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第115話:勇者たちの事情


立花が招かれた非公式勇者達による秘密の会合。

そこで待っていたのは予想外の大物だった。


闇の勇者。


闇の神、ヴェルから加護を受けた勇者だ。


この世界の神は、光の神ウェルの陣営と、闇の神ヴェルの陣営に明確に分かれている。

明確とは言っても、どっちつかずの神もいるけれど、基本的にはどちらかに分ける事ができる。


そして、世界の主要国の殆どの国教が光の神を崇めている事からもわかるように、この世界、少なくともヒト種族は、光の神か、その陣営の神を信仰している。


闇の神は勿論、その陣営に属している神の洗礼を受けていれば、問答無用で『人類の敵』認定されてもおかしくなはない。


女神フェルディアルとの会話から、ヒトほど神々で明確に敵対している訳じゃない事を俺は知っているけれど、それでもやっぱり闇の神の陣営と光の神の陣営は、あまり仲がよろしくないらしい。


まぁ、どうも神が神々の王、みたいな存在を決めるために、信仰稼ぎを競っているのがこの世界のようなので、与党と野党で仲が良くないのは当然だよな。

しかも光の神と闇の神は、与党の党首と野党第一党の党首みたいなもんだ。


勿論与党の中には、総裁の座を狙う面従腹背の勢力もいるだろうし、野党も一枚岩という訳じゃないんだろうけれど。


とは言え、それらは基本的にこの世界の話だ。

この世界に呼び出されただけの勇者たちにはほぼ関係の無い話。


まぁ、勇者の力を使って何者にも縛られずに生きるには、元の世界の価値観を捨てなければならないし、それは普通の人間には難しいだろう。

だからどうしても、最初に接触した勢力の枠組みにはめこまれてしまう。


となれば、闇の神の陣営の加護を受けた勇者は、社会の枠から外されてしまうもんだけど……。


そういう意味では、この非公式な勇者団体の長(だと思われる)には相応しい存在ではあるよな。


さて、こいつらの目的は一体なんだろうか。

闇の勇者だなんて思わせぶりな存在が前に出て来ておきながら、まさかただの異世界人互助会って訳じゃないだろうし。


「ようこそ、勇者クラブへ。歓迎するよ、月の勇者」


勇者たちの中心で、笑顔を浮かべて立花にそう声をかけた闇の勇者は、高校生くらいの少年に見えた。

実際、年齢は18歳だと表示されている。


他の勇者も全員20歳前後の若者ばかりだ。

16歳のユーマくんをはじめ、これまで出会った勇者は若かったけれど、何か共通点でもあるんだろうか。


見えている(・・・・・)とは思いますが、立花乙女です」


「俺は相馬そうま健司けんじ。一応、この世界ではソウで通ってる」


立花が名乗ると、相馬も名乗り返す。

変わらず笑顔を浮かべているけれど、胡散臭さがどうしても拭えない。

自分以外の全てを見下しているよう、と言うのは些か穿ち過ぎだろうか。


「それで、私にこの場所を教えた理由は?」


「まぁまぁ、まずは座りなよ。何か飲むかい? この世界のものだから味は薄いけど、お菓子もあるよ」


「お気遣いなく。仲間を待たせていますので、話があるなら手短に願います」


「ああ、あのエルフと獣人の少女か。報告を受けた時は驚いたよ。この世界の人間で、俺達と同等か、それ以上に強いヒトなんて初めて見たからな」


「そうですね。私も彼女達の他に例を知りません」


この世界のヒトでトップクラスの実力者がクレインさんで、エレンはその3倍くらいのステータスを持ってるからなぁ。

ノーラはまだその域には至っていないけれど、十分強いし。


「まぁ、機嫌を悪くして帰られても困るから、本題に入ろうかな。と言っても単純な話だ。君にもこの勇者クラブに入ってもらいたんだ」


「それ自体は構いませんが、この組織の目的やルールを先にお聞きしても?」


「まぁ、当然の話だな。ルールはそれほど複雑じゃない。クラブに迷惑をかけないこと、これだけだ」


「随分と大雑把ですね」


「これは俺達が二十一世紀の日本の法律と常識を共通認識として理解しているって前提あってのルールだ。この世界の人間にはもうちょっと別のルールを伝えてある」


どちらかと言うと、道徳や倫理観に頼った組織ってところかな。

自己中とか空気読めない奴が一人いるだけで崩壊しそうだ。


「このクラブに迷惑をかけないって言うのは、当然、クラブを危険に晒さない、って意味でもある。自分の正義に従って、勝手に国や他の組織に喧嘩を売る事は当然禁止だ。もしもその必要があるなら、クラブの人間で話し合い、方針を決定する必要がある」


「なるほど」


「目的としては勇者の保護だね。この世界にやってきたばかりだと、勇者でもそこまで強くないからな。更に言えば、世界の事を何も知らないから、よくわからないままトラブルに巻き込まれることだってある」


確かに、フェレノス帝国の氷の勇者は、右も左もわからないまま捕らえられて、鉱山で強制労働させられてたんだっけ。

俺は『常識』のお陰で色々理解できたし、そもそも女神にこれから異世界に送る、と伝えられてから転移したからそういう混乱は防げたけどな。

そもそも、異世界に転生して無双するっていうテンプレを知らなかったら、勇者が色々持っているスキルなんかの使い方もわからないだろうし。


何より、現代日本の倫理観と常識を持っている人間が、勇者の力をいきなり振るえるか、って言ったら相当な疑問だ。

俺はやっぱり『常識』のお陰で回避できたけれど、初めて生物を殺して精神に異常をきたす、ってお約束もある事だしな。


「つまりこの世界に転移してきた人々を保護する組織だと?」


「そうだ」


「冒険者ギルドの手伝いをしてダンジョンを管理しているのは?」


「この国は他所の国より余所者に優しいし、冒険者として働いていれば多少の胡散臭さは隠せるからな。勇者の力は基本的に戦闘で役立つから、そうした荒事を生業にするのが一番なんだよ。自主的に国や大きな組織に力を貸す事で、彼らから無理難題を押し付けられる確率も下がるしな」


「なるほど」


なるほど。


「目的とルールはわかりました。それで、貴方方はどうするのですか?」


「どう、とは?」


「いつまでもこの世界にはいられないでしょう? この世界に呼び出された目的を調べてそれを達成したり、帰るための手段を見つけたりなどしないのですか?」


「え? 君は帰りたいの?」


おや? なんだこの食い違いは。

立花の疑問はある意味で当然だ。立花たちの移転が特殊だったのは間違いないけれど、氷の勇者や、この相馬くんの話を聞く限り、他の勇者も自分がこの世界に来た理由を知らないみたいだ。

だったら、その理由は気になるだろうし、帰る方法も模索するはずだ。


けれど、闇の勇者はそんな素振りは全くないようだし、他の勇者も同様だった。


「帰りたく、ないのですか?」


「……ふぅん」


戸惑いながら聞き返す立花に、相馬くんは何も答えず、ただ何かに納得したように頷いただけだった。


「どうやら、君こそが本当の勇者なのかもしれないな」


「それはどういう意味ですか?」


「俺達は誰一人、元の世界に帰りたいなんて思ってないんだよ」


相馬くんの言葉に、立花は思わず他の勇者を見回すが、彼らも無言で頷いた。


「ここにはいない他の勇者も、クラブには入っていないが、出会った事のある勇者も、みんなそうだったよ。誰一人、元の世界に帰りたいなんて思っていなかった」


そう言えば、転移直後は悲惨な目にあったはずの氷の勇者も、元の世界に帰りたい様子じゃなかったな。

つまり共通点と言うならそこか?

元の世界に未練が無い人間?

それこそ、俺も仕送りとかの条件がなかったら、元の世界の事は忘れてこの世界をもっと楽しんでただろうしな。


「それで、どうして私が本当の勇者だと?」


「そりゃ、これだけ多くの勇者がいて、その中で君だけが元の世界に帰りたいと思っているんだ。君が特別だと考えるのは当然だろう?」


「……私が本当の勇者かどうかはともかくとして、つまり貴方方は、誰もこの世界に呼ばれた理由も知らず、呼んだ相手もわからず、そして帰る方法も知らないという事ですか?」


「まぁ、そういう事だね」


尋ねる立花には若干落胆の色が見て取れた。

彼女がこの組織に接触しようとした理由は、立花がこの世界に残った理由に関係してるからな。

立花は、自分がこの世界に呼び出された以上、それを行った人物がいて、そして自分達を呼び出す理由がある筈だと考えている。

その手掛かりになるかと思っての接触だったからな。


それが全くの空振りとなればがっかりしてもしょうがない。

帰る方法に関しては、立花の方が知ってるくらいだしな。


異世界を移動させられる力を持っているのは神の中でもうちの女神様だけだけど、特殊なマジックアイテムを使ったり、何かしらの儀式によってそれを為す事ができるらしいからな。

立花を含めた勇者の召喚を行っているのはうちの女神だと思うけれど、そういう人為的な要素の可能性も一応残ってる。


スキルの中には時間と空間に関するものもあるくらいだから、神様ができないから他の生物もできないって訳じゃないみたいだ。


「では、勇者クラブには入りません」


「……一応理由を聞いてもいいかな?」


「私の目的は、私をこの世界に呼び出した人物を探し、その目的を知る事です。助けが必要ならば力を貸しますし、私が思う所の『悪』を為すためであればそれを阻止します。貴方方は元の世界に帰りたくないようですが、私と言う例外がいる以上、他にも元の世界に帰りたい被害者(・・・)がいるかもしれませんし、これから増える可能性だってあります」


「それを阻止する事にも繋がるわけか」


「はい」


「でもそれなら、勇者クラブに入って貰うくらいはできるんじゃないか? 勇者クラブの活動は強制じゃないよ。互助会みたいなものだからね。ダンジョンの管理や冒険者としての活動は、組織で動いた方がやりやすいからそうしているだけだし」


「いいえ。勇者クラブに入る事はできません」


「それは何故?」


確かに、相馬くんの言う通りだよな。とりあえず在籍しておく事は何のデメリットもない。

むしろ、一応国や大きな組織と繋がりのある勇者クラブとコネを作っておくことは、立花の目的を考えると悪い事じゃないはずだ。


「勇者クラブに在籍している人間が、全員帰りたくないとは限らないからです」


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― 新着の感想 ―
[一言] 何か日本の記者クラブみたいな集団。 「自分達は世間を超越した存在で自身の価値観は絶対」みたいな。
2021/08/03 09:31 退会済み
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