4-EX07.【グラスウェル魔法学園―魔法使っちゃだめ?―】
前話あらすじ
大討伐が噂されるようになり彰弘の心配をする香澄たち。
だが結局のところ、彰弘が順調に強くなっていることから、大丈夫だと信じる方向に進むのであった。
「伝えることがあります。職員会議の結果、あなたたち四人は闘技会で武技戦クラス以外への出場はできなくなりました」
「……はい?」
第三学年の始業式と教室でのホームルームも終わった後、呼び出された相談室という名の進路指導室でスローナ先生に言われたことが理解できず思わず間の抜けた声が出てしまった。
正確には言われた内容は理解出来るけど、何故そうなるのかが理解できないといったところ。
そしてそれはわたしだけではなくて、一緒に呼び出された瑞穂ちゃんに六花ちゃんと紫苑ちゃんも同じ様子。
あ、スローナ先生というのは、第一学年のときのクラス担任で、第二学年のときは違ったけど、また第三学年でわたしたちのクラス担任となった先生のこと。魔法の基礎基本を丁寧に教えてくれた、とっても良い先生。
それはそれとして、ちゃんとした理由を聞きたいかな? 何て思ってたら紫苑ちゃんが聞いてくれて、それにスローナ先生も答えてくれた。
「理由はなんでしょうか? 私たちは魔法使いとしてこの学園で学んでいるはず。その私たちが武技戦クラスにしか出場できないとは、いったいどういうことですか?」
「簡単に言うと、あなたたち四人と他の生徒では魔法や魔法を組み込んだ戦闘の実力に違いがありすぎるのよ。今……というか入学の時点でここを卒業できる実力があったのよ? まあ、それは置いておくとして、闘技会は卒業試験でもある。けれどもそれだけではなく、親御さんに子供の成長を見てもらう場でもあるし、国や領やら貴族家のスカウトの場でもある。だから戦うのはある程度は近い実力同士が望ましい。分かるでしょ?」
ああ、分かるかも。
闘技会は自分をアピールする場という面もあるから、それなら目一杯自分の実力を発揮できる相手が対戦者であって欲しいと思うかも。
だって国や領に兵士として雇ってもらえれば将来が安定するというようなものだし。
兵士にならずに冒険者をやるって人でも、貴族の目に留まれば大分楽になるんじゃないかな? まあ、それはそれでその貴族専属みたいな感じになって大変だろうけど、援助なんかを受けられるようになれば、少なくとも飢えるようなことはないだろうし。もっとも、こちらは良い貴族の目に留まることが前提だけど。
「まあ、会議では、あなたたちに手加減をさせてはどうかという意見もあったのだけど……それは無理だろうという結論に達したわ」
「心外です」
「そう言われてもね。だって、あなたたち同士の対戦になった場合、まず間違いなく手加減なんてもの忘れるんじゃない? それに闘技会を見に来るんでしょ。保護者の方が」
苦笑に近い笑みを浮かべるスローナ先生。
ちょっと想像してみた。瑞穂ちゃんと戦う自分。六花ちゃんや紫苑ちゃんと戦う自分。そしてそれを見る彰弘さん。うん、スローナ先生の言うとおりかも。手加減して戦う自分が想像できない。
あれ? でもこれって、ひょっとしたら良いことかも? 思い返してみたら魔法を使わない戦いというのは暫くやってなかった気がする。学園が夏休みのときとかの長期休みには彰弘さんに模擬戦したもらったり、わたしたちだけの模擬戦も見てもらってるけど、それらは全部魔法をからめてたし。
「うっ。……仕方ありません。ですが、これは良い機会なのかもしれません。私たちにとって」
「かもしれないねぇ」
「比率、逆転させる?」
わたしが思いついたことはみんなも思いついたみたい。
本当の全力じゃないかもしれないけど、魔法を使わなくても戦えることを彰弘さんに見せることができるかもしれない。
これは彰弘さんのご家族探しの旅に付いていくのにプラスかも!
「納得してくれたということで、いいのかしら?」
そんなスローナ先生の言葉に全員で返事をする。
朝晩のジョギングはそのままでいいとして、魔法関係は魔力制御だけにすれば……うんうん。闘技会は十二月だし、なんとかなるかな?
「じゃあ、お疲れ様。気をつけて帰りなさい」
「はい。失礼します」
スローナ先生にお辞儀をしてから相談室から出る。
そして、わたしたちは寮への帰り道を歩きながら、今日からの修練スケジュールをどうするか話し合ったのであった。
寮に帰って着替えてから談話室に向かったわたしたちは、そこでいつものみんなとお茶しながら、今日スローナ先生に呼ばれたときのことを話していた。
「分からないでもないかな。まあでも、これで武技クラスの出場の男女比が改善されるってもんだ」
「ふっ。武技戦クラスの優勝はあたしが……いや、あたしたちの誰かがもらう!」
「そこは言い切るべきところじゃないか? ミズホ」
行商人の両親を持つセーラちゃんが瑞穂ちゃんに突っ込みつつ、にかっと笑ってクッキーを口に運ぶ。
セーラちゃんは両親と同じ職に就くことを決めたことで、その両親から街の外で活動するなら最低限自分の身は自分で守れるようになる必要があると、学園に入学させられたらしい。
護衛を雇えばそこまでの戦闘能力は必要ないんだけど、家訓なんだろうか?
さて、ちょっと余談だけど、卒業試験である闘技会は魔法だけ戦う魔法戦クラスと武技と魔法の二つを使って戦う魔技戦クラス。そして魔法を使わない武技戦クラスがある。男女の比率は毎年違うみたいだけど今年の女子は魔法戦クラスが一番多くて、男子は武技戦クラスに一番多く出場するだろうって話。
ちなみに魔技戦クラスは例年同様男女比半々くらいだって。
それはそれとして、今度はクリスちゃんが口を開いた。
「私たち学年の女子は魔法で、男子は武技の方が得意という方が多いですからね。それにしても残念です。一緒のクラスに出場するかと思っていましたのに」
「そうですね。ですが、私たちは今まで魔法の力に頼りすぎた戦い方をしていたように思います。だからこそ、今回のことは残念ではありますが僥倖でもあるのです」
紅茶を一口飲んでから、ほうと息を吐き出すクリスちゃんへと、紫苑ちゃんが答えた。
確かに紫苑ちゃんの言うとおりなのだ。残念ではあるけども、それだけじゃないのも事実だったりする。
なお、クリスちゃんは彰弘さんに似ているらしい今は故人の罠師でランクA冒険者だったトラスター・ルクレイドに憧れているガイエル伯爵家の次女だ。魔法も武技も成績上位な彼女は、その言葉どおり魔技戦クラスへと出場する。
ほんとはわたしたちもクリスちゃんと同じクラスに出るつもりだったんだけど、今となっては仕方ない感じ。
「あれだけ気合入れてたのに残念じゃない?」
「んー、残念は残念だけど。いい機会かも? って思う」
パールちゃんからの声に、六花ちゃんが緑茶の入った湯呑みを両手で持ったまま答えた。
六花ちゃんの隣に座っているパールちゃんは魔法戦クラスへ出場するみたい。昔助けてくれた冒険者に憧れて自分も冒険者を目指していると言ってたけど、その助けてくれたって人はどうやら彼女の実のお兄さんらしい。
春休みに彰弘さん家で近しい人たちだけ――それにしてはいろんなとこの神殿の偉い人とかもいたけど――の大討伐打ち上げをやったんだけど、そこでパールちゃんはお兄さんのベントさんに泣き笑いの顔でべったりだった。やっぱ、元気で無事に帰ってきて嬉しかったんだろうなー。仲の良い兄妹を見てほっこりした記憶が新しい。
大討伐といえば彰弘さんが無事に帰ってきて嬉しかった。存在すること自体が稀でランクCパーティーでも負けるかもしれないオークキングを一人で倒したってお土産付きだったから倍嬉しい。目立つのは嫌だって理由で公表もしないようにしたようだし、大討伐成功のパレードにも参加しなかったから、そのことを知っている人は少ないみたいだけど……うん、凄いよね!
そうそう、ベントさんは仲間と一緒にオークロードを倒したって。こっちもキングほどじゃないけど強い魔物って話。ランクDパーティーだと全滅の危険もあるとか……って、こっちも凄い! うん。
そう言えば、セイルさんたちはガイさんやフウカさんのパーティーと一緒にキングよりも強いエンペラーを倒したとか言ってたなー。
うーん、彰弘さんの周りってなんか凄い人が多い気がする。
まあ、それはともかくとして話を戻すと、わたしたち四人の気持ちは一緒。声には出していない瑞穂ちゃんも含めて、そう思っている。
「微妙に入っていけなくて、ちょっと寂しい感じですが、みなさん頑張ってくださいね」
「ありがと、セリーナちゃん。気にする必要はないよー。進路は違っても友達でしょ」
「うん!」
最後に言葉を発したのはセリーナちゃん。魔導具製作者を目指す彼女の卒業試験は闘技会ではなく、難易度の低い魔導具を十二月中には完成させること。
難易度が低いとはいっても基盤に刻んだ魔導回路が雑だったりすると発動さえしないらしいから、ある意味ではセリーナちゃんの卒業試験がわたしたちの中では一番難しいのかもしれない。だからかな? 第二学年になってからの彼女は険しい顔をしながら寮の部屋でよく練習していた。
でも、最近は少し慣れてきたのか、その険しさが和らいできている。勿論、真剣な表情ではあるんだけど、なんか楽しそうな感じなんだよね。
「何はともあれ、みんなで第三学年になれました。ですので卒業も揃って。ね?」
「勿論です」
「んじゃ、ご飯の前に恒例のジョギングだー!」
「おー!」
おとと。
セリーヌちゃんのことを考えていたら、いつの間にかそんな時刻になっていたみたい。
みんなで後片付けをしてから、一度部屋に戻り服を着替える。
そして、わたしたちは揃って学園の外周に沿って均された道を走るのだった。
なお、いつもだったらいるはずのルクレーシャちゃんたちが今日いなかった理由は、春休みの間に買った本を寮の部屋で読んでいたからだと、ジョギングに途中から合流してきた彼女に聞いた。
氷魔法の使い手が主人公のラブロマンスらしい。ちょっと読んでみたい。
まあ、それはともかく、今は体力づくりの継続と剣技の向上だ。
期間は短いし、どこまでできるか分からないけど精一杯やろう。
走りながらそんなことを考えていたら、ふと思いついたことがある。
もしかしてスローナ先生は、わたしたちが闘技会に出られるようにしてくれた?
だって、武技戦クラスってことは魔法を使わないという枷を付けることだから、これって言い換えれば手加減だよね。
もうこれはやるしかない。恩には結果で返す。
うん、がんばろ!
お読みいただき、ありがとうございます。
次回、本編に戻ります。
三人称も一人称も難しいねぇ。
それはそれとして章管理失敗してるので応急処置(章のタイトル変えただけ)
書き直せたら綺麗にしたいが時間はない。
とりあえず完結するまでは、このままで。