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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-90.【大討伐:接敵】

 前話あらすじ

 オーク集落の外側に配置された彰弘たちはその場所のために、何がごともない時間を経ていた。

 しかし、そんな彼らにの北側では脅威と成り得る存在が動き出していた。





 その気配を最初に感じ取ったのは誰なのか不明だが、それは問題ではない。

 重要なのは何者が発した気配であるかであった。

「ガルドっ!」

「(心得たっ!)」

 問題の気配を感じた次の瞬間というほどの僅かな間の後に彰弘が叫んだ。

 それに全て承知していると返したガルドは、彰弘の肩から彼の身体を揺らすほどの勢いで飛び出し、気配の発生元へと突進する。

 そしてそれから十数秒後。ガルドが向かった先で轟音が響き渡った。

 ガルドは彰弘と念話を使い続けることにより全てを語られずとも主の考えをある程度理解できるようになっており、それ故に主の意図を読み取り足止めとして気配の発生元へと突撃したのである。

「ベント。ガルドだけじゃ全部は止められない。」

 今現在、ガルドは身体を最大の大きさにすると、全長八メートル強の体高三メートル弱で横幅は四メートルほどの巨体であり、防御に関しても最高品質の魔鋼製武器を使っても普通のランクB程度では甲羅部分に傷を付けることは難しく、またそれ以外の部分も多少劣りはするが深く傷付けることは至難の業である。しかし攻撃に関しては体当たりや噛み付きに踏みつけと、竜種でありながらブレスのような特殊なものはなく、数を相手取るには攻撃方法という面で不足していた。

 そして彰弘たちが感じ取った気配は、明らかに集団であると窺い知れるものである。

 彰弘の言葉には、これらの意味が込められていた。

「了解。一つ二つ、おっかないのがいるってんじゃないよな、やっぱ。多少離れてはいるが……こりゃ逃げらんねーな」

「ああ、数が多いし速い。ここならある程度開けてるし武器も振れる。今はまだガルドに気を取られているようだが、すぐこっちに来るだろう」

「どうする?」

「その気配があったらガルドを戻す。そしてガルドには固定砲台の土台になってもらう」

「……そういうことか。おい、そっちで離れて攻撃できる奴はいるか?」

 ベントの視線が彰弘たちではないもう一つのランクEパーティーである飛翔する心のメンバーへと向く。

 彰弘にしてもベントにしても、相手の気配を感じ取ったときに逃げるという選択肢を考えはした。しかし気配を感じてからガルドが突撃するまでの間に近づいてくる気配の速さに、それを捨てたのである。

 勿論、今この場にいるメンバーの中には彰弘やベントなど逃げに徹すれば相手を振り切れるだろう者は複数いる。しかし逆に言えば、それ以外の者は追いつかれる確率が高いのだ。

 なお、足の遅い者をガルドに乗せて逃げるという考えもあったが、それには説明が必要で間に合わないだろうと結論に達している。

 ともかく、これら理由から逃げるのではなく、樹海の中で比較的広い空間である、この場所で迎え撃つことにしたのである。

「弓師が二人、魔法使いが一人います」

「魔法使い、射程は?」

「さ、三十メートルくらいです。グラスウェル魔法学園を卒業しています」

「よし。その三人はこの場に残れ。残り四人は救援を呼びに行け。数は百以上で強いと伝えろ」

 ローブを着た女がグラスウェル魔法学園の卒業生であるならば必要な実力を備えていることは間違いないだろうし、射程も現実的なものだ。虚偽という可能性もなくはないが、この場でそれを行う必要性は低い。なのでベントは彼女を戦力として扱うことにしたのである。

「ちょっと待ってください。何で俺が救援を呼びに行かなけりゃならないんです」

 ベントの指示に異を問う者がいた。

 それは救援を呼びに行けと指示された四人の内の一人で、最初の出会いから今まで彰弘を嫌い続けている十代後半の男である。

 その男の視線の先にいるのは彰弘だ。その顔が語るのは、何故あいつが残るのに俺は救援なのか、というものであった。

「あの人たちと同じことができないなら死ぬだけだ。行けっ!」

 気づいていないのか気づいていても無視しているのか、傍目では判断がつかない様子の彰弘を横目に捉えながらベントは有無を言わさぬ態度を示す。

 先の見回りと思しきオークとの戦いを見る限りでは、この四人がこれからすぐ後に起こる戦いに参加した場合は死ぬ確率は高い。それだけでなく、それによる影響で最悪全滅する危険さえある。

 勿論、普通のオーク相手に戦えていたのだから、彼我の数が同数以上であるならばベントも彼ら四人にではなく別の者に救援を呼ぶ役目を任せたかもしれない。しかし現実はこちらが少数で向こうは多数だ。そんな状況で普通のオークを一対一でも倒すのに時間がかかる者を戦力として組み込むことはベントにはできなかったのである。

 つまりベントは、自分たちも、そして実力不足の者も生き残る道を考え指示を出したのであった。

 しかし、その思いは異を問うた男には届かなかったようで、再び声を上げようとするところを仲間に止められていた。

 その様子にベントはため息を漏らす。そして追加で何かを言おうとしたところで横から声がかけられた。

「ベント、限界だ。ガルドを戻す」

 眉間に皺を寄せ鋭く前を見据える彰弘の姿に、ベントは決断を下す。

 それは自分の指示を受け入れた三人だけを救援へと向かわせるというものであった。

「そこの三人。そいつは置いていけ。弓師と魔法使いはガルドが戻ったら、その背に乗れ。そこから敵の数を減らすことだけ考えろ。前衛の援護は最低限でいい。こっちはこっちで連携する」

 最初に声をかけられた三人はお互いに顔を見合わせた後で頷いた。

 冒険者として悔しく思う心がないわけではないが、ベントの気遣いを無意味にするほど愚かではなかった。

 そしてその三人は再度頷き合うとその場に背を向け走り出そうとする。

 しかし、その後ろ姿に一つの声がかけられた。

「救援を呼びに行くなら、これを伝えてくれる。相手は全部オーク。最低がリーダー級で百体以上。それにキング級もいるって。情報元は潜む気配」

 走り出そうとしていた足を止め、思わず振り返る三人に「急いで!」と声が飛ぶ。

 それにより救援を呼ぶ役目の三人は脱兎のごとく駆け出すのであった。









 どのような理由で潜む気配の三人が現れたのかは彰弘たちの知るところではないが、彼らが加わり戦力は増強された。とはいえ多勢に無勢の状況は変わらず、相変わらず油断はできない。

「とりあえず、準備はできたな」

「ガルドの足止めのお蔭で、ボクたちも間に合った」

「後は助けが来るまで粘るのみ。敵さんにはできればこのままのんびりとしていてもらいたいもんだが……」

 彰弘、ジェール、ベントの順で口を開く。

 ガルドが戻って来てから数分が経っている。しかし、気配の発生元であるオークたちの姿は未だ木々の間に見え隠れする程度には離れていた。

 その理由はといえば、それはガルドである。

 いきなり突撃してきてロード級を含む数十体を死に至らしめた存在が、オークたちから見たら何の前触れもなく後退したのだ。警戒し歩みが遅くなるのは必然なのかもしれなかった。

 彰弘などはこの状況に、ガルドに足止めをしてもらう間に少しでも後退すれば良かったかと思いはしたが、それは後の祭りだ。今更、この距離に迫ったオークに背後を見せて逃げることは流石に危険過ぎた。

「ミレイヌ。距離五十で叩き込め。それが合図だ」

「良くってよ」

 彰弘の声に僅かに口角を上げ返すミレイヌの右腕は目の前まで持ち上げられていた。既に魔法を放つ準備は万端。彰弘の言う距離まで彼女の魔力は伸びている。

「フーリとウィークもよろしく。射程に入ったらがんがんとね。ボクは大丈夫だから」

「りょーかーい」

「分かった」

 魔法の物入れである背負い鞄の中に入れていた弓と矢を取り出し準備を終えていた二人がリーダーの声に応える。

 フーリとウィークも近接戦ができないわけではないがジェールほどではなく、今回の相手には力不足であったため、より得意な弓矢による攻撃を選んでいた。

「残りも各自射程に入ったら攻撃しろ。最初にも言ったが前衛は前衛で連携する。だから俺らの援護は最低限でいい。弓師と魔法使いは、ともかく、数を減らすことに集中しろ」

 ガルドの上で各々が、そしてその前であり地に足をつけている前衛を担うそれぞれも己の武器を確かめるように握り直す。

 そんな中、ジェールが忘れてたと彰弘に顔を向けた。

「間に合ったことに安心して、危うく忘れるところだったよ。あのオークの後ろに邪神の眷属がいるよ。今は姿を消してるけど」

「そうか」

「本当に!? って、何で、そんなにあっさり受け入れてんだよ」

 驚くベントとは裏腹に、彰弘はそのジェールの言葉を自分でも驚くほど冷静に聞けていた。

 これまで様々な話を聞きその可能性を考えていたからである。

 それに今という状況だ。

「今はこっちに集中しなけりゃ死ぬ。まあ、備えもしてあるから、ポルヌアに関してはそれを信じるしかない」

 ポルヌアの攻撃を防ぐ魔導具は国之穏姫命という正真正銘の神の手が加わったもので信じるに値する。

 彰弘にできることは今を凌ぎきり、いつか来るであろうポルヌアを屠ることであった。

「その落ち着きは年の功ってやつか?」

「何と言うか今の状況だと理想的な感じだよね、アキヒロさんは」

「どうだろうな? ……さて、来たぞ」

 苦笑とも取れる笑みを浮かべた彰弘の表情が引き締まる。

 彰弘の言葉どおりオークの集団が戦いの領域に足を踏み入れた。

 それと同時に頭上から声が届く。

「紅蓮の炎よ顕れ出でて貫き爆ぜろ!」

 ミレイヌであった。彼女の掌の先に大人の頭部ほどの火球が生まれ分裂し、即座に数十の小型火球が彼女の全面に展開される。

 そして……。

「ブレイズバースト!」

 その言葉とともに小型火球がオークの集団に向けて撃ち出された。

 ランクDでも、いやランクCでも驚くほどの錬度で行使された魔法は狙い違わずオークたちに着弾。あるオークの腕が消し飛び、またあるオークは胴体の一部が爆ぜ周辺組織を炭化させ跪く。

 離れた距離だと高を括ったか。小型火球を受けたオークのほとんどが軽くない怪我を負う。

 しかし絶命したオークは少ない。

 その事実にミレイヌは小さく舌打をすると、魔石から魔力を補充して次の魔法の準備に入った。

「ベント、ジェール、先に行く。ウェスター、必要になったら俺の名前を呼べ。バラサ、直下は任せる」

 両手に持った二振りの魔剣にいつもより魔力を多く流した彰弘は、そう口にしつつ膝を僅かに曲げる。

 そして返事を待たず、地を爆ぜさせ飛び出した。

「ランクってのは何なんだろうな。とりあえず……俺らも行くぞ!」

「背中は任せて」

「おおよ。負けてらんねぇからな」

「前に出過ぎるなよ、お前ら」

 ベントの声にパーティーメンバーが応え、草原の爪痕の三人が動き出す。

 弓師であるミーミとベスの二人はガルドの上で、残る一人はガルドの前で抜けてきたオークをバラサと一緒に撃退する役目だ。

「では行ってきます」

「お気をつけて」

「気をつけてください!」

 軽く振り向きそう伝えるウェスターへと、その場に残るバラサとガルドの上からアカリの声が届く。

 そしてその言葉に後押しされたかのようにウェスターは表情を引き締め直し、大剣を肩に乗せた状態で戦場に向けて走り出した。









 多勢に無勢な戦いは早くも乱戦となり始めていた。

 ともかく、こうしてオーク集落の北外側での戦いは幕を切ったのである。

お読みいただき、ありがとうございます。



二〇一八年 二月 三日 十九時十分 追記

邪神の眷属のこと書くの忘れてたから追記。


二〇一八年 三月 四日 〇〇時一三分 修正

誤)沈黙する気配

正)潜む気配

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