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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
140/265

4-51.

 前話あらすじ

 ゴーレムを苦戦しつつも倒していくリーベンシャータ。

 そんな彼女のところにジェールたちが援軍に現れる。

 一方、ケルネオンを目指していた彰弘たちは道の半ばで感じた邪神の眷属の気配を感じ取り、その場所へと向かうために走り出したのであった。

 乱雑に生える木々の間を駆ける彰弘の鼻が今の世界になり慣れてしまったといえる臭いを捉え、並走するサティリアーヌへと視線を送る。

「魔物の血の臭いね。人の血が混じってるかは分からないわ。一度、止まりましょ」

 返されたのは僅かな頷きと、そんな言葉であった。

 ほぼ全ての面において彰弘よりも能力が高いサティリアーヌも、当然漂ってくる臭いに気付いていたからだ。

 彰弘は後方に向けて停止の合図を送り、それから一拍置いて自らの足を止める。

「どうしました? ……この臭いは、血ですか」

 多少の疲れは見受けられるものの、まだまだ余裕がありそうなアキラは問い掛けを口にするも、直後に何故この場で足を止めたのか察した。

 走っているときに地面の凹凸などへと向けていた意識が、通常の警戒態勢へと移ったことでアキラも漂ってくる臭いに気付いたのである。

「そうね。この感じからして一体や二体じゃないわね。それとまだ血の臭いに古さがない」

 サティリアーヌが血の臭いの発生元であろう方向へと視線を向けた。木々が邪魔をして見通すことはできないが、臭いは間違いなくその方向から流れてきている。

「それで、この後はどうするのですか?」

「このまま突っ走るのだけはありえないが、このまま引き返すわけにもな。……さて」

「当たり前ね。このまま止まってては何も分からなくてよ。これよりも注意しながら行くしかないのではなくて?」

 ショウヤの問いへ返すように声を出した彰弘が下顎に手の甲を当てて改めて思考しようとすると、ミレイヌの口からそんな尤もな意見が出された。

 今現在分かっていることは、自分たちが進む方向に少なくない数の魔物がいるであろうことと、その魔物の血が多く流れているだろうことの二点だけである。

 確かにミレイヌの言うとおり、警戒度を引き上げて先に進むのが現時点では上策であった。

「そうだな。無闇に突っ込むのは愚かだが、引き返したら何も分からない。それはそれとして……いや、何でもない」

 ミレイヌに顔を向けて真面目な顔で話をしていた彰弘が不意に身体ごと彼女に背を向けた。

 何事かと訝しむ彰弘以外の視線が、その背中に集中する。

 それから僅かな時間の後、サティリアーヌが彰弘の行動の意味に気が付き呆れつつも微笑ましそうな表情を浮かべるとミレイヌへと顔を向けた。

「まあ分からなくはないけど、ここでそれは駄目だと思うのよ私は」

「いや、すまない。昔、亀専門の水族館に家族で行ったときにゾウガメに跨ってはしゃいでいた妹を思い出してな。思わず、いや本当に悪い」

 何とか失笑を堪えきった彰弘はミレイヌに向き直り、そう謝罪をする。

 ガルドの甲羅に跨るミレイヌは、大きさを別にすれば彰弘の言うようなそれに見えなくもないのだが、この状況のこの場で思い出すだけならまだしも、それにより失笑するのは様々な意味で宜しくない。

「幼いころのお嬢様が初めてオルホースに乗ったときのはしゃぎようは素晴らしかったと記憶しております。なるほど、分かります」

「バラサ、あなたは何を言ってるの!? 私は好きで跨ってるのではなくてよ!」

「失礼しました。ですがアキヒロさんと会われてから、今までにないお嬢様を見れるのは、私としては非常に眼福です」

 いつの間にか生暖かい目で見られた上、過去のちょっとした出来事を暴露されたミレイヌは頬を朱に染めて、バラサに食って掛かる。

 しかしバラサは、それすらも嬉しいようで微笑みを浮かべていた。

「さてさて。程好く緩くなったところで……行きましょうか。ここからは冗談は抜きでね」

 アキラやショウヤまでもが笑みを浮かべた顔でミレイヌを見始め、それから少し。サティリアーヌが出発の意図を示す。

 一同は、そのサティリアーヌの言葉で笑みを消した。

 緊張し過ぎるのは良くないが、緩み過ぎるのも当然良いわけがない。

「多分、後数百メートルも行けば現場に着くと思うわ。ここからは歩いて行きましょ。現場の状況が分からないから遭遇した魔物は殲滅。魔石以外は無視で」

 魔物を倒した後に生成される魔石は、そのままでは血の臭い以上に周囲の魔物を呼び寄せることになる。向かう先にどれだけの数がいるか分からないため、可能な限り身に襲い掛かる危険を少なくする必要があったのである。

 こうして少々の休息時間を得た後、彰弘たち一行は今まで以上の警戒を持って森林の中を進むのであった。









「これは、どうしたらいいんだろうね?」

「どうしたらと言われてもねー。暫く様子見でいいんじゃないかなー」

「同意。あれに入ったら死ねる」

 目の前で繰り広げられる光景に引き攣ったような顔をしたジェールが声を出し、彼のパーティーメンバーであるフーリとウィークが答える。

 その横ではリーベンシャータとスティックが、身構えてはいるものの動く様子はなく、様子見に徹する姿勢を見せていた。

 現在、病院として建てられた建物の壁を背に立ち、事態を静観するジェールたちの目に映る光景は混沌と言っても間違いはないかもしれない。

 大型ゴーレムにゴブリンが踏み潰され、フォレストボアーが吹き飛ばされる。別の場所ではシルバーグリズリーにオークが襲い掛かったかと思えば、そのオークへとフォレストウルフが牙を立てていた。敵の敵は味方ではなく、敵の敵はやはり敵とでもいうように、大型ゴーレムと魔物たちは誰彼構わず目に付く相手へと攻撃を仕掛けているのである。

 そんな中で面白いのは、連携こそは皆無であるが自らと同じ種には襲い掛かっていないことか。狩りの最中だからか、魔物たちが襲う相手は必ず別種の魔物か大型ゴーレムであった。

 さて、何故にこのような事になったのか? 

 事の始まりはリーベンシャータとジェールたちが残っていた小型ゴーレム二体を破壊し大型ゴーレムと対峙していたときのことだ。大型ゴーレムの背後に十体ほどのゴブリンが現れたと思ったら、その十体は奇声を上げ無謀にも自分たちの十倍を優に超える背中へと襲い掛かったのである。結果は当然ゴブリンの全滅だ。

 勿論、それだけなら今の状態になることはない。問題は死体となったゴブリンから生成された魔石がそのまま放置されたことにあった。

 魔物の死体から生成された魔石は周辺の魔物を誘き寄せてしまう性質があり、普通は魔石が生成されてからできる限り早く回収をする。しかし今回の場合、原型を止めぬゴブリンの死体は大型ゴーレムの近くにあった。

 つまりリーベンシャータたち五人は魔石を回収できぬままに数十分の間、大型ゴーレムの相手をすることになり、それが周辺の魔物を誘き寄せてしまったのである。

 最初に誘き寄せられたのがゴブリンとオークであったのも問題だ。この世界の両者は敵同士と言える関係であり、会えば仮に魔石があろうともお互いの敵を殲滅するために行動を開始する。つまり新たな魔石と血を、その地にばら撒くことになるのだ。

 更なる問題はゴブリンとオークが戦う場の中間地点に大型ゴーレムがいたことだろう。何もされなければ魔物に反応すらしない大型ゴーレムであったが、攻撃を受けれたらその限りでないことは潰されたゴブリンの姿から分かるとおりだ。

 ゴブリンとオークがぶつかり合い、その戦いの中でオークの振るった棍棒が偶然にも大型ゴーレムの足を叩いた。因縁というべき戦いに大型ゴーレムの参戦が決定した瞬間である。

 その後はお察しの通りだ。

 ゴブリンとオーク、それから大型ゴーレムが戦っている内に次々と別の魔物が誘き寄せられ、魔石と血に狂った魔物同士があろうことか普段はそうならない魔物たちまで殺し合いを始めたのである。

 リーベンシャータたち五人にとっての不幸中の幸いは、最初の三つ巴の戦いのときに巻き込まれるのは頂けないと距離を取ったことにより戦いに巻き込まれなかったことであった。

 ともかく可能性としてはあるが、その確率は低い事態に遭遇した人種(ひとしゅ)の五人には静観を決め込むしかないのである。

「ねえ。参戦は愚の骨頂とは思うんだけど、このままでいいの?」

 とはいえ、このまま静観していても良いものなのかという疑問はあった。だからジェールは、厳しい顔で魔物と大型ゴーレムの戦いを見据えるリーベンシャータへと声をかけた。

「現状ではな。邪神の眷属が造り出したゴーレムだが、無限に動けるわけではないようだ。小型のやつもそうだったが、あの大型も僅かずつだが動力となる魔力が減っている。それに先ほどサティリアーヌの気配を感じた。だから、暫くはこのままだ」

「魔物と戦わせて少しでも力を落とさせようってことね」

 小型ゴーレムは魔力を減らして動きが鈍る前に破壊してしまったので、その兆候は見られなかった。だが今も動いている大型ゴーレムなら、その大きさ故に動くことで消費される魔力も多いはずであり、今は静観していれば最終的に戦うことになったとして自分たちに有利となる可能性がある。

 ちなみに逃げるという選択肢はリーベンシャータの中から完全に消えていた。サティリアーヌが来るのだから脅威となる大型ゴーレムも、そして魔物の群れも殲滅できると踏んだからだ。

「それにしても来るんだね、サティリアーヌさん。となるとアキヒロさんとかも来るかな?」

「それは分からん。サティリアーヌほどの力があり気配を隠さないでいるなら別だがな」

 魔物に囲まれるも損傷が皆無に見える大型ゴーレムから目を離さずにリーベンシャータが言葉を返す。

 普通の冒険者よりも休息日を少なくして、より多くの魔物を狩っている彰弘でも、冒険者のランクBの中位の力があるサティリアーヌには到底及ばない。

「そっか。早く来てくれると助かるな」

 ジェールはそれだけ言うと、最早血の海となった混沌の現場へと目を向けた。

 リーベンシャータに対するために造り出された大型ゴーレムがいつ自分たちに向かってくるか分からないし、魔物に関してもいつこちらに牙を剥くか分からない。

 大きな力を持つサティリアーヌと絶対の切断能力を持つ血喰い(ブラッディイート)を扱える彰弘が間に合うのなら、自分たちの生存確率は大幅に上がることになる。

 リーベンシャータの救援に入った自分たちが、更なる救援を待つことに少々情けなさを感じたジェールだが、それは今後に努力すればいいと結論付け、改めて意識を激しく戦いあう魔物と大型ゴーレムへと向けるのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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