6・火炎の魔女に対するは……
「なんだろ、あれとあれ」
あまりに遠すぎて、よく見えない。
が、どうもあの様子だと、何かと何かが戦っているようだ。この距離でもそれくらいはわかる。
ぶつかったり、撃ちあったり……
……うん、どう見てもそうとしか思えない。
空中戦だ。
人に近い形をしたふたつの何かが、空を飛びながらバトってんだ。
「しかも、あれって多分、片方は……うん、そうだよな……」
戦いながら、だんだんこちらの方向に──偶然なのかわざとなのか──近づいてくるにつれ、ちょっとずつ輪郭や色などがわかってきた。
一方は、どうもあの火炎系令嬢のようだ。
まだ離れ過ぎてるから姿をはっきり確認できないが……しかし、あんな激しい炎を自在に使う奴なんか他にいないだろ。
他にいたら嫌過ぎる。
ざまぁにざまぁをお返ししたついでに全てを燃やした女性。
灰色の長い髪の毛は、理由はわからないが何故か変色して真っ赤に燃えているかのよう──いや、燃えてるわあれ。
逆立ってるとか風になびいてるとかそんな次元じゃない。
髪の毛が炎そのものだ。
服装は……なんか変わったな。
ボロボロで汚れた白のワンピースみたいなの着てたはずだけど、遠目に見える姿は、何色もついてる。
あれから着替えたのかもね。
……まさか本当に別人とか、そんなオチはないよな……ないよな?
──で、もう一方なんだが、こっちもまた人型っぽい。
でも、ただの人型じゃない。
背中から、銀色の翼らしきものが生えてるように見える。
これは、天使系とか鳥人間系とみて、いいんじゃね。
全身もまた、銀色っぽい。
鎧?
でも、どっしりとした重そうな大柄には見えない。
身体にフィットした、戦闘用のスーツでもつけてんのかも。薄くて軽くて丈夫な魔法の金属製とか。
背中の翼といい、これはあれか、銀色をなんらかの象徴にしている種族なのかもしれないな。
戦況はさっぱりわからん。
どちらが優勢なのかも、
どちらのほうがダメージが深いのかも、
どちらのほうが疲労してるのかも、
二体とも元気に飛び回ってるせいですげーわかりにくい。
接近するたび、長い武器を一度、あるいは数度ぶつけ合っては、また距離を取ってる。
真っ赤な炎の槍と銀色の槍?
槍使い対決?
どっちもまだまだ余裕ありそうだし、もう五分五分ってことにしとくか。
「ん?」
おや、止まったね。
「戦うのやめたな。疲れたのか? まさか、戦いを通じてわかり合えたとか……それはないよな? クソ昔のジャ○プ漫画じゃあるまいし」
二体とも動かないな。
お互い打つ手がなくなったのか。
同じことずっと繰り返すのに嫌気がさしたのか。
睨み合ったまま、攻撃の手を止め、ホバリングしてるだけ──
「……うぇ」
変なうめきが、喉からせり上がってきて、半開きの口から漏れた。
謎の二体が、ほぼ同時に、
クルッと方向転換して──こっちに飛んできたからだ。
嘘やん。
なんで急に口裏合わせたみたいにこっち来るんや。そりゃないで。
やめてくれよ。
俺なんもしてないよ。
遠くからお前らのタイマンをのんびり見てただけだよ。
それがどんな罪だというの? 勝負を見物したのが許されないことだとでもいいたいの? 空なんて目立つところでバチバチやり合ってたら誰だって見るだろ? 俺悪くないよね? ね?
だから、だから来ないでくれ。
……しかし、そんな願いを鼻で笑うかのように。
来る来る。
駄目だこれ。
完全にロックオンされてる。
迷いなく、一直線に俺のほうに飛んできてる。
おかしい。
あの二体の目を引くような行為は何もしてない。
遠目から見物してただけだってのに。
まさか……食料目当て?
いやそんな、だとしても一時休戦してまで仲良く奪いに来るか? 決着つけてからでいいだろ?
なんでこのタイミングなんだ。
何が目当てで──
「──ん?」
そこまであれこれ頭を回転させたところで。
俺は、あることに気がついた。
腰の聖刀のことを。
「これか?」
そうなのか?
これなのか?
距離が近づいたせいで、あいつらの感知能力みたいな何かに引っかかったりしたのか?
他にないだろ、重要そうなもの。
きっとそうだ。
そうに違いないって。
だったら、この場に聖刀を置いて逃げ出すべき──あっ、駄目だ。
間に合わない。
二体とも、もう目視で大まかな姿がわかるくらいの距離まで来ちゃったよ。
そして──。
二体が、俺を挟むように、五メートルほど離れた場所に降り立った。
右側。
真っ赤に燃える長髪のこの女は、やはり、あの令嬢なのかもしれない。
背丈が同じくらいっぽいし、炎の色も一緒だからな。
こうして近い距離で見ると、顔立ちとか装いとかがよくわかる。
美人だ。
ツリ目気味の、冷たい印象の美女。
燃え盛る髪の毛とその美貌がアンバランスに思えるけど、かえってそれが互いを引き立ててるように見える。
服は、あのボロワンピではなかった。
着替えをどこかで済ませてきたのか、派手さのない、普段着に近い衣服の上から赤いマントを羽織っている。
手に持つのは、赤い槍。
穂先から一番下まで全部燃えてる。
単にそういう形状の炎……ってんじゃないよな。もう一体の銀の槍とガシガシやってたんだから固い実体はあるんだろ、きっと。
んで、そのもう一体。
俺の左側にいる銀色の奴なんだが。
違った。
身体の線に沿った、防御の厚さよりも動作の邪魔をしないことを優先したスーツみたいなのを着た──翼の生えた人型種族だと、そう思っていた。
そうじゃなかった。
青く光る、大きな瞳らしきものはあるが、鼻も、口もない。
耳があるべきところには、翼をかたどったようなセンサーらしきものが。
青色のポニーテールとしてデザインされたような、後頭部のパーツ。
翼だと思っていたのは、騎士とかが使ってそうなカッコいい両刃剣の、刃の部分だけが連なってるような形で。
身体は、女性的なラインをうまく表現されてる鎧という表現がぴったりくる。
でもな。
これは鎧とかじゃないよな。
鋭利な翼付きの鎧とマスクを着用したお姉さんって可能性もなくはないが、でもこれは……あまりに近未来的なデザインというか、いかにも……
「…………女性型の、ロボ、だよな」
俺が絞り出したその言葉に、
『その通りです。私は対災獣用の戦闘型ガイノイド・ミストルティン』
銀色の女性は、淡々と、ボカロみたいな喋りでそう口にした。
やっぱロボだった。
……そっかー、魔女VSロボだったかー。




