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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-89.【大討伐:オーク集落の外側】

 前話あらすじ

 全体の連携が取れない中でも奮闘する南東側部隊。

 その戦場の北側ではキング級よりも強いオークと、魔獣の顎と清浄の風が共闘し立ち向かっているのであった。





 大討伐が開始されてからおよそ二時間。

 オーク集落の外側の最も北に配置された彰弘たち十八名は、ほとんど何もやっていない状態であった。一応、一度だけ見回りだろうオーク五体と交戦したが、何かあったとしたらその程度で、掠り傷を負った者さえ皆無である。

「暇だな」

「油断は大敵だ」

 自分たち以外のランクEパーティーのそんな会話が耳に届いた彰弘は、昨日の会話を思い出し内心に気恥ずかしさを覚えた。

 大討伐出発の朝のことだ。早めに集合場所に辿り着いた彰弘たちは雑談の流れから、今回一緒にパーティーを組むことになったウェスターの目的というものを聞いた。そしてそのときに彰弘は「普通に狩りをするよりは魔物に多く会えるだろう」と彼に言っていたのである。

 しかし、実際は多くどころか逆に少ないという結果であり、正に穴があったら入りたい心境に陥る彰弘であった。

「なんで、そんな妙な表情をしているのかしら?」

 目聡いと言うべきか、彰弘の変化にミレイヌが気づき疑問を口にする。

 それに対して彰弘は一瞬だけウェスターに目を向けた。

 大討伐出発直前の会話を知っているものでなければ意味に気づかなかっただろうが、ミレイヌはその場にいたわけで、当然彼女は彰弘の動きの意味を悟る。

「ああ、なるほど。自分の口にした言葉が全くの的外れな現状に恥ずかしくなった。と、そういうことなのね」

 気を緩めたわけではないが、くすくすと笑みを漏らしてミレイヌが言うと、同じ場にいて話を聞いていたバラサとアカリが得心がいったと頷く。

 一方でウェスターはというと何とも曖昧な笑みを浮かべていた。彰弘の言葉に多少の期待がなかったわけではないが、大討伐の最中に魔物を狩れなかったとしても自身の目的が崩れることはなく特に問題はない。とはいえ何て声をかければ良いのか分からず、いろいろ考えた結果が今の笑みとなったのである。

「警戒を緩めるわけにはいかないが、話くらいはしてもいいだろう。ということで意味の分からない俺らにも、その話を教えてくれ」

 熟練と呼ばれるランクであるベントだったが、流石に二時間近くも変化のない現状には飽きてきたようだ。言葉どおりに警戒はしつつも話を聞く体勢に入る。そしてそれは彼のパーティーメンバーも、そして彰弘を敵視するような態度であった男とそのパーティーメンバーも同じであった。

 その様子に彰弘、ではなくミレイヌが手短に説明をする。

「ああ、そういうことか。集落への出入り口近くだったら、そうなったかもしれんがなぁ。後、ここが北側じゃなかったらなー」

「オークが逃げるにしても、やっぱ出入り口からだろうねー。壁じゃなく柵であっても、やっぱ向かうのはそっちでしょ」

「本来出入り口ではないところを通るのは困難。オークもそれくらいは分かってると思う」

「ですね。それに、もし仮に柵を壊して逃げようとしてもこっちにはまず来ないだろうね。まだ数キロ先とはいっても、こっちは中層へと向かう方向だから、逃げ出す奴らも避けるだろうし」

「とはいえ、オーク以外との戦いになるかもしれないから油断はできないからな」

 ミレイヌの話が終わった後の反応は、ベントから始まって彼のパーティーメンバーの幾人かを経て、またベントで終わる。

 現在、彰弘たちがいるのはオーク集落から北へ二百メートルほどの距離だ。この距離はある程度離れていると言えなくもないのだが、それでも大討伐対象となるほどにまで膨れ上がったオークの勢力圏の内である。そしてこの北側は、進めばその先に深遠の樹海の中層がある。更にいうとベントが口にしたようにオーク集落の出入り口からも離れていた。

 結論を言うと、集落のオークが最も逃げてくる確率が低い方向なのである。

 勿論、だからといって安全なわけではない。元々、今彰弘たちがいる辺りには、単体の戦闘力で考えたらオークよりも強い魔物が生息していた。オークの数が増え、その勢力圏が拡大したためにそれら魔物が一時的にこの辺りから遠ざかっているに過ぎないのである。もしこの大討伐でオークの激減したら、それを察知した元々この辺りを生息域としていた魔物が戻ってくるだろう。そしてそれは、彰弘たちが撤収する前かもしれない。

 ベントが締めくくりのように口にした「油断できない」は、ここに理由があった。

「確かにその可能性を忘れるわけにはいかないわね」

 ベントの意識が向いている先を察してミレイヌが少々露骨に気を入れ直すと、それに釣られるかのように、多少緩んでいた場の緊張感が増した。

 気を張り詰め続ける必要はないが一定以上の緊張感を持っていなければ、いざというときに動けない可能性がある。

「そういうわけですからアキヒロ。とりあえず今は、この大討伐が終わり無事に帰還できることに全力を尽くしましょう。あなたの昨日の言葉については、後日付き合ってもらうことで帳消しに」

 程好く増した緊張感の中でウェスターは彰弘に向き直り、そんな言葉をかけ微笑む。

 ウェスターの言葉の前半はそのままの意味。後半は大討伐後も彰弘たちとパーティーを組み続けるというものであった。

「それもそうだな。付き合いの詳しい話は戻ってからゆっくりしようか」

 ウェスターの意図を読み取った彰弘が笑みを返す。

 向けられた言葉を否定する理由はなかった。まず大討伐を終え、無事に帰還することに否やはない。そしてパーティーを組むことにも異論はなかった。

 現在、ミレイヌとバラサとで三人パーティーを組んでいる彰弘だが、狩りの場所を深遠の樹海に移そうとしており、戦力の補充が必要だと考えていたのだ。ウェスターなら実力には問題ないし、アカリについても最低限のものは持っていることが判明している。

 このような場であったが、ウェスターの言葉は渡りに船であった。

「さて、アキヒロさんの羞恥も消えたようだし? 最後まで気を抜かずにいこうか」

 場が一段落ついたと判断したベントが切り替えの言葉を発する。

 こうして彰弘たちは、未だに特に変化のない深遠の樹海の警戒に戻るのであった。









 オーク集落内での戦いも終わりに近づき、彰弘たちが僅かな休憩のようなものをとっていたころ。潜む気配の三人は未だに謎の痕跡を追って足を進めていた。

 三人の進む道中の様子は相も変わらずである。

 そこかしこに魔石だけを取られた魔物の死体が放置されており、冒険者の感覚からいったらなかなかに勿体無い。

「ジェール。ずれてるよねー」

「うん。ずれてるね」

 これまで深遠の樹海中層に向かっていると思われた痕跡が少し前から北西方向へと変わっていた。

「オークの集落から外れるように北東に。で、その後は中層……北へ。そして今度は北西に」

「そこから導き出されるのは……」

「集落の北側?」

 その会話どおり。何者かが通った痕跡はオークの集落を大きく迂回して、その北側に出るだろうと予想できるものであった。

 三人は意図が読めぬまま、更に追跡を続ける。

 そして暫く進み、ふいに先頭を歩いていたジェールが片手を上げた。

「ここで出てくるのか。それにあのオークたち」

 ジェールの視線の先、数百メートル。

 木々の隙間から三人にとって、それほど古くない記憶にある顔が見え隠れしていた。

 そしてそこには普通ではない様子のオークの姿が多数。

「遠すぎて断言はできないけどー。あれって」

「ん。多分、邪神の眷属。それにしてもあのオーク……キング級? はじめて見た」

 キング級と目される個体を筆頭にポルヌアの前で立ち尽くすオークの集団。そしてそれに向けて、掌を向けているポルヌアの姿があった。

 こちらに気づいた様子がないことに、ジェールたちは気配を周囲に溶け込ませるようにして、少しの間、成り行きを窺う。

 そうして僅かばかりの時間が経ち、動きがあった。

 ポルヌアが手を下げ、それと同時にオークの集団が動き出したのである。

「どうするのー?」

 フーリがジェールに問う。

 選択肢はいくつかあった。

 ポルヌアに仕掛ける。ポルヌアを見張る。オークに仕掛ける、後を追う。オークの進路を予想してその先にいる者に情報を伝える。

「戦う選択肢はないね。ボクらじゃどっちにも勝てない。彼女を見張るっていうのも今はない。彼女だけいたならともかく、あんなに多くのオークが動いてるんだ。となると……先回りか」

「同意」

「あ、オークが走り出したー」

 ジェールたちが行動を決めていた時間は僅かでしかないが、その間にオークの集団は走り出し、いつの間にかポルヌアの姿が消えていた。

「ヤバイ!?」

 ポルヌアがジェールたちの存在に気がついた様子はない。

 ジェールの言葉はオークの集団が向かう先に誰がいるかを悟ったためであった。

 メアルリア教の大司教であったリーベンシャータから聞いたポルヌアが彰弘を狙っているという話。

 昨年グラスウェルの一部であった彰弘の周囲に現れる少女の話。

 そして、それと同じ少女が深遠の樹海で目撃されているという話。

「オークを使って、あの人を?」

「時期が早すぎるとは思うけど、多分そうだ」

 ジェールたちにとって、彰弘というのは冒険者仲間でともに戦ったこともあり、一緒にいると何となく安らげるおじさんである。

 それだけでも見捨てるという選択肢はなかったが、今回は邪神の眷属も関わっているのだ。

 彰弘個人に対する三人の思いは別としても、ここで行動を起こさないわけにはいかなかった。

「ボクたちも走るよ」

「りょーかい」

「分かった」

 姿を消したポルヌアに襲われることを考えないではなかったが、ジェールたちはオークの集団に的を絞る。

 気配も分からず姿も見えないポルヌアを必要以上に警戒するよりも、今はそれが必要だと考えたからだ。

 無論、ポルヌアのことも警戒している。

 だが、まずはオークの集団をどうにかするべきだろうと判断したのだ。

「くっそ、早い!」

 走り出したジェールたちとオークの集団の距離は予想よりも縮まらない。

 元々の距離が離れていたこともあるが、行動選択の遅延が想像以上に大きかった。

 もしかしたら、自分たちよりもオークの方が彰弘と接触する方が早いかもしれない。そんな予感を感じつつも、ジェールたちは深遠の樹海の中を駆けるのであった。

お読みいただき、ありがとございます。

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