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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
144/265

4-55.

 前話あらすじ

 天使アイスの顕現。

 そして神言・竜心血鱗という、名称の魔導具の説明回。





「何か収穫はあったかい?」

 ケルネオンの東門の門番は、彰弘の身分証を魔導具で確認しつつ、笑みを浮かべた顔でそんなことを聞いてきた。

 同年代である彰弘の雰囲気が話し掛けやすかったというのもあるが、何より暇だったのである。だからこその門番の言葉であった。

 世界が融合してから此の方、ケルネオンの東門を利用する者は激減した。世界融合以前の東門はディーリプス・ミアス・シャプニルという三つの領へ繋がる門であったのだが、その三領が邪神のせいで壊滅してしまい商人たちの行き来がなくなってしまったのである。

 勿論、神域結界を維持する仮設神殿への物資を届ける者たちや冒険者などは利用するのだが、それはひっきりなしにというわけではない。また比較的近くにガッシュやクラツといった街はあるが、そこへ向かう者たちはわざわざ遠回りとなる東門を使うことはせずに北門を使う。

 結果、ケルネオンの東門は利用する者がなくなったわけではないが常時暇な状態となってしまっているのである。

「そうだな。ここにいる全員が数日間は遊べるくらいには、かな? まあ、全部魔物の素材やらなんだが」

 あえて神鉄とミスリルが交じり合った金属塊のことを彰弘は口にしなかった。本当に偶然のことであったろうし、何よりミスリルはともかくとして、神鉄なんてものがそうはお目にかかれない金属だ。うっかり口にして余計な騒動を巻き起こしたくはなかった。

 なお、一つの宗教の大司教という高位の人物と知り合いになったことも普通なら収穫といえるのだが、アンヌや国之穏姫命という神と知り合いといって良い関係となってしまっている彰弘は、そちら関係の感覚が若干麻痺してきている。そのため、この場でそのことに思い至ることはなく口に出ることはなかった。

「随分と……オークの集団にでもあったか?」

「オークもいたが、でかいのはシルバーグリズリーだな」

「そりゃまた、よく狩れたな。というか、どこで狩った? まさか仮で敷いた街道に現れたのか?」

「狩ったのは森の奥だ。見て分かるように今はメアルリアの高位司祭様が同行してるんで、折角だからと経験の少ない森の中の探索をしたんだが、ちょっと奥に行き過ぎて物の見事に大物だよ。改めて用心の必要性を感じたね」

 ここでも彰弘は事実とは一部違うことを口にした。

 神鉄というの厄介ではあるが、邪神の眷属というのはある意味でそれ以上に厄介なものだからだ。

 この目の前の門番がどれだけの情報を持っているか分からない以上、用心するに越したことはない。

「まあ、それなら確かに狩れるかもしれないな。それにしても良かったよ。これが街道で何て話だったら、近辺を大掃除しなきゃならなくなるところだった」

 この世界では比較的魔物が現れる確率が低いところを均して、その周辺の魔物を駆逐して街道とする。そうして最低限の人員でも場所と場所を行き来できるようにしているのだ。

「それはそうと、今更気付いたんだが一人増えているんだな」

「ん? ああ、仮設神殿からアルフィスへと向かうらしいから一緒に来たんだよ」

 門番の視線の先にいたのは現在の力相応の服装である司祭服を着たリーベンシャータである。

 昨日、森の奥に隔離され融合を果たしてしまった元日本の病院跡地からメアルリア教の仮設神殿へと向かった彰弘たちは事の次第を、そこにいるフィーリスへと伝えた。そしてその際にリーベンシャータをどうするかという話になったのだが、その場で即処分とできるものではなく、結局アルフィス案件となったのである。

 ちなみにガルドは小亀サイズで彰弘の肩に乗っており、アイスはマジックバングルに移された硬貨の代わりに彰弘の腰に吊るされた袋の中に入っている。ガルドは彰弘の従魔であるから良いにしても、天使であるアイスはできるだけ無関係の者に姿を見られない方が良いからだ。

「さて、長くなってすまないな。美人に睨まれるってのも悪くはないかもしれないが。ああ、従魔の方も問題ないぞ」

 ちらりと後ろを見た門番は苦笑し、彰弘に身分証を返す。

 それを受け取りつつ彰弘が視線を少し動かすと、腰の左右に拳を当てて目を細くするミレイヌの姿があった。

 美人と言うならばサティリアーヌもリーベンシャータもそうなのだが、前者はミレイヌの姿に若干苦笑し、後者は何が面白いのか普通の笑みを浮かべている。

「俺にそんな趣味はないぞ」

「何かぞくぞくとしないか?」

「同属にされては敵わん。じゃあな」

 門番にそう言葉を返した彰弘は、謝りを入れつつ仲間の最後尾に付いて門を通って行く。

 その背後では彰弘の相手をしていた門番が、自分よりも十以上下の年齢の別の門番に説教されていた。街に入る手続きを彰弘以外の全員分行うことになったのだから当然の結果である。どれだけ暇であったとしても、やはり雑談し職務を疎かにするのはいけないことであった。









 ケルネオンに入った彰弘たちが最初に向かったのは、『匠楽』という彼らが部屋を取っている宿屋である。ケルネオンの街を目前に昼の時間帯となっていたのだが、少し歩けば普通に食堂で昼食をとれるとあって、ここまで何も食べずにいたのであった。

「いい具合に大テーブルが空いてるわね」

 昼食時間帯をある程度過ぎたお蔭で、彰弘たち七人全員座れる長方形の大テーブルが空いていた。

「あら、戻ってきたのね。お帰りなさい。ちゃんと部屋は空けてあるわよ」

「そこを心配しなきゃならない宿じゃないのは分かってますから。それはそれとしてこれで適当にどかんと料理をお願いします。足りなかったら言ってください」

「残っている食材を全部使っても、これで足りないはないね。それはそれとして助かるわ。そこの大テーブルで待ってて、持ってくから」

 サティリアーヌから一枚の小金貨を受け取った女将は笑顔で、「おまかせ七名分、超特盛りで!」と厨房に声をかけながら食前の果実水を取りに奥へと入っていく。

 それを見つつ彰弘たちは大テーブルへと向かい席に腰を落ち着けた。

 それから少々経ち、大量の料理が運ばれくる。統一性といったものはないが、どれもしっかりとした料理であった。

 ほとんどの宿屋や食堂には、食材をある程度の長期間保存を可能とする冷蔵庫のようなものは備わっていない。勿論、冷蔵や冷凍を可能とする魔導具はあるにはあるのだが、その値段は高い。また魔導具そのもののみならず、それを動かすための魔石も常時使用するとしたら馬鹿にできない値段となってしまう。そのため、大抵の宿屋や食堂などでは必要と思われる以上の余剰食材はなく、一般的な食事時間帯を過ぎると提供できない料理などが出てくるのである。

 サティリアーヌが適当にと言い、それに女将が助かると返したわけは、そんなところに理由があった。

 なお、最高級と呼ばれるような宿屋や食堂には冷凍冷蔵の魔導具を備えていたり、相応の格納量を持つ魔法の入れ物を所持しているところもある。ただし、これらの物が用意されているところは、それ以外の部分でも最高級を誇るだけのものがあり、少し稼ぎが良い程度の者が泊まれたり食事できたりするような場所ではなかった。

 ともかく、彰弘たちは暫く運ばれてきた料理を無言で食べていく。そして、そこそこ腹が落ち着いてきたところで、今日これからどうするかを話し出し始めた。

「とりあえず、俺はアイスと一緒にカイエンデさんのところへ行くことにする。その後は冒険者ギルドで素材とかの買取をしてもらう予定だ」

 彰弘がまずカイエンデのところへ行くのは、言わずもがな邪神の眷属であるポルヌアの不意の攻撃を防ぐ魔導具を作ってもらうためである。魔導具の完成はグラスウェルへと帰り、国之穏姫命に最後の工程を頼む必要はあるが、それもその前段階までが完成していなければ意味がない。実際の作成にどの程度の時間が必要なのかは分からないが、早ければ早いほど良いのは確かである。

 一方の冒険者ギルドでの買取は、それが暗黙の了解だからだ。何故にそのようなものがあるのかといえば、それは経済的損失に繋がることがあるからであった。仮にケルネオン周辺で討伐されたオークの肉などの素材が全てグラスウェルへと持ち込まれた場合、当然ケルネオンにはオークの肉が入らなくなり、他の街から買う必要が発生し輸送代などの余計な費用が発生するのである。

 もっとも、魔物の素材を街の外で得るのは、そのほとんどが冒険者だ。彰弘のように魔物の素材を多く所持していても苦にしない者は、全世界を探しても片手の指で数える程度しかいないため、依頼でもないのにわざわざ自分が拠点とする街ではなく他の街にまで遠征して素材を得て自分の拠点としている街へ戻ってから売るといったことをするような者は皆無なのであった。

 ちなみに法などで規制されていないのは、その魔物の素材をどこで手に入れたかを知るためには相当な費用が必要なことと、街と街の間に境界を置くことでその周辺の魔物を討伐することを冒険者が控えてしまう懸念があったからである。

「私は休ませていただくわ。少し疲れたの」

「では私もこのまま宿に」

 食事した量は普段と同じどころか普段よりも多かったミレイヌだが、その顔には若干の疲れが浮かんでいた。

 神の奇跡である『癒し』による後遺症であった筋肉痛は随分と和らいでいたものの、完全に回復していない状態で半日近くを歩いたために、他の者よりも疲労が蓄積していたのである。

 バラサについてはミレイヌの従者という立場であるから、余程何かない限りは主と一緒に行動する選択だ。

「私とリーベンシャータさんは神殿に行って事情の説明やら何やらを行ってくるわ」

 サティリアーヌがリーベンシャータ大司教と言わずに、さん付けとしたのは本人の心情に配慮したからであった。

 リーベンシャータの昨日今日の様子から、力の落ちた彼女が大司教と呼ばれるのを良しとしていないことを感じていたからである。

 なお、事情の説明とは邪神の眷属関連のことで、何やらというのはその邪神の眷属が拠点の一つとしていただろう森林の調査を冒険者ギルドへと依頼することだ。

 邪神の眷属関連の説明は言うまでもなく、リーベンシャータがポルヌアと会ってから今までのことである。

 一方、森林の調査というのは、あの森林に邪神に関わる何らかのものがあるかないかを調べることだ。サティリアーヌが気配を探った限りでは特に何も見つからなかったが、実際に目で見ないと分からないようなものがあるかもしれない。そのため、ある一定以上のランクの冒険者に向けて、メアルリア教の名で調査を依頼することを仮設神殿での話し合いで決定したのであった。

「私はケインドルフさんのところに顔を出してきます。そろそろ鎧などができているでしょから。それとそのついでとなってしまいますが、あのときアキヒロさんからお借りした魔剣の修復をお願いしようかと思います」

「昨日も言ったが、そう気にせずともいいんだが……お願いしようか」

 食後の緑茶を飲んでいた彰弘は、湯呑みを口から放し生真面目なアキラへとそう返しつつ、腰に吊るしたままの魔剣の柄に触れた。その柄は血喰い(ブラッディイート)ではなく、もう一振りの魔剣の方である。

 シルバーグリズリーの通常種を見事討ち取った魔剣であったが、その延髄を突き刺した際に剣先が欠けてしまっていた。アキラからすれば借り物の剣を損傷させてそのままというわけにはいかなかったのである。

「私も隊長と一緒に行動しようかと思います」

 ショウヤの目的はアキラの前半の言葉の内容と同じだ。

 輝亀竜の甲羅を使った自分用の武具の最終調整はまだ終わっていない。身体の採寸を行った上で作られる武具であるために身体に合わないということはないであろうが、装着度や扱いやすさなどを向上させるためには最後の調整は不可欠なのである。

「んじゃまあ、腹もいい感じに膨れたし、皆の行動も決まっているようだし、それぞれ動こうか」

 湯呑みに残っていた緑茶を飲み干し彰弘が立ち上がると、他の面々もそれぞれ立ち上がった。

 この後、彰弘は剣先の欠けた魔剣をアキラへ預けてからカイエンデのところに、魔剣を受け取ったアキラはショウヤとともにケインドルフの家へと足を向ける。

 サティリアーヌとリーベンシャータの二人は、宿屋の女将に空き部屋の確認をしてリーベンシャータの分の部屋を確保すると、先ほど口にしたとおりにケルネオンに建つメアルリア教の神殿へと向かった。

 そして残るミレイヌとバラサは身体を休めるために宿屋の二階へと上がっていったのである。

お読みいただき、ありがとうございます。

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