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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
187/265

4-95.【大討伐:終】

 前話あらすじ

 邪神の眷属、一件落着。

 そして彰弘の魔法が上達。





「大丈夫……でしょうか」

「大丈夫だと思う。アキヒロさんも並じゃないし、あれだけの人たちが追いかけていったし」

「ガルドちゃんも物凄い勢いだったしね」

 オークの死体を外されて地面に落ちた魔石を広いながらアカリが呟くと、隣でオークが持っていた武器を拾い上げていたミーミとベスがそれに答えた。

 今回の大討伐で最北の戦場となったこの場から、彰弘たちが走り去ってから二十分近くが経つ。

 少し前までは魔法が地面などに着弾する音や木々が倒されるような音も聞こえてきていたのだが、今ではそれもない。

 何らかの決着がついたのではなかろうかとの予想はできたアカリであったが、それが良いものなのか悪いものなのか分からず声が出たのである。

 とはいえ、判断できずに心配をしたからといって、それについて何ができるわけでもない。

「とりあえず今の私たちにできるのは、散乱した小物を拾って集めといてアキヒロさんが戻ってきたときに回収しやすくすることだけだね」

「そうそう」

 オークが持っていた武器を指定された場所に置いて戻ってきたミーミとベスが、二人揃って今度は胴体から切り離されていたオークの腕を両手で持ちアカリを見る。

 既に血が滴ることがなくなっているとはいえ、なかなかに猟奇的と思える光景であり、顔を向けられたアカリの頬が少々引きつく。

「そ、そうですよね。私、魔石を預けにいってきますね」

「はいはーい」

 軽く頭を下げた後でアカリはオークの腕を持った二人の前から離れ、集められた魔石の種類と数やその他の諸々を目録とするために記録しているケイスの下へと向かう。そしてそんな道すがら、「(未だに慣れない。他人のことより自分のこと、か)」と、彼女は心の中で呟くのであった。









 アカリが魔石をケイスに預けてから十数分後。彰弘たちの姿は彼らがオークたちとの戦いを行っていた場所にあった。

 戻ってきた当初は彰弘がガルドの上で寝た状態で装備もぼろぼろであったために良くない結果を覚えた戦場跡に残っていた者たちだったが、それは彼がすぐに起き上がったことに加えて、説明もされたことで解消されている。

 ちなみに今現在の彰弘は、予備として持ってきていたブラックファングの革でできた装備一式を身につけている。

 それはさて置いて、現在彰弘はオークの死体やら何やらをマジックバングルに収納している最中であった。

「地味に面倒だな」

 マジックバングルへの収納は彰弘が少しでも動かせる重さであることが絶対条件としてあり、これは自分のものであっても同様だ。他の条件としては誰かのものであった場合はその持ち主の許可が必要で、誰のものでもない場合は重量以外は無条件で収納できる。また基本的に生きているものは収納できないのだが、そこは曖昧なところがあり例えば微生物などは普通に収納できたりする。

 このような条件であるために、今の彰弘であれば普通のオークよりも大きいリーダー級やキング級であろうとも丸々一体を難なくマジックバングルに収納することはできるのだが、それには一つ一つ彼が直接手で触れなければならい。

 ここだけならまだしも、彰弘はこの後大討伐の主戦場となったオーク集落でも収納作業をしなければならないのだから、面倒だと零すのも分からない話ではなかった。

「相応の報酬を得られるのだから、そこは良しとすべきではなくて?」

「それは分かってる。理解も納得もしてるが、面倒なことに違いはないからな」

 皆が注目する中。最後のオークを収納し終えた彰弘は、続いて胴体から切り離されたオークの腕や脚といった各部位へと手を伸ばした。

 こちらは数十単位の部位が縄で縛られ繋げられている。彰弘が持つマジックバングルには個数制限があり、仮に前腕部と上腕部を入れた場合はそれだけで収納枠の二つを消費してしまう。なので大討伐が始まる前の事前説明で各部隊を率いる者へとそのようにすることが伝えられていたのである。

 縄などで繋げたり何かの箱などに入れておけば、その塊で使用する枠が一つとなるのだ。

 なお、このことの判定も生きているものと同様に曖昧であり、大きさの違いや傷の位置の違いなどは多少無視されるようで、それらは一つの枠に収納されるという感じであった。

 ちなみに、別種の前腕――例えばオーク前腕とゴブリンの前腕など――の場合は、当然ながら二つの枠が使用される。

「さて、これで後は武器とかか」

 言葉の後で思わずため息が出た彰弘は残る最後の小山に目をやり、そちらへと歩いて行く。そして黙々とマジックバングルへとオークが持っていた武器などを収納していくのであった。









 最北の戦場での戦利品を回収し終えた彰弘たちはオーク集落の中の指定場所へと向かっていた。当然、最も北に位置していた第二部隊の面々との合流も果たしており一緒だ。

 自分たちが戦った場の後片付けをしている最中にオーク集落の中での戦いが終わったとの連絡を受けたからである。

 そしてそんな道中にふと思い立ったようにミレイヌが彰弘に声をかけた。

「そういえば、何故来るときはアキヒロのマジックバングルを使わなかったのかしら? 物凄く今更なのだけど」

 実際、彰弘が受けた依頼では大討伐後の戦利品の回収は含まれていたが、大討伐へ向かう際の様々な物資については獣車を用いて運搬していた。

「聞いたわけでも説明されたわけでもないが、リスク分散と信用にマジックバングルの性能のためだろうな。後は……金の回りあたりか」

 効率という面でいえば確かに全ての物資などをマジックバングルに入れて彰弘が運んだ方が良い。だが彼が持つその魔法の物入れは現時点だと彼以外には動かすことができないと判明している。

 もし彰弘に全て運ばせて彼が何らかの理由で動けなくなったりしたら、大討伐自体が立ち行かなくなる可能性があるのだから、万が一を考える必要があったのだ。

 また彰弘がもし全ての物資を運ぶとなったら、他の冒険者などが抱かなくてもよい危機感を抱く可能性もあった。

 ちなみに、このマジックバングルの性能については、彰弘が隠すのを止めた時点で冒険者ギルドなどには、そのことを明かしている。

「なるほど。あなたにしか使えないとなると、どれだけランクに見合わない実力を持っていても、ってことかしらね。何も知らない人たちから見たら不平不満というよりかは危機感しか持てないだろうし、そっちの面のこともあるのかしら」

「あるだろうな。ま、俺がランクCとかBだったら、また別だったかもしれないが」

「そうね。後、お金についても納得できることではあるわね」

「えっと、どういう?」

 彰弘とミレイヌの会話にアカリが交ざり、その発言に周囲を歩く一部の者が聞き耳を立てる。

 二人の会話が聞こえる範囲にいた大抵の者はミレイヌが納得できると言った、金の回りについても思い当たったが、一部の者はアカリのように疑問符を頭に浮かべていた。

「別に難しく考える必要はなくてよ。今回で言ったら獣車関係になるけれど、もし彰弘が全てを運んでいたら、その獣車は必要がなくなる。ここまではよくて?」

「はい」

「じゃあ、少し考えてみて。あれだけの獣車はどこのものだと思う? それとその獣車を操る御者は、どこの誰だと思って?」

 ミレイヌの問い掛けに、アカリは下唇に人差し指を当てて考え始める。

 そして少し経ってから口を開いた。

「ギルドと総管庁……と思いましたけど、あそこまでの数は持ってないんですよね?」

「ええ」

「となると……いろんな商会?」

「ご名答。もしアキヒロが全てを運んでいたら、その商会にはお金が入らなくなる。まあ、通年で考えたら大儲けとはならないでしょうけど、それでもある程度の稼ぎにはなるはず。そうすれば後々の経済に多少は良い影響を与えるのではなくて」

「なんとなく? 分かるような気はします」

 勿論、獣車を都合した商会が稼いだ金銭を貯め込み活用しないという可能性がないわけではないが、そのような商会が持つ獣車などは真っ当なものである確率は低い。冒険者ギルドや総合管理庁もそれらを考慮して、しっかりと取引する商会を選別していた。

 もしまかり間違って契約した獣車が粗悪品であったら、それぞれが損害を被るだけでなく、大討伐に参加した全員に、ひいてはその後ろで生活する人々にまで悪影響が及ぶ可能性があるのだから当然のことである。

「そんなところだろう。ギルドとかにしてみればできるだけ出費は抑えたいが、街のことを考えると袖があるのに振らないわけにはいかない、って感じか。だからこそ戦利品は可能な限り持ち帰って利益をってところなんだろう。まあ、一応ギルドでも魔法の物入れは用意すると言ってたから、保険扱いだな俺は。……さて、お仕事といくか」

 話題の締めとばかりに声を出した彰弘が諦めたような顔で、山と詰まれたオークの死体を見る。

 軽く一千体を超えるオークをこれから収納しなければならないのだから、その労力は並ではない。

 なお、この後更に別の場所でも収納しなければならないオークの死体があると聞いた彰弘は、この件に関しての依頼報酬増額を交渉することに決めたのであった。









 翌日。深遠の樹海に築かれた大討伐のための拠点の中央付近で大きな青白い炎が立ち上がっていた。

 これはこの大討伐で命を落とした冒険者や兵士を葬送するための炎である。

 グラスウェルに、またはファムクリツへと帰還してからでも良いではないかという声もあったのだが、それを行うには送らねばならない人数が多すぎた。

 ゴブリンの集落に向かった人員で死者はいないし、オークの集落を囲んでいた第二部隊と第三部隊では死んだ者がいないわけではなかったが少数である。

 しかし、オークの集落に突入した第一部隊の被害が大きかった。およそ三千名が集落に突入したわけであるが、その実に二割もの人員が戦死したのである。特に南東側からの突入部隊の被害が大きい。オークエンペラーに率いられたオークたちに先陣とそれ以外に分断させられ混乱した南東側部隊は、それを治められぬ内に大きな被害を出してしまったのである。最終的にはオークエンペラーを討ち人種(ひとしゅ)側の勝利で終わったものの被害は甚大であった。

 今回の大討伐での死者は七百名弱。そして四肢のいずれかを欠損した者の数も四百名を超えた。

 とてもではないが、遺体を街にまで運ぶことはできないかったのである。

 なお、死者となってしまった者を生き返らせることはできないが、四肢を欠損させてしまった者については、国から支給された義肢を装着することで日常生活なら普通の人たちと同じように生活できるようになる。金銭に余裕があり、また適正があるならばより優れた義肢を購入して冒険者を続けることも可能だ。

 ともかく、今回の大討伐で戦死した者については、この深遠の樹海に築かれた拠点で葬送されるのであった。









 寝泊りする場所に指定された仮設の建物の壁に寄りかかった彰弘はガルドを肩に乗せ青白く立ち上がる炎の柱を見ていた。

「あれが終わったら出発よ。疲れが残っているなら少しでも横になっていた方が良いのではなくて?」

「大丈夫なのですか?」

「問題ないさ。帰りは隊の中心部分だし、普通のオーク数体ぐらいなら相手にできる」

 疲れているのは間違いないが、だからといって動けないというわけではない彰弘は、自分の横に来て同じように壁へと寄りかかったミレイヌと、直立不動で立つバラサへとそう答える。

 オークとの戦闘や、その後の戦利品に関わるあれこれにより限界近くまで疲労していた彰弘であるが、一晩眠り万全とは言えないまでもある程度は回復しており多少の戦闘なら可能な状態であった。また、オークの死体を含む多量の戦利品を所持しているため、彼とそのパーティーは帰りの道中を最も安全であろう位置を進むことになる。

「それに見送るくらいはするべきだろ」

「……そうね」

 本人たちには幸いと言えるだろう。三人の知り合いに戦死した者はいない。

 しかし、ある意味では仲間といえる、ともに戦った者たちを葬送するのが今三人が目にしている青白い炎である。また一方的に負の感情を向けられていたとはいえ、一時的には行動をともにした若い男を送る炎でもあった。

 だからこそ、こうして見送っているのである。

「そろそろですね」

「ああ」

 三人が目にしていた青白い炎が、徐々に小さくなっていく。

 神の奇跡という魔法により、迷うことのない導を魂たちが昇って行くそれが終わろうとしていた。

 やがて炎が完全に消える。

「さてと、行くか」

 壁から背を離した彰弘が呟くと、ミレイヌとバラサがそれに従うように動き出した。

 ファムクリツから来た竜の翼や、その他の知り合いなどとの一時的な別れの挨拶はもう済ませていたので、この拠点を発つことに問題はない。

 彰弘たち三人は葬送を近くで見守っていたウェスターとアカリの両名と合流した後、集合地点へと足を向けたのである。

 なお、浅い部分であり大人数であったとしても深遠の樹海内という危険な場所での夜営は行うべきではないからこそ、葬送が終わり次第出発という忙しないことになっていた。この拠点のように防壁ともいえるものに囲まれているならまだしも、そうでないならば来るときに夜営をした場所のように、ある程度は周囲を見渡せるところまでは辿り着く必要があった。

 出発を翌日にずらすという案もあったが、これだけの戦える人数が長く街を離れているのは、あまり良いことではない。そのため、翌日の出発という案は却下されたのである。

 ともあれ、この後大討伐隊の大部分は深遠の樹海内に築かれた拠点を後にする。残るのは拠点内部に建てた仮設の建物などを後日回収するための準備を行う人員一千名ほどのみだ。

 こうして大討伐の主となる部分は幕を下ろしたのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



二〇一八年 三月 十日 二十時 六分 修正

最後の部分をちょっと修正。

話の流れに変更はありません。

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