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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
151/265

4-61.

 前話あらすじ

 冒険者ギルドの訓練場で汗を流した彰弘たちは、その日の午後先日正二と約束したとおりに土地の利用権を購入した場所へと向かう。

 そして、そんな彰弘たちの視界に飛び込んできたのは何とも立派で上品な白亜の城……ではなく白亜の屋敷であった。




 聞いていなかったエレオノールの登場に彰弘たちが正二へと目を向けるが、彼は首を横に振り自分も知らなかったと返した。

 実際、エレオノールが今この場に現れたのは正二が何かをしたからではなく、独自の情報網で今日のこの時間帯に彰弘が来ることを知ったストラトスが指示をしたからである。

「ショウジ様が何かをされたとかいうのではありません。まだ使用人に関してをお決めになっていないとのことでしたので、大旦那様のご指示により私が参上した次第となります。もっとも、始めは大旦那様の執事であるカイエンか侍女長となるパーシスが参る予定だったのですが二人は別件で今日は都合がつかず、そこでアキヒロ様と面識のある私に白羽の矢が立ちました」

 執事はその家の使用人を統括する立場にある者の職名で、侍女長は執事の下で使用人に直接指導監督する立場の者の職名である。

 元の地球とは役割が違う部分はあるが、そこは異なる世界であったためだ。

 ちなみに侍女長の地位の者が男であった場合は職名が侍従長となる。

「ミレイヌかバラサに手伝ってもらえればと思ってたが……助かるっちゃ助かるかな?」

「私たちでは一般論的な助言はできても、ちょうど良い使用人を選べるかは分からないわよ。何せこの状態だものね」

「はい。アキヒロ様の家だけであったなら別でしたが、この状態にある二つのとなると適切な人員を選ぶ手助けができるかは難しいかと考えます。使用人の差は今は良くとも徐々庭や屋敷の状態にも影響を与えていきますから」

「余程酷い方でなければ、ミレイヌ様やバラサさんが考えるようにはならないとは思います。ですが、やはりある程度は選別の必要だと思います。恐らく大旦那様の意図もそこにあるのだと愚考しております」

 単独の家に仕える使用人を選ぶのであれば、その家に合うと思われる者を選べばいいのだが、敷地だけみたら一つに見える二つの家のどちらかに仕える者となると、そこで働くことになる者の資質をある程度合わせる必要がある。

 使用人としての素養については教育を施していけば大抵はどうにかなるだろうが、資質に関しては教育したところでそう簡単に変わるものではないからだ。

「とりあえず、その辺りは家の中を見てから改めて話し合ったらいかがでしょうか?」

 このままでは当初の目的である家の確認が遅くなりそうだと判断した正二が横から口を挟んだ。

 彰弘の下で働くことになる使用人については、娘である瑞穂と香澄のこともあるから全く係わり合いにならないとは考えていない正二であったが、今は自分の仕事を優先したいところだ。

「っと、それもそうだな。とりあえずこの話は家を見た後にしよう」

 正二の言葉に彰弘が理解を示す。

 するとミレイヌが「そうね」と頷き、残る二人は正二に向かって「失礼しました」と頭を下げた。

 この程度で頭を下げられるとは思ってなかった正二は少々慌てるも何とか言葉を返す。そして一息吐いてから、彰弘たちを確認すべき家の中へと誘ったのである。

 なお、彰弘の家の確認にはエレオノールも同行することになった。今は部外者であるから外で待っていると初めは断っていた彼女であるが、素性が分からぬ人物ではないし、何より独りで待たせるのは外聞が良くない。

 このような理由から彰弘はエレオノールを確認に同行させたのである。









 自宅となる家の確認を終えた彰弘は、現在エレオノールとともに奴隷を購入できる商会へ向けて歩みを進めていた。残りの三人は別々の用事でここにはいない。

 まず正二だが、彼は家の確認が終わった後、別の仕事へと向かった。普通に勤務時間中であるのだから別に変なことではない。

 ミレイヌとバラサは、使用人に関してはエレオノールがいるから自分たちは必要ないと言って、二人だけで買い物に出かけていってしまった。事前に口にしていたように一般的なことしか助言できない今回の場合、自分たちがいない方がうまくいくだろうと二人は考えたのである。

 このような感じで、現在彰弘はエレオノールと二人きりで歩いているのであった。

 なお、当たり前と言えば当たり前なのだが、彰弘の自宅となる家の確認は何事もなく終わっている。

 自室となる部屋の広さや全部屋数に風呂場や台所などなど、彰弘としては言いたいことがあったが、それは彼個人の感想でしかなく、過ごすべき家としては間違いなく上等と言える部類の家であったのだから文句を口に出せるものではない。

 それでも彰弘の口から言葉が漏れてしまったのは、世界融合前は安いアパートで一人暮らしをしていたからか。

「立派過ぎるのも考えものだとは思うが……」

「確かに普通の方であれば過剰な建物であるかもしれません。ですがアキヒロ様の場合、周囲を考慮に入れるとあの程度はあった方が良いかと思いますよ。これからは間違いなく長期の休みや卒業後などは、お嬢様が遊びに行くでしょうから」

 彰弘のみで考えれば今は別に普通の家でも問題はないかもしれない交友関係なのだが、ここに六花や紫苑、それから瑞穂や香澄という要素が加わると、それは中々に厄介なものとなる。

 厄介の筆頭と言えるのは今彰弘の隣を歩いているエレオノールの主人であるクリスティーヌであろう。六花たち四人の親友に近い存在となった彼女は現ガイエル伯爵の次女であるため、平民が住むような家へと頻繁に出入りする姿を見られるとなると、あまり良くない目立ち方をすることは間違いない。しかし立派過ぎると彰弘が表現したような家ならば、それは減るはずだ。

 勿論、多くの平民が土地の利用権を購入する区域に今完成間近の彰弘の家を建てようものなら別の意味で騒がれるだろうが、幸いにも彰弘の家の場所は貴族家や大商人などが主に購入する区域であるため、その心配はない。

 なお、厄介の次席には勝手に香澄を好敵手扱いして周囲にもそう思われていたのが、いつの間にか仲の良い友人と見られるようになったルクレーシャである。グラスウェルでの知名度としてはクリスティーヌには及ばないが、彼女はガイエル伯爵よりも上位の爵位であるルート侯爵のご令嬢だ。ついでに言うとその取り巻きも子爵家と男爵家のご令嬢である。

 このような彰弘以外の交友関係を考えたら、ご令嬢大集合となる可能性があるため、多少受け入れがたくても立派な屋敷と呼べるような家である方が何かと安心と言えるのであった。

「なるようになるって感じなのかね?」

「そうですね。でも……実際のところアキヒロ様の交友関係も相当なものだと思います。神の名付きの加護を二つも所持していると聞いていますし、メアルリア教の大司教ともお知り合いだとか。それに現在神域認定手続き中の国之穏姫命様関係にも深く関わっているとか」

「大司教は少し行動を一緒にしただけで知り合いといえるかは分からんが……よく調べてるな」

 自分の特殊性というのは気が付きにくいものである。

 世界が融合してから、それほど経たない内にメアルリア教の神の一柱であるアンヌと邂逅したこと――精神世界でだが――が、彰弘を宗教関係のそれらに疎くさせていた。

 実際、各宗教の上位つまり司教以上にある者と知り合いとなるのは、上級貴族である伯爵位を持つ者と知り合うことと同じくらいに難しい。一時的に声をかけられる程度ならなくもないのだが、顔を覚えられて声をかけれるというのは稀有なことであった。

 もっとも、今現在の彰弘にそのようなことをするのは、グラスウェルにあるメアルリア神殿の最高責任者であるゴスペル司教と、現在はまだ神域認定手続き中の国之穏姫命のところの神主として動いている影虎くらいのものであるが。

 ともかく、なんだかんだ言って彰弘も傍から見たら六花たち四人に負けず劣らずの交友関係になる可能性を持っているのであった。

「まあ、今のところ実害があるわけでもないし、このまま流れに乗ったままってのも良いかもしれ……ん?」

 言葉を途中で切り、歩きながらだが辺りを見回す彰弘だったが、周囲に気になるところは見つからない。

 エレオノールも首を巡らすが、彰弘が疑問を持つようなものは見当たらなかった。

「どうかなさいましたか? 特に何もないようですが」

「みたいだな。もう何も感じないし、気のせいかもな」

 仮に気のせいではなかったとしても、今現在感じ取れないのだからどうすることもできない。

 念のために、今一度周囲を見回して異常がないことを確認した彰弘は、エレオノールに「行くか」と、また普通に歩き出した。

 それから少し。エレオノールがふいに思い出したかのように、彰弘には何となく心当たりはあるが聞いたことのない言葉を口にした。

 それは「首狩りさん首斬りさん爆炎の(あね)さん」というものである。

「なんだそれは? と一応聞いておこうか」

「大旦那様と旦那様は、お嬢様のことを非常に愛しておいでです。必然、その口から出るアキヒロ様のことをよくお調べになっているのですが、その調べた情報の中に最近冒険者ギルドの職員の間で、そのように呼ばれているというものがあったのです。一応、職員の方たちは外ではそのようなことを口にしていないのでしょうが、そのようなものはいつの間にか拡散するものですから、先ほど感じた気配もそれ関係ではないのかと、ふと思いまして」

 質問に対しての直接の答えではなかったが、彰弘にはそれだけで十分予想ができた。

 彰弘たちは倒した魔物の解体はせずに魔石から離した死体を血抜きしただけの状態で冒険者ギルドへ持ち込んで換金している。しっかりと解体した方が換金額は多くなるのだが金銭に困っているわけではなく、現在の最優先目的は強くなることだから、時間のかかる解体は省いているのだ。

 勿論、この行為には彰弘のマジックバングルが必須であるし、彼が動かせないほどの大きな魔物の場合は、その場である程度の大きさにまでする必要はあるが、ともかく大抵の場合、彰弘たちは魔物を倒したそのままの状態で換金に出していた。

 で、こうなると冒険者ギルドの職員が目にするのは、どうやって倒されたかがよく分かる魔物の死体なわけである。

 要はこういうことだ。

 まず「首狩りさん」だが、これは彰弘のことである。彼はグラスウェル周辺に現れる魔物程度であれば、大抵の場合は相手の首を斬り落とすことで倒せていた。勿論、全てが全てというわけではないが大半がそうであり、つまり彼が倒した魔物は大抵が頭部と胴体が分かれているのである。

 続いて「首斬りさん」と呼ばれているのはバラサのことであった。彼も彰弘同様に魔物を倒すのに首を狙うが、完全に切断するまでいかず倒してしまうことが多い。そのため、換金に持ち込まれる魔物の死体は首に大きな斬り痕が残ったものとなるのだ。

 そして最後の「爆炎の(あね)さん」は、残ったミレイヌのことだ。彼女だけは彰弘やバラサとは少々違う。勿論、換金に持ち込まれた魔物の一部が炭化していたりすることも理由だが、最大の理由は以前ファムクリツへの道中で使った火の魔法とその後の行動にあった。

 魔法使いというのは人種(ひとしゅ)全体からすると非常に少ない。そのため、ある一定以上の実力がある魔法使いのことを魔法を使わない者が噂すると、ほぼ大きな尾ひれが付いて一人歩きするようになる。勿論、大きくなり過ぎた尾ひれは、大抵がどこかでその噂の人物を見た別の者に訂正されるのだが、ミレイヌの場合は尾ひれ付きの噂が嘘ではないと思われる程度には実力を上げていた。

 その結果、「この炭化具合……噂は本当だった」となり、冒険者ギルド職員の中で爆炎の姉さんなどと呼ばれるようになったのである。

「称号になったりしないだろうな……これ以上変なのはいらないぞ」

「ふふふ。仮に称号となったとしてもアキヒロ様の場合は、それほど気にする必要はないのではありませんか? 身分証に表示される称号は一つだけなのですから、どんな称号であろうと見せなければよいのですから」

「……それもそうか。となると、身悶えるのはあの二人か」

 称号というのは本来そうそう得ることができるものではない。多くの人々が噂だとしてもそうなんだと思うか、神がそう認識するなどの必要があるからだ。

 彰弘の場合は世界融合の際の期間限定の加護や神との邂逅などがあり、今の状態となっているので、ある意味仕方のないことであった。

「首斬りさんと爆炎の姉さんのような称号をあのお二方が得たら、どのような反応を示すのか少々興味があります」

「否定はしない。否定はしないがなぁ」

「ふふ。それはそれとしまして、アキヒロ様着きました。ここが借金奴隷を扱っている商会となります」

 いつの間にやら辿り着いたその場所は裏通りなどではなく、普通に表の大通りに面したそこそこの大きさをした建物であった。

 非合法に奴隷などを扱った場合は捕まれば最後、重犯罪者として過酷な強制労働行きである。そのため借金奴隷を扱う商会の建物はほとんど全てが表通りの陽の当たる場所に建てられているのである。

「結構、良い場所にあるんだな」

「元の地球の資料は見ておりますので何をお考えかは想像できますが、これがそうです。では入りましょう」

 柔らかく笑みを浮かべエレオノールは商会へと入っていく。

 その後を彰弘は頭を掻きながら後に続くのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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