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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
5.旅立ちへの準備期間
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5-03.【新生パーティー出発?】

 前話あらすじ

 大人数パーティーとなった翌日。

 彰弘たちは準備のために武器や防具に必需品を買いに向かうのであった。





 彰弘がリーダーを務める、断罪の黒き刃という名のパーティーに所属するメンバーの装備が整ったのは四月も半ばを過ぎたころであった。

 同月の初頭にイングベルト武器店とイジアギス防具店を訪れていた彼らであったが、出来合いの物だけでは希望や体格に合うものが揃わず、一部を新たに注文し作ってもらっていたので少々時間がかかってしまったのである。

 勿論、時間をかけずに既製品で済ませてしまうという選択肢もあったが、今は別に切羽詰った状況ではない。また金銭的にもある程度の余裕があるのだから自分に合わない既製品を調整するのではなく、新たに自分用を作ってもらう方が良いと判断したのであった。

 ともかく、断罪の黒き刃というパーティー全員の装備が整う。

 今年度に入り、彰弘のパーティーはようやく本格的に冒険者としての活動を開始しようとしていた。









 彰弘邸とストラトス邸の庭に両家の使用人全員が整列していた。

 今回は彰弘のパーティーが新生して最初の防壁外行きということで、総出のお見送りである。

 彰弘の下の使用人だけでなくストラトスの下で働く使用人も全員いるのは、クリスティーヌ――とエレオノール――も一緒だからだ。

「じゃあ、行ってくる。夕方くらいには帰る予定だ」

「畏まりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 彰弘の言葉に彼の下で使用人を纏める立場のミヤコが応える。

 その横では似たような会話をクリスティーヌたちもしていた。

「行ってきますね」

「くれぐれもお気をつけください、お嬢様。エレオノール。頼みましたよ」

「お任せください」

 体調万全といった様子で笑顔のクリスティーヌに対して、ストラトス邸で侍女長を務めるパーシスの表情は心配そうである。

 本日、彰弘たちとともにクリスティーヌが向かう予定の場所は強い魔物が出る確率は低いグラスウェルの東に拡がる森林の浅い部分であった。

 同行するのはオークキングを倒す実力を持つ彰弘を筆頭に、これから向かう先程度ならば何ら問題のない戦闘能力を持つ者たちばかりだ。勿論、クリスティーヌやエレオノールもそこで活動するに不足ない実力を持っている。

 だから表情に出すほどパーシスは心配する必要はないのだが、そこはやはり赤子のころからクリスティーヌの成長を見てきた彼女だ。理性では分かっていても感情の部分でどうしても心配をしてしまうのであった。

 なお、彰弘のパーティーに所属することになったクリスティーヌとエレオノールは暫くの間、ストラトス邸で過ごすことになっている。ガイエル伯爵邸がグラスウェルの中心付近にあるため、グラスウェルから外に出るのは不便だというのが一番の理由である。もっとも、それだけではなくクリスティーヌの想いというものも強いのだが。

 ともかく、彰弘たちはこうして盛大に見送られて、新生パーティーとなってから初の防壁外へ向かうのであった。

 ちなみにストラトスと彼の執事であるカイエンは、運悪く別の街へ出張中でこの場にはいない。









 使用人たちに見送られ、また直後に門番にも見送られた彰弘たちは、急ぐでもなく、のんびりとしているわけでもない速さで石畳の道を歩いて行く。

 並びは彰弘を挟んで左側に六花で右側に紫苑である。クリスティーヌは紫苑の右側を歩いており、彼女の少し後ろをエレオノールが歩く。

 偶に紫苑とクリスティーヌの位置が入れ替わっているのは、前者と後者がお互いの気持ちを理解しているためである。

 さて、そんな配置で歩いて行く彰弘たちの向かう先は、彰弘邸と北東門のちょうど中間地点にある一つの宿屋であった。

 そこは彰弘の知り合いでもあるベントをリーダーとする草原の爪痕というパーティーが定宿としている、言ってみれば普通の宿屋である。目を引く施設があるわけでも出される料理が特別に美味いわけでもないが、一泊の価格が手頃で継続して利用するには悪くない程度に過ごしやすいことから、彼らはこの宿屋をよく利用しているた。

 では何故、そのような宿屋に彰弘たちが向かっているのかといえば、そこでパールが待っているからだ。

 グラスウェル魔法学園の寮で六花と同室であったパールは一時的ではあるがこの春から彰弘のパーティーに加わっている。今後はともかくとして、とりあえず今日のところは彰弘たちがその宿屋まで行き、そこで彼女と合流してから北東門へと向かう約束となっているのであった。

 ちなみにパールがこの宿屋を定宿としたのは、兄であるベントが定宿としているからであり、それ以外の理由はない。

 そんなこんなで暫く歩いた彰弘たちは、ベントとパールが待つ宿屋に到着する。

「わざわざ悪いな。妹を頼むよ」

「道がそう外れているわけでもないし、気にすんな。それと任された。それはそれとして、敬語じゃない方がしっくりとくるよな」

「ひとのことは言えないと自覚をした方がいいと思うのは俺だけか?」

 辿り着いた宿屋で彰弘とベントは少しの間、会話を行う。

 宿屋で待っていたもう一人であるパールは、六花たちと会話中だ。

 なお、彰弘たちとともに行くのはパールのみであり、ベントはこの後で自分のパーティーメンバーと北門へと向かい、そこから依頼に出かける。

「それは置いておこう。にしても、律儀とでも言えばいいか?」

「全くやれやれだ……。まあ、この前のパーティーで頼みはしたけど、やっぱ、こういうのはな」

 ベントが妹のパールとここにいた理由は、彰弘へと妹のことを頼むという一言を告げるためである。

 十日ほど前。彰弘邸とストラトス邸の庭で、六花たちがグラスウェル魔法学園を卒業したことを祝うパーティーが行われた。

 主賓は勿論六花たち四人を含め、彼女らと仲が良かった卒業生たちだ。

 祝う方はというと、こちらは彰弘はもとよりガイエル伯爵家の面々に竜の翼や魔獣の顎などの関係のある冒険者パーティーの面々。ゴスペル司教らメアルリアの神官が複数に国之穏姫命関係が総出。果ては近所で仲良くなった元は貴族で今は悠々自適な生活を送るおじい様おばあ様等々と、ちょっと普通では考えられないような人たちであった。

 そんな、なかなかお目にかかれない集団の中での頼みだったために、ベントは今日改めて妹のことを頼みたいと考え待っていたのである。

「とりあえず、あのとき言ったとおり、はじめは……最低でもひと月は実力把握と連携練習に費やす。その後、問題ないようなら深部や深遠の樹海の縁あたり。ま、東の森林の奥へ行くときみたいに、行き場所を変える場合には都度連絡する」

「すまないが、頼む」

 卒業パーティーのときと同じ説明を再度聞いたベントは、その内容に問題はないと頷く。

 そしてその会話を最後にベントは彰弘から目を外し、六花たちと楽しそうに話しているパールへと顔を向けた。

「パール! そろそろ行くから気をつけていけよ。後、みんなに迷惑かけるなよ」

「うん! お兄ちゃんも気をつけてね!」

「おう。……じゃあ、みんな、妹をよろしく頼む」

 言葉とともに頭を下げたベントがその場を立ち去る。

 彰弘たちはそんなベントのことを少し見送ってから、自分たちも目的の場所である北東門へと歩き出したのであった。









 パールが加わったことにより、また人通りが増えてきた道を進むことになったため、彰弘たちは二列になり歩いていた。

 元気に先頭を行くのは六花とパールで、その後を落ち着いた雰囲気の紫苑とクリスティーヌが続く。そして最後尾を彰弘とエレオノールだ。

 生まれた順であり身長順ともなっているのは誰が意図したものでもないが、見た目として悪くない。

「さて。適度に魔物が出てくれればいいが」

 微笑ながら前を行く四人を見る彰弘は、これから向かう場所のことに考えを巡らす。

 彰弘が東の森林の浅い部分を新生パーティー最初の行動場所に決めたのは、そこが兵士や冒険者により継続して狩りが行われているために魔物との遭遇率が低くなっているからだ。魔物との戦いを目的とするならば適した場所とはいえないが、それ以外のあれこれを試すには丁度良いのである。

 ただ、どうせなら魔物との戦いもあった方が先を考えたら良いのは事実だ。

 魔物との戦闘については、全員が全員経験済であるので問題はない。グラスウェル魔法学園の生徒だった者たちは授業の一環で魔物と戦っているし、エレオノールについてもクリスティーヌが冒険者になると決めたときに彼女自身が冒険者になり、そこそこの戦闘経験を積んでいる。彰弘にウェスターとアカリは言わずもがなだ。

 問題なのは魔物と戦闘を行った後の疲労度合いがどの程度になるのかであった。

 彰弘のように連日魔物と戦うような冒険者はそれほどいない。戦えないというわけではないが、大抵の者は戦った後は休みを入れ、気分を一新してからまた行動するのだ。

 勿論、護衛依頼だったり数日間以上防壁の外で行動しなければならない依頼を受けている場合はその限りではないが、少なくとも街に戻り休むことができる状態であれば連日魔物と戦うことはしない。それだけ戦うということは肉体的というよりも精神的に疲れる行為なのである。

 なお、兵士も命令によっては連日魔物と戦うことはあるが、大抵の場合は輪番であり、可能な限り精神的な疲労を抱えたままで魔物と戦闘が行われないように配慮されていた。

「もし魔物に遭遇しなかった場合は奥へと行きますか?」

「少なくとも今日は……いや、少なくとも数回は浅い部分だけで済ます」

 独り言を聞き取ったエレオノールに、彰弘は否定を返した。

 防壁の外での行動に必要なのは何も魔物との戦闘関係ばかりではなく、各地形に応じた歩き方や警戒の仕方など、いろいろとあるからだ。

「人数が人数だから俺もいろいろと確認しておきたいことがある」

「戦闘以外での動きも重要ということですね」

「そういうこった」

 前を行く四人を見つつ、彰弘とエレオノールは今日のことについて言葉を交わしていく。

 そして暫く。

 本日の集合場所へと彰弘たちは到着するのであった。









「おはようさん。何してんだ? こんなところで」

 集合場所へ到着。

 いや、正確には集合場所の間近まで来た彰弘は、ちょっとした人垣となっている中に、見知った二人組みの背中があり声をかけた。

「ああ、誰かと思ったらあなたでしたか。おはようございます。ちょっとどうすべきか悩んでまして」

「おはよございます。ナンパですかね、あれ」

 振り返り彰弘たちに挨拶をしてきたウェスターとアカリは、集合場所としていた広場の一角へと目を向けた。

 そこにあったのは、瑞穂と香澄にルクレーシャたち四人が迷惑そうに、冒険者だろう五人の男たちの相手をしている場面であった。

「難癖つけられているって感じじゃないな」

「ああ、あれは事情を知らない身の程知らずが声をかけて、氷姫の嬢ちゃんたちに拒否されているっていう、ここ数年の定番だね。卒業したって聞いたからもう見れないと思ってたけど、いやはや今年も見れるとは」

 彰弘が見た感想を言うと、隣に立っていた白髪交じりな年配の男がそんな情報を口にした。

 年度が変わったこの時期は、心機一転というわけだろうか活動する拠点を移す冒険者が一定以上いる。そしてそれら者たちは、その移した先の常識というものに疎かったりするのだ。

「そういえば、いつも一緒にいる二人が見えないね。別のパーティーでも組んだのかな?」

「いえ、単純に住んでいるところが違うので、ここで待ち合わせをしてたのです。今も一緒のパーティーですよ」

 紫苑が応えると、その年配の男は笑みを浮かべた。

「あの戸惑いながらも萎縮してるようには見えない彼女たちも一緒のパーティーかい?」

「はい。この春から一緒になりました。それはそれとしまして、ちょっと行ってきます。では、六花さん」

「おー」

 紫苑の声に控えめに答えた六花がほんの僅かだけ気配を薄くする。

 そして二人は今現在、その広場で注目されている十一人へと斜め後ろの位置から何の気負いもなく近づいて行った。

 少し歓声のようなものが上がる広場を見回しつつ、彰弘は年配の男へと視線を向ける。

「定番なのか?」

「定番だねぇ。最初のころは近くにいた冒険者や兵士が止めに入ったりもしてたんだけど、いつの間にやら彼女らが自分自身で追い払うようになっててね。今では、念のために待機はしてても見守るに留めてるよ」

 言われて見れば、人垣の中に兵士の姿は見えるし、彰弘から見ても強いだろうと思える冒険者の姿もあった。

 基本、冒険者同士のあれこれは自己責任であるが、この時期は特に初心者が問題に巻き込まれる確率が高いため、兵士は命令により、冒険者は指名依頼により問題が起きそうな場所を重点的に見回りしていたりするのだ。

「ま、あれだけ華がある()たちに声をかけたくなる気持ちは分からなくもないけど……無知ってのは危険だねえ。あっははは。おっと、はじまるよ」

 笑いながら「はじまるよ」と言われた彰弘が十一人がいたところへ視線を戻すと、丁度自分たちへと近づいてきた紫苑に五人の男が気づくところであった。

 六花は途中で紫苑と分かれ、男たちの背後へと周りこんでいる。そして、彼らはそんな彼女には気がついていないようであった。

「お、また新しい展開かな。今までは四人揃って正面から追い返していたのに」

 そう呟いた年配の男は、それきり口を閉じ状況に注目する。

 彰弘もそれに倣うように成り行きを見守ることにしたのであった。









 紫苑が近づいてきたことと、六花が対する男たちの背後に周りこんだことに気づいた瑞穂と香澄の顔に少しだけ冷たさが見える笑みが浮かぶ。

「いい加減、どっか行ってくんないかな?」

「そうだね。待ってた人も来たし、邪魔しないでもらいたいかな」

「そう言うなよ。オレらランクDだし、アキヒロとかっていうそんなヤツよりもオレらと一緒に行けばすぐ強くなれるし稼げるぜ? ほら待ってるっていう彼女も一緒にさ」

 瑞穂と香澄の口から出る言葉は、内容は変わってきたものの一貫して拒否である。

 対して男たちの言葉は内容も意図するところも変わらない。

「ランクDっていってもピンキリなんだってのが、よく分かるよね。むかつく」

「ベントさんたち強かったし、いい感じだったもん。それはそれとしてイライラする」

「不能にしたくなりますね。それにしても、私にだけしか気づかないとはランクDとは何なのかと思わざるを得ません」

 斜め後ろから聞こえてきた不吉な雰囲気の言葉と棘のある物言いに若干苛立ちが表れた男たちであったが、紫苑の姿を見た瞬間にそれは消え去る。

 何とも分かりやすい反応であった。

 余談だが冒険者がランクDとなる条件は、その人物が一定以上の実力を持っていて、指定されている一定以上の依頼数をこなしており、冒険者として最低限の品性を有していることだ。勿論、冒険者が品行方正であるに越したことはないが、そこまで求めると組織が立ち行かなくなる。なので冒険者ギルドはランクDへの昇格条件を今のように定めているのであった。

「おいおい何をわけ分からないことを言ってるんだ? それよりもさ、キミも一緒にオレらと行こうぜ」

「はぁ。本当に気づいていないんですね。彼女たちからは丁度見えない位置ですし、このようなことは初めての経験でしょうから仕方ないにしても……ため息しか出ません。本当にあなた方はランクDなのですか? それにその程度で彰弘さんをそんな奴呼ばわり? ありえませんね」

 気配を周囲に溶け込ませた六花は既に五人の男たちの後ろで出番を今か今かと半眼で待っている。

 ルクレーシャたちはこの状況だから仕方ないかもしれないが、仮にもランクDであるならば、まだまだ気配を周囲に同化させる技術に改善の余地がある六花に気がついてもよさそうなものだ。

 もしこの男たちベントたちと同等の、いやそれより劣っていてもランクDならば大抵の者が、すぐ後ろに近づいた六花に気づいただろう。

 要するにこの男たちはランクDではあっても、そのランクの中では最底辺だということであった。

「さてさて、もう終わりにしよっか」

「うん」

「着いたばかりですが賛成します」

 瑞穂の言葉に香澄と紫苑が同意する。

 そして、それは当然六花も同じだ。

「必技。膝カックン五連撃! ていっていっていっていっ、も一個ていっ!」

「な!?」「は!?」「が!?」「え!?」「あ!?」

 突然背後から聞こえた声に戸惑いを見せた男たちの膝裏を打撃が襲う。

 身長差故に己の膝ではなく、握り締めた小さな両拳で放った六花の打撃は抜群の効果を発揮した。タイミングと威力は申し分なく、見事敵対者全員の尻を地面に落としたのである。

「……え?」

「嘘ですよね?」

「あるぇ?」

「おー。予想外すぎる」

 周囲が失笑する中、事を起こした、そして起こそうとした四人はこういう場合の定番である怒りモードになることを忘れて、ただただ地面に尻餅をつき呆然とする男たちに目を落とす。

 そしてそのまま少しの間、笑いが支配する奇妙な時間が流れるのであった。









 正しく苦笑という表現される表情が彰弘の顔に浮かぶ。

 傍から見ても良いタイミングに良い打撃であったが、それでもあそこまで体勢を崩すことはないだろうと思えたのに、結果はご覧のとおりであった。

「出て行くには、良いタイミングだな」

「良いかどうかは分かりませんが、あの五人が本気で怒り出すまでに出て行くべきでしょうね」

 彰弘の言葉に応えるウェスターの顔に浮かぶのも苦笑である。

 それだけ滑稽といえる五人の男たちの姿だった。

 しかし当の本人たちからしたら滑稽では済まされないだろう。ランクDの冒険者であることを喧伝し誘った上での今なのだから堪ったものではない。

 事実、呆然とした状態から脱した男たちの顔は羞恥の赤色から怒りの赤色へと変化していた。

 流石に武器を抜いたりはしないだろうが、それでも何か起こる前に止めた方が良い。

「さてと、俺は行くが……どうする?」

 一応といった感じで彰弘が両隣にいるパーティーメンバーの面々に声をかける。

「行きますよ」

「わたしも」

「エレ。私たちも参りましょう」

「承知しました、お嬢様」

「リッカちゃん凄かったー」

 当然の返答を各自が返すのを見た後で、彰弘は笑い顔のまま自分を見ている年配の男へと視線を向けた。

「あんたがアキヒロだったのか」

「そういうことです。では、お騒がせしました」

 そしてそんな言葉を交わしてから歩き出した。









 立ち上がった男たちの顔は、誰が見ても怒っていると分かるほどに歪んでいた。

 それでも周囲の様子が落ち着いているのは、彼らに対応する相手が今見た程度の相手にどうにかされるような存在ではないと知っているからである。

「下手に出てりゃ調子に乗りやがって!」

 特に捻りも何もない言葉が一人の口から目の前にいる相手へと飛び出すが、それは誰に当たることもなく通り過ぎた。

 本来、それが当てられるだろう人物にとって、目の前の男たちは既に雑音程度にしかなっていなかったからだ。

 無論、雑音であっても完全に意識から外しているわけではないので、何か仕掛けてきたならば対応できる状態なのは流石である。

「そろそろ諦めてもらおうか。これから外に行くんでね。それにこれ以上は恥の上塗りだろうよ」

 背後からの声に怒りに顔を染めた五人が振り向いた。

 そこにいたのは彰弘たち六人である。

「ああん? 関係ねぇヤツはすっこんでろ!」

「そういうわけにはいかないな。メンバーが絡まれているんだ。リーダーとしては放っておけないだろ?」

 一瞬の間が空き、そして五人の男たちの顔に理解の色が浮かんだ。

 そしてそれと同時に声を上げる。

「ふ、ふざけんなーっ!」

 その叫びはそれまでの怒りとは別の感情が込められていた。

 自分たちは男ばかりの五人パーティーだ。それに対して今声をかけてきた男は、誰もが平均以上の容姿を持つ女たちが所属するパーティーのリーダーだという。

 これでリーダーだといった彰弘の容姿が特別優れているならまだ違っただろうが、その容姿は普通といったところだ。

 だからこそ、それまでの羞恥も怒りも忘れて叫んだのである。

 なお、このときの五人組は声をかけてきた彰弘にしか目がいっておらず、優れているといえるウェスターの容姿を認識していなかった。もし彼らがウェスターを見ていたら、また違った反応であったかもしれない。

「ま、叫びたくなる気持ちも分からんでもないが……目を醒ませ」

 少々同情しないでもない彰弘だったが、埒が明きそうもないと一瞬だけ魔物を、それも強敵を相手にするときに見せる顔を出す。

 そしてそれは狙ったとおりの効果を発揮した。

 頭に血が上っていた五人を冷静な状態に戻しただけでなく、これ以上この場で何かをする気を失わせたのである。

「じゃあ、さらっと退場しようか。ご迷惑をおかけしました」

 大人しくなった男たちを尻目に彰弘が周囲に向かって頭を下げ、彼のパーティーメンバーもそれに倣う。

 そしてその後で、彰弘を含む十四人は何とも自然な様子でその場を後にしたのである。









 ちなみにこの場に残された五人の男たちは、一部の男たちからの同情により昼から酒場に向かい、奢られるまま浴びるように酒を飲むのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



日を跨いでしまいましたが、そこはご勘弁を。


それはそれとしてCPUクーラーの威力を実感。

無事、CPU温度が何もしてなければ四十℃弱になりましたー。

これでまた戦える(何と?

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