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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
147/265

4-58.

 前話あらすじ

 グラスウェルへ帰還!





 央常神社まで後少しという距離にまで来た彰弘の目に、辺りを見回す二人の男の姿が映った。片方は服の上からでも分かるほどの筋肉を持つが背が低いドワーフで、もう片方は細身で華奢な印象を受ける背の高いエルフだ。

「さっき別れたばかりなんだが?」

「だいぶ息が切れているようです」

「(切羽詰った、というわけでもなさそうじゃな)」

 彰弘が疑問を口にすれば、アイスとガルドが二人の様子を表す。

 央常神社に向かう彰弘の行く先に現れた二人組みは、ケルネオンで知り合いグラスウェルまでともに来たケインドルフとカイエンデであった。









 ケインドルフとカイエンデに近付き声をかけた彰弘に返されたのは、央常神社が見当たらないというものである。

 グラスウェルに暫く滞在するための宿を早々に確保した二人は、神による魔導具作成の最終工程に立ち会えるかもしれないと、その宿屋の主人に央常神社の場所を聞きここまで走ってきたのだが、言われたであろう場所に着いたのはいいのだが、どこにもそれらしきものは見当たらず、改めて誰かに尋ねようにもその誰かも見当たらないという少々困ったことになっていたのである。

 そんな状態の二人のところに彰弘はやってきたのであった。

「移動中のお前を見つけるのは土地勘のない俺らには難しいから、目的地へ行こうかと思ったんだが」

「来てみたら見当たらないし、それどころか周りに人の姿も見えないしどうしようかと思っていたよ」

 困惑顔のケインドルフとカイエンデの様子に彰弘が辺りを見回すと、確かにいつもなら誰かしらが歩いているだろう場所にも人の姿は見えなかった。

 ただ央常神社に通じる石階段は彰弘の目にしっかりと映っており、何故これで見当たらないと言っているのか首を傾げる。

「アキヒロ様なら集中すれば感じ取れるかと。この周辺一帯に人避けに特化した力場が展開されております。恐らく国之穏姫命様が今回のことを考えて余人を遠ざけてくれているのではないかと考えます」

「(そうなのじゃ。待っておるぞ)」

 関係者しかいないということで普通に声を出してきたアイスの言葉と、国之穏姫命からのいきなりの念話に少々驚きながら彰弘が意識を集中すると、なるほど普通とは違う気配が一帯に広がっているのが分かった。

 ちなみに魔法使いとして相当上位に位置するカイエンデが気が付かないのは、この力場が国之穏姫命の加護に由来するものだからである。

「とりあえず二人とも行こうか。穏姫が気を使ってくれているらしい」

「なんと!?」

「おお!」

 彰弘の言葉が終わらない内にケインドルフとカイエンデの視界に変化が起きた。

 それまでは何もない小高い丘にしか見えなかったそこに央常神社へ通じる石階段が映し出されたのである。

 これは今までなかったのではなく、そこにあったが国之穏姫命の力により加護という資格を、または同種の力を持たない者の目には映らないようになっていたのだ。

 ともかく、そんな感じで神の力の一端を経験した彰弘たちは石階段を上り始めたのであった。









 境内に入った彰弘たちを出迎えたのは、変な踊りをしているように見える壮年の男と少女、それからそれをにこにこしながら眺めている男と同年代の女の姿であった。

 壮年の男は央常神社の神主となった影虎で少女は国之穏姫命だ。女は影虎の妻の瑠璃である。

「興味深いことをしていますね」

「いや、変なことの間違いだろ」

 カイエンデとケインドルフでは表情も言葉もまるで違う。

 境内で行われていたのは魔力で作った球を相手に投げ、受け取ったら投げ返すという魔力操作の訓練の一つである。

 正確には相手の魔力球をそのまま投げ返すのでは大して意味がないので、投げた方は相手が受けたら魔力球を消し、受けた方は相手の魔力球が消えたら即座に自分で魔力球を作り投げ返しているのだが。

 ともかく魔力を見ることができるカイエンデと見ることができないケインドルフで違いが出たのは、そんな理由があった。

「いやはやお恥ずかしいところを。それはともかく、お帰りなさい」

「お帰りなのじゃ!」

「お帰りなさい。無事なようでなによりね」

「ただいま。見事な上達っぷりだな、影虎さん」

 魔力球の投げ合いを止めて近付いてきた影虎たちに彰弘が言葉を返す。

 成り立てとはいえ神の一柱である国之穏姫命から直接の指導を毎日のように受けている影虎の魔力操作技術は、そんじょそこらの魔法使いなどよりも既に上のものとなっていた。

 これは影虎の妻である瑠璃も、同時に国之穏姫命の加護持ちとなった元六花の担任であった澪も同じだ。

 ちなみに彰弘と同時に加護持ちとなった総合管理庁の職員であるレンは、職務が忙しく並の魔法使いの少し下程度の実力である。

「童心に返れて、その上で体調もすこぶる良くなるので、つい夢中になっていましますね。それはそれとして、何やら面倒事に巻き込まれているようで?」

「想定外過ぎるってやつだな」

「立ち話もなんですし、座って話しましょうか。そちらのお二方もどうぞ」

「では私はお茶の用意をしてきますね」

 瑠璃はそう言うと彰弘たちに一礼をしてから新築された家へと向かい、それを見送った影虎は彰弘たちに向かって再度「どうぞ」と声をかけてから社へ向かって歩き出した。









 車座となるほどの広さはないがそれでもお互いの顔を無理せず見れるだけの広さがある縁側に座った彰弘たちは、瑠璃がお茶を持ってくるのを待ち、まず見知らぬ同士の自己紹介を行う。そしてそれが終わり、程好い苦味の緑茶で一息ついてから彰弘が今回ケルネオンであったことを話し出した。

 それから暫く、彰弘が話し影虎や国之穏姫命が相槌を打つといった光景が続き、やがてそれが終わるとため息なようなものが二つの口から漏れる。

「穏姫から聞いてはいましたが……波乱万丈とでも言うんですかねえ」

「じゃなあ」

「望んではいないんだけどな。冒険者をやってなきゃ、こうはならなかったのかもしれないが」

 影虎の言葉と国之穏姫命の頷きに、半ば諦めの色を含んだような笑みを彰弘は浮かべる。

 普通の会社員であった世界融合前の彰弘の生活は波風のない平坦なものであったが、融合後は冒険者という職のこともあり平坦とは言い難いものとなっていた。

 勿論、冒険者だからといって彰弘ほど何かに遭遇するわけではない。ただし冒険者となったからこそ、彼がいろいろなことに遭遇してきた部分があることは事実であった。

「うー、わらわはアキヒロが冒険者じゃったからこそ、ここに居れるんじゃがの?」

「別に後悔しているわけじゃないから、そんな顔するな。穏姫に会えたことを悪く思ったことはないぞ。単純に冒険者になっていなかったら全く別の生活になっていたんだろうな、ってだけのことだ」

 そもそもの話、家族を探しに行くといった目的や、事務仕事や人の下で働くのは暫くやりたくないというような考えがあった彰弘だから、言葉どおり後悔なんてものはなかった。

「まあ、あのときのあれは二度と経験したくはないが」

「うぐっ。あれは今も反省してるのじゃ」

「はは。ともかく、本当に後悔しているわけじゃないさ」

 彰弘と国之穏姫命のやり取りに、事情を少しでも知っている存在は痛みを想像して曖昧な笑みを浮かべ、そうでない存在は首を傾げる。

 なお、彰弘の言葉にある『あれ』とは、国之穏姫命が神の一柱と成った際に加護を与えられた彰弘が精神世界の中でとはいえ、無数の自分の死や身体の内外問わずに焼かれる痛みを経験したことである。それら自体は国之穏姫命が原因ではないのだが、それを経験する嵌めになった切っ掛けは国之穏姫命が考えなしに彰弘へと加護を与えたことにあった。

 ちなみに今の話題で首を傾げたのはケインドルフとカイエンデの二人だけである。アンヌの天使であるアイスは当然事情を知っていたし、ガルドはお互いのことを知るためという理由で彰弘と語り合った際に話を聞いていた。

「さて、それはそれとして本題に入りませんか?」

 瑠璃が全員分の緑茶を煎れなおすのを横目で見つつ影虎が話題転換の言葉を出す。

 本来、彰弘がこの場に来た目的は帰還したことの挨拶というものも勿論あったが、最大の理由は神言・竜心血鱗という魔導具の最終工程を完了させるためだ。邪神の眷属であるポルヌアから狙われることが分かった彰弘が、少なくとも相手の不意の一撃で殺されないようにするための魔導具である。

「そうだったな。事情は知ってると思うが……頼めるか?」

「無論じゃ。大船どころか星の上にいるくらいに確実じゃぞ」

 大きく出たというより、失敗は皆無だと胸を張る国之穏姫命に彰弘は笑みで頷くと、おもむろにマジックバングルから一つの箱を取り出した。

「その箱の中に入っておるのか?」

 取り出した箱の蓋を開ける横から覗きこむ仕草を見せる国之穏姫命に、彰弘は「そうだ」と一言伝え、中から掌に握りこむことが可能な大きさの数百という数の金属板を順番に取り出し始める。

 余談であるが、本来魔導具というものはその効果が高ければ高いほど、また複数の機能を付ければ付けるほど大型化してしまう。今回の場合、機能としては邪神の眷属であるポルヌアの攻撃を防ぐという一点だけであるが効果自体は高いといえるので、この掌の中に収まる大きさは不自然だ。なら何故にこの大きさなのかというと、そこは(ひとえ)にカイエンデの力量が高いからである。

 カイエンデはアイス監修の下、恐ろしく緻密な魔導回路をこの小さな金属板に描ききったのであった。

 それはさておき、彰弘が取り出した金属板の数に影虎が首を傾げる。

「何か多いですね? 数は百と聞いていましたが」

「ん? ああ、百で間違いない。残りは穏姫にやってもらった後の魔導具に付ける保護板さ」

 カイエンデが作り上げた魔導回路を刻んだ金属板は全部で百だが、そのままでは回路が剥き出しで少しの損傷で魔導具としての機能を失う恐れがあった。そのため、国之穏姫命が最後の工程を行った後に回路保護の目的で金属の板を取り付けるのである。

「邪神の眷属の攻撃以外には何の効果もないから保護は必要じゃな。それにしても、面白みがないの。なんぞ模様でも入れんのか?」

「俺としても無地ってのは未完成っぽくて納得はいってねぇんだが、要望も時間もなかったからなぁ」

「そう言えば、ケインはそんなことを言ってたね。でも確かに地味すぎるよね」

 国之穏姫命のいうとおり保護目的の外装として用意された金属板は銀白色の無地であり面白みにかける。

 そしてその無地であるということは金属の保護板を作ったケインドルフも気にしていたようであった。

 彰弘としては効果が出ればそれで良いと考えていたのだが、どうやらそれは彼だけであるらしい。

「そうは言ってもな。デザインなんて思い浮かばんし」

「あれじゃろ。首から提げるやつは、あの四人にもやるんじゃろ? それならちょっとした模様なりなんなりがあった方がやっぱりわらわは良いと思うんじゃが」

 一同がどうすべきかと首を傾げる中、彰弘の横に降りていたガルドの背に座っていたアイスが声を上げる。

「そういうことでしたら私たちにお任せください。国之穏姫命様が最終工程を行っている間に私と私の仲間が模様を描きます。デザインは……アキヒロ様、いかがなさいますか?」

「何の案もないからな……お任せで頼む」

「承りました。それでは始めます」

 ガルドの背から降りたアイスは、誰も座っていない空間へと移動すると目を閉じ何やら呟く。

 そしてそれが終わると同時に、縁側の上にアイスと良く似た存在が十九体顕れた。

「よく来ました。用件は先に伝えた通りです。が、まずはご挨拶を」

 アイスが何をするのかと、その姿を見ていた彰弘たちが起きたことによる驚きから脱する前に、新たに顕れた十九体は揃って綺麗なお辞儀を披露する。

 そしてそれが終わると、その中の一体が前に進み出て口を開いた。

「お初にお目にかかります。私は主様が天使第九位のノインを申します。お会いできて光栄ですアキヒロ様。魔導具の保護板については、お任せください。アイスを含め我らが全身全霊をもって対応させていただきます」

 彰弘への挨拶を済ませたノインは一礼すると一歩下がり、代わりに今度はアイスが進み出る。

 そして一度彰弘に向けてお辞儀をした後、背後の天使たちに向け合図を送った。

 未だ驚きから復帰できない彰弘へと挨拶代わりの礼をしては魔導具を保護する板を運び出していく天使たち。

 一体一体がそれぞれ四枚ずつ――つまり一体の天使が二つ分の魔導回路の保護板を担当する――を脇に抱えて最初に顕れた場所へと戻っていき、そしてその場に着くと順に作業を始めた。

 ちなみに天使たちが模様を刻むために運んだのは、首から提げるための穴を開けた保護板のみである。

「これだけ天使がおったら一国くらい余裕で落とせるのー。まあ、それはそれとしてわらわもさっさとやってしまうかの。早く終わらせてのんびりするのじゃ」

 物騒なことを口にしつつ国之穏姫命は自分の目の前に魔導回路が刻まれた金属板を並べていく。そしてその金属板の上に手を翳すと目を閉じ集中し始めた。

「邪神の眷属ポルヌア……じゃいかんか。ドルワザヌアの眷属、第二十九位ポルヌア……うむ。ドルワザヌアの眷属、第二十九位ポルヌアのあらゆる攻撃を防ぐ力を国之穏姫命の名において今ここに封ずる。うむうむ、これで良しじゃ」

 国之穏姫命の手が僅かに光り、その光が百の魔導回路へと吸い込まれ、元よりも一段階明るい色となった金属板が出来上がる。

「そろそろ復帰したらどうじゃ? こっちはもう終わったぞ」

「そうは言うがな。なかなかに衝撃的って、もう終わったのか……」

 作業を終わらせ胸を張る国之穏姫命の前に置かれている金属板が、つい先ほどまでとは違うそれの様子に彰弘は軽く目を開いた。

 効果を試すことはできないが明らかに変化した金属板の様子に彰弘は魔導具作成の最終工程が完了したことを確信する。

「これで完成か」

「魔導回路自体は、じゃな。後はあっちの作業が終わり次第、保護板を外装として取り付ければよい」

 そんな感じで彰弘と国之穏姫命が会話をしていると、一人また一人と我に返り……決定的瞬間を見逃したカイエンデの声が境内に響いたのであった。









 この後、アイス以下十九の天使が模様を描いた保護板を、ケインドルフがその場で完成した魔導回路に取り付けたことにより魔導具は完成した。

 なお、魔導具の表側となる保護板の半数には剣と杖が交差したメアルリアの紋章が描かれ、もう半数には彰弘が持つ血喰い(ブラッディイート)とそれに良く似た剣が交差したものが描かれていた。一方裏側となる保護板には、それぞれが担当した天使の名前が控えめに刻まれており、保護板の強度を高める効果を齎すに至っている。

 ともかく、こうして神言・竜心血鱗は無事完成し、ひとまずの安堵を彰弘は得たのであった。









 ちなみにどうでも良いことかもしれないが、影虎たちが危惧していた彰弘からのケルネオン土産は、緑茶にとても良く合う銘菓ケルネオン饅頭というものであった。


お読みいただき、ありがとうございます。


次回はEX。【グラスウェル魔法学園―期間延長願い―】です。

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