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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-EX04.【グラスウェル魔法学園―期間延長願い―】

 十二月はグラスウェル魔法学園の進級試験がある。

 当然、香澄たちもその試験を受けることになるのだが、そこはそれ。当然、何事もなかったように緊張もせず試験を終わらせたのであった。





 魔法を使うのに大事なことはイメージと魔力制御であると先生は言っていた。

 確かにそのとおりだと思う。

 詠唱や魔法名を声に出すのは、使う魔法をはっきりと頭に浮かべ固定させ、尚且つ操作すべき魔力の動きもそこに付け加えることで、安定した魔法の使用を実現させているからだ。

 でも逆に言えば、イメージの固定と魔力操作がしっかりとできていれば、詠唱も魔法名も必要ないってことになる。

 ただ、一つのことを……この場合は魔法の使用のことだけど、それだけを頭の中で考えるのは難しい。誰もいない場所で外からの干渉がないなら別かもしれないけど、そんな場面はまずないからだ。

 例えば魔物と戦うことになったら、その魔物の動きだけではなくて周囲の状況も考えなければならないから、どうしても魔法の使用以外も頭に浮かぶ。そうするとイメージはブレるし魔力の制御も甘くなってしまう。

 詠唱や魔法名は、頭に浮かべただけだと簡単に揺らいでしまうイメージと甘くなりがちな魔力制御を可能な限り抑える役目もあるのだ。

 もっとも、イメージと魔力制御をコンマ何秒とか、もっと短い時間でできるようになれば話は違ってくるんだけど、今はまだ動きを意識しないと魔力を動かせないわたしに、その領域は果てしなく遠い。

 それはともかく、ルクレーシャちゃんの魔力制御が乱れてる。

「うひぃ!? なんてことしますの!?」

 氷を背中に入れられたルクレーシャちゃんが、その冷たさに侯爵家の御息女とは思えない顔をして声を上げた。

 勿論、氷を魔法で作り出し彼女の背中に入れたのはわたしだ。

 人って何もないより何かあった方が頑張れるからね。お仕置きも必要です。

 勿論、ちゃんとできた人へのご褒美の話もしてある。学園近くにスイーツのお店があるんだけど、そこの一日限定二十セットの絶品スイーツをプレゼントするってことにしたんだ。

 本当はできてもできなくても、みんなで食べに行こうと思ってたんだけど、さっきも言ったように何かあった方が頑張れるし。うん、嘘も方便。

 一応、ルクレーシャちゃんも少し前までは、ちゃんとできていたからまるっきりの嘘ってわけでもないし、週末はみんなでスイーツ食べながら楽しく過ごせそう。

 ちなみに限定スイーツは、前回そのお店からの依頼を受けたときに報酬として、いつでも食べれるチケットを貰ったんだ。

 あ、言い忘れていたけど今は放課後です。午後の授業を終えたわたしたちは学園の訓練場の片隅で魔力制御の自主練習中。みんな魔力を体内で巡らすことがある程度できるようになったから、次の段階として魔力で作った球体を維持するということを行っている。

 なお、みんなというのは、わたしたち四人と寮で同室のクリスちゃんたちと、最初は敵対関係で今ではわたしと仲が良いという目で見られるようになったルクレーシャちゃんたちのこと。

 って、それは置いといて、そろそろ終わりかな。

 わたしたちは期間限定加護があったときに、普通じゃないくらい無茶したせいか慣れちゃったけど、あまり長時間の魔力制御は大抵の人にとっては効率悪くなるし。

 でも、ルクレーシャちゃんには一応言っておこう。

「とりあえず、今日はここまでにしよっか。それはそれとして……なんてことしますの、じゃないよ。最初に言ったでしょ? ちょっとくらいはいいけど、ルクレーシャちゃんは乱しすぎ。確かに結構時間経ったし、三人が何をしてるか気になるのも分かるけど、まずは自分だよ?」

「わ、分かっていますわ。それでも気になるものは気になるんですの! 魔力制御の練習をしているとは聞いてますけど、私たちとは別なのでしょ?」

 あれ? 何やってるか言ってなかったかな?

 見るとルクレーシャちゃんだけじゃなくて、クリスちゃんや他のみんなも聞きたそうにしている。

「三人がやってるのは間違いなく魔力制御の練習だよ。ただ、魔力を単純に制御するんじゃなくて、自分の魔力と相手の魔力を合わせてより強力な魔法を使うための練習だね」

「それって、カスミさんとミズホさんのように、ですか?」

 クリスちゃんの問いにわたしは頷く。

 主にその練習をしているのは六花ちゃんと紫苑ちゃんで、瑞穂ちゃんはそんな二人の練習を手助けしている形だ。

「わたしと瑞穂ちゃんの場合は偶然その相性が良かったから苦労はしなかったんだけど、六花ちゃんと紫苑ちゃんはちょっと大変みたい」

 実際問題、二人以上の魔力を合わせて強い魔法を使うというのは難しいらしい。

 普通は何年も、場合によっては十年以上の訓練が必要で、それでも相性次第ではものにできないなんてこともあるという話。

 幸いというべきなのか、それとも二人の努力量が桁違いなのか、最初は全然駄目だった六花ちゃんと紫苑ちゃんだったけど、最近はお互いの魔力が触れ合っても相手の魔力を消しちゃうことがなくなっている。多分、もう少ししたらわたしたちみたいに二人で一つの魔法を使えるようになるんじゃないかと思う。

 ちょっと余談になるけど、誰かと誰かの魔力が触れ合うとともに霧散するか、片一方の魔力が霧散する現象が起きる。原理はよく分かっていないらしいけど、ともかくそういうことが起きるんだ。実際、わたしもその話を聞いて試してみたから間違いはない。

 ただこれには興味深い法則があって、敵味方というか攻撃する側と攻撃される側の場合は魔力の霧散という現象が起きない。あくまでこの現象が起きるのは味方同士の場合に起きるんだ。

 何となく普通は敵対し合っている魔力同士の方が消し合うことになるんじゃないかと思うんだけど何とも不思議。

 まあ、相手の魔力に自分の魔力を当てるだけで、相手の魔力を消せるなら攻撃魔法なんて何の役にも立たなくなりそうだけど。

 それはさておき、今日の練習は終わりにしよう。

 この後、六花ちゃんと紫苑ちゃんが一息ついたところで、声をかけてわたしたちは学園の訓練場から寮に帰ったのである。









 夏休みまで後少しとなった。このごろ六花ちゃんの様子が少し変だ。

 記憶を探してみると、少し前にサティリアーヌさんに会ったときからだと思いついた。

 週末、冒険者ギルドで依頼を受けるために学園の外へでたわたしたちは、偶然にもアルフィスへ発つサティリアーヌさんと会ったんだよね。そしてそこで二度と会えなくなるわけじゃないだろうけど、お別れとなるんだから今までの感謝やら何やらで結構長い時間話して、それで確かそのときに彰弘さんの話が出て……そうだ、それから六花ちゃんが何か考え込んだりするようになった気がする。

 原因となったのは多分あれだろうと思うけど、こればっかりは本人に聞いてみないと確かだとは言えないしタイミングを見て六花ちゃんと話をするべきかもしれない。

 なんて考えていたんだけど、当然六花ちゃんの様子に気が付いていたのはわたしだけじゃなかった。

「最近、六花さんの様子が少しおかしいです」

 放課後の教室で紫苑ちゃんが唐突に呟いた。

 その目は六花ちゃんが寮で同室のパールちゃんと連れ立ってトイレに向かう背中に向けられている。

「だよねー。魔法とか剣とかの練習をしてるときは、今までと変わらないみたいなんだけど、ちょっとした合間に何か悩んでいるような考えているような難しい顔してるんだよね」

 紫苑ちゃんの言葉の後で瑞穂ちゃんが続く。

 そう、今までには見たことのない顔を六花ちゃんはするようになっていた。

「提案なんだけど、今日は幸いにもみんな用事でいつもの練習はしないようだし、六花ちゃんに聞いてみない?」

「そうですね、そうしましょう」

「だね。六花ちゃんの悩みが分かれば、あたしたちも解決する方法を考えることができるし」

「じゃあ、六花ちゃんがトイレから戻ったら、寮の休憩室で話を聞くってことで」

 悩みを聞いたからって解決できるとは限らないけど、何もしないでいるのは嫌だ。

 こうしてわたしたちは六花ちゃんの悩みを聞くことにしたのである。

 ちなみにパールちゃんは、「お兄ちゃんとお茶をするんだと」言って、とても良い笑顔で学園の外へ出て行った。好きなんだなー、お兄さんのこと。









 トイレから戻った六花ちゃんと一緒に寮に帰ったわたしたちは、鞄を部屋に置いて私服に着替えてから休憩室に来ていた。

 夏だからか、みんなの前にあるのは冷たい果実水だ。

「単刀直入に聞こう。六花ちゃんの悩みを話したまえ」

 理由も分からずわたしたちと行動を一緒にした六花ちゃんに瑞穂ちゃんがいきなり切り出した。

 瑞穂ちゃん唐突過ぎる。

「えっとね、最近何か様子が変だし、何か悩み事があるんだったら話してくれないかなって。ほら、ひょっとしたら良い考えが浮かぶかもしれないし」

「ええ。そうです六花さん。悩みがあるなら話していただけませんか? 勿論、無理にとは言いませんが……いえ、やはり話して欲しいです」

 紫苑ちゃんの真摯な目が六花ちゃんへと向けられた。

 六花ちゃんとの関係は、わたしや瑞穂ちゃんよりも紫苑ちゃんは深いと言えるかもしれない。

 わたしたちの場合はまだ仲の良い大事な友達でしかないけど、紫苑ちゃんの場合は仲が良く大事な家族といった間柄に近い。血の繋がりは二人にないけど、世界が融合したときのあれこれで精神的には普通の家族以上になっているんだと思う。

 だからこそ紫苑ちゃんは、ちょっと強引に六花ちゃんに話してと言ったんだ。

「六花さん、話してくれませんか?」

 紫苑ちゃんが再度六花ちゃんに声をかける。

 それに対して六花ちゃんは少し悩む様子を見せた後で口を開いた。

「彰弘さんはもう外でも十分だいじょぶってサティーさん言ってたでしょ。でも、まだここにいるのは、わたしたちのことがあるからで。で、わたしたちが卒業したら行くことになる予定なんだけど、そのときわたしまだ十五歳じゃないの……」

 その後も続く六花ちゃんの話に相槌を打ちつつ、わたしはやはりと自分が考えていたことが正しかったことを確信した。

 結論から言うと、六花ちゃんは卒業後彰弘さんが家族を探しに行くときに、できるだけ同じ立場に自分もいたいのだ。

 勿論、全てが全て同じになれるわけじゃないけど、冒険者としてのランクを同じにすることはできるはず。ただそれには年齢というどうしようもない問題があった。

 六花ちゃんは学園を卒業した年の十一月にならないと十五歳にならない。冒険者のランクE、つまり彰弘さんと同じランクになるには卒業までの三年を待ってもらっていて、そこから半年以上を更に待ってもらうことになる。

 六花ちゃんじゃなくても悩むと思う。

 でも、この悩みは大小はともかくとして、彰弘さんと一緒に行こうとしているわたしたちにも共通していることだった。

「よし、話は分かった。ここは一つ夏休みにみんなで彰弘さんに頼もう」

 相変わらず、いろいろ説明不足な瑞穂ちゃんの言葉に六花ちゃんが小首を傾げる。

 多分、いつもの六花ちゃんなら、すぐに理解したと思うんだけど、今は自分のことに手一杯みたい。

「あのですね六花さん。私たちも同じなんです。確かに私や瑞穂さんに香澄さんは学園を卒業するときにはランクEの試験を受けることができるんですが、受けれる資格があったからといって、即試験とはならないではないですか。試験に適した依頼がなければどうしようもならないわけですし」

「そうそう、だから悩む必要はないんだよー。一緒にお願いしよう、多分、いやきっと彰弘さんなら聞いてくれる」

 紫苑ちゃんの説明と根拠のない自信を見せた瑞穂ちゃんに向けられていた六花ちゃんの顔に少しだけ笑みが浮かぶ。

 彰弘さんがわたしたちのお願いを受け入れてくれるかは分からないけど、どれだけ悩んで考えたとしても、この問題に解決策なんて存在しない。だから今は、みんな同じことを悩んでいたんだよ、っていうことを六花ちゃんに知ってもらえて、また知れて良かったで終了。

 ちなみに、わたしたちがランクEとなりたい理由は、旅先で大規模討伐などに遭遇した際にランクがFだと参加できない可能性があるから。

 一緒に行くからには彰弘さんの横に立ちたいと考えているのに街でお留守番なんて我慢できないからね。

 ともかく、わたしたちはこうして残り時間を他愛のないお喋りで楽しむことができたのある。









 あれから少しが経ち、学園が夏休みとなった。

 最早恒例となった彰弘さんへの六花ちゃんの突進と紫苑ちゃんの背後への抱き付きを見た後、わたしたちは寮の休憩室で話し合ったお願いをする。その結果、無事期間延長をすることができたのであった。

 ちなみに、即答だった彰弘さん曰く、「十年二十年とかだったら考えるかもしれないが、一年くらいならお互いの連携やらできるから別に問題はない」らしい。

お読みいただき、ありがとうございます。

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