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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-81.【大討伐へ】

 前話あらすじ

 大討伐に向けて模擬戦などで少しでも生存率を上げようとする彰弘たち。

 そんな中、冒険者ギルドから大討伐の情報を纏めたとの知らせを受け早速ギルドへと向かったのだが、その内容は何ともいえない脱力するようなものであった。





「お気をつけて、いってらっしゃいませ」

 夜も明けきらない早朝。門前に勢揃いした者たちの中から一歩前に出たミヤコが声を出し頭を下げると、それに続いて彼女の後ろにいた者たちも「いってらっしゃいませ」とお辞儀をする。

 その先にいるのは彰弘とウェスターだ。これから二人は大討伐へと向かうのである。

「ああ、行ってくる」

 気恥ずかしさに彰弘は視線を隣に泳がせるが、そこにあったウェスターの顔が自分と同じものを感じているだろう表情であることになんとなく安堵した。

 それはそれとして、なかなかに盛大な見送りである。

 彰弘の下で働く使用人だけでなくストラトスの下で働く使用人もいれば、いつもならまだこの時間帯にはいないゲーニッヒら四人の門番もいた。当然夜の間、門を守る依頼を受けた冒険者の姿も見える。

 一生の内で一度も遭遇することはないかもしれない大討伐に参加するとはいえ、たかだかランクEの冒険者を見送るには過剰に思えるが、これは彰弘がストラトスの使用人やゲーニッヒたちと、それだけ良好な関係を築き上げていることの証であった。

 なお、依頼を受けて夜の間、門を守っていた冒険者たちもミヤコたちと一緒にお辞儀をしていたりするが、これは別に彼ら彼女らが彰弘やウェスターに何らかの恩があったりというわけではない。ただ単に綺麗な所作で乱れることなく主に敬意を払う自分たち以外の雰囲気に流されただけであった。

 ちなみに元冒険者で現在使用人兼門番見習いとなったロソコムも彰弘を敬意で見送っている。自分も大討伐へと参加したかったとは思うものの今の立場には居心地の良さを感じており、それに納得をしていたのであった。









 皆に見送られた彰弘とウェスターは北門へと向かう。

 途中で不敵な笑みで待っていたミレイヌといつもと変わらぬ様子で朝の挨拶を行うバラサに、それから娘をよろしくお願いしますと頭を下げる両親に恥ずかしそうな表情をするアカリと合流したが、それ以外は特に何もない。

 そして、少々の時間の後で、五人は北門へと到着する。

 普段ならばまだ解放されてない門ではあるが今日に限っては既に全開であった。

 これから大勢の冒険者が門を通るためというのもあるが、彰弘たちよりも少し前に兵士たちが門を通り過ぎていたからである。

「リーダーの方は身分証の提示をお願いします」

 門を守る兵士から彰弘たちに声がかけられる。

 いつもなら個別に身分証の確認がなされるのであるが、今日は大討伐で短時間の内に七千名程の者が北門を通るということもあり、パーティーリーダーの身分証に記録された情報と事前に用意されている情報を照合するという短縮方法が取られているようだ。

 兵士は彰弘から受け取った身分証を魔導具に翳しただけで、彼含む全員に通行の許可を出す。

「断罪の黒き刃、五名。問題ありません、お通りください。あなた方なら大丈夫だとは思いますが、どうか、お気をつけて。ご武運を」

「ありがとう。勿論、五体満足で帰ってくるさ。大量の素材を持ってな」

「朗報を期待していて」

 身分証を仕舞いながら彰弘が礼を言いミレイヌが自信を覗かせた顔を見せると、対応した兵士は笑みを浮かべる。

 彰弘とミレイヌにバラサは冒険者ギルドの北支部を拠点としており、主にこの北門と北東門を利用する。そのため、この兵士とは軽く会話をするくらいには親しかった。

 なお、ウェスターやアカリについてであるが、この二人と兵士は初対面である。だが、門を出て帰って来る度に強くなっているような三人と一緒に組んでいるのだから、それ相応の実力があるのではと兵士は考えていた。そのために先の台詞では、「あなた方なら」という言葉を使ったのである。

 そんな兵士に見送られながら彰弘たちはグラスウェルの北門を通り抜け、街の外へと足を踏み出したのであった。









 グラスウェルの外へ出た彰弘たちは周囲を見回しながらゆっくりと足を進める。彼らの出発は既に深遠の樹海におり拠点を造りそこに滞在している者たちを含めた全員分の物資を運ぶ第二陣。そのため、門からある程度離れた場所が集合場所となっていた。

「ああいうのは、早く来た特権かしらね」

 建物などは全て取り壊され更地となったグラスウェルの北側の大地を眺めながら歩いていたミレイヌが、ふいにそんなことを口にする。

「だろうな。集合時刻に近づくにつれて門付近は忙しくなるだろうし、今だからこそ個別に激励することもできるんだろう」

 二人の言葉どおり、今だからこそであった。

 門を守り出入りの手続きをするのが、そこにいる兵士の職務であるのだから忙しくなってくれば個別に会話をすることはできないだろう。いや、他の迷惑を考えなければできるのだが、それは流石にありえない。

「さて、それはそれとして、あれかな? さっさと報告して朝食タイムと行こうか」

「よくってよ。そのために宿屋の主人に作ってもらったのだし」

 第二陣の集合場所を示す旗が立てられた場所に冒険者ギルドの職員らしき人物を見とめた彰弘に、ミレイヌは応えると無意識でか腹部に手を置く。

 それぞれが朝食をとってからという話もあったのだが、ヘタをすると混雑に巻き込まれるかもしれないと、彰弘たち五人はまだ誰も食べていなかったのである。そのため、彰弘とウェスターはクキング夫妻に、ミレイヌとバラサは宿屋の主人、そしてアカリは母親に朝食用の弁当を作ってもらい持参していた。

「ちょっと肌寒いが焚き火もあることだし、のんびりとさせてもらおうじゃないか」

 そんなことを話しながら五人は旗へと近づき、到着の報告を冒険者ギルド職員に行う。

 そして、焚き火の近くに移動してから地面に布を敷いてその上に座り、朝食の弁当を広げるのであった。









 街の中で普通に暮らしている人からしたら、とても五人で食べる量ではないほどの朝食を平らげた彰弘たちは、直後のお茶を楽しんでいた。

「こんなときだが……改めて考えると俺らって燃費悪いよな」

「貧窮しているわけではないのだから、気にしなくてもよいのではなくて?」

「まあ、そうだけどさ。それはそれとして、今までも不思議には思ってたんだが、食べた物がどこにいっているのか気になる。これだけ食っても融合前みたいに食い過ぎで苦しくなることがないのは、どうなんだ?」

「消化吸収が一般の人よりも早いと結構前に実証されてますね」

 最も朝食の量が少なかったのはアカリであるが、その彼女も街で暮らす一般的な大人が食べる量の二倍は食べている。彰弘なんかはその三倍以上であるから、相当なものだ。

 勿論、冒険者や兵士のように魔物を倒し魔素を吸収し続けた結果に食事量が増えた者以外でも、考えられないくらいの量を食べれる者はいる。ただ、この両者には体型の変化という決定的な違いがあり、例えば普段から同じ量を食べている両者を比べてみると、前者は食べても体型が変わらないのに対して、後者はその分腹部がぽっこりと膨らむのだ。

 このこともあり、消化吸収が早いのではないかと推測され、その後の検証によってそれが事実であると実証されたのである。

「私は食べたいものがいっぱい食べれるようになって嬉しいですよ。お腹もぽっこりしないし。でも将来的な体型に不安はあるんですよねー」

「暴飲暴食さえしなければ問題はありませんよ。まあ、貯えがない内に冒険者をやめて、食事量が落ちるまでに借金を背負わないようにする必要はありますけど」

「ウェスターさん、養ってください」

「いきなり何を言うんですか。そういうことを簡単に口にしてはいけません」

「なかなかガードが固いです。でも、私は諦めませんよ?」

「諦めてくれて、よいんですけどね」

「そう簡単に諦められるなら、今私はここにいません」

 突如始まった痴話にはまだなっていないそれに、彰弘は他人事ではない自分の状況が頭に浮かび無言を通す。

 しかし、その彼に顔を向ける者がいた。ミレイヌである。

「別に嫌っているわけではなくて、好ましく思ってるのでしょう? なら受け入れても良いのではなくて? そうは思わないかしらアキヒロ」

「何故、そこでこっちに話を振る」

 ミレイヌを睨むような視線で見た彰弘は、そこに若干にやけた表情を見つけてため息を吐く。

 彰弘の周辺事情を知っており、だからこそミレイヌはわざと彼に話を振ったのであった。

「まったく。本人たちのことなんだから、外野がとやかく言っても仕方ないだろ。まあ、目的ってのも関係してるんだろうが……それだって俺らが言ってもな」

 彰弘がいう目的というのは、冒険者ギルドで再会したウェスターが口にしたものだ。

 数日間を一緒に暮らしていた彰弘だが、他人の事情に無意味に首を突っ込む性格ではないため、今まで特に気にせず聞かずにいたのである。

「そういえば、その目的っていうの、私知らないです」

「あら、そこそこ長い年月を一緒にパーティーを組んでいるのに聞いてないのかしら?」

「聞いてません。何となく聞きそびれていました。オーリさんとルナルさんは知っていたのに、私は知らなかった。由々しき事態です」

「聞かれませんでしたからね。それに少々面倒なことなので、自分から積極的に話す気にはなれませんでしたし。でも、そうですね。こんな流れになりましたし話しましょうか。ああ、聞いたからといって、その聞いた人がどうにかなるようなものではないので、そこは安心してください」

 話の流れはからウェスターの目的ということになったが、それをわざわざ止める必要はない。

 これでそれを聞いたら自分や自分の身の回りの人に被害が及ぶというのであれば別であるが、そうではないというのだから聞いてみるのも一興だ。

「私は数年前まで王都……今の皇都ですね。そこで兵士をしていました。そしてあるとき街道の安全確認任務を行っていたんです」

 街道の安全確認任務とは、定期的に街道を見て周り魔物を発見次第排除するものである。これを繰り返すことにより魔物にこの場所は危険であると知らしめ、そこを使う人々の安全を高めるのだ。

「それでその依頼の最中に一つの集団が魔物に襲われている場面に遭遇し助けたのです。助けたのは王都に住まうヴェルン子爵家の方々でした。ヴェルン子爵はクランベへ視察に行った帰りとのことでした」

 クランベは皇都サガの西南西へ獣車の速度で三日間ほどの距離になる中規模の街である。これといった特徴はないが周囲に魔物が少なく、また強い魔物も存在しないという人種(ひとしゅ)が生活するには適した場所にある街であった。

「それで……助けた中にヴェルン子爵の御息女もいらっしゃいまして、その後サガに帰ってからもいろいろと懇意にさせていただくことになったのです。と、まあ、それだけならそんなに問題はなかったのですが……」

「はい、質問です。その御息女様は美人ですか可愛いですか歳いくつですか?」

 話を最後まで聞いてからでいいだろうと彰弘は思うのだが、御息女という単語にアカリは我慢ができなかったようだ。口を止めることなく一気に言いきった。

「容姿については主観が入るので控えます。歳は……当時十一と聞きましたから、今は十五となっているはずです」

「ねぇ、ウェスターさん。懇意に、とか言ってましたが実際は好意……それも恋愛的なではなくて? もう少しぶっちゃけてもよくてよ」

 少々不自然な物言いだったことから、ミレイヌはそうであると見抜きながらもあえて言葉尻に疑問を残す。

 そして質問をしたアカリが目を開き、彰弘は反射的に目を逸らした。バラサの表情は変わらない。

 ちなみにウェスターの言う問題とは年齢のことであった。

「うっ。確かにあなたの言うとおりです。彼女は私を好いてくれていました。でもヴェルン子爵家の方が懇意にしてくれていたので懇意というのも嘘ではありませんよ。それはいいとして話を戻します。少々前置きが長くなりましたが、彼女……ミーナ様というのですが、彼女と会っている内に私も彼女のことを好ましく思うようになっていきました。そこに恋愛の情はありませんでしたが」

「それで? あなたが兵士じゃなく、今冒険者をしているのは何故?」

「バルス侯爵の……いえ、その子息の策略です。恐らくですが。どうやら、その子息はミーナ様を好いていたらしく、私がヴェルン子爵家に出入りするようになってから少しして嫌がらせが始まりました。内容は省きますが、少なくとも王都で過ごし兵士を続けることが厳しくなるくらいには、です。これで私だけにというならば、まだやりようはあったのですが、嫌がらせの対象は私の両親にまで及んでいました。王都で働くことも難しくなり、それでグラスウェルに引っ越したのです」

 爵位を持つのは父親であるが、その子息となればその爵位を持たずともそれ相応の影響力があった。少なくとも法を犯さずに平民家族を王都にいられなくするくらいはできたのである。

「ふーん。でも、それならグラスウェルで兵士という選択肢もあったのではなくて?」

「勿論です。ですが、それでは駄目なのです。兵士になってしまったらいざと言うときに動くことができない。でも冒険者であればそれができる。それに冒険者の方が強くなる機会が多い。私の目的は四年に一度王都で開かれる闘技大会でパルを叩きのめしミーナ様を守ることです。別れるときに見た彼女のあの泣き顔は今でも忘れない」

 パル。それはバルス侯爵の子息の名前であった。

「そういえば、世界の融合があったせいで開催は未定になってたけど、確か再来年だかに行われることになったのよね」

「ええ。強くなる期間が増えたのは僥倖です。強くなり挑戦状を叩きつけて喧伝する予定です。幸いにもパルの剣の腕は悪くなかったですから、出なければ臆病者の烙印を押されるでしょう。出ざるを得ない」

 闘技大会の目的は人材発掘という面と国民の娯楽の面がある。そのため、冒険者でいうところのランクAやランクB上位といったような、強すぎる者は参加することができない。だからこそ、ウェスターはその場を選んだのである。

 なお、ウェスターは無条件で自分が言ったことを行うつもりはない。絶対の条件としてミーナが、そのときに自分を好いていてくれるならば、というものがあった。

「結構、穴がある作戦のようだが、それいいとして、そのミーナ様というのは、今も無事なのか?」

 これまで黙って話を聞いていた彰弘が口を挟んだ。

 サンク王国のときも、世界が融合してライズサンク皇国となった今も結婚可能な年齢は十五である。そのため、現在十五歳だというミーナが、既にそのパルとかいう子息の手に落ちているのではないかと疑問を持ったのだ。

「一応、数か月に一度程度ですが、状況を知らせていただいています。それに王都を出なければならなくなったときにヴェルン子爵と約束をしました。流石にずっとというわけにはいかないだろうが、数年は何とかしてみせると」

 子爵は下級貴族に属するが、相手は上級貴族家の者であっても、そのものではない。バルス侯爵は放任主義で息子が法に触れなければ止めることはないが、手を貸すこともしないと分かっていた。だからヴェルン子爵はウェスターにそう言って約束をしたのである。

「つまり、今は子爵を信じて己ができることをやるしかないってことか」

「はい」

「なら、この大討伐はちょうどいい。真っ只中に飛び込むことはできないとはいえ、普通に狩りをするよりは魔物に多く会えるだろう。それに闘技大会の開催も俺が旅に出ようとしている年だ。皇都まで一緒に行ってメアルリアの神官に喧伝を頼めるかもしれないな」

 メアルリア教では自らの平穏と安らぎを自分自身の力で求め成すことに重きを置いている。そのため、今回彰弘が言うような喧伝にであれば手を貸してくれる公算は高い。

「メアルリア教が関わってくると、冗談抜きで逃げた時点で終わるわね」

「影響力の大きい宗教は怖いな」

「それを十全に近い形で使える人が、何を言ってるのかしらね」

「さて。気合も入ったことだし、時も来た。行こうか」

 いつの間にやら大討伐に参加する冒険者が、それぞれの集合場所に集まっていた。

 片方の言い分しか聞いていないため、全てを真に受けることはない彰弘であったが、ウェスターの人となりから信じるに値する話だろうと考えている。

 彰弘以外もそうであった。初めは恋敵到来かと眉間に皺を寄せていたアカリも今は義憤に燃えている。ミレイヌやバラサは顔にこそ出していないが、パルという子息をよく思っていないことは態度から明らかだ。

 なお後日、このパルという者とその親のバルス侯爵について、ストラトスから話を聞き、ウェスターの方法でなら遠慮をする必要はないと確信するのであった。









 この後、彰弘たちは大討伐へと出発する。そして一晩を深遠の樹海の縁で越えた後に内部に築かれた拠点へと向かうのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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