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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-57.【グラスウェルへ帰還】

 前話あらすじ

 カイエンデの邸宅に向かった彰弘は、彼に魔導具の作成を依頼する。

 そしてそれから九日後、彰弘たち一行はグラスウェルへ戻るためにケルネオンの西門へと集まったのであった。





 ケルネオンを出て二日目となる今日も、グラスウェルへと続く街道を彰弘たち一行が乗る二台の獣車は順調に走っていた。

 昨年の夏にファムクリツという街で、あれこれあり手に入れた超高密度に圧縮された輝亀竜という竜種の甲羅を加工するためにケルネオンを訪れていた彰弘たちは、そこでの用事を終えグラスウェルへと戻る最中である。

「ひと月に少し足りないぐらいですか。結構長かったですね」

 獣車の御者台に座り、元地球のばんえい馬に似たオルホースを操るファルンが隣に座る人物へと話かけた。

 そこにいたのは彰弘である。彼は行きよりも密度が増した後ろの車部分を一瞥してから、「思ったよりも時間がかかったな」と笑みを浮かべる。

 現在、ファルンが御する獣車乗っているのは彼を含めて全部で九名だ。

 まず御者台には御者をするファルンと見張り役の彰弘が座っている。それから後ろの人を運ぶための車には、サティリアーヌにミレイヌとバラサ、アキラとショウヤといったケルネオンに向かうときと同じメンバーがおり、それに加えてメアルリア教の大司教であるリーベンシャータと今回輝亀竜の甲羅を殻から元に戻す役目を果たしたカイエンデが乗っていた。

 ちなみに輝亀竜のガルドは小亀サイズで彰弘の肩に乗っており、天使であるアイスは彰弘の腰に吊るした皮袋に身体を入れ頭だけをこっそりと出している状態で同行している。両者ともにその位置がしっくりくるようであった。

「そういえば、この獣車は改造とかはしたんだっけか?」

「何とか断りましたよ。向こうとは違い、この獣車は私の私物ではありませんから」

 そんなことを前に言っていたようなと、ふと思い出した彰弘が隣のファルンに尋ねれば、それに返されたのは苦笑を浮かべた顔である。

 ちょっと引くくらいに改造させてくれと懇願してきたケルネオンの獣車造り職人の姿を思い出したがための、ファルンの表情であった。

 なお、ファルンが言う向こうとは、自分が操る獣車と等間隔で後ろを走るケイミングが代表を務めるファムクリツにあるカイ商会の獣車のことだ。

 その獣車は元々はファルンの獣車と同じ大きさであったのだが、今では二割から三割ほど大きくなっていた。

 全体的な印象と構造自体は変わっていないため、内も外も一見では何の変わりもないように見受けられるが、車部分を引くオルホースと対比すると一目瞭然で、明らかに大きさが違っている。

 最早、改造ではなく新造だ。

 一応、僅かに目立たないところに付けられたカイ商会所属であることを示す印とオルホースを御するために必要な轡などは元々の獣車に使われていたものであるが、それ以外は全て新しく造られたものである。やはり誰が何を言おうと紛う方なく新造であった。

 ちなみに、そんな新造の獣車に乗っているのは、獣車の持ち主であるケイミングと、その彼が代表を務めるカイ商会の従業員であるルース。それからベントたち草原の爪痕パーティー六人にケインドルフとゼン夫妻。そして彰弘たちがケルネオンへと戻った四日後に合流したジェールたち潜む気配の三人の計十三人である。

 ともかく、ケイミングの獣車はケルネオンの職人の手により、立派に改造……もとい新造されたのであった。

「素材の強度と重量のお蔭で、あの大きさでも前よりも多少軽いらしいですよ。私もこれが自分のものであったらお願いしていたかもしれません。使用感や不具合の報告は欲しいとのいうことでしたが、改造費は無料でしたから」

 試作の意味合いが強いからかケルネオンの獣車造り職人たちは、それで金銭を要求することを良しとしなかった。ただし、未知である素材で自分たちが造ったものが問題なく運用できるかどうか完全な確証を持つには至らなかったというわけだ。

「ところで素材の提供はアキヒロさんがしたとのことですが良かったのですか?」

「ああ。俺にとっても益のあることだしな。すぐじゃないが遠出の予定があるから、輝亀竜の甲羅を使った獣車のノウハウを少しでも溜めてもらえたらってね」

「去年の夏に聞いた記憶がありますね。ご家族を探しに行く予定だとか」

「ま、そういうこった」

 今はグラスウェル魔法学園に通っている六花たち四人が卒業してからの話となるのだが、彰弘は一人で、または少女たちとともに自分の家族を探す旅に出る予定でいる。家族の生死については神であるアンヌから聞いて知っているため、無理にどこにいるかを探す必要はないともいえるが、そこはやはり自分の目でも確かめてみたいのだ。

 なお、旅に使う獣車は借りれば良いではないかと言われそうだが、その旅は今回とは比べものにならないほどの長い期間となる可能性がある。そのため、彰弘は自分の獣車を用意することを考え、今回ケルネオンの職人に輝亀竜の甲羅という素材を提供したのである。

 ちなみに数年後になる旅で獣車を引くのは従魔であるガルドの予定だ。現在では獣車を引くには足りない大きさのガルドではあるが、彰弘が絶え間なく与える餌のお蔭で順調に身体は大きくできるようになってきており、このままいけば旅立つまでには間違いなく獣車を引くのに問題のない大きさへとなる目算であった。

「お、見えてきましたね」

 雑談が一区切りしたところでファルンが目を細める。

 道中、魔物の襲撃もなく天候にも恵まれた彰弘たち一行の前に、グラスウェルの防壁が見えてきたのであった。









 夕刻前にグラスウェルへと入ることができた彰弘たちは、簡単に言葉を交わした後で、それぞれ別行動をとる。

 まずサティリアーヌとリーベンシャータの二人だが、彼女らは自分たちの神殿へと向かった。邪神の眷属のことや、その存在によりリーベンシャータの力が奪われてしまったことなど、話さなければならないことが多くあったからだ。

 次にベントやジェールといった冒険者たちとファムクリツから来たケイミングとルース、そしてケルネオンから来たカイエンデにケイミングとゼンだが、彼ら彼女らは今晩の寝床確保のため、空いている宿屋を探しに向かった。ケルネオン組の三人は当然ではあるが、冒険者組とファムクリツ組はどのくらいの期間で戻ることになるのか分からなかったため、グラスウェルを発つときに宿屋の部屋を解約していたからだ。これはベントたちパーティーやケイミングにルースだけでなく、ジェールたちも同じである。

 続いてアキラとショウヤの二人は帰還したことの報告のために直属の上長の下へ向かった。休暇扱いであったとしても報告は必要であったし、何より輝亀竜の甲羅が実際に使い物になることを伝え、素材の置き場所を確保してもらう必要があったのだ。自分たちの分となる輝亀竜の甲羅素材を持ってもらっている彰弘は、マジックバングルへとそれを保管しているために負担になっていなかったとしても、そこは常識的に考えていつまでも彼に持たせたままというのはいただけない。一切負担になっていなかったとしても、できるだけ早く素材を引き取っておくべきであった。

 最後は彰弘とそのパーティーメンバーであるミレイヌとバラサ、そして彰弘が雇ったファルンだ。

 彰弘は魔導具の完成をまずさせるために央常神社へ向かう予定であった。先方に用事があり仮に今日は無理だったとしても、可能な限り早く完成のための約束を取り付けるのが目的だ。最善は今から行ってすぐ最後の工程を行ってもらうことなのだが、次善として約束だけは取り付けたかったのである。

 ミレイヌとバラサはグラスウェルを離れている間も部屋を維持してもらうようにと金銭を渡して置いた部屋に戻ることにしていた。ファルンの獣車は最高級ではないが、十分に高級といえる部類でそこらのものより快適ではあったのだが、そこは育ちというよりは体力のためか、ミレイヌが疲れた様子を見せていた。そのため、バラサが宿へと行くことを提案し彼女が了承したのである。

 ファルンは当然ではあるが自分の勤め先であるラケシス商会へと向かう。獣車も、そしてそれを引くオルホースも商会のものであるし、依頼期間中の報告書作成はともかくとして、帰還したことの報告を商会にする必要があったからだ。









「さてと、俺らも行くか」

 ケルネオンへ行くときに通ったものと同じ門の前で、皆を見送った彰弘はそう声を出す。

 傍から見たら単なる独り言に聞こえるかもしれないが、その言葉は肩の上のガルドと腰の皮袋の中にいるアイスへと向けられたものであった。

「(うむ。今日できることはやってしまうべきじゃな)」

「(同意します。今、確認しましたら国之穏姫命様は現在央常神社にいらっしゃるとのことです)」

「(なら今日中に、とりあえず完成させられるかな)」

 神界ネットワークとでもいうのか、ガルドに続いてそんな情報を念話で伝えて来たアイスに、今度は口に出さずに言葉を発した彰弘は、央常神社がある方向へと向かい歩き出したのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



少々短いですが、どうにもキリがよろしくなかったので。

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