第三十一話「霧原 零Ⅵ」
白衣を身に纏った少女は、水無月――この施設でのドラグニカの研究員。
そして彼女もこの施設に居る者同様、身体のどこかに龍紋を刻んでいる者である。
「……水無月さん!いったい何を!」
「あ、くぅちゃんだ!!相変わらず可愛いなぁ~、ほれほれ!」
「うぎゃぁ!この非常時にどこ触ってるんですか!?」
「あれ~?少し大きくなったぁ?寄せてあげちゃったのかにゃ~?ん~?」
「んん……うぅ……やめっ、やんっ!……んあ!」
水無月は咲の身体全体に触れ、胸の辺りを重点的に弄っていた。
みるみる赤くなる咲の様子が楽しいのか、水無月はニヤリと笑みを浮かべて言った。
「……会いたい人には遭えましたかにゃん?」
「っ!?いつまで触ってるんですか!!」
「おっと、怒った?ごめんにゃぁ~?けどね、くぅちゃん……こんな所で油を売ってていいの?」
「今すぐ、あなたを捕らえれば丸く収まります!生徒会長であり、執行部の名に懸けて!水無月さん、あなたを拘束します!」
執行部と名乗った瞬間、九条咲の周囲には、黒服に身を包んだ者が現れる。
数人しか居ないが、全員が全員、ドラグニカとしての能力を使う事が出来る。
そして水無月の後ろには、銃を構える藍原桐華の姿もあった。
「……はぁ~あ、くぅちゃん?それじゃ足りない。その程度の人数じゃ、私を止める事は出来ないにゃぁ!!」
だが水無月はそう言って、いとも簡単に挑んだ黒服を吹き飛ばした。
吹き飛ばした彼女の首から頬には、龍紋が浮かび上がっていたのである。
◆
「……ん、うるせぇな……警報?」
零は起き上がると、苛立たしげに電子手帳を眺める。
そこには赤く「EMERGENCY!!」という表示が出されていた。
「何かが遭った、ってのは間違いないみたいだな。まぁ俺には関係無いよな……」
そう呟いたが、零の脳裏に少女の泣き顔が浮かび上がる。
零は溜息を吐きながら、自分の手を眺めて言うのだった。
「おい、ウロボロス……」
『…………』
声への反応は無い。だが鼓動を打つように龍紋が点滅を繰り返す。
これは意志の受信をしている証拠であり、内側に居るそれと会話が出来る状態。
「手短に話すぞ。お前の力を俺に寄越せ」
『…………』
「チッ……無視か。じゃああの時と同じだ。次はそうだな」
零は目を細めて、警報の鳴り響いた場所を眺める。
そして何かを含んだ笑みを浮かべて、自分の中に居るそれに言うのだった。
「――お前が侵食してる部分の中で、需要性の高い物を一つくれてやるよ」
『…………ッ』
ドクンと脈が大きく跳ねて、零の目の前に黒く包まれた剣が出現した。
まるで魔法で召喚されたみたいに、床から波紋を立てて突き立っている。
零はそれを握り、寂しさが混ざった笑みをして言った。
「んじゃ、ヒーローってのをやってみようか。行くぜ、ウロボロス」




