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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-87.【大討伐:南東側部隊の危機】

 前話あらすじ

 オークの集落へと突入した大討伐隊の第二陣の南西部隊。

 だが、そこにいたオークは想定よりも少ないものであった。




 光翼率いる部隊が南西の門からオークの集落に突入したのと同様に、南東側からも穿つ疾風というランクBパーティーを筆頭とした部隊が突入していた。

 オークの集落を襲撃するための大討伐隊の全人員が配置についてからの流れは、南西側も南東側も変わりはない。

 配置完了の報を受けた直後から突入口を広げるための魔法を準備し、門の様子を見つつ事前に決められた時間経過で魔法を発動。それからランクBパーティーを筆頭とした先陣部隊がまず集落に突入して奥を目指し、その後に残る人員が続く。

 そうして二つの場所から突入した襲撃部隊の動きもまた、南西側と南東側ともにそれほど変わりはなかった。違いがあるとしたら前者は倒すべきオークの数が少ないことに疑問を抱き注意しつつ慎重に奥へと進んで行ったが、後者は障害が少ないことにより穿つ疾風が侵攻速度を上げ、それに釣られて南西部隊よりも早く奥へ進んだことか。

 このような二つの部隊の行動の違いは、本当にオークの数が少なかったならば何の問題にもならなかったかもしれないが、実際のオークの数は決して少ないものではなかった。そしてこの侵攻速度の違いは、そのままオーク側にどちらが脅威であるかを印象付けてしまったのである。









 数の上ではほぼ互角であったが、南東側から突入した部隊は苦戦を強いられていた。

 普通の個体やリーダー級の個体であれば、今回襲撃部隊に配置された誰もがそれらオークを単体なら一人で屠れるだけの実力を持っている。勿論、弓師や魔法使いなど距離により苦戦することがあるかもしれないが、余程の失敗がない限りは可能であった。

 しかし今、南西側からの突入部隊は苦戦している。

 その理由はリーダー級よりも上のジェネラル級以上や、または希少やら特殊やらと呼ばれる個体が多く存在していたためであり、それに加えて側面から奇襲を受け乱戦となっているからであった。

「離れるなっ! 囲まれるぞっ!」

 少々梃子摺りながらもオークジェネラルを屠り、直後に襲い掛かってきた別のオークを左腕に装着したバックラーという種の円形の盾で弾き飛ばしたガイが声を張り上げる。

 南西側の先陣部隊に組み込まれていたガイが率いる魔獣の顎が奮戦し、その横では清浄の風が機敏にオークを倒していく。

「ガイ、右側と合流するよ!」

「了解だ!」

 自分のパーティーメンバーであるミーシャが少し離れたところで戦っていたパーティーの一人を今まさに殺そうと斧を振り上げたオークを射るのを見たフウカは、刺突で仕留めたオークから長剣を引き抜きざまに声を上げた。

「大地よ。我が意をもって槍となれ。『アーススパイク』!」

 フウカの言葉にグレイスが地面から土でできた槍を生やす魔法を発動する。

 土ではあるが魔力で硬度を増したそれは、右側十数メートル先のパーティーまでへの間にいたオークを串刺しにしていく。

 全てを仕留められたわけではなかったが、魔獣の顎と清浄の風がそこへ向かうに問題ないだけの数を屠っていた。

「助かりました。ありがとう」

 合流してきた二つのパーティーに助けられたパーティーのリーダーが感謝を述べる。

 その言葉に「気にするな」と返したガイとフウカは戦場を素早く見回す。

 後方に目を向ければ人種(ひとしゅ)よりもオークの方が多いように思える。そのことから先陣と後続は分断されていると考えられた。

 ならば魔獣の顎や清浄の風の周りはというと、大体半々といったところであったが、普通のオークとは違う個体が多々おり、数はそう変わらないのに人種(ひとしゅ)側の苦戦が見て取れた。

「こりゃまずいね。辛うじてパーティー単位では動けてるみたいだけど」

「ああ。パーティー単位では厳しいところがあるな。オークにリーダー級以上が多すぎる」

 戦列に復帰し、オークの頚部を斬り裂いたフウカが状況を口にすれば、跳ね飛ばした頭部の行方を見ることもなく次のオークへ斬撃を振るったガイが応える。

 並みのオークにリーダー級が加わっていても、それがこちらと同数であるならば先陣部隊に組み込まれた冒険者のパーティーや兵士の小隊が遅れを取ることはない。しかし相手は必ずしもそうではなく、その上で並のオーク以上の強さを持つ個体が襲い掛かってくる中にいたりする。先陣部隊の中で実力が下の方の者たちにとって、この事実は深刻なものであった。

「じゃあどうするよリーダー?」

「選択肢は一つだけだ。孤立しているパーティーや小隊と合流して、こちらの戦力を上げる」

「賛成だよ。なら次はあそこだ。グレイス!」

 フウカが示した先には、蹲る一人を守るように戦う数人の兵士の姿があった。

 グレイスが先ほどと同じように魔法で道を造ると、そこをオークを倒しながら魔獣の顎と清浄の風、そして先ほど合流したばかりのパーティーが進み苦戦する兵士と合流する。

 こうして不利となりつつある戦場で、ガイやフウカたちは奮戦するのであった。









 南東側の部隊が苦戦を強いられているそのとき、南西側でも激しい戦いが繰り広げられていた。

 しかしこちらは激しくとも全体として見れば苦戦をしている様子はない。側面からの奇襲による乱戦とはなっておらず正面からの激突であったこともあるが、南東側よりも並みのオークが多かったためである。

 この差は今現在戦う冒険者や兵士たちの知るところではないが、侵攻速度の差により南東側をオークが脅威に感じ、そちらに多くの戦力を向けたからであった。









「光翼はまだ動かないのか。さて、どうしたもんか」

 自分が率いてきた集団をライに任せて指示を仰ぎに来たセイルは、待機を言い渡されたことで一度はそこに戻ったが、再度戦場近くに来て戦況を見守っていた。

「どうもこうも、指示を待つしかないだろ」

 セイルの横で、こちらも光翼のリーダーから待機させられている冒険者が応える。

 光翼が動かないのは戦場の奥にいる、キング級と目される個体とその取り巻きが未だに動きを見せていないからだ。

 このある意味で安定した戦場において、自陣の被害を少なくするにはキング級の個体をランクBパーティーである光翼が押さえ討ち取る必要がある。

 ランクCのパーティーであっても、準備が万端で正面から対峙するならばキング級相手でも持ちこたえられ、場合によっては討ち取ることも可能であるかもしれない。しかしその条件は戦場となっているこの場で満たすことは、まず無理であった。

 だからこそ光翼は、相手が動いたときにすぐさま対応できるように、まだ動いていないのである。

「流石のランクBも戦場を突破しては無理か?」

「どうだろうな。できないことはないのかもしれないが、戦場にはロード級らしき奴もいるし、鎧袖一触ってわけにはいかないんじゃないか。多分動くとしたら、いくつかのパーティーやらが、そのロード級に向かっているのが見えるから、それが接敵したときじゃねぇかな」

 セイルと話す冒険者の言葉どおり、何組かの冒険者パーティーと兵士の小隊が、特定のオーク目指して戦い進んでいるようであった。

「ああ後、周りの状況か」

「探らせてるんだったか?」

「そうだ」

 事前調査から推測されている数に比べて、今現在南西側から入ってきたこの部隊と戦っているオークの数は明らかに少ない。南東側と半々になっていたとしても、この数というのは何かあると考えるに十分であった。

 だから光翼のリーダーは、パーティー単位で動いても問題ない実力を持ち、且つ足の速い数組に命じて、どこかにオークの集団が潜んでいないかを探らせているのである。

「なんとも歯がゆい、つーべきか何と言うか」

「ま、仕方なかろ。もしここ以外の近くに大集団でもいたとして、俺らまで目の前のオークにかかりきりになってたら奇襲からの乱戦で、いらない被害を受けるかもしれんからな」

「それは分かるんだけどな。って、何かあまり嬉しくない結果が来たっぽいぞ」

 セイルはそう言うと慌てた様子で光翼のリーダーに近づく、一つのパーティーの姿を真剣な表情となって見る。

 隣にいた冒険者も同様に気を引き締めて視線を向けた。

「南東側がヤバイ。理由は不明だが先陣と後続が完全に分断されてた。それで先陣は乱戦。結構やられてる!」

「穿つ疾風は?」

「そこまでは確認できていないが、向こうはこっちの倍以上で、並とは思えないオークが普通じゃない数いやがった。このままだとあっちは壊滅するかもしれん」

 息を切らせる報告者から届けられた内容に光翼のリーダーの顔が険しくなる。

 そしてそれから少し。別の方向へと調査に行っていたパーティーも複数組戻ってきた。

「南西から西は問題なし。大集団はいない」

「北西まで足を伸ばしたが同様だ」

「東方面はここから五百ほど先に大集団を発見。恐らく南東から入った部隊とオークが戦ってる。南東は問題なかったわ」

 最後に報告をした者の言葉から、この戦場から東で戦っているのは南東側から入った後続部隊だと思われた。最初の報告よりも幾分報告してきた者が落ち着いて見えたからだ。

 光翼のリーダーは報告を受けて黙考。そして戦場に一度目を向けてから口を開く。

「今、この場に到着している後続部隊は全て南東の救援に向かわせる」

 そして横にいる歴戦の兵という雰囲気の兵士へと顔を向けた。

 その兵士は心得たとばかりに頷く。

 部隊を分けるときを考えて、そのときはこの兵士が指揮を執ることが決まっていたからだ。

「アムリ隊長、お願いします」

「動くタイミングは悪くないな。後続部隊は我に続けっ! 南西の救援に向かう!」

 早速を声を張り上げる歴戦の兵の言葉に、セイルを含めた待機を言い渡されていた冒険者や兵士が行動を開始した。

 その様子の横で光翼のリーダーは最初に報告を持ってきた兵士へと声をかける。

「あなたは、ここで待機。まだここに到着していない三組を待ってから戦列に加わるように」

「分かったが……そっちは?」

「私たちはキング級を倒す」

 戦場に目を向けると、ロード級へと向かい進んでいた者たちが目的となるオークとの戦闘を始めている。

 後続部隊を率いることになった兵士の言葉どおり、今が動くに悪くない時だ。

 号令一つ。光翼が動き出す。

 南西側での攻防は最終局面を迎えた。

 この後、光翼は見事にオークキングとその取り巻きを屠ることに成功する。

 オーク集落の南西側での戦いは、大きな被害を出すことなく見事に人種(ひとしゅ)側が勝利したのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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