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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-93.【大討伐:一難後一難】

 前話あらすじ

 第一弾救援到着。そして第二弾の救援となるセイルたちが出発。





 戦力がおよそ二倍となり彼我の戦力差は縮まった。

 彰弘については未だ一人でオークキング一体とオークジェネラル数体を相手に孤軍奮闘であり相手の数を減らすには至っていないが、それ以外の場所では地に伏し動かなくなるオークが増えていた。

 ウェスターとジェールのところでは、ケイス率いるランクCパーティーが流石の働きを見せ、残る相手はオークロードとオークジェネラルがそれぞれ一体ずつとなっている。そしてその残る二体も既に深い傷を受け、後は長くない状態だ。

 ベントたちのところも動くオークの数は減っていた。元から戦っていたベントたちも救援に駆けつけたレグル率いるランクDパーティーの面々も突出した攻撃力があるわけでない。しかし、実力は確かなもので着実にオークを屠っている。

 そしてミレイヌが率いる形になっている後衛も戦況を優勢に進めていた。オークリーダーはまだしもオークジェネラル相手では力不足だと自分たちの力を判断した救援者であるランクE十名が、守り重視で仲間と連携しオークを引きつける役目を担い、それまで防戦一方であったバラサとナリウスを攻勢に転じさせたのだ。その結果徐々にではあるがオークの数を減らしていき、劣勢から優勢へと移っていったのである。

 なお、救援の案内役を務めたエダムも隠れていたわけではない。積極的に戦いの中心へと入ることはなかったが、ガルドを登ろうとする単独のオークリーダーを攻撃し引き摺り下ろし、辛うじてだが相手取り魔法使いや弓師の的にし倒している。

 ともかく、数では劣るものの彰弘のところを除いて戦いの情勢は人種(ひとしゅ)側の優勢へと傾いくのであった。









 場の雰囲気が多少だが良くなったように彰弘は感じた。そしてそれは事実だと敵対する相手の様子から確信する。感じ取れる気配とでも言うべきものもそうだが、何よりもオークたちの苛立ちが彼の目に映ったからだ。

 もっとも、だからといってそれがすぐ彰弘に有利となるわけではない。少しでも気を抜けば殺されてしまうオークたちの攻撃は続いているからである。

 だが、そんな中でも彰弘は活路を見出していた。苛立ちによるものか、つい先ほどよりも振るわれる攻撃が大振りになってきているのである。

 戦い始めてから今まで、オークキングどころかオークジェネラルの防御を貫くだけの魔力を血喰い(ブラッディイート)魂食い(ソウルイーター)という魔剣に流し込めずにいた彰弘だったが、オークたちの攻撃が僅かに大振りとなったことで辛うじてオークジェネラルならば斬れるだろうだけの魔力を込める時間ができた。

「(まず一体)」

 口には出さずに呟いた彰弘は、右上段から振り下ろされる斧を掻い潜りざまに一閃を見舞う。

 果たして、オークジェネラルの胴体は半ば切断された。

 続けてその後ろに位置していたオークキングにも攻撃を加えるも、そちらは僅かに斬り裂いた程度で、彰弘の手に痺れを残しただけだ。

 オークジェネラルを屠った後に魔力を再度魔剣に補充はしたが十分ではなかったのである。

 結果に落胆することなく、彰弘は反撃として振るわれたオークキングの剣を横から叩き軌道を逸らして回避。続いて襲いくる別のオークジェネラルが放った棍棒を後ろに跳躍することで躱した。

「(やはり、そう簡単にはいかないか)」

 動きながらで可能な限度まで魔力を魔剣に注ぎ込んだ彰弘は、次の隙を窺いつつ斧や棍棒による攻撃を回避し、剣によるそれを受け流す。

 そして数分。二度目の機会が訪れ、ここでも確実に一体のオークジェネラルを仕留め次の行動に移ろうとしたとき、ふいに彰弘が身体のバランスを崩し膝を着いたた。

 つい数瞬前に殺したオークジェネラルの腕を迂闊にも踏みつけてしまったのである。

 それほど長くない戦闘時間とはいえ、一瞬の気も抜けない時間を経たことにより彰弘の集中力が僅かに切れたことが原因だ。

「ちっ」

 思わず声が出る彰弘だったが、起きてしまったことは取り返せるものではない。

 そしてその隙をオークキングやオークジェネラルが逃すわけがなかった。

 彰弘を囲んだオークたちは一斉に己の武器を大きく振り上げ、悉く自分たちの攻撃を防ぎ避けてきた存在を亡き者にしようとする。

 だが彰弘とて黙って殺されるつもりは、いや、元より殺されるつもりはない。

 オークキングと戦い出してから彰弘は最低限の魔力しか二振りの魔剣に魔力を注ぐことしかできていなかった。それが敵の苛立ちによりオークジェネラルならば斬り裂けるだけの魔力を注ぐことのできる隙を見つけ、そして今オークキングをも屠るだけの魔力を注ぎこむ時間を得た。

 彰弘は即座に魔力を二振りの魔剣に注ぎ込む。

 現在の彰弘が可能な最大限の魔力を注ぎこまれた血喰い(ブラッディイート)魂食い(ソウルイーター)ならば、一振目でオークキングの脚を切断し、二振目で屠ることが可能である。

 体勢を崩し膝を着いた状態であったとしても、攻撃ができないわけではない。

 だから彰弘は全力で二振りの魔剣に魔力を注ぎ込む。

 そして、後少しで攻撃というところで、彰弘にとっての幸運が舞い降りる。

 彰弘の後ろにいたオークジェネラルが地に倒れ、左右にいた個体全てが何者かの攻撃により弾き飛ばされたのだ。また、オークキングも振り上げた剣を振り下ろさずに一歩後ろに下がったのである。

 正にオークキングを斬り殺すに絶好の場が整った。









 彰弘がバランスを崩す少し前。

 オーク集落の中からの救援であるセイルたちが現場に到着する。

「なんて無茶してやがる!」

 戦場の様子に声を上げたのは先頭を走るセイルであった。

 魔法や矢の援護を受けて戦っている者たちは良い。また複数名で戦っている二つも良いだろう。だが、よりにもよって一際の威容を持つ個体と決して弱くはないと見える複数体相手に単独で戦いを挑む彰弘は無茶としか言いようがなかった。

「ミリアは後衛の負傷者を。ライもそこだ。ディア、アキヒロのとこへ行くぞ!」

「ステイル、ルッソは着いて来い。ガッソとジェルスはセイルたちと行け!」

「左側は不要ね。私らは後衛の援護に向かう!」

 僅かの猶予もないとセイルが自分のパーティーメンバーへと指示を出せば、それに遅れることなくガイとフウカも声を出した。

 それら言葉に従い全員が行動を開始した直後に彰弘がバランスを崩す。

 そしてその彰弘をオークが囲んだ。

「冗談じゃねーぞっ!」

「っ!」

 思わず口に出た言葉とともに、更なる加速をするためにセイルとディアが脚に力を、そして魔力を込め加速する。ガッソとジェルスも同様だ。

 しかし二人の走る場所から彰弘のいるところまでは、まだ五十メートルほどの距離があり、とても間に合うとは思えない。

「くそっ、耐えろよアキヒロ!」

 立った状態であれば例え囲まれていたとしても彰弘ならば何とかできるだろうが、残念ながら今はバランスを崩し膝を着いてしまっている。

 彰弘本人の考えはともかくとして、他人からは正に万事休すに見える状態であった。

 しかし、その状態は大討伐に参加した最速の二名により脱することになる。

 全速力で駆けるセイルとディアの脇を疾風のように何かが通り抜けた。

 ランクBパーティー、穿つ疾風所属のモニカとシスである。

「わたしたちなら!」

「間に合う!」

 セイルたちがその声を聞いた一拍後、彰弘の後ろのオークジェネラルが血を噴き上げ倒れた。その一瞬後には、彼の左右にいた四体のオークジェネラルが弾き飛ばされ、オークキングが一歩下がる。

 精神が未熟であったため、オークエンペラーにより心を折られかけた二人であったが、実力は正にランクBであり、そこに口を挟む余地はない。

 そしてこの二人の働きにより、彰弘がオークキングを斬り殺す最大の好機が訪れた。

 彰弘の右手の血喰い(ブラッディイート)が禍々しく赤黒い光りを纏い、左手の魂食い(ソウルイーター)が恐怖を呼び起こすかのような純白の凍てつく光りを放つ。

「感謝する」

 可能な限り魔力を注ぎ込んだ二振りの魔剣を手にオークキングを見据えた彰弘は、その言葉とともに地面を爆ぜさせる。

 荒々しく突進し魂食い(ソウルイーター)をオークキングの腹部に突き刺し、前のめりになりかける胴体に釣られて下がる頭を血喰い(ブラッディイート)が刎ね飛ばす。

 一瞬の出来事であった。

 そしてこれが、この戦場の勝者を確定させる。

 オークキングが討たれたことにより他のオークは動きが鈍り、次々と討伐されていく。第二の救援が来る前には瀕死だったオークロードはもとより、それまでほぼ無傷であったもう一体のオークロードも。また残っていたオークジェネラルやオークリーダーも、その全てがオークキングが地に伏した後、数分という短い時間で動かなくなっていた。

 想定外であったオークの集団と彰弘たちの戦闘はこうして終わったのである。









「いくらなんでも、あれは無茶だろうがよ」

 仰向けにしたオークキングの腹部から魂食い(ソウルイーター)を引き抜き血糊を拭う傍らで魔石から魔力の補充を行う彰弘に、怒ったような嬉しいような何とも言い難い顔と声でセイルが話しかける。

「反省はしてる」

 短く返す彰弘の頭には、確かに今回の反省点が浮かんでいた。

 逃げるか逃げないか、逃げられるか逃げられないか。ガルドを引き戻すタイミングに戦い方。後、相手の出方。

 細かいところを挙げたらきりがない。

「とりあえず知識不足経験不足。それに力も不足だ」

 今後彰弘にできることは、オークのみならず他の魔物の習性や生態などを知識として持つことに場の流れを読めるようになること。そして今回のような危機に遭遇した場合に危なげなく乗り切る力を付けることである。

 彰弘は後二年足らずしたら家族を探す旅に出るつもりだ。そしてそのときには、まず間違いなく六花たちが着いてくる。今程度の自分では足りないだろうと考えていた。

「……やれやれだな。まあ、とりあえず何とかなったんだから良しとするか」

 彰弘の様子に何かを考えたセイルだったが、これだけの戦闘で死者一名のみの被害である。無論、負傷した者はいたが、それは手足などの部位欠損までではなく、ミリアの神の奇跡により完治していた。

「さて、解体するか。いや、今はアキヒロに持ってもらえばいいか?」

「ん? ああ、魔石からオークを離すのは面倒……セイル、俺から離れろ! 皆もだ!」

 セイルに頷き応えた彰弘が言葉の途中でふいに大声を上げる。そして上空を見上げた彼は、北側を睨みつけると手に持った魂食い(ソウルイーター)と再度引き抜いた血喰い(ブラッディイート)に魔力を注ぎ込み、誰の言葉を待つでもなく駆け出した。

「お、おい!」

 わけも分からずセイルが後を追おうとする。

 しかし、そのセイルを彼の後ろから駆け寄るライが止めた。

「駄目です、追ってはいけません! 異質な魔力が上空からアキヒロさんに繋がっています。まず間違いなくあれは魔法のための導線。恐らくあれはこの世界のものではありません!」

「もしかしてポルヌア!? このタイミングで? このタイミングだからか!」

 ライの言葉に続いたのはジェールだ。

 邪神の眷属がいるならば普通ではない気配が漂うはずだが、この場所は深遠の樹海であり、尚且つ今はオークの死体が散乱しているという普通ではない状況だ。少しくらいの気配の変化では誰も気づけなかったのである。

 勿論、これは邪神の眷属であるポルヌアが自分の気配を極力外に漏らさないようにしていたからだ。

「平穏と安らぎを司る守護神ルイーナ。御身が力を今ここに!」

 誰もが魔法として形を成すそれにただ視線を向ける中、ミリアが言葉を紡ぐ。

 そして神の奇跡と呼ばれる類の魔法が、上空に浮かぶ魔法と思しき黒い球体を薄水色の膜が覆った。

「ギリギリ間に合っ……!?」

 神の奇跡を行使したミリアは一瞬安堵の表情を浮かべたが、すぐに目を見開く。

 発動まで時間がないと、最低限の祈りで魔法名も唱えなかった神の奇跡だからこそ、対象の魔法が効果を発揮する前に覆うことができた。だが、十全ではない神の奇跡は当然それなりの力しか持ってはいない。

 その証拠に黒い球体を覆った薄水色の膜は、直後に放たれた黒槍を数秒間は防ぎ続けていたが、黒い球体の大きさが半分ほどとなるころに限界を迎えた。黒槍は膜に穴を空け、彰弘が走っていった方向目掛けて飛び出していったのである。

「くっそ、どうすりゃいい!」

「私がもっとしっかりやれていれば……」

「ミリア。あなたは最善の行動をしました。あれ以上では間に合わなかったでしょう。後は祈る他ありません。話に聞いただけですが、アキヒロは邪神の眷属の攻撃を防ぐ魔導具を身につけてるとのことです。仮にあれが別の誰かの魔法だとしても彼の魔法に対する防御力は並ではありません」

 セイルとミリアの言葉にライは応えるが、その声は若干震えている。

 ライにしても彰弘が心配であった。ミリアが顕現させた防御膜を破って飛び出した黒槍の数が話に聞いていた魔導具の数よりも遙かに多く見えたからだ。

「あの速さなら全てとはいかなくても、ある程度は避けれるはず。アキヒロさんが持つ魔導具は大体百個だから、最低でもその数は直撃しても大丈夫。無事な確率は高い」

 黒槍は遅いわけではないが速過ぎはしない。威力のほどは分からないが、それでも彰弘が無事である確率は高いように思えた。

 問題なのは、もしこの場にいる面々が想像した存在と彰弘が対峙したとして勝てるかどうか、生き残れるのかどうかということだ。

 だが、そのことについては誰も声に出さない。出したところでどうにかなるものではないし、余計な不安が膨れ上がるだけだと誰もが考えたからである。

「こうしてても仕方ねぇ。アキヒロの後を追うぞ」

「異論はないね」

「了解ですセイル。魔力が発せられた先は覚えていますから私が案内します」

「私も先頭を行きます。ライさんに直接戦闘は厳しいでしょうから」

 セイルの言葉にパーティーメンバーが同意する。

 そしてその行動には魔獣の顎と清浄の風、そして潜む気配も後に続く。

「私たちも行かせてもらうわ」

 三組のパーティーの後ろから声をかけたのはミレイヌであり、当然その近くにはバラサの姿もあった。

 実際にポルヌアとの戦闘になったら足手まといになるかもしれないが、だからといってこのままここで待っていることなど二人にはできなかったのである。

 なお、ベントたちパーティーやウェスターやアカリなどもミレイヌやバラサと似たような思いを持っており行きたそうな表情を見せていたが、負傷は癒されていても体力までは戻っておらず、彼らは同行を断念していた。

「付いて来い。だが、逃げろといったらすぐ逃げろよ」

「よくってよ」

「よし、それじゃ走るぞ。じゃあ、ここはあんたらに任せる」

 言葉の前半をともに行く面々に、後半をこの場に残るケイスたちと気を取り戻しただろうモニカとシスへと向ける。

 そしてセイルが気合の声を出す。

 それを合図にセイルたちは、オークの死体が散乱する戦場跡から魔法の着弾音が響く方向へと走り出したのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



二〇一八年 三月 四日 〇〇時〇二分 修正

誤)沈黙する気配

正)潜む気配

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