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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
5.旅立ちへの準備期間
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5-01.【大人数パーティー】

 前話あらすじ

 グラスウェル魔法学園の卒業試験である闘技会。

 何故か日程にはなかったエキシビジョンが行われることになり、それに出ることになった彰弘。

 結果的には、それが想いという面でプラスに働く。

 そして数か月、六花たちは無事何の問題もなく卒業式を終えるのであった。





「ありがとう、アキヒロ。世話になったわね」

「ありがとうございました、アキヒロ様」

 昼過ぎで人がまばらな冒険者ギルドのパーティー関係の手続きを行うカウンターで用を済ませた彰弘たちは喫茶室へと移動する。そして、そこに着くや否やミレイヌとバラサが言葉とともに頭を下げた。

 三年間という長いようで短い月日を彰弘とともに行動した二人は、今日彼のパーティーから脱退するのである。

 元々ミレイヌとバラサは六花たちが卒業したら彰弘のパーティーから抜けるつもりであった。ただそれは、彰弘がそれを機に家族探しの旅に出ると話を聞いていたからである。だから多少事情が変わった今であれば、このタイミングでパーティーを脱退する必要はない。ないが、切っ掛けという面では悪くなく、結局のところ当初の予定どおりに二人はパーティーから外れることにしたのである。

「そう改めて頭を下げられるとなんか照れるな。こちらこそ世話になった。正直に言って、あのとき二人が声をかけてくれなかったら、今頃どうなっていたことやら……ま、とりあえず座って話そう」

 彰弘たちはそれぞれ飲み物を注文し受け取り、手近な丸テーブルへと向かい腰を下ろす。そして、一口飲んで口内と喉を潤した。

「改めて思い返してみると、本当に二人と会えて良かったと思うよ。ヘタしたら三年間独りだったかもしれん」

「そうかしら? 仮に私たちが声をかけなくても、あなたから声をかければ普通にパーティーを組めたのではなくて? あのときの力でも歓迎こそはされても断られることはなかったと思うのだけれど」

「そうは言うがな。ほとんど知識もないのにランクDやらにお願いするわけにもいかんし、かといって自分の子供くらいの年齢に、『パーティーに入れてくれませんか?』とは言いにくいもんだ」

 彰弘が最初に知り合った冒険者はランクDの竜の翼――今は昇格してランクCとなっている――であった。そしてその次に知り合いとなったのは、いずれもランクCパーティーの魔獣の顎、清浄の風、潜む気配という三つだ。

 それだけならば特に問題はないのだが、何かにつけて彼らは冒険者になりたての彰弘たちを気にして話しかけていた。

 結果、いつの間にか彰弘たちが話す相手は彼らの繋がりもあり、ランクが上の冒険者ばかりとなっていたのである。

 世界融合当時の彰弘の年齢は三十八。よく交流していたわけでもない十代のランクFやランクEにパーティーに入れてくれというのは、ある種の勇気がいることであった。だからといってよく話しかけてくれていたランクが上の者に、当時ランクがFでしかない彼がその話を持っていくのは、流石に厚かましいというものである。

「ああ、そういえばそうだったわね。一緒にいたから気にならなかったけど、あなたそんな年齢ですものね」

「お嬢様に同意します。ふとした瞬間にお見かけする落ち着いた態度がなければ、同年代ではないかと勘違いしそうでした。勿論、良い意味でです」

「年が枷になっていないようで良かったよ」

 くすくすと笑うミレイヌと微笑むバラサに、彰弘も笑みで返す。

 両者の表情に含むところはない。ただ単に軽い笑い話として口にしただけなのであった。









 年齢の話からはじまり大討伐など、これまでの様々なことで談笑していた三人の話題は、やがて今後のことについてとなっていった。

「ところで、二人はこれからどうするんだ? 一応、しばらくは冒険者を続けるとは聞いているが」

「そのつもりよ。次は四人パーティーになりそうね」

「四人? もう誰と組むか決まってるのか」

「まず間違いなく、カイエンデ様とセリーナ様と組むことになるかと」

 バラサの口から出てきた名前に彰弘の目が少し大きくなる。

 彰弘の頭に浮かんだ人物は、ケルネオンで知り合い邪神の眷属の攻撃を防ぐ役割を果す魔導具を作ってくれたエルフの魔法使いであるカイエンデ・ルーンバーンと六花たちの友達であり魔導具製作者を目指すセリーナ・クラルであった。

 そしてその想像は間違っていない。

「多分、あなたが想像した人物で間違ってはなくてよ。ケルネオンで知り合ったカイエンデさんと今年グラスウェル魔法学園を卒業したセリーナさんが今後私たちとパーティーを組むことになる予定ね」

「カイエンデさんはともかく、確かセリーナって子は冒険者志望ではなかったと思うんだが」

「そうらしいわね。何でも卒業試験作品を見て彼女は有望だとかで話を持ちかけたらしいわ。で、より良い魔導具を作るためには魔力量とその扱いが上手くないといけないと説得……でいいのかしらね? まあそれで弟子したということらしいわ」

 ある一定までの物なら多少の魔力操作ができれば問題なく魔導具を製作することはできるが、より複雑でより完成度が高いものを作るにはその製作者の魔力関係の実力がものをいう。

 冒険者となり魔法で魔物を倒すようになれば魔力操作は否応なく上達させねばならないし、倒した魔物から魔素を吸収することで保有魔力の上限も上がる。つまり、冒険者となって魔物を魔法で倒すことが、魔導具製作者として上に行くには近道であり必須ともいえるのであった。

 もっとも、実際のところは一流以上を目指すのでなければそこまでする必要はない。ただ、カイエンデはセリーナにそこに到達できるだけの可能性があると見て取り弟子にならないかと持ちかけ、彼女がそれに応えたのであった。

 ちなみに魔導具製作者には手先の器用さは勿論必要だが、それについてセリーナは問題ないらしい。

「素直に良かったと言っていいものかどうか悩むところだな」

「まあ、本人が応じたのだからよいのではなくて? 超一流の魔導具製作者の下で修行ができて給金も出るって話だし。そこらの工房に入るよりは余程恵まれた環境よ」

「あえて言えば、魔物と戦う必要があることが難点ではありますが、それもカイエンデ様が付きっ切りらしいですから。それも頃合いを見て止めるようです」

「何にせよ彼女にとってはチャンスというわけだ。是非ともものにして欲しいもんだな」

 今の彰弘は掴んだ幸運を自身を鍛えるという努力でものにしてきたという経緯がある。だからこそセリーナもその幸運を活かしてもらいたいと考えたのであった。

 そして幸運といえばミレイヌとバラサも幸運といえるのではないだろうか。

 カイエンデの実力は戦闘関係しかり魔導具関係しかり、一流を超えた先にあるのだから。

「さて、それはそれとして二人がカイエンデさんと行動するかもしれない切っ掛けは何だったんだ? そんな話は今まで聞いていなかった思うんだが」

「今月のはじめにお願いしに行って、一昨日返事をいただいたのよ」

「お願い? それは聞いても問題ないか?」

「ええ、別に隠すようなことじゃないもの。私の方は陣魔法を教えていただけたらと思ったの。信頼できる仲間が近くにいない状況でも、なんとかできるようになりたいのよ。勿論、全ての状況に対応できるとは考えてはいないけれど、少しでも多くの状況に対応できるようになりたいの。まあ、最近魔力が見えるようになったきたとはいえ、普通の魔法もまだまだだから、そちらも要修練ではあるのだけれどね」

「私もお嬢様と同じようなものです。私の場合は弓矢を扱えるようになりたいのです。ですから別にカイエンデ様でなくとも手段はあるのですが、できるならより良い使い手にご教授いただきたい。それにカイエンデ様にお教えいただけるのならお嬢様と離れる必要がありませんし。後は効率的な身体強化などもお教えいただきたいと考えています」

 要するにミレイヌはバラサが近くにいなくても、その彼が自分を助けに来てくれるまで耐えれるように陣魔法で防御し持ち堪えられるようになりたいのである。

 一方のバラサは基本が前衛であるため、もし二人だけで敵と戦う場合はミレイヌとある程度離れて戦わねばならない。そのため、万が一ミレイヌが襲われて危機に陥ったときに多少離れていても攻撃できる手段が、また少しでも早く助けに行ける手段が欲しかったのである。

 ちなみに余談だが、グラスウェルの近くでは人を襲う飛行可能な魔物は滅多にいないため、それが目的で弓を扱えるようになろうという者はほとんどいない。

「どっちも見た目は簡単そうなんだよなあ。陣魔法は魔力の導線で範囲を囲むだけに見えるし、弓も矢を撃つだけに見える。ま、あくまで見た目だけ、なんだが」

「伸ばした魔力の端と端を繋ぐのだけでも結構難しくてよ?」

「弓矢も標的に向けて真っ直ぐ撃つのは、なかなかに難しいものです」

「分かってるさ。だから、あくまで見た目だけ、だ。ともかく、二人の行き先に今のところ不安はないわけだ。それが分かって安心したよ」

 ミレイヌとバラサがパーティーを組みたいと話しかけてきたときのことが一瞬脳裏を過ぎった彰弘だから一抹の不安を覚えていたのだが、それはどうやら杞憂のようであった。だからこそ彼の顔には穏やかな笑みが浮かぶ。

「何ていうか、こういう顔をされると私たちよりも倍以上生きていると実感するわね」

「同意します。稀に旦那様や奥様がお嬢様の前で見せる表情と似ています」

「喜ぶべきか悲しむべきか、少々困る反応をありがとう。とりあえず、もう暫く雑談でもしてるか。そろそろどっちかが来てもいい頃なんだが」

「今日は特にここで待つ以外の予定はないし、良くてよ」

「では、飲み物のお代わりをいただいてきます。同じ物で良いですか?」

 バラサが立ち上がり、ミレイヌと彰弘に確認をとる。それに二人は頷くと空になったカップを彼に渡す。

 それから暫くの間、三人はこれからのことを予想しつつ談笑を続けるのであった。









 雑談を続ける彰弘たち三人の前に置かれたカップの中身が半分くらいになったころ。冒険者ギルドの出入り口が開き、一組の男女が姿を現した。どうやら誰かを捜しているようで左右を見ながら歩いている。少しして二人は目的の人物を無事に探し当てたようだ。お互いに顔を見合わせてからゆっくりとその場へと向かっていった。

 そんな二人のすぐ後と言っても過言ではない短い間を置き、再び冒険者ギルドの出入り口が開く。今度現れたのは十一人。全てが女であり、こちらは先ほどの二人とは違い目的の人物をすぐに見つけたようである。

「彰弘さん、お待たせー!」

「アキヒロ、お待たせしました」

 そんな両者の代表が同時に声を出す。

 出入り口付近からの声は少し前にこの場へと来た一組の男女の耳に届き、その男女側から発せられた声は角度が良かったために出入り口付近の集団に届く。

 だからこそ、お互いがお互いに声が聞こえた元へと視線を向け、そして動きを止める。

 滅多にあることではない現象に思考が一時停止した両者であった。

「人気者ではなくて、アキヒロ?」

「今、他には職員とマスターしかいないことに感謝しているよ」

 頬杖をつき少々意地の悪そうな笑みを浮かべるミレイヌに彰弘が苦笑で答えた。

 一組の男女はウェスターとアカリである。こちらに関しては、まあ名前を呼ばれたからといって別段問題はない。

 しかし、もう一方の集団は全員が女であり、しかもその内の一人を除いて十代半ばといった年齢である。流石にこの集団から周囲に誰かいる状況で声をかけられるのは、できれば遠慮したい彰弘であった。仮にそれが六花たち四人とその友達に加えて彰弘の知り合いだったとしてもである。

 一夫多妻、一妻多夫が常識の範囲にある世界ではあるが、それとこれとは当然ながら別の話である。

「とりあえず、皆こっちへ来い。そんなところに突っ立ってたら邪魔になるからな」

 今の時間帯なら問題はないだろうが、それでも別の人が来る可能性がないわけではない。

 だから彰弘は自分がいる場所へと皆を呼び寄せる。

 そして、「まずは自己紹介からだな」と、集まった面々の顔を見てから呟いたのであった。









 一通りの自己紹介が終わり、そして状況確認に移る。

 まず六花と紫苑、瑞穂に香澄、それからクリスティーヌは予定どおり。ウェスターとアカリも同じくだ。

 想定外なのはクリスティーヌの御付兼護衛のエレオノールとベントの妹であるパール。それからルクレーシャにミナ、ナミ、カナの六人である。

 彰弘がまず目を向けたのはパールであった。

「ベントのところには入れなかったか」

「えっと、ランクEになったら入れてもらえることになってます」

「なるほどね」

 ベントにしても彼のパーティーメンバーにしても、パールを加入させることに否やはない。ただ身内が常に側にいる状態とそうでない状態では明らかに本人の意識に差が出る事実がある。自分の役割や立ち位置など、身内が近くにいるとどうしてもそれに頼ってしまうことがあるのだ。だから彼は自分のパーティーに妹を即加入させず、ランクEになったらという条件を付けたのである。

 勿論、グラスウェル魔法学園である程度の経験をパールは積んではいるのだろう。しかし学園でのそれは必ずランクD以上の、云わば目付け役が付けられた状態であり、身内とまではいかずともそれに近い状態なのである。

 ベントが出した条件は親心のようなものであった。

「ベントの考えは分からないではない」

 そう呟いた彰弘の視線が次に向いたのはエレオノールの顔である。

 彼女に関してはわざわざ聞くまでもないと思った彰弘だが、一応確認しておくことにいた。

「基本的にお嬢様が行くところが私の行くところであり望むことです」

「予想通りといったところか」

「ご慧眼、感服いたします」

 彰弘が苦笑気味の顔を見せるとエレオノールは何とも自然な微笑みを返してきた。

 クリスティーヌとエレオノールの関係は、男女の違いこそあれ言ってみればミレイヌとバラサのようなものだろう。

 クリスティーヌは貴族家の、それも領主の家の者だ。男であればまた別であったろうが、そう簡単に一人で出歩かせるわけがない。

「さて、最後になったが……」

 苦笑が残った顔の彰弘の目がルクレーシャたちに向けられた。

 パールとエレオノールはまだ分かる。だが、この四人に関しては全くの想定外であった。

「ご許可いただけるなら私たちもあなたのパーティーに加えていただけたらと思います。これから先も長くとは言いません。不躾なお願いであることは重々承知しておりますが、せめて私たちが冒険者として慣れるまでお願いできないでしょうか」

「慣れるまで……か」

 嘘は言ってないのだろう。ただ、それだけではない気もすると彰弘は感じた。

 だからというわけではないが、何となく目を向けていた四人以外の面々の顔を見る。

 すると何故か香澄が僅かに目を逸らしていた。

「で、本音は?」

「ですから、まだ慣れるまでには至っていないので……」

「そうかもしれないな。でも、それだけじゃない」

「うっ」

 あからさまにに目が泳ぐルクレーシャに、その後ろで両拳を握り締め応援するような態度の三人組。

 やがて誤魔化すのを諦めたのかルクレーシャが口を開いた。

「……もっとカスミさんとお話をしたいのです。駄目、でしょうか?」

 卒業式の日の話では皇都へ向かう際に同行したいというだけであったが、僅か数日でその理由となっていたものが膨れ上がった結果が今のルクレーシャであった。

「どうしたもんかな、これは」

 もじもじとするルクレーシャを横目に、彰弘の顔はミレイヌへと向かう。

 彰弘としては全員をパーティーに加入させても良いような気はしているが、流石に人数が多すぎると思えたからだ。

「異例だとは思うけれど、パーティーの登録人数に制限はなかったはずよ。まあ、二つ三つのパーティーが一緒に動く感じでいけばよいのではなくて? 普通とは言えないけれど」

 明らかに面白がっている様子のミレイヌに若干の渋面を浮かべた彰弘だったが、その表情を元に戻すと想定外だった六人へと向き直る。

「とりあえず全員入れちまうか。不具合があったら、そのときにパーティー構成を考えよう」

 花が咲いたような笑顔を見せる者がいれば、やれやれ仕方ないと首を振る者がいる。また成り行きがいまいち飲み込めず口をぽかんと開けたまま動かない者もいた。

 ともかく。

 グラスウェル魔法学園を六花たちが卒業して数日が経ったこの日。

 二人が抜けた彰弘のパーティーは、過去に例を見ない人数のパーティーとなるのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



新章開始。

そう長くはならない予定。


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