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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
5.旅立ちへの準備期間
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5-06.【東の森林ダンジョン:出発直前】

 グラスウェルへ戻り換金のために冒険者ギルドの北東支部に立ち寄った彰弘たちは、そこの支部長に話しかけられる。

 その内容はダンジョン攻略についてであった。




二〇一八年 六月十七日 〇〇時四十分 

前話「5-05.」に、依頼内容の詳細やダンジョンの攻略など諸々のことを確認したことを示す表記を追加


「ランク以上だということは今更疑わないんですが、全員で行って大丈夫なんですか?」

 そう口に出したのは、彰弘を会議室へ案内する冒険者ギルドの女職員だ。

 彼女は昨日彰弘に魔素溜まりとダンジョンの基本的な情報を教えた換金窓口にいた職員である。今はまだ朝であり、魔物やらの素材を換金する冒険者は皆無に等しいので、一時的に換金窓口を閉め彰弘を先導していた。

「実際に入ってみないことには何とも。ヤバそうならダンジョンの攻略は少し遅れるが、一旦戻ってくる」

「それって可能なんですか?」

「支部長には了承をもらってる。まあ、過去の記録を見る限りじゃ、すぐに戻ってくることはなさそうという話だけどな」

「そうなんですね。ひとまずは安心と。あ、着きました」

 先導していた職員が一つの扉の前で立ち止まり、彰弘へと向き直る。

 そこは昨日支部長の後に付いて彰弘が訪れた会議室と同じ部屋であった。

「支部長。レイナです。アキヒロさんをお連れしました」

 職員が扉をノックしてから声を出すと、部屋の中から支部長の入室を許可する声が聞こえてきた。

「ではアキヒロさん、どうぞ」

 会議室の扉を開け、道を譲る職員。

 その彼女に一言お礼を言ってから、彰弘は会議室の中へと入っていった。









 彰弘が入った会議室には五人の姿があった。支部長であるトレアスに潜む気配のジェール、それから草原の爪痕のベントにメアルリア教のゴスペル司教と兵士の一隊を率いる立場にあるアキラだ。

 そんな彼らに彰弘は軽く挨拶をしてから、空いている椅子へと腰掛けた。

「喫茶室にいたメンバーからだとアキラ隊長がいるのは想像できなかったな」

「予定では休暇明けで深遠の樹海にまた向かうはずだったのですが、昨日その準備をしていたら、こちらだという命令が下りましてね。ああ、部下たちは先に北東門前へと向かわせて待機させています」

「なるほど。にしても知り合いで実力も確かとなれば、言うことはないな。よろしく頼む」

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」

 お互いに笑みを向け合い、彰弘とアキラは言葉を交わす。

 それから一拍。続けて彰弘はベントやゴスペル、そしてジェールへと声をかけてからトレアスへと向き直った。

「一通り挨拶も終わったようですし、始めましょうか。と言ってもこれといって新しい情報はありません。ですので、これからの行動を再確認の意味を込めて話します」

 一度言葉を区切ったトレアスは、集まった彰弘たちに異論がないことを確認してから再度話し出した。

「まずはこの依頼書をどうぞ。内容は昨日説明したものと同じですが、念のために確認をしてください」

 トレアスは冒険者である彰弘とジェールにベントへ今回行うダンジョン攻略の依頼書を手渡す。

 そして彼らが依頼書に目を通している間にトレアスはアキラへと顔を向けた。

「あなたにはこちらを。一応、そちらに伝えていた内容と同じかの確認をお願いします。万が一異なっていた場合、余計な火種となりかねませんから」

 そう言って、トレアスがアキラへと手渡したのは、彰弘たちへの依頼書から依頼遂行時に支払われる報酬に関する部分だけが削られた内容が記載された紙であった。

 情報を伝え協力を要請した際に、今回のダンジョン攻略について説明してはいるが、冒険者ギルド側の認識と兵士側の認識が食い違っている可能性がある。だからこそトレアスは改めてアキラへと確認を頼んだのであった。

 なお、依頼遂行報酬が削られているのはアキラたちが兵士であるからだ。彼らはあくまでガイエル領の兵士であってダンジョン攻略も兵士の任務として行うのだから、冒険者ギルドから報酬が支払われることは基本的にはないのである。

 ただし、今回の事は大討伐と同じかそれ以上に稀で危険度も未知数なことから、ダンジョン攻略遂行の報酬とは別枠の報酬らしきものが設定されていた。それはダンジョン内で取得した物は、その取得した人物の物とできる権利である。

 ちなみにメアルリア教のゴスペルは彰弘と一緒に彼が持つ依頼書を見ていた。彼、そして彼と一緒にこのダンジョン攻略に参加することになった二人の司祭は断罪の黒き刃へと一時的に加入するからだ。

 そんな感じで少々の時間、会議室に沈黙が流れ、まずアキラが確認を終える。

「事前に受けた説明と相違はありません。それにしても、別枠報酬は本当だったんですね」

「あなた方が月にどのくらい受け取っているかは知りませんが、今回のような場合はこのくらいの得があってもいいでしょう。もっとも、必ずしも価値のある物を手に入れられるとは限らないのですが」

「はは。ご配慮感謝します。魔物の希少種と戦える確率が高いだけでも、私たちにとっては何よりの報酬と言えますが……期待しておきましょう」

「若干戦闘狂的かな? アキラ隊長」

 アキラより少しだけ遅れて顔を上げた彰弘が、少々茶化すような声色で二人の会話に割り込むと、同じく確認を終えた残りの三人も笑みの浮かぶ顔で頷いた。

 しかし続けられた会話の繋がりは、アキラの言葉に同感するものである。

「だが、アキラ隊長の気持ちは分からなくもないのであるな。そうは思わぬかアキヒロ殿?」

「司教に同感だ。希少種との戦闘経験は貴重だ。強くなるためにも有用だし」

「そうだね。特にボクらは身体が小さくて元の力も弱いから、余計にそう思うよ」

「なんか話の流れが釈然としないんだが……まあ、いいか。依頼書の内容に問題はありません支部長」

 言葉どおりの表情をした彰弘だったが、とりあえずそれを置いておき、話を進めることにした。

 実害のないことに突っ込んで藪蛇となっては面白くないし、何より今はこの程度のことで脱線している場合ではないからだ。

 そんな彰弘の意図を知ってか知らずか、ジェールとベントにゴスペルもそれ以上は話を引きずらず、確認を終え問題はないことを口にした。

「結構です。さて、まずこの攻略のリーダーですが、これはジェールにお願いします」

「おっけー」

 軽い返事をするジェールがリーダーであるということに異論がある者はいない。ベントはランクDであるし、彰弘にいたってはランクEだ。ゴスペルたちは彰弘のパーティーメンバーとしての参加だし、アキラはダンジョンについては素人同然であった。

「異論はないようですね。ではこの後ですが、ジェールたちは一階に降りたら依頼窓口で依頼の受付を済ませてから出発してください。それをしてもらえないと、報酬を支払うことができなくなりますから」

 当然といえば当然であるが、大事なことであるから彰弘たち冒険者組は特に何を言うでもなく頷く。

 無論、このことはアキラには関係ないので、彼は特に反応を示さなかった。

「そうしたら北東門へ向かいギルドが用意した物資を受け取ってください。アキラ隊長たちの分も含めて、全てアキヒロ殿が収納しやすいように、五日分の食料と水、それから魔石や傷薬などを木箱に入れて用意してあります」

 無論、彰弘たちも過去の記録に鑑みて、できたばかりのダンジョンを攻略するのに必要だと思える分を用意してきている。

 なら、何故冒険者ギルドが追加で食料などを用意したのかというと、それはもしダンジョンを攻略できないと判断した場合に、ダンジョンの拡張を阻止しておいて欲しいからであった。

 魔素溜まりから発生したダンジョンは外からの侵入者がいない場合、完成するまで驚くべき早さで拡張していく。しかし侵入者がいれば、その拡張する早さを抑えることができるのだ。

 冒険者ギルドが用意した物資は、今現在依頼でグラスウェルの外に出ているランクB含む複数のランクC以上のパーティーが戻ってくるまでに必要な分量であった。

「了解です。ダンジョンの入り口まで責任を持って運びます」

「はい、お願いします。さて、ダンジョンの入り口への案内ですが、それはジェールが行いますから彼の道案内で進んでください」

「一応、確認するけど魔素溜まりがあった場所だよね?」

「ええ」

「うん、問題ない。任せて」

 魔素溜まりから発生したダンジョンは、どのような型であれ魔素溜まりを基点として発生する。

 階層型と呼ばれる中で地下へ生成されるものは、魔素溜まりだった場所から下へ下へと拡張していくが、その入り口は魔素溜まりがあった場所そのままであった。

 逆に空へと生成されるダンジョンは、魔素溜まりだった場所を中心として拡張していくために、地下へのものと比べて多少入り口を見つけるのが面倒となる。

 そして最後、上にも下にも拡張せずに横へ横へと拡がっていく型は、ある意味で最も入り口を見つけるのも攻略するのも簡単かもしれない。この型の入り口はダンジョンとそうではないところの境目全てが入り口であるから、ダンジョン内への侵入が容易でほとんど拡張されることがないからだ。要するにこの型の場合、人種(ひとしゅ)でなくとも、そこらにいる動物や魔物がダンジョンの拡張を鈍化させ、その間に誰も知らぬ間に攻略されてしまうというわけである。

 ともかく、今回彰弘たちが攻略に赴くダンジョンは一昨日逃げ帰ってきた者に聞き取りを行った結果、地下へ向かって拡張する型であることが判明しており、ジェールが案内をできるのであった。

「で、ダンジョンの入り口付近の封鎖ですが……アキラ隊長」

「ええ。予定通り隊の三分の二で入り口付近を封鎖します。場所は最奥付近とのことですが、東の森林ならば例え希少種が複数現れてもうちの兵で対処できますし、普通のランクDパーティーが偶然来ても止めることはできます。問題はランクC以上のパーティーが来た場合ですが、それも事前にいただいているあなたの委任状があれば問題はないでしょう」

 ダンジョンというのは様々な罠が仕掛けられているのが普通だ。特定の場所を踏むと床が抜けて落とし穴になったり、壁からいきなり矢が飛び出してきたりといった簡単なものから、一層にあるスイッチで二層にある仕掛けが作動するなどという稀ではあるが大掛かりなものもあったりする。

 前者はともかくとして、後者が作動させられた場合はダンジョン攻略の大きな足枷となりかねない。だからこそダンジョン攻略中の人員以外は入れないようにするのである。

 もっとも、拡張中のダンジョンにはそれほど大掛かりな仕掛けはないとされているので、今回の封鎖は念のためであった。

「後は……ああ、そうでした。もしダンジョンの中であなたたち以外の人種(ひとしゅ)を見つけたら保護をお願いします。現状と場所から誰かが潜ってしまっている確率は高くはないと思いますが、可能な限りで良いのでお願いします」

 多くの冒険者が深遠の樹海関係の依頼を受けている現状では、東の森林の最奥付近へと向かう者はそれほど多くはない。ただ、あくまで多くないだけであって皆無ではないのだ。

 そんな多くない冒険者の中に、偶然見つけたダンジョンに入ってしまっている者たちがいるかもしれなかった。

「可能な限りは何とかするよ。でもこちらに被害が出るような場合は……」

「見捨てて構いません。防壁の外でのことは誰であろうと自己責任が原則ですから」

「了解」

 たいして声色の変わらないジェールとトレアスのやり取りは冷たいように感じるが、これがこの世界の普通であった。

 勿論、これがダンジョン攻略の依頼ではなく救助依頼だったならば別ではあるが、今回の目的はあくまで前者である。見つけた者が危機に陥っていて、それを無理に助けようとして攻略を失敗したとなったら、それはダンジョン攻略依頼を受けた方に非があることなってしまう。

「さて、何か質問はありますか?」

「そういえばダンジョンへ入ることを禁止したりはしないの?」

「あなたがたが出発してから領主と総合管理庁の同意を付けた御触れを出します。ダンジョン発見と同時にとも考えましたが、知ったら行きたくなるのが冒険者というものですから」

「否定はできないね。まあ、ヘタに知られて殺到されるよりはいいかもね。うん、他にはないよ」

 ジェールの言葉に、残る彰弘たちも首を縦に振る。

 その様子にトレアスは、「では、依頼を開始してください」と言って立ち上がった。

 グラスウェルの東に拡がる森林内に発生したダンジョン攻略依頼の始まりである。

お読みいただき、ありがとうございます。



感想より

二百話目ということを感想にて知る。

そして初投稿からの年月に少し驚愕。

教えていただかなかったら本当に気づかなかったかもしれん。

ありがとうございます。

ともあれ、ここまできたのは皆様のお蔭でもあり感謝です。

これからもよろしくお願いいたします。



あ、そろそろあらすじっぽいの変えるべきかも。




以下修正情報

二〇一八年 六月十七日 〇〇時四十分 

前話「5-05.」に、依頼内容の詳細やダンジョンの攻略など諸々のことを確認したことを示す表記を追加


仕事帰りの電車の中で、「受ける依頼の確認しないとかありえないだろ!?」

って、ふいに頭に浮かびました。



後、人名を誤ってました

誤)ジュール

正)ジェール



二〇一八年 七月 一日 〇〇時三十分 追記

ダンジョンへ入ることを禁止することについてを、最後の質問箇所に追記

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