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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-EX06.【グラスウェル魔法学園―大討伐は不安です―】

 前話あらすじ

 第二学年の進級試験。

 自身が知らないところで周知されてしまっていた氷姫モードとやらによる相手の反応に凹む香澄だったが、進級試験自体は特に何事もなくクリアするのであった。




 朝のジョギング準備よし。終わったらシャワーを浴びるから下着の替えも準備よし。で、明日は始業式だけだから、鞄に入れるのは筆記用具……メモ用のノートは入ってる。一応、お財布も入れとこう。後は、制服、コートもよし、っと。

 第二学年の最終学期である三学期が始まる前日の夕方というぎりぎりになって寮に戻ったわたしは、現在明日のための準備中。もっとも、明日は授業があるわけではないし、世界融合前のように宿題があったわけでもないので、その準備は非常に楽だ。

 最後にもう一度指差し確認。ん、おっけ。

「お待たせ。終わったよー」

「じゃあ、寝るまでお話しましょう」

 準備が終わったわたしは、寮で同室のセリーナちゃんに声をかける。すると彼女は呼んでいた本から顔を上げて笑顔を見せた。

 セリーナちゃんは魔導具作りの職人を目指している。だから、彼女とは学園の二年生になってからは一緒に授業を受けたことはないけど、放課後には一緒に魔法の練習をしたり、お休みの日にも一緒に出かけたりで、何だかんだで一緒にいることが多くて今ではわたしの親友の一人だ。

 ちなみに、わたしが声をかけるまでセリーナちゃんが読んでいた本は魔導具作りに関するものらしい。

「そうだね、まだ寝るにはちょっと早いし」

「うんうん。とりあえず、夕食のときのお家のことをも少し詳しく。それとエルフの魔導具製作者についても」

 お家のことというのは彰弘さんの家のことで、エルフというのはグラスウェルとケルネオンを行ったり来たりしているカイエンデさんのことだ。

 それはそうと、彰弘さんがケルネオンで知り合ったカイエンデさんと、ストラトスさんの執事のカイエンさんって名前が似ててややこしい。二人が対面したとき、お互いがどんな反応を見せるのか、ちょっと気になるかも。

 まあ、それは今関係ないか。

「うーん、お家かー。広くて立派で凄かったなー。クリスちゃんの誕生会に行くときに貴族のお屋敷を見ることができるじゃない? そのときに見れるのの大半よりも凄かったかも」

「おおー」

「あ、でも。彰弘さんちだけだったらどうだろ? ……んー、それだったとしても貴族のお屋敷といえば、そうかと思えるくらいには凄いかな?」

 流石お父さんと言うべきか、流石職人さんと言うべきか。

 彰弘さんの家とストラトスさんの家は、隣合う二つの敷地の境を取り去り一つの土地とした場所に建てられているんだけど、恐ろしいぐらいの一体感を持っていた。

 勿論、その二つはくっ付いているところはなくて、それぞれ別の家として建てられているんだけど、パッと見ただけじゃ一つの豪邸が建っているように見えるんだ。

 だから片方の家だけでどうかと言われると、ちょっと難しい。

「まあ、とにかく立派だったよ。中も上品に落ち着いた感じで、使用人さんがいてもまったく違和感なかったし」

「いまいち想像できない。落ち着いた感じの貴族のお屋敷みたいな感じなのかな?」

「貴族のお屋敷なんて、クリスちゃんのところにしか行ったことはないけど、感じとしてはそんな感じ。なんだったら春休みにでも遊びに行けばいいんじゃないかな。見るだけなら週末にでも、ってとこだけど」

「んー、春休みは別として、週末なんかの場合、カスミさんたちはいかないんだよね? となると週末はちょっとハードル高いかなあ」

 別に絶対どうしてもってわけじゃないけど、週末とか普通のお休みの日にわたしたちは彰弘さんがいるかもしれない場所にはいかない。

 世界融合直後に彰弘さんに依存しちゃっている部分があるような気がして、学園に通っている間は意図的に距離を置くことにしたんだ。そしてそのことはセリーナちゃんたちにも話している。

 なお、この試みが成功しているかどうかは見る人によるかも。

 入学当初は枕を濡らしてた六花ちゃんと紫苑ちゃんも今はそれがないから、これに関しては成功といえる要素。でも長期休みで彰弘さんにあったときの二人のスキンシップは、以前に増して、な気もするから……、まあ、でも、諸々考えるとやっぱ成功してるとわたしは思う。

 え、わたしはどうかって? わたしは普通だと思うよ。六花ちゃんと紫苑ちゃんの二人ほどじゃなかったから、数か月ぶりにあっても軽く触れ合うだけで満足できてるし。

「そっか。それなら春休みにする? わたしの一存で決めれることじゃないから、六花ちゃんや紫苑ちゃんにも話して、それで彰弘さんに事前に手紙なりで確認して、みんなでお泊り会、みたいな。どの部屋でも広いからみんなで寝ることもできるはずだよ。一人でとか、二人でとかも、部屋数も多いから可能だと思う」

「んじゃ、春休みで。行くの決まったら、わたしも家族に手紙かいておこ。にしても、世界が融合してからまだ二年ちょっとなのに凄いよね。なにをどうやったら、そんな家を建てれて使用人まで雇えるようになるんだろ」

「彰弘さんは運が良かっただけ、なんて言ってたけどね」

「運がいいだけで片付けられるもんじゃないと思うけど……」

「あははー。確かにそれもあるかもだけど、それだけじゃないよね。彰弘さんちゃんと努力してるし」

 世界融合直後の期間限定加護なんていう成長ブースト効果があって、そのときにたくさんのゴブリン相手に死にそうになったり、ライターのオイルが変化したことに気づいたり。それから理由は分からないけどれども、アンヌ様っていう女神のお詫びだかに加えて、穏姫ちゃんの件もあったし。その後もちゃんと努力してるもんね。

 それらがいろいろ重なって、今の彰弘さんになったんだから可能だったんだろうなと思う。

「世界融合当初にいろいろあって、それがあったから努力して……だからって必ずしもそれが結果に結びつくわけじゃないけど、彰弘さんの場合、その努力が実った感じみたい。今は普通のオークなら一振りで首ちょんぱだしね。魔力も見えるようになってるから、いろいろと貴重な薬草とかも見つけれるようになって更に稼げる。拾った魔法の物入れも理由かな。倒した魔物もオーク程度なら丸々持ち帰れるし」

「運もあったけど、やっぱりその後というか、その他のところも大事ってことなんだね、結局のところ。まあ、それはそれとして、じゃあ春休みで」

「うん。明日みんなに話してみよう」

 こんな感じで、この後も一時間くらい話してから、わたしたちは布団に入った。

 なお、カイエンデさんのことについては、わたしは軽く挨拶をした程度でよく知らないから、お泊り会のことを彰弘さんに確認するとき一緒にセリーナちゃんに紹介してもらえないかお願いしてみるつもり。セリーナちゃんにとって良い結果になるといいな。









 第三学年への進級が決まっているため、昨年の進級試験付近のぴりぴり感もなく、三学期は何事もなく既にひと月以上が経過している。

 そんな二月中旬のある日、ちょっと不安になるような情報を聞いたわたしたちは放課後、寮の談話室で話をしていた。メンバーはいつも一緒に魔法の練習をしている人たちだ。

 さて、不安になる情報というのはなんなのかだけど、それはグラスウェルの北に拡がる深遠の樹海で数多くのゴブリンやオークが目撃されていて、大討伐が行われるのではないかというもの。

 授業でやったけど、大討伐となると多くの冒険者に強制の指名依頼が適用されて、それだけでなく兵士も多く参戦するとか。

「だいじょぶかな、彰弘さん」

 六花ちゃんの心配は分かる。強制指名依頼は全ての冒険者に出されるわけではないけど、彰弘さんのようにランクが低くても対魔物の戦闘能力が高い場合、高確率でその対象にされるという話だから。

 でも、ちょっとだけ安心な材料もある。それは彰弘さんのランクがまだEであるということ。

 ランクEというのは冒険者として最低限の実力はあるが、まだ経験不足であるという段階。そのため、自分たちの認定したランクを基本的には重視する冒険者ギルドは、多少ランクを超えた実力を持っていたとしても、ランクを超えた役割をやらせることはない。

 とはいえ例外というのはどこにでもあるので、絶対の安心材料というわけではないのだけど。

「ランクEだと、逃げ出すだろう魔物をできる限り倒すという役になるだろうという話でしたが」

 大討伐をする際の構成は次のようなものらしい。

 まずは主戦力。魔物が密集している集落などに攻め込み、相手を可能な限り殲滅することを目的とする部隊で、これは熟練者と認定されたランクD以上の冒険者が一つの部隊となって担う。

 続いて主戦力が逃してしまった魔物を倒す部隊。この部隊は主戦力が戦う場所の周りの要所要所に配置され逃れてきた魔物を迎え討つ。ここの構成はランクEを纏めるためのランクDと、ランクDへの昇格間近であるランクEの複数組のパーティーが一つとなった集団。

 そして次は、二つの部隊の更に外側を移動しながら警戒して魔物を倒す部隊。恐らく彰弘さんに指名が出されるとしたら、ここじゃないかな。戦闘の実力はともかく、他人との共闘経験を考えたらパーティー単位での行動であるこの部隊に指定される確率が高いと思う。

 最後にもう一つ部隊は用意される。それは大討伐の拠点となる場所を守る部隊。これには上記三つの部隊に選ばれなかった人たちがあたる。選ばれなかったといっても、先に述べた三つの部隊の人たちに実力が劣る人たちばかりというわけではない。この拠点というのは言うなれば外で戦う人たちの最後の砦みたいなものだから、戦闘それ自体は苦手としていても、守る力に優れた人たちや傷を癒すことができる人たちが配備される。

 なお、兵士の人たちも冒険者と同じように実力や適正に応じてそれぞれの部隊に配備されるみたい。主戦力に組み込まれたり、その周りで魔物を迎え撃ったりと役割は冒険者と変わらないという話。

 ちなみに神官の人たちも参戦する。大抵は拠点で怪我人を治す役割を担うようだけど、メアルリアの人たちのように戦闘もこなせる神官は積極的に魔物と戦うとのこと。

「アキヒロさんもだけど、お兄ちゃんも大丈夫かな。お兄ちゃんランクDだから……」

「お兄さんを信じるしかないのではなくて? 聞けば、夏にランクが一つどころか、それ以上の装備を手に入れたとか。他の方よりもずっと安全性は高いと思うのだけど?」

「うん。それはそうなんだけど、やっぱり心配なのは心配なの」

 パールちゃんの言葉にルクレーシャちゃんが応える。

 普段はそれほど話さないから、なかなか珍しい光景だ。

 それはそれとして、パールちゃんのお兄さんはベントさんという名前で、世界が融合してから初めての夏にファムクリツへ行ったときにわたしも会ったことのある人だった。

 最近までは知らなかったんだけど、それを聞かされたときは「世の中って狭いんだな」とか思っちゃった。

「うーむ。この話題はもうやめよう。うん、それがいい。彰弘さん強いし! ベントさんも凄く強くなってるって言ってたし! 大丈夫だよきっと!」

「瑞穂ちゃんの言うとおりかもしれないね。確かに心配だけど、信じるだけの強さはあるもんね」

 全く心配にならないというと嘘になるけど、信じれるだけの強さがあるのは事実。

 だったら信じるしかないよね。

「それもそうですね。六花さん、今の彰弘さんならオークなんて物の数ではありません。ベントさんにしても、オークぐらい今は余裕でしょう、パールさん?」

 流石の彰弘さんでもオークが物の数ではないとまではいかないと思うけど、紫苑ちゃんのこの言葉は六花ちゃんとパールちゃんの気持ちを上向きにさせたみたい。

 まだ心配そうな気持ちは表情に残っているけど、さっきまでに比べたらだいぶいい感じ。









 結局、あの後も心配がぶり返したりもしたけれど、最後には大丈夫だってことに落ち着いた。勿論、不安がなくなったわけじゃないけど、わたしたちの彰弘さんだから大丈夫。後、パールちゃんのお兄さんもきっと大丈夫。

 よく分からないけど、何故だかそんな気がした。

お読みいただき、ありがとうございます。



次回は本編に戻ります。

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