表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
142/265

4-53.

 前話あらすじ

 リーベンシャータたちが戦う現場に着いた彰弘たち。

 事情はともかくとして、まずはこの危機を乗り越えるための行動を開始する。

 そして暫く。偶然の幸運もありはしたが、死者を出すことなく危機を一応ではあるが切り抜けることができたのであった。





 首を半ばまで切断され既に死体となっているシルバーグリズリーの希少種の後ろ足の一本に、赤黒く鈍い光を出す長剣を彰弘が数度振るう。そうして切り離した自分の身体よりも大きいそれを、彼はマジックバングルへと収納した。

 今現在、彰弘たちは後片付けの最中だ。何のかと言えば、戦いの結果として元日本の病院跡地に散乱することになった魔物の死体のである。

 魔物の死体を放っておくということは新たに魔物を引き寄せる可能性があり、またそれだけでなくアンデッドとして蘇える危険性もあったため、そうならないように後片付けをしているのであった。

「硬ったい、ちょー硬い。やめればよかった」

 四肢の回収を行う前に彰弘が切れ込みを入れたところから皮を剥いでいるサティリアーヌは、愚痴のようなものを零しながらも手を止めずに作業を続ける。彼女はシルバーグリズリーの希少種の素材は非常に有用であるために、回収せずに焼却するのは勿体ないと提案し胴体の解体を買って出たのであるが、そのあまりの困難さに思わず声が出てしまったのであった。

「こんだけ大きいんだから四肢と頭だけでも十分だろうに」

 もう一本の後ろ足を切り離し回収した彰弘が、残る前足二本へと近付きながら苦笑を浮かべる。

 実際、このシルバーグリズリーの希少種は大きく、仮に彰弘の言うように前後四本の足と頭だけでも相当な収入になることは間違いない。金銭に困っているならともかくとして、そうでないならば無理をして解体し素材を得る必要はないと思える。

「何を言ってるのよ。アキヒロさんはもう少しお金に執着するべきね。あんだけ広い土地の使用権利買って、それに見合う家も建てる。あの広さと大きさだと人を雇わないと維持できないわよ。それに暫くはリッカちゃんとシオンちゃんを養う必要だってあるでしょうに。そりゃ、土地と家を維持しつつ三人でその日その日を過ごすだけのお金は二人が学園を卒業した後も稼げるでしょうけど、やっぱ蓄えっていうか余裕は必要でしょ?」

 確かに今の彰弘であれば、グラスウェルの近くで狩りを行い、適度にランク相当の依頼を受けるだけで十分に生活をすることはできる。

 だが冒険者という危険と隣り合わせの職であるのだから、いつ金銭を得られなくなるか分からないのだ。そうなったときに蓄えがなく生活できなくなりましたというのは、笑い話にもならない。

「そう言われるとそうなんだけどな。……だからといって、今の状態で無理することはないと思うんだが」

 一息吐いた彰弘が周囲を見回し、サティリアーヌへと顔を戻す。

 戦い後の後片付けをしているのは、何も彰弘とサティリアーヌだけではない。

 この場で戦っていたリーベンシャータやジェールたちも、彰弘たちと一緒に来た残りの者も魔物の解体と魔石の回収をしている。正確には魔力枯渇により意識を失ってしまったミレイヌと、その護衛役として彼女の近くで待機しているガルドは参加していないが、ともかく今動ける者全員が後片付けをしていた。

 まあ、その光景自体は問題はない。問題なのは、作業をしている者のほとんどが疲労の色を濃くしていることであった。

「心配し過ぎよ。確かに魔石を残したままだから魔物が寄ってくる可能性は否定できないけど、今は周囲にその気配はない。それにね、魔物も馬鹿じゃないから仮に魔石を感じたとしても、こんなのがいた場所に簡単に近寄っては来ないわ」

 今はもう息絶えているとはいえ、シルバーグリズリーの希少種は直前までは強者の気配を確かに放っていた。そんな場所へと魔石を感じるからといって突撃してくる馬鹿な魔物は皆無と言える。魔物でも強者の気配が突然なくなった意味を考える感覚を持っているのであった。

 もっとも、シルバーグリズリーの希少種よりも圧倒的に力がある存在なら魔石を感じて即座に引き寄せられるであろうが、そのような魔物の気配は今のところ周辺に感じることはない。

 つまりは現状に限って言えば、ここで少しくらい魔石を放置していても問題ないのであった。

「サティリアーヌが言うとおり、今ならば多少の時間をかけても問題はあるまい。恐らくポルヌアと名乗ったあいつのせいだろう」

「リーベンシャータ大司教……そちらは終わりました?」

「残るは普通のシルバーグリズリーだけだ。私はこちらを手伝おう」

 その言葉に彰弘が再び周囲を見回し、サティリアーヌも視線を巡らす。

 リーベンシャータの言葉どおり、シルバーグリズリー以外の魔物の死体の上からは魔石が全て取り除かれている。

 今はアキラがジェールの指示に従い、彰弘から借りたままの魔剣で剥ぎ取りやすいようにシルバーグリズリーの身体に切り込みを入れているところであった。

「それは助かりますが……ポルヌア? のせい? 周囲の魔物がここで全部死んだからではなく?」

「ああ。お前の感知範囲は相当なものだ。その範囲に今も魔物の気配は感じないのだろ。それは普通考えられないのではないか?」

 言われてみればと頷くサティリアーヌは、今までの経験やら五感の鋭敏さやらのお蔭で半径にして一キロメートル先の魔物の気配を察知することができる。戦いが終わってから今このときまで、その範囲に魔物の気配を感じないというのは、確かに森林の中という場所では普通考えられないことであった。

「そもそもの話、私がこの場所で気が付いたとき、周囲に魔物の気配は感じなかった。力を奪われて感じ取る能力も落ちていたかもしれんが、それでもジェールたちと同程度の力は残されていたのだから、ある程度の範囲に魔物がいなかったのは間違いない。断言できるものではないが、あいつが何かをやったからだと考えたほうが自然だろう。勿論、あいつは関係ない可能性はあるがな」

「可能性を言ったらキリがないわよ。でも、それなら何故ここに魔物が?」

「それも本当のところは分からんが、あいつが逃げる際に何かをやったのだろう。最初にやって来たのはゴブリンだったが、あろうことか大型のゴーレムに攻撃を仕掛けた。いくらゴブリンの頭が良くないとはいえ、これも普通なら考えられん。その後からきた魔物については何とも言えないところだが、もしかしたら何かをされたが故に、あそこまで狂ったように戦っていたのかもしれんな」

 基本的に相手を気にせずに襲い掛かり最初の目標に執着する性質のあるゴブリンだが、それでも圧倒的な力を持つ――例えば竜種や龍種のような――存在へと襲い掛かることはない。

 大型ゴーレムは、少なくとも普通のゴブリンからしたら何をどうしたところで勝てる相手ではないことは明白で、まず間違いなく逃げの一手を取るはずなのである。

 また最初のゴブリンに限らず、後から来た魔物も魔石と血に狂ったとはいえ、あれほどまでに逃げもせずに戦い続けることは通常ありえない。

 唯一、ゴブリンとオークだけは、お互いが目の前から消えるまで戦い続けることはあるが、それはあくまでゴブリンはオークと、オークはゴブリンとだけの話だ。決して他の種の魔物相手にそれをやることはなかった。

「ふー。要するに理由は良く分からないが、少しの間はそこまで気にすることはないって話なわけだ。さっさっと終わらせるか」

「アキヒロさんて、時々妙な早さで決断するわね」

「そうでもないだろ? それより終わらせるぞ」

「ふっ。同意だ。私も早く休みたい」

 どこか呆れ顔のサティリアーヌに、リーベンシャータが笑みを浮かべた。

 この後、シルバーグリズリーの希少種と通常種は順調に解体され、他の魔物の素材も纏めて彰弘のマジックバングルへと入れられたのである。

 なお、今回解体処理に時間のかかる内臓は回収していない。劣化の起きない彰弘のマジックバングルに入れておき、後々安全な場所で処理を行うという案もあったのだが、全員一致で作業が面倒だということになったのであった。









 彰弘たちの姿は魔導具の光りに照らされた元病院の大部屋の中にあった。

 有用な素材取った魔物などの焼却が終わった後、一応森林の外へ出るために移動するか、それともこのままここで一晩を明かし翌朝から行動するかの話し合いをしたのだが、結局は疲労が濃い上に真夜中に森林の中を移動するのは危険が過ぎると身体を休めることにしたのである。

「さて、横になりたいところだが話だけはしてしまおう」

 食後、大分眠そうなリーベンシャータだが、渋めの緑茶を一口飲むとはっきりとした口調で話し出した。

 話は少女の姿をした邪神の眷族であるポルヌアと出会ったときから今に至るまでの内容だ。その中でポルヌアが術ではない何かで完全ではないようだが他人を操れるだろうことと、それから他人の力を奪いそれを結晶という形にして所持できることは、心に留めておく必要があるものだったが、それ以外にはこれといったものはない。

「それで終わりってことはないわよね?」

 黙って話しを聞いていたサティリアーヌがそんな問い掛けの声を出す。

 リーベンシャータの雰囲気から、まだ続きがあると察したサティリアーヌが先を促した。

「ああ。これはあいつの独り言から私が推測しただけのことなんだが、まずあいつは現在力を取り戻している最中らしいということだ。そしてその力は、まだそれほど回復はしていない。サティリアーヌ、今のお前にはまだ勝てないと言っていた」

 ここでリーベンシャータの顔が僅かに歪む。

 もし操られずにポルヌアの正体に気が付いてさえいれば、力を奪われる前のリーベンシャータなら相手を倒し消滅させることができたからだ。

「すまん。つまり今現在なら、弱くはないが強すぎることもないということだ」

「自分の力は分かってるつもりだから、安心材料とは言い切れないけど、そのポルヌアっていう邪神の眷属が何か起こしたとしても対処はできるのよね?」

「そうなるな。だがあくまで今はだ。時間が経てば経つほど、あいつは力を取り戻し強くなるだろう。それなのにあいつの正体を見破る術がない。大きく傷付ければ昼のように隠してはいれないが、そうでなければ我々人種(ひとしゅ)との違いが分からん。まさか何の罪もない少女を似ているからと傷付けるわけにはいかないしな」

 油断し操られたような状態になったにしても、全く自分の意思がないわけではなかった。それでも半日以上近くにいながら、相手が邪神の眷属であることを見抜けなかったのだから、その隠蔽術は相当なものである。

 だからといって、正体を暴くためにリーベンシャータが最後に口にした方法を取れるわけがない。

 いくら邪神の眷属としての力を取り戻し、更にその先の強さまで手に入れられたら一人や二人の犠牲どころか数万数十万以上の規模で被害が出る可能性があるとしても、何の罪のない少女を似ているからというだけで、そんなことを実行したら間違いなく大混乱の末に国が滅びる。

「それにいつまでもあの姿のままという保障はどこにもない。これは何の情報もないことだが、我々とは根本から違う存在だろう。姿形を変えられても不思議ではない。仮に姿を変えられず普通に成長するのだとしても、あの年頃だと成長により全く気付けないような成長をする可能性がある。化粧とかされたら、絶対に分からんだろう」

「ちょっと。本当に手の出しようがないじゃない」

 人種(ひとしゅ)の個人特定方法としては、身分証に登録されている魔力を使うという方法はあるが、そもそもの話ポルヌアがその名前で身分証を手に入れたのかも分からないのだから仮に調べたとしても、その身分証が彼女の物だと分かるだけで、彼女が邪神の眷属であると証明することにはならない。

「え、そうなるとこっちは相手が何か起こすのを待つだけってこと?」

「早い話がそうなる。だが、一つ耳寄りとはとても言い難いが、その起こす内容で分かっていることがある」

「……それって、魔物の大暴走を引き起こすとか?」

 サティリアーヌが昼の事態を思い出し口にするが、リーベンシャータは首を横に振って否定する。

 この世界の魔物に何らかの影響を与えることはできても、今回のようになるのでは意味はほとんどない。多少の混乱を引き起こすことはできるだろうが、それが元で自分のことが知られてしまう恐れがあることを、ポルヌアがやるとはリーベンシャータは思わなかった。

「違うな。そうではなく、あいつは自分にとって害になるであろう人物を殺すために動くはずだ。その相手は三人。内の二人は、あいつにとっては相手の寿命を待つのが得策と思える相手らしい、で、あまり立場的に動かないとのことだ」

「さっぱり分からないんだけど……」

「最後まで聞け。で、残り一人は今は放置でもいいが、自分が強くなり余裕で殺せるようなったら殺すつもりだと言っていた」

 ここでリーベンシャータが彰弘に目を向ける。

 それを見てサティリアーヌが何かに気付いた。

「それがアキヒロさんと何の関係が……ん? 三人? そんなに動かない二人? ……それって、まさか」

「多分、正解だ。あいつは、いつになるかは分からないが、そこの男を殺すために動くだろう」

 どんな結論になるのやらと他人事のように聞いていた彰弘の耳に、自分の名前が聞こえてきた。

 全く身に覚えがないことであったから、彰弘は緑茶の入ったカップを口に付けたまま、会話をしていたサティリアーヌとリーベンシャータへと目を向ける。

「これってこの場で喋っちゃっていいのかしら」

「ライズサンクの発表とは違うというだけだ。まあ、他言無用としておけばいい」

「じゃあ、そういうことで……」

「いやいや、ちょっと待て。ここには兵士もいるんだぞ」

 確かにライズサンク皇国のガイエル領の領都であるグラスウェルで兵士をしているアキラとショウヤという存在がここにいる。

 二人は正確に言うとライズサンク皇国直下の兵士というわけではなく、ガイエル領を治めるガイエル伯爵の兵士であるが、冒険者である彰弘たちとはいろいろと立場が違う。

「私たちが聞くことでガイエル領の利益を損ねたり危険に晒すようなものの場合は別ですが、そうでないならば構いませんよ」

「同じくです」

 ただし、アキラとショウヤはあくまでガイエル伯爵に雇われ、その下で働いているだけである。これが総合管理庁の職員とかならば、また別であったかもしれないが、この二人の場合はそうではない。そのため、多少の融通は利くのであった。

「じゃあ、話すわね。といっても、そこまで大きなものでもないのよ。皇国の公式発表では邪神を討伐したのは皇国に国民登録されている天災級とかランクSとか言われる冒険者だった男……正確にはそのときももう冒険者じゃなくて、特定事象専門の兵士だったんだけど、その兵士が精鋭部隊と各宗教の力を借りて成し遂げたことになってるんだけど、実際はうちの教主が正面から殴り倒したっていうのが正しいの。勿論その兵士や精鋭部隊も戦ったわよ。相手は邪神の眷属たちだけどね。ここまではいい?」

「確かに吹聴しなければ、何があるでもない内容ですね」

 アキラの言葉に彰弘は頷きながら、サティリアーヌへと先を促す。

 ちなみにサティリアーヌの言葉にある特定事象専門の兵士というのは、放っておくと街が壊滅するような魔物を討伐する専門の兵士のことである。

 それはさておき、サティリアーヌの話は続く。

「で、そのことを踏まえて邪神の眷属が害と考えるようなのとなると、うちの教主くらいしか思い浮かばないのよね」

「それは、その教主だかと俺に何らかの接点のようなものがあるっていうことか?」

「うん。まあ接点と言うよりは共通点かな。うちの教主にあってアキヒロさんにもある。そして、もう一人にも同じものがある。それ以外の人にはない。それはね、アンヌ様の名付きの加護なのよ」

 わざと気楽に聞こえたサティリアーヌの声に最初は何のことか分からなかった彰弘だったが、次の瞬間に「それかよ」と思わず口に出し天井を仰いだ。

 そして数秒、彰弘が口を開く。

「単刀直入に聞くが、どうすりゃいいんだ?」

「強くなるしかない……かな?」

「単純明快な答えをありがとさん」

 そう返したきり彰弘は難しい顔で黙り込み、そんな彼に誰も声を発することはできなかった。

 いつ何時、普通の少女に見える相手から致命の一撃を受けるかもしれない人物に対して、何事かをかけれる声を持つ者などそうはいない。

 しかしそんな中、彰弘の頭に声を届けたものがいた。

 それは数千年を生ある状態で越してきた輝亀竜のガルドである。

「((あるじ)よ。その昔、指定した攻撃ならば、それがどのようなものでも一度だけ防ぐことができる魔導具があった。確か当時は神言・竜心血鱗しんげん・りゅうしんけつりんと呼ばれていたはずじゃ)」

「しんげん・りゅうしんけつりん?」

「(そうじゃ。神の言葉に竜の心と血と鱗で、神言・竜心血鱗じゃ。残念ながら作製方法までは知らんが、材料は上位竜の逆鱗・血・心臓、それから神からの直接の言葉だったはずじゃ)」

「朗報か? 朗報だな」

「えーっと、アキヒロ……さん?」

 黙り込んだと思ったら、いきなり独り言を始めた彰弘にサティリアーヌが恐る恐る尋ねる。

 伝えなければ何の対策もできないから伝えたは良いが、それのせいで相手がおかしくなっては救いも何もない。

「なあ、サティー。神言・竜心血鱗って聞いたことあるか?」

「……聞いたことないわね」

 彰弘はその場にいる面々にも顔を向け確認するも、誰からも知っているという答えは返ってこなかった。

 しかしそれでも彰弘の顔は、先ほどまでが嘘のように綻んでいる。

 ガルドが言うように作り方自体は分からなかったが、その材料となるものには見覚えがあったからだ。

 彰弘のマジックバングルはアンヌがお詫びの品として彼に贈ったものである。そしてその中には信じられないほどの食料が入っており、中には元地球では絶対に見ることのない料理までが入っていた。

 もうお分かりだろう。竜を用いた料理もマジックバングルの中に入っていたのである。それも味の食べ比べでもしろとばかりに、上位・中位・下位の竜で作られた同じ種類の料理が何十種類も。

 ちなみに上位以上の皇竜やら神竜やらの表記のものまであったが、それはここでは関係はない。

「作り方はアンヌに聞くか。声に関しても、そっちで手配してもらおうか」

「(おう。そうじゃな。知ってるはずだぞ。確か持っていたからな)」

「ほう。正に朗報だな。後は俺が強くなればいいだけか」

 未だに何がなんだか分からない周囲の面々が引き気味の中で、ガルドと言葉を交わす彰弘の顔には少々黒い笑みが浮かぶ。

 まだ今の時代の人種(ひとしゅ)に作れるものかどうかは確定したわけではないが、それでも方針は決まった。

 元々目的は別であったが、強くなることは目下の課題であったのだ。こうなったら変に迷うことは百害あって一利なしである。

 ふいに引き気味の面々の中にあって、一人だけその状態からやや復帰したリーベンシャータの口から思わずといった言葉が漏れた。

 それは、「アンヌ様の名付きの加護持ちとは、こうでなければならぬのか」である。常人には良く分からない基準が、メアルリア教の一柱である平穏と安らぎを司る破壊神アンヌの名付きの加護を得るためには必要なのかもしれないと分かる、一場面なのであった。









 翌日、早朝の見張り役となった彰弘の肩には、由緒正しい侍女服を着たアンヌに仕える第一位天使であるアイスの姿があった。

 ガルドが彰弘に伝えた魔導具の作成方法を、それが行える者へと伝授するために現界へと降り立ったのである。

 ちなみに、このときアイスは八頭身であった。アンヌの天使たちは二から八まで己の意思で自由自在の頭身を変化させることができるのである。どうでもいいことだが。

お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ