任務その11 作戦成功の鍵は参謀(※アドバイザー)の手にかかっていると心得よ!
人通りで賑わうサフィア王国の城下町、その広場の一角にある噴水の前で、緊張で顔を強張らせた一人の男が立っていた。
その厳めしい風貌と周囲を威圧するほどの身体の大きさに、通りかかる人々は驚き近づくのを躊躇っていた。普段なら噴水前は待ち合わせスポットとして多くの人で賑わうのだが、今は不自然に誰もいない。皆恐れをなして、遠くから男のただならぬ様子を窺っていた。
そんなどこか異様な空気の中、とてとてと小走りに近寄ってくる眼鏡をかけた小柄な女性。サフィア王国騎士団の団長執務室勤務のマーガレット書記官である。
「団長~!お待たせしました!すみません、遅くなっちゃって……」
「あぁ、マーガレット。全然待っていないから問題ない」
そう答えたのは勿論、騎士団長のアルフレッドである。実際は一時間以上前から待っているのだが愛しのマーガレットの為なら、一週間だろうが一か月だろうが、何なら死ぬまで待ち続ける自信のあるアルフレッドは、本心から定番のセリフを答えていた。
「マーガレット、これを」
「団長……?これは……」
「その、君に贈ろうと思って……受け取ってくれ」
アルフレッドが取り出したのは、淡い色調の花で作られた大きな花束。王太子であるケビンの許可をもらい王城の庭園に咲く花を使って作られたそれを、大きな体を跪かせて渡す。
「まぁ、ありがとうございます!」
「あぁ、喜んでもらえてよかった」
「綺麗……」
花束を受け取りながら嬉しそうに目を細めるマーガレット。それを見つめるアルフレッドも、険しい表情ながらもその目は優し気に細められていた。
一見すると普通の恋人同士のやり取りであるが、当の本人は全くもってそれどころではなかった。
(わ、渡すところまではうまくいったぞ……!だ、だがこの後はど、ど、ど、ど、どうするんだっただろうか?!)
渡すまでの流れはそれこそ何百回と練習をしてきたし、セリフについてもシナモンのアドバイス通り丸暗記して覚えてきたのだ。騎士であり貴族でもあるアルフレッドにとって、決められた型の動きを真似たり、長文のセリフを覚えるのはごく簡単である。だがそこに愛しのマーガレットという要素が加わると、とたんにポンコツになってしまう。
内心パニックになりかけていたその時──
『んもう!しっかりしなさぁい?次は花束の中から一つだけ抜き取ってさりげなく髪に飾るのよ!』
「はっ!そ、そうだった!」
耳に着けた通信の魔道具であるイヤーカフから、恋愛師匠であるシナモンちゃんの声が聞こえてくる。その声にやるべきことを思い出したアルフレッドは、慌ててそのアドバイスを実行に移した。
「ま、マーガレット、ちょっといいか……」
アルフレッドは一言そう断ると、花束の中から白い房咲きの薔薇を抜き取ると、それをマーガレットの髪に差した。そして満足げに頷く。
『そうそうそう!いいわよぉ!そこでセリフ!はいっ!!』
「うん、綺麗だ。似合っている」
『いやぁはぁ~ん♡いいわよぉ~ん♡』
「あ、ありがとうございます」
イヤーカフから絶えず聞こえてくる荒い鼻息とともに寄越されるアドバイス通りに行動すれば、普段のポンコツぶりが嘘のようにスマートだ。オネェの厳しい指導の賜物である。
「じゃ、じゃあ行こうか。花束は荷物になるだろうからこの収納袋へ入れておくぞ」
「あ、はい。すみません、お気遣いいただいて……」
『グッジョブよん♡素晴らしい出来だわん!』
アルフレッドは花束を小さな魔石の飾りで縁取られた小物入れ(※空間収納付き)に戻し、マーガレットへと手渡す。小物入れを作った張本人であるシナモンは、近くの物陰からそのやり取りを見守りつつ興奮気味に褒めたたえた。ここまでの行動は全てシナモンの入れ知恵である。
一見普通の恋人同士のやり取り──だが周囲の者達の目にはそうは映っていない。
「お、おい。あれ一体なんだ?魔物か?魔物が出たのか?」
「か、雷?でもなんでこんな場所で……?」
噴水の周囲が突然暗雲のようなもので覆われたかと思うと、そこに激しい蒼い稲妻がほとばしっていた。だが激しい閃光を放つ蒼雷はひし形の結晶のような結界の中に閉じ込められ、周辺への被害は皆無だ。
平然とこれまでのやり取りをしているように見えるアルフレッドだが、内心は心臓が口から飛び出てしまいそうになるほどに緊張している。勿論そうなるとアルフレッドの放つ蒼雷も絶好調になる為、凄まじい稲妻が結界の中を暴れまわっていた。
「ありがとうございます、団長」
「いや……いいんだ」
(か、か、か、か、か、可愛い!!俺の嫁が可愛すぎる!!)
──ピシャァァァンッ!!──
マーガレットの笑顔にやられたアルフレッドから特大の蒼雷がほとばしる!だがひし形結晶の結界に阻まれて一瞬凄まじい閃光を放っただけで留まった。
「うぉ!なんだあれ?!やばくないか?!なんか変な魔物が召喚されるんじゃないか?!」
「き、騎士団に通報しろ!ヤバイことなってるって!」
周囲で見守っていた者達の間からどよめきと不安の声が沸き起こる。結界がなければ数百メートル先までその被害が及んだであろう。だが結界に阻まれていたとしても、異様な光景には変わりない。
そんな中、恋愛ポンコツ騎士団長のアルフレッドを見守っているシナモンは、結界の見事な働きぶりに歓声を上げていた。
『いやん、スゴぉイ♡蒼雷の対処もばっちりねぇん♡』
『当たり前だ。俺を誰だと思っている』
『魔法師団長のセラド様よ~ん♡』
『キショイ声で呼ぶな』
イヤーカフから聞こえてくるシナモンの声に応えたのは、アルフレッド達の周囲に結界を張り巡らせている張本人の魔法師団長セラドである。先日の遠征では魔法師団を率いて騎士団長のアルフレッドと共に魔物を殲滅した凄腕の魔法使いだ。
『あはん♡冷たい声もス・テ・キ♡魔導師長様、私とデートしてぇん♡あ♡寧ろ今デート中?てことは私達ってばもう付き合ってる?うふ♡』
『うるさい、化け物。黙ってろ』
筋肉モリモリオネェの言葉を一刀両断にしつつ、セラドは道の反対側でアルフレッドの様子を窺い結界の調整をしている。魔法師団の師団長である彼がこんなことをしているのは、王太子ケビンの要請に従ってのことだ。でなければ普段は研究の為に籠っている彼が街中に出てくることはない。
『チッ!ほら移動すんぞ。こっちに話しかけるよりも、あの筋肉バカのアドバイスに集中しろ』
『あはん♡命令口調素敵ぃん♡』
無事にデートの待ち合わせからの花束の受け渡しを成功させ、次の場所へ移動するアルフレッド達。その一挙手一投足をイヤーカフを通じてシナモンの声で操り、蒼雷はセラドの結界で防ぐというのが今回の作戦だ。
そんな彼らの苦労を露知らず、アルフレッドは次の場所へとマーガレットをいざなう。
「まずは食事にしよう。こ、この辺にいい店があるんだ」
「まぁ、そうなんですね。楽しみです。何料理のお店ですか?」
「…………」
「団長?」
店の場所を教えてもらい予約をしたのはいいものの、何の料理が有名であるのかは聞いてなかったアルフレッドである。途端にだんまりを決め込んでしまうが、すかさずシナモンちゃんのアシストが入る。
『魚よ!魚料理が有名なお店よん♡』
「さ、魚料理が有名な店だ」
「魚!いいですね!大好きです!」
「!?!?!?!!」
──ピシャァァアンッ!!──
『おい!筋肉バカ!少しは雷を抑えろ!いちいち動揺してんじゃねぇよ!』
動揺したアルフレッドの蒼雷にすかさず突っ込みを入れるセラド。
『あはん♡大好きって言われて動揺しちゃう団長様可愛い~♡』
通信で互いに繋がっているシナモンは、アルフレッドの動揺に喜びまくりである。そんな騒がしい外野をよそに、アルフレッドとマーガレットの会話は続く。
「今の季節だとどんな魚が美味しいですかねぇ?」
「あぁ……えーと……」
『シュアンプとかピラーリとかしらね。サモンも美味しいわよん♡』
「シュア……なんとかやらピラ?なんとか……?」
すかさずフォローを入れるシナモンだが、魚の種類に詳しくないアルフレッドは全く言えてない。しかも被せるようにして別の者がアドバイスをしてきた。
『いやそこはフロゾンタークス一択だろう。香草焼きが最高だしな。煮付けもうまい』
「フロなんたらターなんたら……」
『あら!それを言ったらヒラタマエレンバルガとかマイストテリアイーンも忘れちゃいけないわ!あれなら生でイケるし!』
『いやそれを言うならスターインクラボウメンだろう?あれのカルパッチョを上回る生魚などいない』
「ヒラ…マイ……カルパチョ……ボウメン?」
「だ、団長?大丈夫ですか?なんかぶつぶつおっしゃってますが……」
「いや……」
イヤーカフの向こう側で魚の種類で喧嘩を始めてしまったアドバイザー達(※シナモン&セラド)会話の端々をただ復唱するしかないアルフレッドだが、意味の無い言葉の羅列になってしまった。
だがそんなアルフレッドを余所に、アドバイザーの二人はどんどんヒートアップしていく。
『んんまぁぁあ!魔法師団長様ってばわかってらっしゃらないのねぇ!生魚って言ったら東方の珍味、お寿司でしょう?カルパッチョではダメよぉぉ!』
『はぁぁ?寿司なんてあんなもん東方かぶれのインテリ崩れが頼むキワモノだろうが!だいたいどこでそんな料理出してるってんだよ!』
『きぃぃぃぃっ!お寿司がキワモノですってぇぇぇ?!ちょっと!そこにお直りなさいな!たっぷりお説教してあげるわ!!』
『おーおー!やってやるよ!つーかお前のがよっぽどキワモノじゃねぇか!この筋肉バケモンが!!』
『ぬわぁんですってぇぇ?!そっちこそヒョロッヒョロのガイコツじゃないのよ!!』
『かぁぁぁっ!呪ったろか、このバケモン!ドブス!討伐してやらぁ!!』
『あぁん?!上等だゴラ!こちとら見た目は可愛い美少女でも魔法使い如きに後れを取るシナモンちゃんじゃねぇぞ?!』
『汚ぇ見た目通りの汚物みてぇな声出してんじゃねぇか!自分で美少女とか言うなバーカ!』
「キワモノ……」
「え?!キワモノですか?そんなヤバイ料理が出る店なんです?」
騒がしいアドバイザーの言葉を拾ってしまい呟いたアルフレッドに、マーガレットがギョッとして後ずさる。いつも苦労を掛けているからという労いの籠った手紙で食事に誘われて、二つ返事で了承したマーガレットだが、流石にキワモノ料理はちょっと……と無駄に誤解を招いている。
『こうなったら決闘よ!勝ったらさっきの言葉を撤回なさい!』
「決闘……撤回」
「血統?血糖?……鉄塊って……えぇと、何のお話でしたっけ?」
『おー!いいぜ!受けて立つぜ!このドブス!!』
『むきぃぃぃぃ!!!』
「…………いや、何でもない。ちょっと耳鳴りが…………」
「まぁ、大丈夫ですか?」
「あぁ……すまないな」
聞こえてくるあまりの罵詈雑言に、アルフレッドはそっとイヤーカフを外した。流石の恋愛ポンコツ騎士団長でも、シナモン達の会話が最早意味をなさないことを理解したのだ。ここからは己だけで切り抜けていくしかない。
「じゃあ行こうか」
「は、はい!」
そう言ってぎこちないながらもエスコートの腕を差し出したアルフレッドは、恋愛成就への道のりを一歩踏み出したのだった──
****
翌日──
「それで結局どうなったんだ?」
「…………」
「アルフレッド?」
今日も今日とて騎士団長の執務室に休憩と称してデートの報告を聞きに来た王太子のケビンだが、アルフレッドの表情は優れない。覗き込むようにして再度呼びかければ、ようやっと重々しいその口が開いた。
「……店に行ったんだが……」
「うん、それで?」
「入れなかった……」
「は?え?どゆこと?」
「店に着いた所で冒険者ギルドの連中に囲まれてだな……」
「え″?!」
「結晶型の魔物と間違えられて闘いを挑まれ……」
「あ″?!」
「結局転移して王城に戻った……」
「うぉい!!なんでそんなことになってんだよ!」
「そのままお開きだ」
ずーん……と効果音が聞こえてきそうなほどに項垂れるアルフレッド。ジメジメとした重い空気が執務室を覆う。
「そ、そういえば昨日、街中に魔物が出たって報告が上がってたような……ってアレお前だったんかーい!」
すかさず突っ込みを入れるケビン。実際の所はアルフレッドを包む不気味な結界を魔物と勘違いした一般市民が、冒険者ギルドへ助けを求めたことによる誤解だったのだが、通報されなかったとしてもあの姿のままでは店に入れなかっただろう。魔導師団長のセラドは、オネェデザイナーのシナモンとの決闘に突入していたため、結界の周囲に幻術をかけることができず、禍々しい見た目のままデートの続きを余儀なくされたのだ。
「あぁ~…………折角の作戦が……」
「すまない、ケビン……」
折角巨大魔石をエサに魔法師団長の協力を取り付けたのに、これでは全くの大損である。
「だが花束は渡せたぞ」
「あぁ~……うん、まぁあれだけ練習したからな」
花束千本ノック……いや万本ノックを手伝わされたケビンは遠い目をする。花束を渡すだけでも成功してよかったなと疲れた笑いを零しながら、お茶を啜りつつ、次なる作戦を考えるのであった。
補佐官「えっと、結局お二人の決闘はどうなったんですか?」
アルフ「シナモン嬢の圧勝だったらしいぞ」
補佐官「え?すごいですね!魔法師団長殿が相手ですよね?」
アルフ「あぁ、アイツに弱点など無さそうだが……今度詳しく聞いてみるか」
シモン「あはん♡そんなの全年齢では話せないわぁん♡」
アルフ&補佐官「「全年齢??」」
シモン「やぁねぇ!冗談よぉ!ちょっと調教してみただけだからん♡おほほほほほ!」
腐侍女A「え?!もしかしてオネェに調教される魔法師団長っていう新たなネタ降臨?!」
腐侍女B「そこにライバルの騎士団長が加わってくんずほぐれつの展開もありね!」
セラド「うっ……なんかすげー寒気が………」




