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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-77.【再会】

 前話あらすじ

 大討伐の説明会を聞いた彰弘たちの所属は、魔物の拠点への襲撃部隊ではなく討ち損ね逃げ出した魔物を狩ることがメインの部隊であった。




 説明会が終わり会議室を後にした彰弘は階段を下りながら安堵したような息を軽く吐き出した。

 その理由は世界融合後に知り合いとなったファムクリツに移住した誠司や康人が今回の大討伐には参加しないことが分かったからである。

「どうかして?」

「いや、誠司や康人が参加しないと分かって安心した、ってところかな」

 彰弘の様子に少し考えるような素振りを見せたミレイヌは、彼の口から出た名に思い当たるも、安心の理由が分からずに小首を傾げた。

 ミレイヌ自身はそれほどその二人のことを知っているわけではなかったが、それでもある程度の実力があるところを見ていたからだ。

「大討伐に参加しても問題ないくらいの実力はあったと思うのだけど」

「まあ、オーク程度なら一人で複数を相手にしなけりゃ普通に倒せるだろうが、そこは心情的なもんってやつさ」

「分からなくもないわね。こちらの被害が全くないなんてことはありえないだろうし」

「そういうことだ。ファムクリツといえばジンとレミも冒険者を辞めてるから今回の大討伐には来ないんだよな?」

「そうなるわね。ファムクリツの防衛部隊に入っていたから可能性はあったのかもしれないけれど、今回は冒険者だけという話だもの」

 ジンとレミというのはミレイヌとバラサが以前パーティーを組んでいたファムクリツ出身の男女である。ファムクリツの防衛部隊に入る前に魔物との戦闘に慣れるため、一時的に冒険者をやっていたがランクEとなる実力をつけた後で冒険者を辞め、今はその防衛部隊に席を置き活動していた。

「ま、何にせよ、そこそこに頑張って無事に帰って来るとしようか」

 階段を下り終えたところで横にいるミレイヌと斜め後ろのバラサへと彰弘はそう声をかける。

 そしてその言葉に返されたのは、二人からの同意する言葉と頷きであった。









「やっと下りて来ましたね。何をされていたんですか?」

 一階に下り受付カウンターの近くを通りかかった彰弘たちに、そう声をかけたのは冒険者ギルド職員であるジェシーだ。

「部屋を最後に出ようとしてたら説明してくれた人が話かけてきてな」

「もしかして大討伐後の回収についてですか」

「そういうこと」

 依頼書に記載がされていたことであるからジェシーは説明をしたギルド職員が何のために話かけたのかにすぐ思い当たる。

 なお、最初に依頼書をジェシーが彰弘に渡したときにそのことへと触れなかったのは、仮に別の冒険者が建物内に入って来て話を耳に入れ、いらぬ誤解をされないためにであった。

 もっとも、この冒険者ギルド北支部に所属する冒険者の大半は彰弘が普通ではない魔法の物入れを持っていることを知っているし、彼がメアルリアの破壊神アンヌの名付きの加護を持っていることも知っている。そのために問題となる確率はほぼほぼないと言えるのだが、念のためにジェシーは回収の話を出さなかった。

 説明をしていたギルド職員もジェシーと同じ考えでいたが、彰弘たちが最後まで部屋の中に残っていたからこそ話かけたのである。当然、彰弘たちが他の冒険者に混じって部屋を出て行った場合、このギルド職員が話かけることはなかった。

「それはそれとして、さっきは姿が見えなかったが遅番ってやつか? で、何かあるのか?」

「はい。今日は通常営業時間終わりまでですので遅番です。ついでにその後宿直です。……こほん、それはそれとしまして、お話があります」

 伝える必要のない情報まで口にしまったことが恥ずかしかったのか、ジェシーは空咳を間に挟み少々強引に話を本題に戻す。

「説明があったと思いますが、あなた方と一緒に行動する冒険者が方が見えられています」

「……そういえばそんなことを言ってたな」

 五人以上と説明されたときには後で質問をしようと考えていた彰弘だったが、実際に質疑応答となったときには、そのことをすっかりと失念してしまっていた。そのため、ジェシーの言葉に答えるのがほんの一瞬だけ遅れる。

「その様子だとどうやって合流するのとか、それらの説明はされなかったんですね? ちょっと失礼します」

 彰弘たちの様子に説明の不足箇所を見つけたジェシーは席を立ち、奥にいる別のギルド職員に話しかけに行く。そして少ししてから彰弘たちの前に戻ってきた。

「お待たせしました。一生に一度あるかないかの役割ですから忘れてしまうのも分からないでもないんですけど……やっぱり、ちゃんと説明がされないのはいけませんから。それに説明会で説明がされないと、私たちがそれをしなければならなくなりますので。まあ、今は通常の依頼関係の業務がほとんどないので業務に支障はないんですけど」

 大討伐が行われることになり、いつもはある個別の依頼は特に重要とされるもの以外は止められている。そのため、各受付を担当するギルド職員の業務は通常時に比べて減ってはいた。

 ただし、だからといって本来なら説明会で説明を行うギルド職員が伝えるべき情報をその説明会で伝えなくて良いということにはならないのである。

「さて、一応説明しますね。アキヒロさんたちの場合は現在三名のパーティーで行動していますので、最低でも後二名が必要となります。そのため、その二名をこちらで指定するのですが、その連絡はこうして直接伝えるか、またはそれぞれがギルドに登録している住所へとギルド職員が伝えに行くことになっています。その際、顔合わせの日時はこちらで指定させてもらっています」

「ま、いきなり当日に言われて一緒に行動しろと言われても戸惑うわな」

「そうね。それにギルドのことを信用していないわけではないのだけれど、どうしようもなく相性が悪かったりしたら、いくら強制であってもその方たちと一緒は遠慮したくてよ」

 相手の反応を見て、ジェシーは一つ頷くと話を続ける。

「はい、もっともです。ギルドとしては能力と性格なども考慮して組み合わせを考えていますが、今回の場合は北支部だけでなく他の支部所属の冒険者との組み合わせもありますので、事前に顔合わせを設定している次第です。で、アキヒロさんたちと一緒に組む人たちですが、実は先ほどこの北支部に到着しまして、折角ですからそこの喫茶室で待ってもらっています」

 ジェシーの言葉に彰弘たちが喫茶室に目を向けると、そこには複数の冒険者の姿があった。

 確かに大半は見たことのある顔であったが、中には初めて見る顔の者もいる。

「ほとんどはこの後の説明会に参加する方たちですが、一部は別の支部で説明を受けた後にここに来た方たちです。……あ、どうやら気がついたようですよ」

 喫茶室にいる冒険者を眺めたままの彰弘たちも、ジェシーが言う冒険者が映る。

 それは二人の男女であった。

「なるほど、あの二人か。初見ではないし安心はできそうだ」

「あの二人は、あなたが昇格試験をしたときにいた二人よね?」

「ああ。あのときの実力のままだったとしても、男の方は間違いなくオーク程度ならどうとでもなるな。もう一方は、どうだか分からんが」

 そんなことを彰弘とミレイヌが話していると、喫茶室からやって来た二人の内の男が挨拶をしてくる。

「壮健そうで何よりですアキヒロ。あなたと組むということでしたので安心しました」

「そっちこそ元気そうじゃないかウェスター。それにアカリも。それはそれとして二人だけか? アカリの方はあのときの解散と、さっき別人のようになったキリトを見たし、シズクも清浄の風関係のランクEにいたから、まあ分かるんだが」

 笑みを浮かべたウェスターと、頭を下げ「お久しぶりです」と言うアカリの他に自分たちに寄って来る人がいないことに彰弘が疑問を口にした。

 ウェスターとアカリは彰弘がランクE昇格試験のときのメンバーだ。

 オーリという槍使いとルナルという魔法使いがいて、その二人がウェスターとパーティーを組んでいたはずである。特に何か問題があるようには見えなかったために今もパーティーを組んでいるものだとばかり彰弘は思っていたのだ。

 なお、アカリの方は戦士であるキリトと半弓師半戦士のシズクという二人とパーティーを組んだ状態で昇格試験に挑んでいたが、こちらはキリトの自己中心的な正義とシズクのキリトへの依存などのあれこれがあり、昇格試験の際中にパーティーが解散となっている。

「オーリとルナルは一年前くらいに別れました。私としてはもっと一緒に行動をと思っていたのですが、オーリの父親が大きな怪我をして以前のように稼げなくなったらしく故郷のシーファルに帰りました。折角、気が合っていたので私も行こうかと考えたのですが……二人に止められましてね。そうそうあの二人から偶に手紙が来ますが、それによると今はそこで元気に冒険者をやってるようです」

「そうか、元気なのに越したことはないな。それにしても止められたってのは?」

「私にはちょっとした目的がありまして。それにはこのグラスウェルが丁度良いんです。そのことを二人は知っていましたので」

「自分の目的を果たすべきだ、ってことか」

「ええ。確かにそのとおりなので二人とは別れて今私はここにいる、そうなります」

「にしても、目的か。それが何なのか興味がないと言えば嘘になるが……とりあえず今は置いとくとしよう。で、どうすればいいんだ?」

 再会の挨拶とちょっとした会話を終わらせ、彰弘はこの後どうするのかとジェシーに顔を向ける。

 それを受けてジェシーはカウンターの下から一枚の紙を取り出すと話し始めた。

「難しいことはありません。まずこの紙に書かれている情報に間違いがないかを確認してサインをお願いします。その上で臨時パーティーのリーダーを決めます。そしてそれが終わったら、こちらでみなさんの身分証を使い臨時パーティーを正式に登録します。手続きは以上で完了となります。なお、パーティー名についてはどちらかのパーティー名を指定しても構いませんし、新しく臨時用のパーティー名でも問題ありません」

「なるほど。って、うん? どちらかのパーティー名?」

 どちらかということは、彰弘たち三人は一つのパーティーであるから当然として、ウェスターとアカリも一つのパーティーということになる。

 そんな話は一切出ていなかったので彰弘の頭には疑問が浮かんだ。

「今、私はウェスターさんとのペアでパーティーを組んでいるんです。正確にはあの昇格試験が終わった後にパーティーに入れてもらって、それから一緒、ということです。勿論、これからも付いていきます」

「ああ、そういうこと。そうか、そうなんだな」

 何とも分かりやすい好意を顔に表すアカリに彰弘のみならずミレイヌとバラサの視線がウェスターに向けられる。

 その先ではウェスターが幾分引き攣った顔で苦笑を浮かべていた。

「まあ、良いのではなくて。男性と女性の二人だけのパーティーというのは非常に珍しいですけど皆無ではないのだし」

「ですね。変に複数の男性と複数の女性による一つのパーティーよりは問題は起きないかと」

 一般的に男女混合のパーティーというのはそれほど多くはない。野営の際のあれこれなどと理由は様々だが、一番多い理由は恋愛関係の問題が必ずといっていいほど起こるからである。

 理屈では片付けられないこともある恋愛関係は一筋縄ではなく、過去を見てもパーティーの解散の火種になることもあれば、依頼中にそれが影響して全滅ということも起こっていた。だからこそ現在は男なら男同士、女なら女同士でパーティーが主流であり一般的なのである。

 ちなみにペアの男女でパーティーというのは特別な事情でもない限り組むことはなく、その数は非常に少ない。

「そ、それは、置いておきましょう。今はリーダーを決めましょう。私はアキヒロを推薦します」

「露骨に話を逸らすのね。それはそれとして、私もそれで良くてよ」

「お嬢様に同意です」

「私もウェスターさんの言うとおりで問題ありません」

「俺の意見はなしか」

「多数決の結果は大事よ」

「少人数でのそれは数の暴力とも言えるんだが……仕方ない。で、パーティー名はどうする?」

 彰弘たちパーティー名である断罪の黒き刃か、ウェスターたちの打倒する力か。はたまた新たなるパーティー名とするか。

 全員が納得する新たなパーティー名を思いつき即決できるのならそれでも良いが、それはなかなかに難しい。

「アキヒロのパーティーの名で良いでしょう。新たな名を考えるのは正直面倒ですし」

「それならそっちのパーティー名でもいいんじゃないか?」

「ウェスターさんの意見で良くてよ」

「同じく問題ありません」

「私もそれでいいです」

「……全く隙のない連鎖だな、おい。はあ、んじゃ、リーダーは俺、パーティー名は断罪の黒き刃で頼む」

 リーダーはともかくとして、未だに慣れない……というか恥ずかしく思うパーティ名を一時的にでも外してしまおうかと考えた彰弘だったが、自分の意見は全く通りそうもないことに若干肩を落とす。

 しかし、それでもこのまま駄々をこねても仕方ないとジェシーに向き直るも、視線の先の彼女から返されたのは少々困った顔であった。

「えーと、リーダーもパーティー名も分かりましたが、一応この紙に書かれた内容を確認してサインをくださいね。それを行わないと報酬受け取り資格を認めることができませんので」

 ジェシーが取り出した紙に書かれているのは臨時でパーティーを組むことになるメンバーの名前が書かれたものだ。仮に内容に間違いがあっても、この後の臨時パーティー正式手続きで修正されるのだが、サインに関してはギルド職員がどうこうして良いものではない。

「そういや、そんなことを言ってたな」

「すみません。私が飛ばしてリーダーのことを言ったりしたから……」

 こんな感じで一言二言それぞれが言った後、彰弘から順に名前を確認して名前が書かれた紙にサインを記入していく。

 そしてそれが終わると全員分の身分証を受け取ったジェシーが手続きを行う。

 こうして彰弘たちは大討伐へ参加する正式な手続きを終えたのであった。









 あの後、彰弘たちは冒険者ギルド併設の訓練場へ向かい、久しぶりに会ったお互いの力量を確認する。

 その結果はお互いがお互いに納得できるものであった。

 彰弘にとって一番の懸念であったアカリについてもランクE昇格試験の頃とは雲泥の差であり、これなら足手纏いにはならないだろうと思わせるだけの腕前になっていたのである。

 大討伐まで後八日。

 お互いの力量を確認し合った彰弘たち五人は、これから行うべき準備のことを話しながら冒険者ギルドの建物を後にしたのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



前話で部隊構成の第二部隊からランクDが抜けていた部分を修正

(話の流れには関係ありません)

第一部隊:ランクBが三パーティー・一部を除いたランクC・ランクCに近いランクD・兵士:七百名

第二部隊:ランクCが十パーティー・上記配属以外のランクD・ランクDに近いランクE・兵士:五百名

第三部隊:第二部隊に配属されなかったランクEで一定以上の実力のある者・兵士:五百名

第四部隊:第二と第三部隊に配属されなかったランクE・兵士:三百名

ファムクリツ側:一千名(ランクBからランクEの冒険者のみ)

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