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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-59.【彰弘の家】

 前話あらすじ

 国之穏姫命の力により神言・竜心血鱗は無事完成。それを保護する金属板はアイスら天使が模様を描いたことにより強度アップ。

 そして彰弘から影虎たちに贈られた、ケルネオン土産は銘菓ケルネオン饅頭。緑茶に良く合うらしい。





 振り返りつつ手を振りつつ六花たち四人は歩く。彼女らの視線の先にいるのは見送りのためにここまで一緒に来た六花と紫苑の保護者となっている彰弘、それから瑞穂と香澄の両親である正二と瑞希である。後者の息子である正志は今朝早くから友達と学習所へと行っていてこの場にはいない。

「嬉しく思えばいいのか心配すべきなのか、ちょっと判断に困る気もしますが」

「お父さんの服と一緒に洗わないで! なんて言われるよりは良いと思うけど?」

 お互いの姿が見えなくなる寸前で立ち止まり振り返り、それまでよりも大きく手を振ってから再び歩き出した四人の姿に正二がそう漏らすと、それに瑞希が微笑みながら答えた。

 今日はグラスウェル魔法学園の夏休み最終日で明日は第二学期の始業式がある。仮にグラスウェルに住んでいたとしても、遅くて数日前には学園の寮に戻るのが普通であるのだが、四人は今日になって戻ってきていた。

 そんなぎりぎりとなった理由は簡単なもので、長期の休み以外の日はまず会えないので、できるだけ家族で過ごしていたいといったものである。

 もっとも彰弘はともかくとして、正二や瑞希は休日以外の昼は職場で働いているために普段は日中を一緒に過ごすことできない。だが、それでも夜は家族団欒を楽しむことができるので、瑞穂と香澄はこの日まで学園に戻らなかったのである。

 なお、六花と紫苑も同じである。単純に学園にいる間は会わないようにしている彰弘と多くの時間を過ごすためであった。

「それについては、そっちよりこっちの方が心配ではあるかもな……いや、大丈夫か」

 相変わらず出迎えのときの六花の突進と紫苑の抱き付きは健在であったが、それ以外では世界融合当初のころのような依存に近い状態は徐々に改善されていっていると感じられた。

 グラスウェル魔法学園に通うようになったことによる離れ離れでの生活と、そこで出会った友達との関係が、六花と紫苑にとって良いものであったということだろう。

「うふふ。仲が悪いよりはずっと良いわよ。それよりも移動しませんか? いつまでもここにいては邪魔ですし」

 男二人の思いを柔らかい笑顔で受け止める瑞希の言葉で、三人はその場から歩き出す。

「そうそう正二さん。そろそろ彰弘さんに一度見てもらった方がいいんじゃないの?」

 移動を開始してから間もなく、瑞希が彰弘を見てから正二へと顔を向けた。

 言葉の意味を把握できずに首を傾げる彰弘とは対照的に、正二はそうだったなと頷く。

「彰弘さんの家なんですが、完成間近なので今一度確認に来てもらいたいんです。夏前にお話したとおりではありますが、やはり実際に見てもらった方が良いと思いまして」

 当初、ちょっとした間違いで予定よりも広い土地の利用権を購入してしまったことや六花たちの要望のこともあり、普通ではない程度には大きい家を建てる破目になった彰弘であったが、今はそれに輪をかけた状況になっていた。

 というのも、彰弘が購入した隣の土地の利用権を購入したある人物が、『お互い景観を損ねず調和のある家を建てよう』、『こちらの提案で増加する分の経費負担はこちらが受け持つ』といった提案をしてきたのである。

 必ずしもその提案に乗らなければならないわけではないのだが、彰弘が建てる家は自分だけのものではなく六花と紫苑も住むことになるのだし、瑞穂や香澄もよく来ることになるだろう。それだけではなく彼女らの友達なども、まず間違いなく遊びに来るに違いない。それにその提案自体は真っ当なものであり、別に変なところがあるわけではなかった。

 結局、多少完成が遅れても実害はないし、先々のことを考えた場合には提案を受け入れた方が良いと彰弘は考え承諾したのである。

 なお、当初の予定では今日の時点で既に完成しているはずであった彰弘の家は、現在もまだ建築途中だ。提案の件があったために、それに合わせて図面を修正して建築計画も変更され、と何だかんだで完成までの期間が大幅に延びたのである。

 ちなみに、その延びた期間の分、長く利用することになっている彰弘の宿屋代は、提案をしてきたその人物の懐から支払われていた。

「そうだなー。何て言うか丁寧過ぎてあれなんだが……見ておくか」

 施工が再開されてから、これまで彰弘は二度しか見に行っていない。一度目は提案を受け入れたときで、二度目は六花たちが夏休みとなった直後だ。

 もっと見に行っても良いのではないかと思うかもしれないが、隣の土地の利用権を購入した人物の提案を受け入れてから彰弘が現場に現れると、妙に畏まった態度で現場の責任者が懇切丁寧に現在の状況を説明してくれるようになってしまった。そのことがあり彼の足は遠のいていたのである。

「仕方ないとは思いますよ。隣を買ったのが先代のガイエル伯爵ですから。ついでに言うと他の貴族家の方々が見に来てたりするようですからね」

 正二の言葉に心底面倒だといった表情を彰弘は浮かべ、そんな彼を見る正二の表情も若干引き攣っていた。

 『青天の霹靂』。正二の頭にはこの言葉が思い浮かぶ。

 二人の娘から彰弘が建てる家の図面を引いてくれないかと頼まれ、また彰弘からも依頼されたときはこうなるとは思ってもみなかったと、正二は思わず遠い目をした。

 事の起こりは彰弘がケルネオンに行っているときだ。職場で図面を引いていた正二は直属の上長から来客を告げられた。心当たりのない彼であったが、緊張の表情を見せる上長から、「何でもいいから急げ」と言われ、わけが分からぬままに応接室へ向かった。

 応接室にいたのはソファーに腰掛ける緊張気味の勤め先の社長と穏やかな態度で気品のある老紳士、それからその老紳士の背後に一見自然体で立つ一組の男女であった。

 この時点では、まだ正二は上長があそこまで緊張していた意味は分からなかったが、社長に促されソファーに腰を下ろした後の老紳士側からの自己紹介でその意味を知る。

 老紳士の口から出た名前はストラトス・ガイエル。

 人物そのものは知らなくとも、少し調べれば名前を見つけることができる。

 そう、ストラトス・ガイエルとは、ある意味で最もガイエル領内で影響力のある先代ガイエル伯爵の名前であった。

 さて、そんなストラトスが突然来訪してきた理由は何なのかだが、それは別に無理難題を正二の勤め先に押し付けるものではなく、ちょっとした要望を伝えるためであった。

 それは自分の建てる家と現在建築中の彰弘の家で調和が取れるようにしたいというものだ。

 ただこれには、如何に要望を伝えてきた人物が先代のガイエル伯爵であったとしても、正二の勤め先としては簡単に首を縦に振るわけにはいかなかった。

 確かに元の地球とは違い地震という自然現象はなく、しかも魔法の存在により仮に基礎工事が終わっていたとしても施工し直しが容易ではあるのだが、施工のし直しには時間も資金も余計にかかる。そのため建築中の家の依頼主である彰弘の許可が必要なのだ。

 更に問題なのは、そのときに彰弘がグラスウェルにいないことであった。

 施工のし直しなどで工期が延びるということは、家が完成するまで彰弘が余計な消費をすることになる。それだけではなく調和を取るということをするためには、それに伴う様々な経費が必要となるのだ。零細というわけではないが大手というわけでもない正二の勤め先としては、どうにもこうにも難しい話であった。

 そんな感じで、ストラトスの要望は叶えたいが彰弘のことを考えると簡単に受け入れるわけにはいかないと正二たちはその場で悩むのであったが、そこにストラトスが二つの言葉を投げかけた。

 一つは、『追加で発生する経費は彰弘の消費する分も含め出す』というものだ。これはつまり、彰弘の金銭的負担は増加しないということである。言葉を信用するしないは、相手が先代のガイエル伯爵ということもあって、この場での言及はなかったが、後日法的拘束力のある契約書が交わされている。

 そしてもう一つは、『既に孫とその友人は了承済』といったものであった。ここでいう孫とは現ガイエル伯爵の次女であるクリスティーヌ・ガイエルのことで、その友人というのは六花たち四人のことである。この言葉は彰弘と六花たちの関係を考えた場合、まず間違いなく彰弘の承諾を得れるだろうことを意味していた。

 その後もいろいろと話を交わした両者であったが、最後にはストラトスの要望が受け入れられることで決着がついたのである。

「ああ、何かよく分からない外堀が埋まっていくような気はするが、それは置いといて、とりあえず見に行くよ。ところでいつが良いかな? 俺としてはこの後すぐにでも構わないが」

「ははは、お孫さんを溺愛していると噂の先代があそこを買って、ですからね。日に関しては二日後の昼過ぎはどうでしょうか。その日ならば私も定期確認のために行きますので」

「んじゃ、そうするか」

 こうして彰弘は少し足の遠のいていた自分が住む予定の家の建築現場へと向かうことになったのである。









 余談だが、正二、というか正二の勤め先は、ストラトス・ガイエルという先代のガイエル伯爵と知り合いその要望を受け入れた影響もあり、今後それまではなかった貴族関係からの設計依頼が舞い込むことになり、良い感じで成長していくことになるのであった。

 世の中、どこに儲け話が転がっているか分からないものである。

お読みいただき、ありがとうございます。



今後、何話に何が書かれているかサブタイトルに入れようかと。

自分でもどこに何があるのか分からなくなってきたので、とりあえず試験実施。

余裕があれば過去分にも入れる予定。

今日入れた分も修正予定。

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