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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-83.【大討伐:開始】

4-83.

 前話あらすじ

 深遠の樹海内の拠点に辿り着いた彰弘たちは、様々な視線を受けつつも明日に向けて休むのであった。





 その場を立ち去る集団の背中を見送りながら彰弘は朝食後の緑茶を一口飲んでからため息を吐く。そしてその近くでは、彼の仲間も同じような動きをしていた。

「なんですか、あれ。わざわざ言いに来ることでもないでしょうに」

「他に気にすべきことはあるだろうに、まったくだ」

 理解できない思いをのせたアカリの声に彰弘は脱力した様子で応え、残りの三名も同意だと頷いた。

 今、この場から立ち去って行ったのは、昨日彰弘たちへと小馬鹿にする嫌な視線を向けてきた存在と何故か他の建物で寝泊りしていた者たちも加わった二十数名の者たちである。

 流石の彰弘もその人数が直に接触してきたのだから無視するわけにはいかず、大討伐前にありがたくない脱力を貰ってしまったのであった。

 なお、幸いだったのは集団の中にその行動を止めることができる者たちがいたことか。彰弘たちにしてみれば、こちらに来る前に止めてくれといった心境ではあったが、諍いまで至らなかったのはその者たちがいたからであり、事前に阻止できなかったことについては仕方ないと思うことにしていた。

「ちょっと一服してくる」

「待ちなさい。私たちも行くわ」

 気分を切り替えようと緑茶を飲み干し食器を載せたトレーを持ち立ち上がる彰弘に、そう制止の声をかけたミレイヌも席を立つ。

 煙草で気分を変える習慣はないミレイヌであるが、流石に目の前で起きたことが原因で向けられる視線に晒され続けるのは昨日と違い我慢できなかったようである。

 結局、彰弘とミレイヌに続いて、バラサにウェスターとアカリも席を立ち、その場を離れたのであった。









 食事場所から少し離れた位置に設けられた喫煙所に移動した彰弘は、早速と煙草を取り出し火をつけ、その後に「吸うか?」と四人に確認するが、返されたのは「結構よ」という言葉と横振りされる三つの首であった。

 この世界の煙草は全てが紙巻煙草であり、紙に魔導回路が書き込まれている非常に手間隙がかかったものである。それ故に高価であるのだが、元地球に存在したもののように健康被害を受けることはない。だからこそ彰弘のような行動も特に気兼ねなくできるのである。

 もっとも、煙草云々は置いといて、執拗であれば嫌われるのは元の地球と同じだ。だから彰弘はそれ一度きりで紙の入れ物から出していたフィルター部分を元に戻す。

 と、そんな彰弘たちへと声がかけられた。

「よう」

「朝から大変だったな。それはそれとして、俺らにくれね?」

 言われてもいないのに図々しいと声の聞こえた方に顔を向ければ、そこには二人の男が立っていた。一人は二メートル近い背丈の立派な体格をした強面で、もう一方は先の男よりは多少背は低いが体格は見劣りしない赤髪の男だ。

「ガイ。それにセイル? 皇都に行ってたんじゃなかったか?」

 そう、彰弘に声をかけたのは、魔獣の顎のリーダーであるガイと、国之穏姫命の神域認定のために皇都へ行く領主の護衛の一員として参加していた竜の翼のリーダー、セイルであった。

「お、さんきゅ。いや、タイミングばっちりというかだな、皇都からファムクリツまで来たところで翌日大討伐だかあるって聞いてな。余裕を持った日程の皇都行きだったお蔭で疲れもなかったから、メンバーの全会一致で領主に許可もらってここに来たわけだ。まあ、仮に疲れてたとしても、こんなことには何らかの形で参加はさせてもらうけどな」

「ありがたくいただく。元々数に入っていなかったからの芸当だ。帰還日を見越して街に残る方の依頼に組み込まれていたら、こっちには来れなかっただろう」

 セイルとガイはそれぞれお礼を言いつつ、領主の護衛だった竜の翼がこの場にいる理由を口にする。

 そんな二人に彰弘は次の質問を投げかけた。

「やっぱ皆来てるんだよな。三人はどこに? そういやガイも一人だな」

「ディアとライはオークんところに突撃する作戦の再確認に行ってる。ミリアはここで待機するお仲間のところだな」

「俺も後で行くが、うちのメンバーは弟子に気合を入れにいってる。改めてこの段階で入れ直す必要はない程度には鍛えてあるが、それでもやらんよりはやった方がいい」

「セイルんとこは、まあ分からなくはない。いや、リーダーがここにいるってのは、どうなんだとは思うが」

「ほっとけ。向き不向きがあるんだよ」

 煙草の煙を吐き出しながら、そっぽを向くセイルに彰弘は苦笑を浮かべる。

 確かに竜の翼のリーダーはセイルだが、彼は細かな作戦などよりも行動でメンバーを引っ張っていくタイプである。勿論、現場では適切な判断でメンバーの導となることができるので、要は適材適所といったところだ。

 ともかく、そんなセイルから視線を外した彰弘は、隣のガイへと今度は顔を向ける。

「ガイの言う弟子ってのはあれだろ? あの脅威の変貌を遂げたキリトのいる」

「後二つほどパーティはあるが、彼が現在所属しているところもそうだな。やつはなかなかに鍛え甲斐があったぞ」

「ギルドで大討伐の説明を受ける前に謝罪を受けたが、あのときは最初誰だか分からなかったぞ」

「う、む、多少やりすぎた感もないではないが、少なくとも冒険者として立派にやっていけるだろう状態にはなったはずだ」

 理由は違うがセイルと同じように彰弘から顔を背けたガイに、これまた彰弘の顔に苦笑が浮かんだ。

 キリトに関しては、それだけ素が酷かったということであり、決してガイたちが非人道的な教育を施したわけではない。

 もっとも、非常に厳しい教育だったことは否定できない事実があるわけだが。

「そのキリトってやつの変貌には興味あるが、それは後で聞くとして、そっちのメンバーを紹介してくれ。何となく見たことがある顔も混じっているみたいだが思い出せん」

 先の話の気まずさを誤魔化すわけではないのだろうが、セイルは話の矛先を変更すると、自分たちの会話の聞き役になっている四人へと目を向けた。

 彰弘のパーティーメンバーの中で、セイルが今まで一度として見たことがない顔はウェスター唯一人である。

 ミレイヌとバラサに関しては彰弘と六花たち四人の初依頼のときに、ゴブリンの集団から逃げている姿を見ているが、それ以外では自分が依頼中に遠目から見たことがあるのみで知らないといっても間違いではない。

 アカリについても、世界融合当初に彰弘を良く思っていない三人組がいるということで目にしたことはあるのだが取るに足らないと、今では顔自体をセイルは覚えていなかった。

「こっちの二人はミレイヌとバラサだ。六花たちが学園に入学して、どうしようかと思ってたところに声をかけてくれて、そっから一緒に行動するようになった。で、残る二人はウェスターとアカリ。この二人はランクE昇格試験のときに一緒だったメンバーだな。今回の大討伐で臨時のパーティーを組む必要があって、今一緒にいる。最後はガルドだな。この肩にいるのが俺の従魔だ」

 彰弘によるパーティーメンバーの紹介から、それぞれがお互いに自己紹介を行っていく。

 そしてそれが終わるとセイルが彰弘へと向き直り口を開く。

「いつの間に従魔なんぞを。まあ、それはいいとして。嬢ちゃん二人は多分俺の専門外だと思うから置いとくとして、お前ら突入組でもいいだろう、って感じだよな」

「同意する。ミレイヌ嬢も問題はないだろう。訓練場でしか見たことはないが、動きは悪くないし魔法の腕もランクDの中位と比較しても引けは取らない。もしかしたらそれを上回ってるかもしれん。アカリ嬢は正直よく分からんが、見た感じ悪くはなさそうだ。ガルドは俺も知らん」

 短期間であれ他の四人と一緒に訓練してきたアカリは、その実力をある程度把握してるし、また自分の実力がそれには及んでいないと把握しているために、今更自分が他の四人よりも劣っていると言われようと気にすることはない。

 ただ、だからといって諦めるような精神をアカリはしてはおらず、内心で気合を入れた。

 ちなみにガルドは他人に何を言われようとも気にしないようである。

「確かに悪くないな。今はまだでも、アカリの嬢ちゃんはその気概があるならまだまだ強くなれる」

「そうだな。だがそうなると、この五人が第三部隊ってのは本当に勿体ないな。乱戦は一皮剥けるチャンスなのだが」

「お褒めの言葉はパーティーを代表としてありがたく受け取っておく。さてそろそろ解散しようか。準備運動くらいはしておかないとな」

 煙草を吸い終わり、また辺りに人気が少なくなってきたことに気づいた彰弘は、消却の魔導具の蓋を開け吸殻を中に入れる。そして、同じく吸い終わっているセイルとガイの前にもそれを差し出す。

「バニラ風味、ありがとさん」

「打ち上げのときは、こっちが何かを奢ろう」

 セイルとガイの吸殻も入った消却の魔導具に魔力を流して中を綺麗にした彰弘は、再度解散の声を出す。

 そしてそれを合図にセイルとガイはそれぞれのパーティーのところへと戻り、そして彰弘たちも昨晩寝泊りした建物へと歩き出したのであった。









 彰弘たちが建物に戻ってから十分も経たない内に、各パーティーのリーダーと兵士の小隊長以上の者に招集がかけられ、それと同時に第一部隊から第四部隊全てに出発準備が告げられた。

 予定よりも幾分か早いそれに事情を今はまだ知らない者たちは、疑問を持ちながらも行動を開始する。

 そしてそれから三十分ほど。出撃のために用意された広場へと集まった者たちのところへ、別の場所へ招集をかけられていたリーダーや小隊長などが戻った。

「戻ったのねアキヒロ。なんだったの?」

「ゴブリンの集落は壊滅だとさ。俺らは変わらないが、そのために一部編成を変えるらしい」

 彰弘たちがいる周辺に動きはなかったが、彼の言葉が嘘ではない証拠に少し離れた場所ではそこかしこで人員が移動をしていた。

「もう少し詳しくお願いします」

 先の言葉だけではいまいち理解できるものではなく、ウェスターが追加の説明を求める。

 それに応じて彰弘は話す内容を頭の中で整理してから口を開いた。

「今日の未明のことらしい。先遣隊として来ていて偵察を行っていたパーティーが移動するオークの大集団を発見した。で、そのまま様子を見ていたらしいんだが……そしたらゴブリンの集落に襲撃を仕掛けたって話だ。そんでもって、オーク側の被害もある程度あったようだが、結果はゴブリンの壊滅らしい。流石にゴブリン全てが殺されたわけじゃないようだが、大討伐の対象となるほどの数は残ってないって言ってたな」

「となると、編成の変更は当初はゴブリンの集落へ対応する者をオーク相手の隊へと組み込むというものですか」

「そうなるな。万が一を考えて、元々ゴブリンを相手にする予定の隊を率いるはずだったランクBパーティーを筆頭に数百名はゴブリンの集落とその周辺の探索に当てるようだが、それ以外は全てオーク側へと組み込むようだ。まあ、これからの動きにそれほどの違いはない。ゴブリン相手の第一陣が減って、オーク相手の第二陣が増えただけと言えるな」

 第一部隊から第三部隊の中から選ばれた三割ほどを第一陣として先行させ、ゴブリンの集落に襲撃をかける。そして交戦が行われているその横を冒険者や兵士で編成された第二陣は通り過ぎ、オークの集落へ襲撃をかけるというのが当初の予定であった。

 ゴブリンの集落を完全に無視できるのであれば、また違った動きとなったのかもしれないが、五千もの数のゴブリンがいた集落であるために少人数での偵察では無視できるか判別が難しい。それ故にある程度の人数で改めて確認する必要があった。

「結局のところ、全体としては大きな変更と言えるかもしれないけれど、私たちのこれからはたいして変化ないということかしら」

「そうなるな。昨日の説明どおり、俺らは第一陣がゴブリンの集落だった場所に入ったら、その横を通り過ぎて前進。オークの集落を迂回して、その向こう側まで行き適当に決められた範囲を警戒しつつ、魔物を見つけたら殲滅だ」

「できれば手前側が良かったわ」

「大きく迂回しないといけないですもんね」

 オークの数はゴブリンほどではないが各個体は大きい。すると必然と集落の広さもそれ相応であり、一番遠いところまで行かねばならない彰弘たちの移動距離は、オークの集落の手前側を担当する者よりも数キロメートル長くなる。

 オークの集落の外側を沿って進めるならば良かったのだが、今回の襲撃の基本は奇襲だ。全員が配置に着くまで可能な限り集落のオークに気づかれるわけにはいかないのである。

 さて、そんなこんなと彰弘たちが話している内に周囲の移動が完了したようだ。

 魔導具による拡声が聞こえてきた。

「今更、細かいことは言わん! 各員、敵を殲滅せよ! 出撃!」

 長々とした演説はない。

 至極単純な号令に一万近い雄叫びが深遠の樹海に響き渡る。

「うちは静かなものね」

 前も後ろも左も右も。拳を突き上げ気合の声を上げていた。

 しかし彰弘含む断罪の黒き刃の面々は静かなものだ。

「ガラじゃないからな。まあ、後二十ほど若かったら別かもしれんが」

「若さはともかく、私もそういう性質ではありませんので。兵士時代はそうも言ってられませんでしたけどね」

 彰弘とウェスターはそう言って顔を見合わせてから肩を竦めた。

「アカリはどうなのかしら?」

「自分でいうのはあれですが、私は静かに闘志を燃やすタイプです。あの二人は叫んでそうですけど」

 あの二人とは彰弘も知っているランクE昇格試験で一緒だったシズクとキリトのことだ。

 別人へと変貌を遂げたキリトは、あの様子あのパーティーなのだから間違いなくこのノリで叫んでいるだろう。

 一方のシズクは清浄の風の下部パーティーと言える、それのお姉さま属性のリーダーとして頑張っていたことから仲間を鼓舞する声を上げているだろうとアカリは予想したのだ。

 ちなみに、アカリがシズクと数年ぶりに再会した時は昨日で、場所はこの拠点に設けられた共同トイレである。

「さて、時間だ。行こうか」

 会話の区切りを見切り彰弘が声を出す。

 いつの間にやら周囲の声は静まり、彰弘たちの前方が動き出していたのだ。









 大討伐が開始されたのである。

お読みいただき、ありがとうございます。

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