い虫刺されのような痣ができていた。いわゆるキスマークというやつであるが、付けたのはセクシーな美女でも麗しい令嬢でもない。フリフリのドレスを着たごついマッチョなおっさんである。



「筋肉野郎を見ただけで腹が立つ。つーか尻ぬぐいって言葉だけで腹が立つんだよ!尻……尻……クソがっ!!当分は騎士団関係の仕事はボイコットだ!いいなっ?!」


「は、はぁ……(尻に何か恨みでもあるのかな?)」



 何やら不機嫌になってしまった師団長を、その原因の詳細(※主にシナモンちゃん関連)までは知らない副師団長は、さてどうしたものかなと頭を抱えていたその時──



「師団長!王妃様からの使いが……!」



 魔法師団の団員が執務室へと駆けこんできた。


****


──一方の王太子ケビンの執務室。



「えー、マジか。断られちゃったの?」


「忙しいの一点張りで……」


「はぁ……やっぱ怒ってんのって、例の件のせいだよね……?」


「……おそらく?」



 側近の報告を聞いたケビンは、魔法師団からすげなく戻された依頼書に深い溜息を吐いた。命令書とまではいかなくとも、ケビンの名を記した依頼書である。しかし魔法師団長のセラドはあっさりとその依頼を断って来たのだ。



「いや、連日の魔法師団への無茶振りに、こっちも悪いなーって思ってたんだよ?でもさぁ、あのアルフレッドをデートに焚きつけて、そのお守りに誰もつけないなんてできないじゃん?俺、どうすればよかったわけ?」



 以前は直属の影達を付けて何とか凌いだが、今回は騎士団の長期不在によって影達は使えなかった。だから代わりに魔法師団長のセラドにフォローを頼んだのだ。勿論タダではない。魔法の研究用にと騎士団が遠征で持ち帰って来た貴重な魔石と交換でだ。


 デートの場所やセリフなどについては、オネェデザイナーのシモンことシナモンが嬉々として手伝いを買って出てくれ、後はセラドの魔法によって蒼雷を抑え込むだけという算段だったのだが、何故かシナモンとセラドでの対決となり、それによってセラドは魔法師団長としての矜持を大いに傷つけられたのだとか。報告をしに来た影が、ぶるぶると震えながらその惨状を語ってくれた。



『……ヤバかったですよー。あのオネェ何なんすか?!魔法師団長殿の魔法をあっさりかわしたかと思うと、その懐に入り込んで相手を羽交い絞めにして壁に押し付け、そこからの凶行と言ったら……うぅ……思い出しただけでゾッとしますっ!』



 そう言って無意識の内に尻穴をキュッとすぼめて手で守るように隠すその影に、詳細を教えられなくともセラド(憐れな子羊)の身に何が起きたのかを理解して青ざめる。



(……つーか、シモンのやつあんな女みたいな恰好してヤル側なのかよ……)



 と、若干BでLな思考に陥るが、すぐに頭を振って余計な考えを霧散させる。()()と受け入れさせてしまったセラドには非常に申し訳ないと思っているが、一般市民に被害が出なかったことが重要だ。


 そう思って詫びの魔石の追加と、次からはセラド自身が来なくてもいいようにと、持ち運びができる結界の魔道具の作成を依頼したのだが、魔導師団長の怒りはそれでは収まらなかったようだ。



「……そもそもアルフレッド様にデートを勧めるのをやめたらどうなんでしょうか?無駄に被害を出すよりは、そのまま大人しくさせておいた方がいいのではないかと思うのですが……」


「そう思ってもさ。マーガレット嬢もお年頃だよ?見合いの話も出てるし、前回は延期になったけどまたいつどこでその話が復活するとも限らないし……そうなったら王城がどうなるか……わかるじゃんね?」


「う……た、確かに………」



 ケビンの言葉に、側近の脳裏に王城が火の海に包まれる光景がまざまざと浮かび上がる。怒りに狂ったアルフレッドが暴れまわったら、被害は王都だけでは済まないかもしれない。だがそうは言っても、あのポンコツな騎士団長に恋愛をうまいこと成就させろというのは無理な話だと誰もが理解している。絶対的に周囲のフォローが必要なのだ。



「……難儀ですねぇ……でもアルフレッド様がいなければ国にとっては痛手ですし……」


「一人で魔物の氾濫を抑えられるような奴だからな。アイツがいるお陰で周辺諸国への牽制にもなるし……」



 化け物じみた力は国を守る為に役に立つが、同時に大いなる危険も孕んでいる。そこはうまいこと転がして国に尽くさせるのが王族というものだろうが、ケビンは幼馴染としてアルフレッドには幸せになってほしかった。不器用な男で恋愛面においてはとんでもなくポンコツだが本当に良い奴なのだ。



「とりあえず暫くは魔法師団に優遇措置を。休暇やら研究材料やら、通せる要望は王太子の名で通せ。あとなるべく騎士団とは仕事が被らないように調整してやってくれ」


「承知いたしました!」


 

****



──一方の騎士団執務室──



 思いもよらず魔法師団との確執ができてしまったアルフレッド率いるサフィア王国騎士団。だが勿論そんな事情を知らないアルフレッドは、厳めしい顔を更に険しくさせながら補佐官からの報告を聞いていた。



「何?突き返されただと?」


「はい……何でも魔法師団はどなたも忙しいとかで……こちらの要望を一切聞いていただけず……上に掛け合ってもみたんですが、のらりくらりとたらい回しにされて結局ダメでして……」


「ふむ……それは困ったな。これに関しては魔法師団の協力が必要なのだが……」



 突き返された書類に目を落とし、どうしたものかとため息を吐く。再来月の建国祭に招く国賓の警護について、今から調整が必要だろうと魔法師団へ人をやろうとしたのだが、門前払いを食らったようだ。



「こうなったら直接セラドに会いに行くか……」



 魔法師団長のセラドはどちらかというと研究者タイプの引きこもり体質な為、彼に直接連絡を取るのは非常に難しい。書類を別の者に渡したとしても、セラドがそれにいつ目を通すかは誰もわからないのだ。



「え?魔塔に強行突破ですか?!」



 アルフレッドの呟きに思わず口走る補佐官。割と出入りが自由な騎士団の執務室と違い、魔塔にある魔法師団の執務室はそれこそ難攻不落の砦のようなものだ。幾重にもわたる面倒な窓口を通して、ようやっと書類やら何やらが届けられるのである。そもそも直接、魔法師団の執務室に入ることは、団員である魔法使い以外では不可能だ。



「引きこもりの魔法オタクには、ちょっとくらい大げさに突撃してやった方が目が覚めるだろう」



 そう言っておもむろに執務机の横に外してあった剣に手を伸ばすアルフレッド。一体どんな恐ろしい突撃をかますんだと補佐官は背筋をゾッとさせた。いくら相手が魔法師団とはいえ、アルフレッドが本気を出せば、寧ろ相手を永遠の眠りにつかせかねない。ヤバイ……ヤバイぞと肝を冷やしていると──



「はいはい!ストーップ!ストーップだよ!」


「ケビン?どうした?」



 ストップストップと言って執務室に入って来たのは王太子のケビンだ。アルフレッドが片手に書類、片手に剣を握りしめていることを目ざとく見つけると、「やべぇ、間一髪だった」とか呟きながらアルフレッドを部屋の中へ押し戻す。



「もしかしなくとも魔法師団の件?」


「あぁ、そうだ。先日からどうも魔法師団側が騎士団の要望を突っぱねてくるから、いい加減に直接文句の一つでも言ってやろうと思ってな」


「ほ~、文句を……それって剣が必要かな?」


「いや、完全にろうとしてる目ですよね?アレ……」



 文句という割にはガッツリ戦闘準備をしているアルフレッドに、背筋がゾゾゾと寒くなるケビンと補佐官。そんな二人をよそにアルフレッドはとりあえず剣を剣帯に括りつけ、書類を握りしめたまま腕を組む。文句を言い(殺り)に行くのを止められた形で、若干不満げだ。



「それでケビン、何か用事でもあったのか?」


「あー、うん。魔法師団関連の仕事や要望、その他の調整なんかは一旦俺を通してもらえるかな?ちょっと今の魔法師団はアレだからさ……」


「……アレ?」


「……アレ……ですか?」


「ははは、アレったらアレだよ。まぁそういうことだから」



 何かを誤魔化すようなケビンの言い方に首を傾げるアルフレッドと補佐官。だが王太子直々の指示のため、深く追求はしなかった。


 一方のケビンは話を逸らそうと執務室の中を見回す。書記官の姿が見当たらない。



「あー、そういえばマーガレット嬢は?」


「あぁ、マーガレットなら王妃殿下に呼ばれている」


「母上の……?」



 アルフレッドの返答に、ケビンは一人首を傾げる。王妃──つまりはケビンの母親であるが、その彼女がわざわざ騎士団の書記官であるマーガレットを呼び出す理由がよくわからない。



「特に騎士団からの報告があるわけでもないんですけどね。でもマーガレットさん、しょっちゅう王妃様に呼び出されてますよ」


「あぁ、そういえばよく呼び出されているな。昨日もだったか?」


「今週はほぼ毎日ですかね?」


「え?そうなの?」



 王太子である自分も知らないとは一体何があるんだ?とケビンが首を傾げていた所──



「あれ?皆さん、どうされたんですか?」



 戻ってきたマーガレットにハッとした男達は一斉に視線を向ける。特にこれと言って変わりはないように見えるが、王妃からの土産だろうか。マーガレットは手に菓子の包みを持っていた。



「マーガレット、戻ったのか」


「はい!すみません、席を外してしまって……」


「いや、王妃殿下からの用事だから特に問題はない」


「そうおっしゃっていただけると助かります。あ、今お茶いれますね。お土産をいただいたのでついでにお茶の準備もしてもらってたんですよ」



 そう言ってマーガレットは廊下のワゴンを部屋の中へと運んでくる。お茶を用意し始める彼女に一旦話を中断し、男達は席についた。



「ところで母に呼ばれてたみたいだが、一体何の用事だったんだ?」


「あ、えーと色々と世間話を……いつもお茶の時間に話し相手のような感じで呼ばれているので……」


「世間話?」


「はい!他にも王城で働いている侍女の方とかも呼ばれたりしてるので、皆で色々とおしゃべりしている感じですね」



 にこやかな笑顔でお茶を淹れるマーガレットに、ケビンはますます首を傾げた。貴族女性を招いたお茶会などはわかるが、城で働く女性を頻繁に招いて世間話をしているというのは初耳だ。影からも特にそういった報告がないので、あれ……?と思う。



「ハイ、どうぞ。お菓子も王妃様からいただいたものです」


「あぁ、ありがとう」



 用意された茶菓子は王宮の料理人が作った特別なものだ。普通なら城勤めの者が滅多に口にすることなどないはずだが、マーガレットには土産としてたくさん持たせているようである。



「えと、いつもこんな感じなの?」


「いつもとは?」



 ケビンの疑問に、早速茶菓子に手を付けていたアルフレッドが大口を開けながら首を傾げる。菓子の種類など詳しくないだろう騎士団長は、特に疑問に思っていないようだ。



「いや、普通の茶会でもこんな豪華なお土産とかしないのに、城勤めの女性達にはこんなことしてるのかって、なんか変だなと思って……」



 ケビンの母である王妃はどちらかというと厳格な印象の女性だ。必要がない場面では滅多に笑わないし、常に厳しい表情をしているから、鉄の王妃という二つ名を持つような女性である。それが城で働く女性達にはこんな気遣いをしているというのがどうにも普段の印象と重ならない。別人の話をしているんじゃないかと思っていたのだが──



「そうそう、先日の魔法師団への魔道具貸し出し依頼の件、要望通りましたよ」


「!?!?」


「えっ!?」



 お茶を淹れ終わりひと段落ついたマーガレットが、何でもないことのように告げる。ここ最近の魔法師団への要望は一つも通っていなかったから、冗談かと思いきや懐から師団長の押印がされた書類が出てくる。男達は驚きに目を見開いた。



「うっそ……!マジでか……というかこれって今日通ったってこと?」


「はい!王妃様の所でお話させていただいている間に、王妃様付きの侍女の方にお渡ししてそれで戻ってきた時には押印された状態で……」


「マジか……てか何その裏ルート?王太子の俺でも知らないんだけど?」



 ケビンが唸る様にして本音を漏らした。半分は自分のせいであるものの思いもよらぬ形で騎士団と魔法師団の間に確執を作ってしまい、どう両団の仕事を調整していくか悩んでいたのだが、マーガレットは王妃という切り札を使ってあっさり解決したようだ。



「裏ルート?……えと、いつもだいたい書類を各所に持っていく時に呼び出されてしまうので、王妃様付きの侍女の方が代わりに持って行ってくださるだけですよ?普通に各部署に届けていただくだけですから」


「えぇ~……でも俺の時は話すら碌に聞いてもらえずに門前払いだったのにぃ」



 マーガレットと自分とで魔法師団側の対応の差に、ブチブチと愚痴を零しながら菓子をむしゃむしゃと食べまくる補佐官。ここ数日は100%の確率で魔法師団から仕事を断られている残念な状況の為、半分はヤケ食いだ。

 


「なんかある……絶対なんかありそうなんだけど……母上の所ってうちの影達でも情報手に入らないんだよなぁ……」



 マーガレットの話に、ケビンはぶつぶつと呟きながら眉を顰めた。


 王太子直属の影の精鋭達ですら、専属の影を持つ王妃にはそう簡単に近づくことができない。王妃の周囲は侍女や使用人達を含めて完全に情報が統制されており、他に一切情報が漏れることはないのだ。王太子以上の危機管理能力の高さに、ケビンも自分の母ながら舌を巻くほどの徹底ぶりである。



「何かありそうですか?……んー……でも魔法師団への繋ぎはここ最近楽になったみたいなことをおっしゃってましたね。魔塔は色々手続きが難しいですから」


「え?楽になったって嘘でしょ?寧ろ今は完全に遮断されているような状況ですけど?!」



 マーガレットの言葉に目をむいて驚く補佐官。つい先ほどもたらいまわしにされた上、すごすごと戻ってきたばかりである。



「うわー!気になる!絶対なんかあるなこれ!」


「何かとおっしゃられても……でも中々通らないと言われていた案件も通していただけるので、助かっているのは確かですね」


「あの……もしかして今日却下された案件についても、王妃様を通してお願いしたらいけるんじゃ……?」



 マーガレットの話を聞いて、補佐官がちらりと上官アルフレッドへ視線を向ける。するとアルフレッドもその意図が分かったのだろう。コクリと神妙に頷いた。


 そして体をマーガレットに向けると、早速魔法師団への要望について話し始めた。



「マーガレット、実はな……」



****



──翌日──



「ごきげんよう、騎士団長殿、補佐官殿」


「お招きに預かり光栄です。王妃殿下」



 サフィア王国の王妃を前に、アルフレッドと補佐官が跪く。今彼等がいるのは王妃専用のサロン。豪華な内装に色とりどりの花が飾られ、テーブルには茶器や茶菓子が用意されている。そして──



「皆も貴方がたが来るのを楽しみにしていたのよ?今日はゆっくりと楽しみましょうね」


 王妃のどこかはずんだような声に、周囲にいる女性達は満面の笑みで頷いた。


 方やアルフレッドと補佐官の男二人は、目の前の光景に目を白黒させている。王妃主催の城内だけのこじんまりとした茶会を想像していたのだが、何故かそこには城に勤めるほとんどの女性達がいるのではないかというくらいの人数がいる。貴族出身の侍女はもとより下働きのメイドや官僚の女官などなど。元々広いサロンではあるがそこが狭く感じるほどの人の多さだ。


 勿論、茶会なので給仕の人間もいるが、それもかなりの人数が控えており、室内はそんな女性達によって異様な熱気に包まれていた。



「王妃殿下、早速で申し訳ないのですが書状でもお伝えしたように魔法師団への依頼について──」


「まぁ、騎士団長殿は仕事熱心なのね。今はそんな無粋なお話は忘れてしまいなさい」



 王妃はアルフレッドの言葉を遮るようにバッサリと切り捨てると、片手をあげて側に控えていた侍女に指示をした。すぐさまその侍女がアルフレッドが持っている書状を受け取ると、そそくさと部屋を出ていく。


 アルフレッドと補佐官が呆気に取られていると、王妃がにこりと笑みを深めて話を再開した。



「折角なのでお二人とも楽しんでいって?貴方達の話を直接聞いてみたかったのよ」


「はぁ、特に面白い話をできるわけではないですが……」


「ふふ、大丈夫よ。聞きたい話についてはこちらから質問するから。さぁ、楽しいお茶会の始まりよ!」



 そう言って王妃は手をパンパンと叩いて、お茶会の始まりを宣言した。給仕の手から薫り高いお茶が入れられると、それに手を付けるよりも早く、王妃の近くに座っている女性が口を開いた。



「あの!……今の補佐官様は騎士団長様が直々に指名したとのことですが、それって本当なのですか?」


「ん?……あぁ、そうだな。補佐官は直接俺が指名した」



 質問にアルフレッドが答えると、女性は更に身を乗り出して問いかけてきた。



「ちなみにどうしてお選びになったのか伺っても?」


「あぁ、直感だな。俺にはコイツしかいないと思って」



 その瞬間、部屋のそこかしこから「キャー!」という黄色い声が上がった。一体なんだ?と思ってアルフレッドと補佐官の二人が視線をキョロキョロさせるものの、女性達は互いに目を合わせてはヒソヒソと何かを話すばかりで要領を得ない。


 すると質問をしてきたのとは別の女性が話しかけてきた。



「えと、指名される時にはもしかして『俺のところに来てくれないか?』みたいな感じで言ったんですか?それとも有無を言わさず強引に『俺のところに来い!』みたいな……?」



 何故か顔を赤くしながら問いかける女性に、アルフレッドはどうだったかなと首を傾げて横の補佐官を見た。補佐官の方もどうだったっけ?と記憶を掘り起こしつつ答えた。



「えー、確か騎士団に入団したばかりの新人の時でしたかね?訓練中に急に団長に肩を掴まれたかと思ったらそのまま執務室に連行されまして……」



 その瞬間、再び「きゃー!」という凄まじい奇声が上がる。中には胸を押さえながら苦し気に俯く女性までいた。



「そ、それでどうなりましたの?」


「雷属性への耐性があるのかと聞かれまして……わからないと答えたところ……」


「ふんふん……」


「何故か訓練着をひん剥かれて裸にされまして……」


「「「ぎゃーっ!!」」」


「え?ど、どうしたんですか?何かスゴイ叫び声が……」



 補佐官の返答に、まるで化け物にでも遭遇したような凄まじい奇声が上がった。見回せば壁際で控えている給仕の使用人が何人かうずくまって震えている。茶会に参加している中には、苦し気にテーブルに突っ伏している女性もいるようで、何人かは気絶しているように見える。


 大丈夫かとアルフレッドが腰を上げようとしたところ、王妃がすぐさまそれを制し、扇で控えている使用人に合図をして気絶した者を連れ出した。



「問題ない。話を続けなさい」


「は、はぁ……」



 王妃の言葉に釈然としないものの、補佐官は話を続けた。



「装備品を外した状態での耐性を見たいからということで、色々と試されました」


「色々……エロエロ……」


「え?」


「ほほほ、何でもありませんわ」


「ところでその試されたというのは、どんな感じでしたの?」


「どんなというか……」



 答えるのが難しい質問に、補佐官はチラリと助けを求めるようにアルフレッドに視線をやった。アルフレッドも補佐官へ視線を向ける。


 背の高いアルフレッドが補佐官の青年を見下ろす形で視線が交わると、何故か周囲から聞こえてくる鼻息の音量が上がった。不思議に思って視線を他へ移そうと顔を上げれば、王妃からの思いもよらぬ提案がもたらされる。



「ここで実演してみせるのがいいのではないかしら?」


「実演ですか?」


「えぇ、皆貴方達に興味津々なのよ。騎士団長と補佐官の始まりの物語を知りたくてね?」


「始まりの物語……?」



 それって一体何なんだ?──と思いつつも、王妃直々に言われれば断るわけにもいかない。アルフレッドと補佐官は席を立ち、向かい合わせになった。



「まずはこうして手を繋いで団長に小さく蒼雷を発動してもらって……それからもっと触れる面積を大きくしていって……」



 そう言って補佐官はアルフレッドと手を繋ぎ、それを徐々に腕に絡めていって、最後には抱き合うような形で説明していく。その間にも「ひやぁぁぁぁ!」「ぐふっ……萌え死ぬ!」などとよくわからない悲鳴が上がっている。


 異様な空気に包まれる中、一人の女性が声を上げた。



「ちなみにそれってどちらが攻めですの?!」


「え?」


「どちらが攻めでどちらが受けでしたの?!」


「ちょっ!貴方、それは禁断の問いかけよ!」



 血走った目をしながら身を乗り出し問いかけるその女性を、別の女性が止めに入った。攻めとは?──と、聞かれたアルフレッド達にはいまいちピンと来ていないようだが、彼女達にとっては非常に重要な問題のようで、皆固唾を飲んで答えを待っている。



「攻めって……えぇと、蒼雷を発動してもらってたから、団長が攻めってことですかね?」


「「「ギャーーー!!!」」」



 補佐官が答えた瞬間、サロンが震えるほどの絶叫がこだました。ある女性は立ち上がって小躍りし始め、またある女性は絶望したかのように地面に崩れ落ちている。



「そ、そんな……私達、補佐官×騎士団長陣営はどうなるの……?」


「騎士団長攻め様の勝利よ!!」


「いいえ……!まだ王国最強の受け様が負けたわけじゃないわ!」



 女性達の反応に、アルフレッド達は未だ抱き合ったまま首を傾げた。そもそもここへやって来たのは、王妃の力をもって魔法師団への繋ぎを付けてもらうためだ。書状はすでに王妃付きの侍女が持っていったが、返答を待つ間は女性達の相手をしなければならない。しかし彼女達の異様な空気と会話に若干腰が引けしまっている現状だ。


 そんな男二人の困惑を余所に、一人の女性が悲痛な面持ちで叫んだ。



「補佐官様は攻められませんの?!受けてばかりではいないのでしょう?!」


「え?!……えっとー……」



 あまりにも必死な様子に、どう答えたものか困った補佐官は、抱き合った状態のままアルフレッドを見上げた。そしてヒソヒソと声を抑えて問いかける。



(ど、どうしましょう?なんかおかしなことになっているみたいですが……)


(どうもこうも王妃殿下の前だ。下手なことを言ってご機嫌を損ねると、後が怖いぞ)


(や……でももうすでにあの女性なんて泣きそうじゃないですか?俺、何かしましたかね?なんでこんなことになってるのかわかんないんですけど……)


(弱気になるな。魔法師団のこともあるんだ。うまいこと言って切り抜けるしかない)


(わ、わかりました!)



 そう言って内緒話を終えた男二人は、再び女性達へと視線を向けた──が、女性達は猛獣のような鋭い視線を二人に向けつつ夢中になって何かを喋っている。



「今の見ました?顔をあんなに近づけてましたわよ」


「えぇ、あと少しで唇同士がくっつく所でしたのに……!」


「あの体格差からのキッス……やはり団長攻めですわよね!」


「いえ、でも先に顔を近づけていったのは補佐官の方からに見えましたわ!やはり補佐官攻めなのでは?!」



 早口でまくし立てる彼女達の会話は、所々「攻め」だの「受け」だの聞こえるものの、内容はさっぱり理解できない。



「あのー、もしもし?皆さん?」



 いつまでこうしていればいいのかな?──と思いつつ声をかけるも、キャーキャー騒ぐばかりで会話になりそうもない。こりゃダメだと補佐官が諦めかけていたその時──



「いつも俺の(※蒼雷)を受けてばかりのコイツだが、攻める時は攻めるヤツだ。そこは頼りにしている」


「っ!?!?!?!」



 アルフレッドの渋い声がサロンの中に響いた。そのあまりにも堂々として力強い物言いに、先ほどまで騒いでいた女性達が静まり返る。そして一拍置いた後に──



「「「ギャーーー!イヤァァァ!!!」」」



 特大の蒼雷が落ちたのではないかというくらい、とてつもない音量の奇声が響き渡った。ビリビリと空気を震わせるほどの凄まじい声。アルフレッドと補佐官は思わず耳を塞ぐ。



「いやー!!まさかのリバ!!」


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


「リバなんて……嘘、嘘よっ!そんなの絶対認められないわー!」



 アルフレッドの言葉に、女性達は一気に興奮の渦に飲み込まれた。何人かは失神し、何人かは狂ったようにアルフレッド達を見ては拝んでいる。



「……これは一体どうしたことだ……」



 数々の戦という修羅場を潜り抜けてきたアルフレッドとはいえ、このような混沌とした状況は初めてであった。正直、どう対処すればいいかわからないが、かといって王妃殿下の手前、逃げ出すこともできない。


 部下思いのアルフレッドとしては、単に攻めだの受けだのという言葉が聞こえてきたので、補佐官をやる時はやる男だと言いたかったに過ぎない。実際、補佐官は騎士団にとってなくてはならない存在だし、実力だってあるのだ。だからこそ騎士としていつも受け身ではないと言いたかったのだが、この場にいる女性達にとってそれが正しい意味で伝わらないのは致し方ないことである。


 何故なら彼女達は──



「ふふ、素晴らしい……素晴らしいわ!!」


「お、王妃殿下?」



 王妃が突然立ち上がったかと思うと、アルフレッドと補佐官の側に寄ってきて、二人の手に自分の手を重ねる。そして頬を紅潮させながら嬉しそうに口を開いた。



「二人の素晴らしい主従愛……この目でしかと見届けた。時に攻め、時に受け……互いを想い合う二人の絆は、何人たりとも邪魔できるものではない。私は王城()女子連盟の会長として、この主従愛を世に広めることを誓う!」


「王妃様!!」


「流石!素晴らしいお考えですわ!」



 突然の王妃の宣言に、周囲の女性達はスタンディングオベーションをした。だが意味の分かっていない男二人は「婦女子連盟って一体?」とポカンとそれを見守るばかりである。


 そう、サフィア王国の最高位の女性である王妃は、BでLな物語が大好物な王城()女子連盟の会長だったのだ!王城に勤める男性陣をおかずに、日々薔薇色の妄想を腐女子の間で繰り広げる、その筆頭こそが王妃その人だったのである。



「王妃様、こちら魔法師団から戻ってまいりました」


「あら、早かったわね。残念、もっとこの二人の話を聞きたかったのに」



 いつの間にかサロンに戻ってきた侍女が、書状を王妃へと渡す。どうやらアルフレッド達が依頼していた魔法師団への書状のようだ。



「約束通り、魔法師団への繋ぎはついたわ。ほら、こちらをお持ちなさい」


「は!──恐れ入ります」



 王妃から書状を手渡され、神妙にそれを受け取るアルフレッド。奇妙なお茶会へ参加する羽目になったが、目的は達せられたようだ。そうなればいつまでもここで油を売っているわけにはいかない。



「……王妃殿下。こうして書状も無事に戻ってまいりましたので、我々はそろそろお暇をさせていただきたく……」



 そう言ってアルフレッドが頭を下げると、王妃は扇で口元を隠しながら声をかけてきた。



「またいつでもお茶会に参加して頂戴。勿論、タダでとは言わないわ。今回みたいなお願いごとがあれば特に」


「それは……しかし……」



 まるで悪だくみのように言われて思わず口ごもるも、王妃はそれをわかっているのか、笑みを深めてその名を口にした。



「魔法師団絡みで揉めているんですって?それなら私を通せばいいのよ。次は魔法師団長のセラドでもお茶会に呼ぼうかしらね?その時は一緒にどうかしら?ふふふ……」



 意味深な笑みを浮かべる王妃に、アルフレッドは困惑の表情を返すしかなかった。


 結局よくわからないままにお茶会を終えたアルフレッドと補佐官の二人は、無事に魔法師団へと書状を届けることに成功した。


 だが彼等が知らない内に失っていたものは非常に大きい。



「今日のお茶会はすごかったわ!間近であんなスゴイ萌えが見られるなんて!」


「騎士団長と補佐官の口づけのシーン、これまでは妄想だったけど、次からは目に焼き付けた光景を思い出しながら妄想するわ!!」


「今日のネタが元の新刊もきっと素晴らしいものになるわね!リバネタは熱いわ!」



 熱く語る王城腐女子連盟の女性達。彼女達にとって騎士団長と補佐官の二人は、恰好の主従ネタである。いかに二人が絡み合うかが重要なのであって、騎士としての仕事についてはさほど興味はない。だからと言って王妃を筆頭とした彼女達の情報網は侮ることはできなかった。



「そういえばこないだ、洗濯婦の子が話してたんだけど、新人騎士の子がシーツを汚したとか言って洗濯場に持ってきたのに、何故か騎士団長様がついてきたって!」


「えぇー!!何それ?!新たなライバル登場?!てかシーツって……既にNTR?」


「その新人騎士って誰?誰なの?」


「宰相の親戚筋って噂じゃない?王都に一緒に住んでいるとかなんとか」


「となると宰相×新人騎士の○○○○(近親相姦)もの?」


「やだー!新人騎士を取り合う団長と宰相の三角関係!新たな展開過ぎる!!」



 常に萌えに敏感な彼女達は、王城内の出来事をつぶさに観察し報告し合っている為、こうしてお茶会の場にもたらされる情報は多岐にわたり、そして他者の弱みを握るタイプのものが多い。


 だからこそその情報をネタに王妃がちょっと()()()すれば、顔色を悪くした相手がすぐさまそのお願いを聞いてくれるのである。これこそ王太子ケビンですら知らない、王妃独自の裏ルートであった。



「シナモンちゃんのおかげで魔法師団への通りがよくなったわ」


「ふふ、そうですわね、王妃様。シナモンちゃん様様ですわ」



 そう言ってホホホと笑う王妃と女性達に、魔塔に籠っている師団長のセラドはブルリと身震いをして尻穴をキュッとすぼめたとかすぼめていないとか。彼が何のネタで王妃に脅され──ゴホン!お願いをされたのかは、この場では詳細は省くことにしよう。


 ただその後、密かに発行された薔薇(BL)本には、マッチョな女装男子とツンギレ魔法使いの赤裸々な真実がリアルに描かれていたことだけは確かである。



「さぁ、今日もネタを拾う為に、お仕事がんばるわよー!」


「「「おー!!」」」



 王城の女性達は今日も萌えを摂取する為に、仕事に励むのであった。

 


セラド「尻が痛ぇ」

副師団「痔ですか?引きこもりすぎなんですよ」

セラド「いや……俺は当分引きこもる。筋肉野郎共に遭遇したくない」

副師団「痔なら座りっぱなしじゃなくて運動しなきゃダメですよ」

セラド「……痔じゃねーし」

副師団「えー?でもお尻が痛いって……」

セラド「う、うるさい!」


腐侍女A「どうやら師団長様、痔に悩まされているそうよ?」

腐侍女B「受けすぎたのかしら?」

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