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第117話:闇の帳

サブタイトルで展開が予想できそうですね


日が昇る前。世界がいまだ瑠璃色に閉ざされている頃、立花とエレン、そしてノーラは宿を出てルクリアから旅立った。


朝に起きて見送りをしたかったが、勇者クラブに監視でもされていると面倒なので顔を合せなかった。

いやぁ心苦しいけれど仕方がない。

決して二度寝の誘惑に負けた訳じゃないんだからね。


さておき俺達は昼過ぎに宿を出る。


そのくらい時間を空けた方がいいだろうって判断だ。

ルクリアからガンディアへは川沿いに街道を二日ほど南下し、川が西と南東に別れているところで街道を西へ。

そこから更に二日進むと到着する。


合流地点は特に決めていない。

今日の夜頃に合流するつもりだが、立花の分身がいるからな。

周囲の状況を見て、合流しても問題無いって時になったら教えて貰うつもりだ。


その時には立花にコピーさせている『ワープゲート』で向こうに移動すればいい。


「何か仕掛けてくると思うかい?」


ルクリアを出て街道を暫く進むとミカエルがそんな事を聞いてきた。


「どうだろうな? 俺は直接会ってないからなんとも言えないけど……」


「プライド……というか自尊心は高そうでしたね」


俺がちらりと立花の分身を見ると、彼女はそう返してきた。


「慎重な性格であるのは間違いないので、すぐに事を起こすような事はしないでしょう」


「向こうは冒険者ギルドやこの国の上層部に強い発言力を持っているでしょうからね。仕掛けてくるなら入念な準備をしてからになるんじゃないかしら?」


モニカの言葉に俺も賛同する。


うぅむ、歯痒い。

主導権は相手にあるから仕方ない事なんだけどさ。

やっぱり正体バレ覚悟で俺も参加するべきだったかな。

けど、それだと立花以上の不和を勇者クラブにバラ撒く事になるんだよな。


元の世界に帰れます。ただし元の世界からこっちにはこれません、じゃ帰りたいと思ってても迷う人間は多いだろうし。


立花のクラスメイトみたいに、この世界でただサバイバルしてただけならともかく、勇者クラブの人間は勇者としてこの世界で活躍してるから余計だ。

娯楽が少なくて文明が進んでないってだけで、元の世界より有意義に過ごしてる奴とかいそうだしな。

いや確実にいる。ソースは俺。


立花が考えていた通り、勇者クラブは異世界に連れてこられた人間の互助組織としては存在価値がある。

それを潰しちゃうのは罪悪感があるよな。

敵対されたから真正面から叩き潰すだけでもあれなのに、不和の種を撒いて内部崩壊による自滅とか。

悪辣なんてもんじゃない。


「そう言えばミカエルはロドニアって来た事あるのか?」


「国の行事として何度か。冒険者としては、ないかな。どうして?」


「いや、神の揺り籠が近いせいかダンジョン多いらしいからさ。何かおすすめのダンジョン知ってたりしないかと思って」


「噂レベルだからどうだろうね。珍しいってだけならガンディアの北東にある炎の森ってダンジョンが……」


言いかけて、ミカエルが絶句した。

こちらに向けられていた目が、俺を通りこして背後にある何かを見つめている。


俺も遅れて振り返る。

なんだ? なにもないじゃないか……。


「立花は!?」


それに気づいて俺は叫んだ。

そう、ミカエルの見ていた方向には何も無かった。


俺の隣を歩いていたはずの、立花の分身も。


「わ、わかりません。瞬きした直後にその姿がなくなっていて……」


「ミカエル!?」


「ボクも同じだよ。突然彼女の姿が消えたから……」


サラが申し訳なさそうな口調でそう言ったので、ミカエルに尋ねるとそんな答えが返ってきた。

あと、サラは俺の役に立てなかったからってしょげなくていいからな。


「くっ……!」


考えられるのは敵の攻撃。

敵とは普通に考えて勇者クラブだ。


変装している分身を立花だとわかって攻撃したとは考えにくい。

何かあったとすれば、それは本体のほう。


『朧月』で分身を作り出すと、本体もその分ステータスが低下する。

分身を戻さないといけない事態に陥っている?


いや、それなら分身がこちらに何か伝えていくはずだ。

その余裕が無かったとしても一言くらいなら……。


考えていても仕方がない。情報が少なすぎる。

まずは『サーチ』で周囲を確認。


ポツリポツリと街道を進む人が表示されるが、怪しいものは存在しない。


「ちょっと見て来る。お前たちはこのまま街道を進め」


「わかった気を付けてね」


俺は『ライトウィング』を発動させて高く飛び上がる。

地上からほぼ見えないくらいの高さまで上昇したところで『ソウルアームズ』を発動。

街道の上空を高速で飛行する。


「なんだあれ……!?」


暫く進むと、街道に黒い靄のようなものがドーム状に出現しているのが見えた。


『闇の帳』


『アナライズ』で確認するとそんな名前が出てくる。

他の情報が読み取れない。つまりあれは、俺より強い人間のスキルか、勇者のスキルだ。

そして『闇の帳』……。


闇の勇者か!?


あの中に立花たちがいるんだろうか?


「なんじゃこりゃ……!?」


『サーチ』で確認しようとすると、『闇の帳』があるだろう部分だけ、黒丸が表示されるだけで中の情報が読み取れなかった。

情報遮断系のスキル? いや、結界みたいに周囲から隔離するスキルか?


もう完全に確定だ。

立花たちはあの中。立花の分身が突然消えたのは、本体が隔離されて繫がりを遮断されたせいとかだろう。


「ざけんな!」


勇者クラブの攻撃が意外に早いことはどうでもいい。

立花を攻撃する事も想定内だ。


けれどあの中には立花以外にもノーラがいる。エレンがいる。


巻き込まれる危険性を考慮しても立花に同行させたのは俺だ。

二人を巻き込んだ勇者クラブに対して怒りが爆発する。

同時に、自身の迂闊さを呪った。


高速飛行を再開。そのまま『闇の帳』に突っ込む。

外から攻撃してみるとか考えもしなかった。相当頭に血が上っていた証拠だ。

まぁ、中の人間が無事で済む可能性を考えれば、この判断は間違いじゃなかっただろう。


「え!?」


特に何の抵抗もなく『闇の帳』の中へと突入できた事で、俺は思わず素に戻って叫んでしまった。


「えぇ!?」


同時に、『ライトウィング』と『ソウルアームズ』が消滅した事に驚く。

そのまま慣性に従い、落下していく。


「ぐはぁっ!?」


着地に失敗。地面を削りながら暫く進み、ようやっとその動きが止まった。


「なんだ……? 今、魔法が消えたのとは別に何か違和感が……」


「外はタイシが見張ってるはず。どうやって入ってきたの?」


痛みをこらえて立ち上がろうとする俺に、そんな言葉がかけられた。


顔を上げると、一人の少女が立っていた。

見覚えがある。勇者クラブにいた勇者の一人だ。


「え……!?」


すぐに『アナライズ』で確認しようとするが不可能だった。

ユリアの時のように、相手が強すぎてステータスを読み取れなかった訳じゃない。

勇者のスキルのように、プロテクトがかかっている訳でもない。


この感じは、『アナライズ』が発動してない!?


「冒険者? ならいますぐにここから出て行く事をおすすめする」


そう言って彼女は俺の背後を指さした。そっちから出て行け、という事だろう。

つまり、立花たちはその反対の方向にいるって事だな。


「もう隠すのも誤魔化すのも面倒だからあえて言うぜ。俺は月の勇者の仲間だ」


「そう……」


俺の宣言を聞いた少女は、何もない空間から武器を取り出した。

それは刃と鉄棍が長い鎖で連結している、鎖鎌のような武器だった。

神器か……?

こいつの司性ってなんだっけ? 武器からすると直接戦闘するようなものじゃなくて罠系っぽいよな。


「じゃあ、死なない程度に痛めつけてあげる」


宣言と同時に、左手で回していた鉄棍をこちらに向けて放つ。


「なっ!?」


それほど速く感じられない。間違いなくステータスは俺より下だ。

なのに、俺はその鉄棍を避けられなかった。


なんだ、今の……?

鉄棍が速かったわけでも、妙な動きをしたわけでもない。


ただ俺が遅い……いや、鈍い?


なんだ? 体がうまく動かない?

『闇の帳』の効果か? それともこの勇者のスキルか?


そう言えば『アナライズ』が発動さえしなかった。つまり、どっちの能力かはわからないけど、今俺はスキル無効化の影響下にあるって事か?

それなら立花の分身が消えた理由も説明がつく。

『朧月』のスキルが使用不能になったから、分身が消滅したんだ。


え? それってまずくね?


だって俺の魔法って『魔導の覇者』のスキルで使用できるようになってるんだぜ?

スキルが使用できなかったら魔法がそもそも使えない。『ライトウィング』が消えた理由はそれか。


それに何より、俺の戦闘技術は『世界の常識』で周辺の冒険者からコピーしてるんだ。

多少体が覚えてるかもしれないけど、スキルが封じられたら俺、剣も槍も弓もまともに扱えないんだが……。



地味にアルグレイ(犬ゴブリン)と戦った時と同じかそれ以上のピンチ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気読みでした。 ピンチですね!ハラハラドキドキします!
[一言] 格下勇者にやり込められるとかイラッ☆彡としますねぇ。
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