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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-84.【大討伐:壊滅したゴブリンの集落】

 前話あらすじ

 深遠の樹海の拠点で一晩を過ごした彰弘たちは、翌日皇都へ行っているはずの竜の翼のセイルと出会う。

 そして軽く話しをした後、大討伐が開始されたのであった。





 深遠の樹海に築かれた拠点を出発したのは六千名強の冒険者と兵士からなる混成部隊である。そしてその先頭を進むのは、本日未明にオークの襲撃で壊滅したゴブリンの集落を調査するためのランクB冒険者のパーティー一組が率いる第一陣三百名だ。

 当初の予定ではゴブリンの集落へと向かう第一陣は現在の人数の五倍ほどであったが、目的の集落が壊滅したとの報を受け急遽人数を調整した結果、今の数となったのである。

 なお、壊滅した場所へ三百もの人員を送る理由はゴブリンの数が五千ほどとされていたため、それなりにそこが広いからだ。また万が一ある程度纏まった数のゴブリンが生き残っていた場合、それを処理しなければならないからであった。

 ちなみに元々は第一陣であった人員で先の三百名に入らなかった者たちは、第二陣への適所へと組み込まれている。









 第一陣を率いるのは流れる風というランクBの五名からなる冒険者パーティーであった。その名からは流麗な印象を受けるかもしれないが、実際のところはメンバー全員が齢六十前後の男たちであり歴戦の兵といった風貌だ。

「これでも昔は線も細くて美男子だったんだよ」

「ええ、想像はできます。今でも見る角度によっては後半部分に頷けるものがありますね。前半はともかくとして」

 茶目っ気たっぷりのリーダーに、自分たちもそうだったと頷くそのメンバーを見て、第一陣に組み込まれた兵士を束ねる立場でこの場にいるアキラは若干の苦笑を覗かせた笑みで答える。

 ランクBにまでなれた実力を持つそのリーダーは実年齢よりもだいぶ若く見え、そして確かに整った顔立ちをしていた。ただ今の姿を見る限りでは、昔は線が細かったという面影は見受けられない。

 ちなみに、このリーダーの名はクエント・タンセという。

「それはそれとして何故私たち五人がゴブリンの方を選んだかだったな。私たちはこの依頼を最後に引退でもしようかと思っている」

「引退ですか?」

「そうだ。まだ暫くは大丈夫だという自負はあるが、今以上に何かを得たいと思わん。だからこその引退だな」

「そうそう。こんなこと考えている奴らよりも、まだ先を目指して進んでいる者が得るものが大きく多い方が良かろう?」

「そういう意味じゃ、そちらさんもなんだが、兵士の立場だと俺ら冒険者みたいにはいかないのが惜しいよな。有望そうなのも多いのに」

 後ろを窺う様子を見せたクエントたちは再びアキラへと視線を戻す。

 二人のすぐ後ろには同じ第一陣の冒険者や兵士がいるが、クエントの気はそれの更に後方にいる者に向けられたものであった。

 今回の大討伐には様々な年齢層の者が参加しているが、この第一陣にいる冒険者の年齢は高い者が多い。ゴブリンの集落壊滅による再編成の際にクエントの考えを冒険者ギルドが受け入れたからだ。勿論、それを行っても今回の大討伐が可能であると判断したからこそである。

 なお、兵士については冒険者ほどには第一陣と第二陣で年齢に違いはない。今回兵士の配属は小隊ごとに行われており、当たり前だが年齢が近い者同士で組まれているわけではないからだ。

「なるほど。若輩の身で言えることではありませんが分かるような気はします。ですが大丈夫でしょうか? 光翼(こうよく)の方々はともかくとして、もう一つの方はまだランクBとなったばかりだと。それに……」

「浮き足立って見える、と?」

「ええ」

 今回の大討伐にはランクBのパーティーが三組参加していた。その内の一つがクエントをリーダーとした流れる風で、残りは光翼(こうよく)と穿つ疾風という二つだ。この内、流れる風は言うまでもなく、光翼もランクBとなってから数年が経っており、そのランクに相応しい落ち着きと安定感があった。しかし残る一つである穿つ疾風はランクBとなってから半年も経っておらず、また才能故に通常よりも早くそのランクとなったためか、他者に対する優越感が隠し切れていなかった。

「まあ、そう思うのも分からんではないが、そこまで心配することはなかろう。冒険者ギルドも馬鹿ではないから、そのへんも考えた上でランクを上げたはずだ。少なくとも並のオークごときに遅れを取ることはありえんよ」

 オークの前に『並みの』と付けたクエントは、そのことに気づかず言葉を締めた。

 今では伝承や御伽噺の中でしか聞くことのないエンペラー級がいるかもしれない可能性をクエントは無意識の内に思い浮かべており、それが相手であった場合は厳しいかもしれない。それが本人が意識しないところで言葉に出たのである。

「ふぅ。今、それを考えても仕方ありませんね」

「そういうこった」

「うむ。無駄話はここまでにしておこうか。見えてきたようだ」

 何となく不安が残る会話であったが、それは第一陣の目先に見えてきた柵のような物体を前に打ち切られる。

 第一陣が目指す壊滅したゴブリンの集落が姿を現したのであった。









 ゴブリンの集落だった場所に入った第一陣の目に映るのは、正しく惨状というのが適切であろう光景であった。

 元が粗末であった建物は破壊の限りが尽くされ見るも無残な状態となっており、その周辺には無数のゴブリンの死体が散乱し放置されている。

「魔石はオークが持ってったか?」

「魔石を喰らうのが人種(ひとしゅ)の魔素吸収と同じでしたか」

「ああ。にしても調査するまでもないほど酷い状態だな」

「ですが、しないわけにはいきません」

 注意しつつ集落の中央あたりだろう広場まで進んだ第一陣三百名は、一旦整列した後でクエントの指示により調査を開始した。

 無論、冒険者のみならず兵士もである。

「君が隣にいるからかな?」

「ランクBの威光も大きいかと」

 短く言葉を交わしたクエントとアキラはお互いに苦笑を見せ合う。

 第一陣の指揮は事前にクエントに一任されてはいたが、その下にいるのは冒険者だけでなく兵士という違う立場の者たちもいた。この場合、冒険者たちに問題はない。あるとしたら兵士たちで、頭で理解していても素直に従えるかといえば疑問が残るところであったが、そこはアキラという兵士の中で一部隊を指揮する立場にもある人物を副官として配置することで解決していた。

「さて、私たちも軽く動こうか」

「報告を受ける必要がある以上、大きくは動けませんが……そうですね、この広場が見える範囲を調査しましょう」

「じゃあ、クエント。俺らは二人ずつで組んでってことでいいんだな?」

「ああ、それでいい。無理すんなよ」

「そんな気力はねぇよ」

 クエントとアキラの会話を引き継ぐ形で声を出した流れる風のメンバーは、二人一組となりその場を離れていく。そしてそれを見送った後、両者はお互いに頷くと、連れ立って辺りの調査に向かうのであった。









 クエントとアキラが調査を開始してほどなくして二人の耳が物音を拾う。

 それは周囲で調査をしている冒険者や兵士が立てたものではないことが二人にはすぐ分かった。

 何故ならば斜め前にあった既に建物としての形をなしていない崩れたそれの一部が動いたからである。

「アキラ隊長」

「ええ」

 短いやり取りの後、二人は腰に佩いた長剣に手をかけ様子を窺う。

 その間にも崩れた建物のその部分は変化を続け、やがてそこから綺麗とはとても言えない鉄色をした何かが這い出てくる。

 次の瞬間、二人の男は鉄色に肉薄すると、何の躊躇いもなく引き抜いた長剣を振るった。クエントが二回、アキラは一回である。

 そこで終わりではない。這い出てきた鉄色の奥に、つい先ほど斬り裂いたものよりも小柄な鉄色を見つけたのである。

 今度は両者ともに数回の刺突であった。

 崩れた建物の中にまだいたために長剣を振るうということができなかったからである。

 そこまでしてクエントとアキラの二人はその場から一度離れ様子を窺う。

 そしてそれ以上の動きをないことを確認すると、長剣は抜き放ったまま軽く息を吐き出してから視線をお互いの顔に向けた。

「オークとの戦いに出なかったゴブリンといったところか」

「雌と子ですか。見た目的に」

「ああ。それはそれとして大丈夫か?」

「まったく問題がないと言うと嘘になりますが、このまま続けられないわけではありません。この程度で駄目になるような者は、私を含めこの大討伐には参加していません」

「なら、いい」

 クエントとアキラが屠った鉄色をしたものはゴブリンの雌とまだ戦えるほどにまでは成長していない子であった。

 ゴブリンというのは見つけ次第に殺すべき敵であるが、そこはやはり雌であったり向かってこないものであったり、はたまた戦う力がまだないものが相手では躊躇いが出るものだ。

 とはいえ、それらは遠くなり未来において人種(ひとしゅ)を襲う要因となることだけは確かである。

 クエントはそれら理由からアキラへと確認の言葉をかけたのであった。

「ここにはもういないようだが……さて、他はどうかな?」

 未だ明確に戦いが起こっている物音は聞こえてきていないが、他の場所にも生き残りのゴブリンがいるであろうことは想像に難くない。

 なお、この広場に近い場所にゴブリンがいたことを残りの第一陣の者は見逃していたわけだが、それは別に責めるに価しない。

 五千ものゴブリンが生活していた空間は相応に広く、広場から離れた場所の調査へと向かう者たちは、まず自分たちの安全を確保しながら割り当てられたそこへと向かうことを優先していたからだ。それに僅かな物音は多くの人がいる中で分かるものではなく、クエントとアキラにしても周囲から第一陣の者がいなくなり静かになったことで聞くことができたのであるから、当然二人は他の者を責める気などなかった。

「少々、面倒なことになりそうですね。建物全部を調べるなんてことは、この場にいる人員だけでは手が足りません」

「可能なら殲滅が望ましいが、こればかりはな。一通り調査を終わらせて、後はギルドやら総管庁にどうするかを任せるか。恐らくそのまま放置だとは思うが」

 ゴブリンの子が生き残れば敵の戦力となり、雌が生きていれば敵の戦力が増えることになるため、クエントの言うとおり殲滅が最善ではあるが、実際問題それは難しい。それにもし仮にこの集落だった場所にいた全てのゴブリンを殺すことができたとしても、それは深遠の樹海内であっても極一部であり、全体を見ると労力のわりに得るものがないに等しい。

「ともかく、できるだけやるしかありませんね」

「そのとおり。とりあえず魔石だけは取っていこうか。たいした値にはならんが、魔石付きで放置しておくとアンデッド化だけでなく、他の魔物を引き寄せるからな」

 注意を怠っているわけではないが無造作に見える動作で身体の上に魔石を生成したゴブリンの死体へと近づいたクエントは、これまた無造作に魔石を手に入れる。

 こうすることでアンデッド化も他の魔物を引き寄せることもなくなり、なおかつ早ければ数日で魔物は土に還るのだ。

 もっとも、これがゴブリンではなく竜のように取れる素材がとてつもなく高価な物であるならば、何とかして解体をしただろうが。

 ともかく、クエントは後の憂いを断つために魔石だけを取ったのである。

「さて、調査を続けよう」

「はい」

 こうしてクエントとアキラの二人は十に僅かに満たないゴブリンの死体をそこに放置し、その場を後にしたのであった。









 先遣隊に所属しゴブリンとオークの動向を偵察する依頼についていた潜む気配というランクCパーティーは、現在第二陣の最後方に付いていた。

 そんな彼らの今の依頼は第二陣の後方警戒である。

 実力的にはオークの集落に襲撃をかけることも可能なものを持っているのだが、ひと月以上に渡り深遠の樹海で活動していたために、その疲労を考えての配置であった。

 しかし、どうやらその冒険者ギルドの配慮は、パーティーのリーダーであるジェールによって無となりそうである。

「うーん。ねえ、フーリにウィーク。ゴブリンのところからあの茂みに繋がってるよね?」

 ジェールが目を向けた先は進行方向から少し外れた場所だ。そこには何かが通ったような感じがする茂みがあり、彼の言葉どおりその流れはゴブリンの集落から続いているものであった。

「十や二十じゃないみたいだねー」

「多分、桁が一つ違う」

「これは先を調べた方がいいかな?」

 一瞬の逡巡の後、ジェールは茂みの先を調べることに決める。

 こっそりと痕跡を追い、少しでも危険を感じたら逃げればいい。このひと月ほどで深遠の樹海のこの辺りに詳しくなっていたこともある。そして隠形には自信があるし逃げ足にも自信があった。

「ちょっといいかな」

 ジェールは隣を歩く自分たちと同じ依頼についていた別のパーティーに事情を説明し伝言を頼むと、パーティーメンバーのフーリとウィークを連れて第二陣のその場から離れていったのである。

お読みいただき、ありがとうございます。



二〇一七年十二月二十三日 二十時五十四分 誤字修正

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