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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-91.【大討伐:戦場】

 前話あらすじ

 オーク集落の北側で多勢に無勢といえる彰弘たちの戦いが始まった。





 息も絶え絶えの状態で辿り着いた男一人と女二人という三人組の報告に、その場にいた者たちは我が耳を疑う。しかし報告の中にあった潜む気配というパーティー名から、それが事実であろうと結論付けた。

「彼らが追った痕跡の正体が北から来たと。それで全員が逃げ切るのは難しいから迎え撃つ。それで救援を呼ぶために君らを遣した。そういうのか」

「はっ、はい。相手の姿を俺たちは、直接見てません、が、ベントさんたちの、雰囲気も普通じゃ、ありませんでした」

 オーク集落の外、その最も北側に配置された部隊を率いるランクCのケイスという男は、だいぶ息が整ってきた報告者の内の一人であるエダムに確認をする。

 この場からエダムたち三人がいた場所。つまり今現在彰弘たちとオークの集団が戦っている場所までは二百メートル弱の距離があり、どのような事態となっているかを正確に把握することはできない。しかしほんの少し前から気配に敏感な者たちは、あまり良くない雰囲気を感じていた。

「手をこまねいている場合じゃないな。ここの者だけでは足りん。更なる救援……単独では危険か。リッツ。君は自分のパーティーを率いて集落の中に行き、可能なら救援を呼んで来い。もし中の戦闘が終わってない場合は、そのままそちらに参戦しろ。終わってたり、終わってなくてもこちらに来れる場合は、中からの救援とともに北へ参戦だ」

「了解!」

 ケイスの言葉を受け、リッツと呼ばれた男は自身のパーティーメンバーに目配せをするとオーク集落へと向かう。

 この部隊からオーク集落までは、ものの数十メートルしかなく、リッツたちはすぐに柵の前に辿り着く。そしてすぐさま自分たちが通り抜けるための空間を確保し始めた。

 オーク集落を囲う柵は頑丈ではある。しかしその柵は小柄な人種(ひとしゅ)であれば通り抜けられるだけの隙間が空いていた。そのため、リッツたちは魔法と直接打撃の合わせ技でそれほど時間をかけずに自分たちが通り抜けるだけの空間を確保することに成功する。

 そしてそれを一瞥したケイスは次の指示を出す。

「レグル、ウラト、ティオンのパーティーは私のパーティーとともに救援に向かう。残りはこの場で現状維持だ。パストル、ここは君に任せる」

 レグルはランクD、ウラトとティオンはランクEのパーティーリーダーである。

 これから向かう北にいる敵の戦力の最低がオークのリーダー級であるというのだから、本当なら全部ランクD以上の者としたかったケイスであるが、この場所から全てのランクDを連れていくわけにはいかない。

 未だオーク集落内での戦闘が終わったという報告を受けてはいない以上、逃げ出したオークを討伐するための最低限の戦力は、この場に残しておかなければならないからだ。

 だからケイスは自身のパーティーに加え、この部隊にいるランクDの半分を北への救援に向かわせることにした。

 ウラトとティオンの二つのパーティーについては、この場にいるランクEの中で上位の実力を持っていることもあるが、助けを求めてきた報告者の話を聞いても萎縮していなかったことから選んだ。話を聞いただけで尻込みするような状態では戦力として当てにならないと判断したからである。

 ちなみにパストルはランクDパーティーを率いる冒険者で、ランク相当の実力を持つ。

 ともかく、オーク集落の中へ更なる救援を呼びに行かせ、北への向かう人員も決まった。

「早速、北へ向かう。一人は我々の道案内を頼む。残る二人は中からの救援の案内を。案内後は守りに徹しろ」

「分かりました。俺が案内します」

 ものの二百メートル弱しか離れていない場所ではあるが、ここは樹海の中であり方角を間違う可能性がないわけではない、そのためにケイスは報告者の三人を戦場への案内役にしたのである。

 なお、最後の言葉は案内役をさせる三人に向けたケイスの思いやりであった。身体つきや雰囲気などから、この救援を呼びに来た三人が北の戦場で戦うには難しいと感じたからである。

「エダム……気をつけて」

「あいつみたいには駄目だよ」

「アスム、クスハ……。大丈夫、無茶はしないさ。そっちも気をつけてな」

 ケイスの言葉はありがたいが、それで安心できるものではなかった。

 守りに徹しろと言われても、あの場にいたら死ぬ確率が高いからとベントにより救援を呼ぶ役を与えられたのに、再びその場所へと戻らなければならないのだから心配になる気持ちは分からないでもない。

 しかしケイスに応えたエダムは若干強張りながらの笑みを残る二人に向けた。実力が足りていないのは既に分かっているから自らオークに攻撃を仕掛けるつもりはない。案内役を終えた後は言葉に甘えて仲間の邪魔とならぬように防御に徹するつもりだ。自ら進んで死にに行くような行動をするつもりは彼にはなかった。

 そんな三人の短いやり取りを見届けたケイスが救援に向かう合図を出す。

 彰弘たちが戦うオークを殲滅するには足りない数ではあったが、少なくとも更なる救援が来るまでの間は持ちこたえることができるだろう戦力が戦場へ向け駆け出したのであった。









 地に伏しているのはオークのみ。まだ戦いの途中ではあるが、彼我の数の差を考えたら上出来過ぎる経過であると言えるかもしれない。

 しかし、だからと言って、そこに安心できる材料はどこにもなかった。

 戦場の後方にはオークキング一体とオークロードが二体。それにその三体の取り巻きとでもいうかのようなオークがまだ数十体は動かずにいて、実際に彰弘たちと戦っているのは全数の約半分程度でしかないからだ。

「魔法使いと弓師は、こちらに向かってくる相手に集中なさい!」

 魔法を撃つ合間にミレイヌが輝亀竜であるガルドの甲羅の上で声を張り上げる。

 彰弘やウェスター、それにベントたちが相手にできているのは、現在およそ四十体ほど。残りはガルドの前に立つバラサや、彼と一緒に戦う草原の爪痕パーティーのナリウスへと向かって来ていた。

 なお、ここでミレイヌが指示を出しているのは、彼女が後衛の中で最もそれをするに適した存在であったからだ。

 本来ならランクCの者が、もしそれが敵わない場合はランクDの誰かが担うべきだろう。しかし、ランクCのフーリはどんなときでも間延びした話し方で、ウィークは若干声が小さく適しているとは言えない。ランクDのミーミとベスは以前のファムクリツ行の道中でのミレイヌを見てから彼女の前に出ようとはしない。

 勿論、必要に駆られればこの四人も指示を出すことに否やはないのだが、少なくとも現状では自分たち以上に適している存在がいるのだから、あえてそれをしていないのである。

 結局、それら理由があり、声の通りも良いミレイヌが指示を出しているのであった。









 上からのミレイヌの声は下にいるバラサやナリウス、それからオークに囲まれて戦う彰弘たち八人の耳にも届いていた。だが前者二人はともかくとして、後者の六人はその言葉が意味する状況を把握する余裕はない。

 彰弘はオークジェネラル二体を含む計十体と交戦中だ。ウェスターはその半分の五体であるが、こちらも一体だがオークジェネラルが交じっている。ベントたち三人のところには二十体ものオークが群がっており、またここにもオークジェネラルの姿が二体存在していた。

 なお、戦いが始まったときから気配を消していたジェールは積極的に相手を倒すことはせずに、動きを鈍らすことに力を注いでいる。相手の脚の腱を斬り裂き、一部のオークが持つ弓を使い物にならなくしたりと、地味だがある意味では最も重要といえる動きをしていた。

 そんな戦況の中、ナリウスはバラサに戦闘の準備を促す。

「バラサ君。早くも出番のようだ」

「はい」

 ナリウスの言葉はバラサも理解していることであった。

 だからこそ、ガルドの上からの魔法と射撃を潜り抜けたオーク数体と接敵した直後に二人は動ける。

「リーダー級程度が!」

 怒号とともにナリウスが手にした無骨な斧が唸りを上げた。

 輝亀竜の甲羅を素材に作られたそれは、無防備にも突っ込んできたオークリーダーに振り下ろされ、その頭を粉砕し胸部の中ほどまで喰い込む。

 ナリウスは喰い込んだ斧を抜くために絶命した相手を蹴り飛ばし、その後ろにいるオークリーダーの足を止めると、続けて横薙ぎに斧を振るった。

 その横ではバラサが無言で長剣を閃かせる。普通のオークではなくリーダー級ということで一撃では仕留められなかったものの、初撃で怯ませた隙に途切れのない二撃目で相手の首を斬り裂いた。そして左手横から迫る別の個体の棍棒を盾で受け止める。

「やるじゃないか」

「恐縮です」

 二体を易々と仕留めたナリウスは目の前で一時的に動きを止めたオークリーダーを見据えたままで隣へと賞賛を送る。

 そしてそれに、ナリウスよりも時間はかかったが同じく二体の敵を仕留め終ったバラサが応えた。

 予断を許さない状況ではあるが、とりあえずは順調だ。そう何人かが思ったとき、事態が動いた。

「グルォオァァアアアアッ!」

 いきなりオークキングが叫び声を上げたのである。

 それはこの場にいるオークたちへ総攻撃を告げる合図であった。

 オークたちの動きが一瞬止まり目付きが変わる。

 人種(ひとしゅ)であれば、気を入れ直したといったところであるが、それは戦闘状態である相手を前にして良い行為ではない。その一瞬の間にナリウスの斧は振り下ろされ、バラサの長剣が煌く。二体のオークリーダーが頭を粉砕され、また首を斬り裂かれ地に沈んだ。

 勿論、行動に及んだのはこの二人だけではない。

 彰弘は厄介であったオークジェネラル二体を左右に持つ魔剣で両断し、ウェスターも渾身の一撃でジェネラル級を屠る。そしてベントたちも手近なオークリーダー三体をそれぞれが倒していた。ジェールにしてもこのときは、好機と相手の首筋を切りつけオークリーダーを数体殺している。

 勿論、ガルドの上にいる魔法使いや弓師も動いた。殺せた数は少なかったが、それでも魔法を撃ち、矢を放ち敵に痛手を負わせたのである。

 一瞬の隙を突いた見事な動きであった。

 しかし問題がなかったわけではない。

 それは彰弘に敵愾心を抱き、この場に我を通して無理矢理残ったものの相手の威容に今の今まで動けなかった男が無謀にも攻撃を仕掛けたことである。

 普通の精神状態であったならば、まだ良かったかもしれない。しかしオークの集団に尻込みし、オークキングの咆哮で我を忘れて何の考えもなしに攻撃を仕掛けた。更に問題であったのは、その仕掛けた先の相手がオークジェネラルであったことだ。

 彰弘たち前衛を抜けたのはオークリーダーだけではなく、それらを指揮する立場のジェネラル級もいた。そしてそれと無謀な男の間には不幸なことに他のオークも味方もいなかったのである。

 結果は語るまでもなく明らかだ。

 無謀にもオークジェネラルへと仕掛けてしまった男は、相手に僅かな傷を与える事さえもできずに地に潰れ落ちたのである。

 本来、オークジェネラルという存在はランクCの冒険者でも多少は梃子摺る程度には強い。ランクE程度の実力しかない男がどうにかできるわけがないのだ。

 彰弘が一瞬の隙を突いて倒せたのは、これまで多くの魔物を屠り地力を上げていたことに加え魔剣の力というものがあった。ウェスターにしても元は兵士であり基礎的な技術を確かに修めており、また力を付けるという目的でこれまで普通の冒険者よりも積極的に戦ってきていたからオークジェネラルを先ほど倒すことができたのだ。ベントたちはまだジェネラル級を倒せてはいないが、それでもこれまでの力と経験の蓄積があるからこそ今戦えている。

 この、男にとっての最悪の結果は起こるべくして起こった自業自得のものであった。

「攻撃に集中なさい! 嘆いていても何にもならなくてよっ!」

 ガルドの上でミレイヌが声を上げる。

 言葉の先にいるのは、死んだ男のパーティーメンバーたちであった。

 冷たく感じるかもしれないが今はまだ戦闘の途中。しかも、これからが本番というべき時だ。

 言い方は悪いが、やる意味のない行動をして死んだ者を嘆いている暇はないのである。

「ここで何もしなければ次にああなるのは私たち。嘆くのは全てが終わった後になさい!」

 無謀で愚かな男とオークジェネラルの戦闘は一瞬で終わったが、全体ではこれから激しさを増していく。

 実際、声を張り上げるミレイヌと嘆く三人を除いた面々は今も戦い続けている。

 ミレイヌの隣にいるアカリやフーリにウィーク、それにミーミやベスの弓師勢は絶え間なく矢の雨を降らせているし、ガルドの前ではバラサとナリウスが奮戦していた。

 ベントら三人も厚くなったオークたち相手に一歩も引かず応戦し、ジェールも今は動きを鈍らす攻撃ではなく首筋などを狙い相手を殺す動きをし始めている。

 ウェスターは亀裂の入った元々持っていた大剣を捨て、彰弘に声をかけ手にした輝亀竜の甲羅を用いた大剣でこれまで以上に敵を屠っていた。

 そして彰弘はオークキングとの戦いの前哨戦とでも言うべき、オークジェネラル複数との戦闘に入っている。

 ランクE三人の弓矢と魔法では今相手をしているオークを殺すことは難しいかもしれないが、相手の動きを阻害することくらいならできるのだ。そしてそれは近接で戦う者たちの手助けとなる。

 ミレイヌが魔法の詠唱を始めた。

 これで戦いに復帰しないのならば、これ以上何を言っても無駄であると考えたのである。

 もしかしたら、もっと適切な言葉があるかもしれない。しかし今は、そんなものを探し言うよりも敵を倒す攻撃が必要であった。

「我が身に宿りし力の源よ、今が解放のとき。集え集え無成す紅蓮。一切の慈悲もなく消滅を誓う。『焼き尽くせ』!」

 魔力によりミレイヌの全身を靄が包む。そしてそれは前に伸ばした腕、その先の指先に集約され紅に煌く小さな火球を生み出す。

 ミレイヌの指先にいたのは彰弘に蹴り飛ばされ、彼から少し離れたオークジェネラルだ。

 紅に煌く火球が凄まじい勢いで撃ち出され、標的となったオークジェネラルがそれに気づく。そしてそれを自身の腕で振り払おうとするも、その行動は間違いである。

 ミレイヌがほぼ全ての魔力を注ぎこみ放った魔法は尋常ではない威力を秘めており、振り払おうとしたオークジェネラルの腕を接触した端から炭化させ胸部の中心へと向かい、最終的にはそこから上を崩し落としたのだ。

 オークキングとの戦いが決定しているといえる彰弘にとって、その結果は朗報であった。









 それぞれがそれぞれの敵を前に己が持てる力を発揮し戦い続け、辛うじて戦況を互角に維持していた。

 その様子にパーティーメンバーの死に嘆いていた三人は自身を奮い立たせるであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



二〇一八年 三月 四日 〇〇時〇五分 修正

誤)沈黙する気配

正)潜む気配

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