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第116話:勇者たちとの別れ

また時間が空いてしまったので、とりあえずのあらすじです

腕の良い鍛冶師を探しにロドニア王国へ

初心者迷宮を探索したのち交易都市ルクリアへ

勇者クラブで他の勇者と会合


「勇者クラブに在籍している人間が、全員帰りたくないとは限らないからです」


立花のその言葉に、その場が静まり返った。

その場にいないから感じ取る事はできないけど、これ絶対空気悪くなってるだろ。


「どうしてそう思うんだい?」


尋ねる相馬くんの声が若干震えている。

ああ、相馬くん自身、その考えに思い至ってたのか。


「この世界に自分達が呼ばれた理由、呼んだ相手がわからなければ、帰る方法もわからなくて当然ですよね。それならば、安全のために勇者クラブに在籍する事もまた当然でしょう」


淡々と、立花は自分の推理を披露する。


「そしてその中で、勇者として覚醒し、この世界を生き抜く力を手に入れたならば、ここでの生活を悪くないと考えてしまっても仕方のない事でしょう。元の世界に不満があれば猶更です」


立花の言葉に周囲の勇者たちがわずかに頷く。

けど、相馬くんは無言で薄い笑みを浮かべたままだ。


「そう、仕方のない事なんですよ。呼ばれた理由も相手もわからず、帰る方法はその手掛かりすら得られず、そしてこの世界を生きる力がある。でしたら、帰りたいと思わなくなっても、仕方のない事なのです」


相馬くんの目は、笑っていない。


「では帰る方法があるとすれば? その方法がわかったら? 文明社会にどっぷり浸かっていた人間が、この不自由な世界に本当にいつまでもいたいと考えるでしょうか?」


ついでに言えば、元の世界に帰りたいと思っていない、むしろこの世界での生活を楽しもうと考えている人間がトップにいる組織の中で、その事を口に出す事のできる人間がどれだけいるだろうか。

間違いなく、それを言えない空気が作られてるだろうな。


そう考えると、立花のこの発言まずくないか?

多くの人間が考えていても、空気を読んで言わないでおいた事を、こうもズバズバ言っちゃうのはマズイだろう。

間違いなく組織の不和に繋がる。


立花自身が帰る方法を知っているとは言っていないから、まだセーフなのか?


「それなら、君が勇者クラブに入らない理由にはならないんじゃないかな? むしろ勇者クラブに入っておいて、帰りたいと思う勇者を募った方がいいんじゃないかな?」


「それでは組織が維持できないでしょう?」


相馬くんの提案に立花は即座に反論する。


「帰る気のない人間がトップにいる組織に、帰る事を目的にしている人間がいては、組織が割れます。帰りたくない人間と帰りたい人間の間に友情も信頼も存在しないというなら別ですが」


つまり勇者クラブの目的と立花の目的が違い過ぎるから、余計な諍いを起こさないために、立花は勇者クラブに籍を置かないって事か。

それならそれをここで言う必要はなかったんじゃないかな?

聞かれたから答えただけ? いや、何か適当な理由で誤魔化そうぜ。

それができない立花じゃないだろ。


「そうか……。君の考えはわかったよ。そういう事なら仕方ないね。君を勧誘する事は諦める事にするよ」


「ご期待に沿えず申し訳ありません」


言う相馬くんの声は震えている。絶対激昂するのを抑えてるだろこれ。

頭を下げる立花の言葉も白々しい。


「私としても、帰りたくない人間を無理矢理帰そうなどとは思っていませんし、帰りたいという気持ちがあっても、この世界に残りたいという気持ちがあるならそれを尊重いたします」


「つまり、俺達と敵対するつもりはないんだね」


「はい。そちらが敵対しない限りにおいて」


それ煽ってるから。


「わかった。手間をかけたね。帰っていいよ。ここの事と俺達の事は……」


「勿論、他言いたしませんよ」


そう言って、立花は彼らの隠れ家を後にした。


その後『サーチ』で周囲を確認し分身を消滅させる。


「ふぅ……」


そこまでを終えて、立花は一つ溜息を吐いた。


「なぁ、立花……」


とりあえず、勇者クラブの中であんな発言をした真意を問い質しておかないと。

これまでの生活で、立花が決して空気の読めない正論真面目人間ではない事はわかっている。

必要なら腹芸もこなすし、それこそ俺よりずっと上手な筈だ。


なのに彼女は、敢えて彼らを挑発するような言動をしていた。


「言いたい事はわかりますよ先輩。断った理由を正直に言った事ですね?」


「ああ」


「その理由も彼らに語った事と同じです。在籍している人間が全員、帰りたくないと思っているとは限らないからです」


「もう少し詳しくいいかな?」


「あの場で私が適当な理由をでっちあげて、勇者クラブに入らない理由を誤魔化した場合、彼ら彼女らは結局その組織の中でその声を上げる事はできません。かと言って、私が勇者クラブに入って大々的に帰りたい人間を募るのは悪手です」


確かに、勇者クラブの中には既に『元の世界に帰りたくない空気』が醸成されてるから、今更それに異を唱えるなんてできないよな。

勇者クラブに入っている人間は全員元の世界に帰りたいとは思っていない、という前提がある以上、立花が適当に理由をでっちあげて入らなかったら、それはただ立花は元の世界に帰りたかったってだけの話になる。


「勇者クラブに入っている人間でも元の世界に帰りたいと思っても良い、という認識を彼らに理解させるためにあえてあの場で正直に話しました」


「けれど、それで勇者クラブの中で帰りたい派と帰りたくない派で別れるか? 今まで通りに空気を読んで黙るんじゃないか?」


「黙るでしょうね。けれど、いざ帰りたくなった時に行動する事が容易になります。密かに私に接触しようとするかもしれません」


「それなら、立花が勇者クラブに入っていても同じなんじゃ……?」


「勇者クラブという組織の重要性は私も理解しました。あの組織はむしろ存在していなくてはならない組織です。私が勇者クラブに在籍していては、組織が崩壊してしまいかねません」


「なるほど、立花が外部の人間でいれば、内部分裂や組織内での対立を防げるって事か」


なんか勇者クラブに不穏な空気を感じ取ったのかと思ったけれど、むしろ逆だった訳ね。


「問題はそれを向こうが正しく理解しているかどうか……」


「理解していなかったとしても、私という存在はあちらにとっても脅威なようですから、今の所は放置を選ぶのでは?」


「確かに、敵対しないと言ってる人間をわざわざ刺激する必要はないもんな」


「甘い。甘いねー、二人とも」


そこで俺たちの会話に割り込んで来たのはミカエルだった。

カタリナとモニカも彼女に同意するように頷いている。


「話を聞く限り、勇者クラブはそのソウマ君の独裁組織みたいだからね。そういう組織のトップが嫌う人間ってどういう人間かわかるかい?」


「自分に逆らう人間か?」


「違うよ。自分の地位を揺るがす人間さ」


「そもそも勇者クラブが相馬さんの独裁組織というのがピンとこないのですが? 確かにトップにいるのは彼でしたけれど、もう少し緩い組織のように感じられましたが?」


「方針の決定とかは彼が決めている感じだっただろう? 多分その決定を下すまでに話し合いなんかは行われるんだろうけど、決定権を持つのが一人なら、それは実質的に独裁政治なのさ」


「言われてみれば、彼が元の世界に帰りたくない、という気持ちだから、勇者クラブ全体の意思がそのようになっているように感じられましたね」


「で、自分の地位を揺るがす人間って、それは自分に逆らう人間とどう違うんだ?」


「自分に取って代わるつもりのない人間からなら進言を受け入れられるって所が違うかな」


俺が話を戻すと、ミカエルがそう答えた。


「勿論ただ批判するだけならそれは『自分の地位を揺るがす人間』と判断されてしまうんだろうけれど、自分を支える気持ちがある事がわかっているなら、それはむしろ自分の助けとなる人間だよね」


「ああ、言いたいことはなんとなくわかった」


「そしてオトメは彼にとって、自分に逆らう人間であり、自分の地位を揺るがす人間だわ。放っておくはずがない」


モニカが補足説明を行う。


「何か仕掛けてくるか?」


「多分ね。ただ、すぐに動くとなるとあからさま過ぎるから、多少の余裕はあると思うよ」


「彼らはこの国で最も信頼されている組織である、冒険者ギルドと懇意にしていますわよね? こちらを嵌めるつもりであるなら、だからこそしっかりと根回しをしてから行動するでしょうね」


俺の質問にミカエルとカタリナがそれぞれ答えた。

俺達を襲撃して、その後に正当な理由をでっちあげるのは、彼らにとって簡単な事だ。

けれど、杜撰な計画だと俺達を排除した後に、この国や冒険者ギルドが彼らに疑念を抱いてしまう可能性がある。

勇者である事を秘密にしている以上、力の行使は慎重に行わざるを得ない訳だな。


「なら、早いうちにこの街を出るか。まずは立花とエレンとノーラで宿を出て、俺達は時間差で後を追う。立花は分身を一人こちらに置いておいてくれ」


「構いませんけれど、変装しても『致死予測』で見れば名前が出てしまいますよ」


「誰かのステータスを『湖面の月』で映しとっておけばいいさ」


「ああ、なるほど」


ユーマ君の名前がユーマ・クジョウと表示された事は立花から聞いている。

つまり『致死予測』で表示される名前は、俺が『アナライズ』で見た時に表示される名前を同じって事だ。


それなら『湖面の月』で映しとってしまえば誤魔化す事が可能だ。


「では日が昇る直前くらいに出ましょう。いかにも勇者クラブから私達が逃げ出すかのように」


「それで、その後はどちらに向かわれますか? 冒険者ギルドに顔を出すように言われていますから、ロードグリアでしょうか?」


ルクリアを出た後の行き先を尋ねたのはエレンだった。


「できれば早いうちに行っておきたいけど、この状況で冒険者ギルドに近付くのはちょっと怖いな。当初の目的が達成できそうなガンディアへ向かうか。だから南の街道だな」


「当初の目的?」


「竜王の鱗の加工」


ミカエルが首を傾げるので俺がそういうと、彼女だけでなく俺以外の全員が何かを思い出したかのような表情を浮かべる。


全員忘れてたのか。まぁ、そこまで重要な目的じゃないしな。



何やら不穏な空気で勇者クラブと訣別

次回は鉱山都市ガンディアを目指します

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