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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-47.

 前話あらすじ

 言い争いの仲裁に入ったサティリアーヌは、いきなり頭部への攻撃を受ける。

 辛うじてその攻撃を防いだ彼女だったが、それを放った相手は何の釈明もせずその場を立ち去ってしまう。

 その後、仮設の神殿の中に招かれた彰弘たちは事情説明やら何やらを行い、その後そこで一晩を過ごしたのであった。




前話を 二〇一七年 二月二十七日 二十二時五十五分 に修正しています。

話の流れとしては、彰弘たちは修正前と同じケルネオンへ戻ることに変わりはありません。

一方ジェールたちがメアルリア教の司祭と一緒にガッシュという街へと向かう流れになっています。

「そうだな、少なくとも後十日くらいはケルネオンにいる」

「じゃあ、この依頼が終わったら一緒に飲もうよ。何事もなきゃ、今日中にはここへ戻ってこれる距離だから、三日後くらいには行けるかな」

「そうか。ケルネオンに着いたら匠楽って宿屋を訪ねてくれればいい。俺はそこに宿を取っている」

「ん、分かった。じゃあ、またね」

「ああ、気をつけてな」

 邪神顕現による汚染を浄化する神域結界維持のために建てられたメアルリア教の仮設神殿の前で、彰弘とジェールが別れと再会を約した言葉を交わす。

 昨日の夕方の事件はあったが、現段階で彰弘たちにできることはなく、当初の予定通りケルネオンへと戻ることにしていた。

 一方のジェールたちはメアルリア教の司祭の一人とともにガッシュという街へ向かう。メアルリア教の大司教であるフィーリスからの依頼で、昨日この場に来ていながら同じメアルリア教徒たちの誰にも挨拶をせずに立ち去ったリーベンシャータの行方を確認するためだ。司祭の同行はガッシュの神殿へ今回の状況を円滑に説明し必要ならば人手を出してもらうように要請するためである。

「さて、俺らも行こうか。ここで突っ立ってても仕方ない」

 ジェールたちの背中をある程度の時間見送った後、彰弘は自分と行動をともにする面々を見回す。

 彰弘へ返される表情は様々であった。これは今朝の朝食の席での会話が関係している。

 昨日の話し合いでの話題はリーベンシャータとジェールたちについてが主であり、両親と離れて泣いていたという少女については、それほどではなかった。その理由は神殿前でのリーベンシャータとジェールたちの様子が普段と違いすぎていたからだ。そのため、普通に思える少女の話題は少なくリーベンシャータの話題が多かったのである。

 しかし一晩が明け、彰弘をはじめ皆の思考にも少しだけの余裕が生まれ、それにより少女が両親とはぐれたという場所への疑問と、世界融合当初に起きた人々の変化のことに思い至り、そのことが朝食の席で話されたのである。

 では、この二つの話題はどのようなものだったのか。

 少女の方については、見つけた場所が普通ではありえないのだ。ジェールたちが少女を見つけた場所はガッシュから数十キロメートルは離れた地点で近くを街道が通っているわけでもない。どのような理由があっても、それこそ子供を捨てるなどという許されない行為のためだとしても、普通はそのような場所を選ぶことはないといえる。

 一応、何らかの理由で街の外にでた家族が離れ離れになり、少女だけが単独歩いてその場所へと辿り着いたという可能性はなくもないが、この世界の街の外というのは普通の少女が一人で生きていけるほど甘くも優しくもない。そのため、少女に何かあるのではないかとの考えられた。

 もう一つの話題であるが、これは邪神顕現の影響により人々は自覚のないところで感情の制御が思うようにできなくなったというものだ。邪神が倒された後は皆元に戻ったのだが、その当時はそれが原因で多くの人が誤った選択をしてしまい生命を落としている。

 彰弘も最初に避難した小学校の屋上で指摘されて始めて、そのとき自分が今までにはない怒りを表に出していたことに気が付いたという記憶があった。また彼以外の者も多かれ少なかれ、今にして思えばその影響があったと考えている。

 このことに鑑みて今回のジェールたちは、邪神の影響に類する何かの影響を受けたのではないかと思われた。

 なお、リーベンシャータに関しては別の要因もあるように思えたが、いきなりの攻撃など冷静に考えればありえないことなので、彼女もまたジェールたちと同じような状態であったのではないかと朝食を一緒にとっていた面々は推測したのである。

 さて、こうなると問題はジェールたちやリーベンシャータの行動を一時的にせよ変化させてしまった原因である。一番の可能性があるのはやはり両親からはぐれたという少女だろうが、現時点では見つかった場所が怪しい、リーベンシャータに懐いている様子であった、リーベンシャータが連れて行ったという三つだけが気付いた点であり、少女にその原因があると断定はできない。

 そのため、結局のところ取れる手段は前日に決めたリーベンシャータがガッシュに行ったかどうかの確認とメアルリア教の本拠地であるアルフィスへと情報を届けることの二点だけということになったのである。

 彰弘に返された面々の表情が三者三様であったのは、これら朝食時の話題に各々がそれぞれの考えを抱いていることを表していた。

 余談だが国之穏姫命くにのおだひめのみことの加護のときに暴走してしまった彰弘の魂に混じったアンヌの魂の一欠けらであるが、邪神の影響時には暴走することはなかった。これは単純に彰弘のいた場所が邪神の顕現地点から離れていたために、国之穏姫命の加護のときほどの影響を受けなかったからである。

 なお、今現在は彰弘の魂とアンヌの魂の一欠けらは完全に融合し彰弘のものとなっているために、例え他の神の影響を受けようとも以前のような暴走を起こすことはない。加えて言うならば神の魂が一欠けらといえど融合した魂を持つ彰弘は、それ以前と比べて数段高い精神防御力というものを持つに至っていた。

 話を戻そう。

 行動をともにする面々の表情を受け取った彰弘は軽く笑みを浮かべると再度出発を促す。それから自らが先頭に立ち歩き出したのである。









 ケルネオンへ戻る彰弘たちの話題は、やはり先ほどまでいた場所でのことであった。

 自分たちに現状できることはないとはいえ、気になるものである。

「どうにも納得できなくてよ」

「んー、同感。フィーリス大司教は急がなくてもいいと言ってたけど、どうもね」

 軽く眉間に皺を寄せるミレイヌにサティリアーヌが同意した。

 目上の者からの言葉であり、事実急いだからといってどうなるものではないが、理解はしていても納得できるかどうかへ別ものである。

「気持ちは分からないでもないがな。彼女が言っていたことも一理ある」

「そうですよ、お嬢様。この状況では焦っても良いことはありません」

 フィーリスの言葉はこうだ。

 現状を推測すると、仮に邪神に繋がる者がいたとしても今すぐに事を起こすだけの力はまだないはず。何故ならば、もしそのような力が既にあるならば今何も起きていないはずはない。それでも油断すべきではないことは確かなのだから、リーベンシャータがガッシュへと行ったかどうかを確認した上で再度指示を出す。それまでは普段通りに行動して構わない。

 要するに、まだ何も分かってないから早まった行動をするな、ということである。

「とりあえず我々はケルネオンに無事に着くことが大事ですね」

「途中魔物に襲われて最低限の連絡もできませんでしたでは、洒落にもなりません」

 兵士二人組みは思いのほか冷静であった。

 この二人は伊達に優秀と呼ばれる部類にあるわけではない。己の力量を弁えており、自分のできることやるべきことを過不足なく把握している。勿論、無理をすべきだと判断したら、それをやるだけの度胸もあった。

「そういうわけで今まで通り警戒しつつ、ちょっと早めにケルネオンに向かうぞ。サティーにとって今はそれが最善だろ?」

「……それもそうね。ケルネオンの神殿長に今回のことを伝えないといけないし」

 サティリアーヌの言葉を最後に、彰弘たちは緩めて動かしていた足を元に戻しケルネオンへの道を進んでいくのであった。









 彰弘たちがケルネオンへの道を進む一方、ジェールたちもガッシュへと延びる道を歩いていた。

 道といっても街と街を繋ぐ街道ほどのものではなく、辛うじて並の獣車が一台通れるだけの幅を持たせただけの道である。それでも道なき道を行くよりは随分とマシであった。

「とりあえず確認なんだけど、リーベンシャータさんが来たかどうかは直接的には聞かない方がいいんだよね?」

「事がはっきりとしませんから、できればそうしていただけると助かります」

 周囲を警戒しつつジェールは同行する司祭へと訪ねると、相手から肯定の意の言葉が返された。

 司祭の名はスティック。年のころは二十代半ばで細身ながら鍛えられた身体をした男だ。

 これはメアルリア教徒であれば常識の範囲ではあるが、司祭になるには冒険者ランクでC程度の戦闘能力が求められる。他の宗教であれば考えられないことだが、メアルリア教の場合は自らの力で自身の平穏と安らぎを得るという目的があるために、余程特殊な例でなければ相応に身体を鍛えているのである。

「まあ、ボクたちも余計な説明をするのは面倒だし、それとなく確認するよ。フーリとウィークもそれでいいよね」

「構わないよー。来たか来てないかが分かればいいんだよね」

「私も問題はない。多分門番さんが、こっちが何も言わなくても教えてくれる」

 フーリとウィークとはジェールがリーダーを務める潜む気配のパーティーメンバーだ。

 二人はジェールと同じく罠師で、戦闘ではフーリは小剣を振るってジェールと一緒に前衛を務め、ウィークが弓矢を使い後衛を務める。ともに年は二十四の女であった。

 ちなみにジェールの年は二十五で主武器は二振りの短剣である。

「そうだね。数日前にガッシュへ行ったばかりだし、今から向かう門の門番とは全員知り合いだから向こうから教えてくれるよね」

 つまりリーベンシャータが一緒にいないことで門番がいろいろと話してくれるだろうというわけである。

「んじゃ、さっさと行こうか。このペースなら丁度お昼ごろにはガッシュに着けるし」

 ジェールの言葉に残る三人は無言で頷いた。

 その後ジェールたちは道を進み続け、昼を少し過ぎたころにガッシュの門が見えるところまで辿り着いたのである。









 知り合いとなった門番がいる門からガッシュの街に入るために列へ並ぶジェールたちは周囲の様子を窺っていた。

 見た限りでは何かがあったようには見えない。

「何もないみたいだねー」

「いつも通りといった感じか?」

「そのようだね。まあ何もないのが一番だよね。さ、ボクたちの番だ」

 ほっとしたような顔をするスティックの様子に笑みを浮かべたジェールは、仲間たちと報告し合い足を進める。

 すると街に入るための手続きを行っている門番がジェールたちに気付いて声をかけてきた。

「あれ? あんたら暫くは外で依頼とか言ってなかったか? って、あのちょっと怖そうな美人の神官さんはどうした?」

 受け取った身分証を確認のための魔導具に翳しつつ門番がそう問いかける。

「うん、思いのほか上手くいって依頼は完了。今はこっちの神官さんの上司さんからの依頼の最中なんだ」

「そうか残念だ。あれだけの美人だから、いい目の保養になったのに」

「それは私たちに喧嘩を売っていると……そう捉えてもいいんだな」

 ジェールに身分証が返され、後ろから歩み出たウィークが半眼で門番を睨みつけた。

 本気で怒っているわけではない。リーベンシャータが来ていないことの確認を念のために行うための芝居である。

「いやいや、そんなに睨まないでよ。二人とも十分可愛いさ。でもオレは何ていうか、あのちょっと怖そうな神官さんみたいなのが好みなんだよ。仲間にも来たら知らせろって言うくらいには好みなんだぜ。もう来ないのかなー」

「あははー、あのタイプは滅多にいないよー。おじさん結婚できないんじゃないかなー」

「大丈夫、まだ慌てる年じゃない……って、オレまだ二十四だから。君におじさん呼ばわりされる年じゃないから」

 ウィークに続いてフーリ、スティックの手続きを終わらせた門番は若干目を泳がせる。そしてふと気付く。同い年におじさん呼ばわりされたことに。

 まあ、フーリのみならずジェールもウィークも見た目は十代半ばから後半に見える詐欺のような見た目であるから、それぞれの中身を知らない人から見たら何もおかしな光景ではない。

 ともかく、リーベンシャータが来ていない。少なくともこの門を通っていないことは確認できた。

「まあまあ、それじゃ門番頑張ってね。ボクたちは行くよ」

「ああ、じゃあな。あの美人神官さん、また連れてきてくれよ」

「無茶言わないでよ、じゃあね」

 軽口をたたきながらジェールたちは門を通る。

 歩みを進めるジェールたちの後ろからは先ほどの門番が先輩門番に怒られる声が聞こえてくるのであった。









 それぞれガッシュでの用事を済ませたジェールたちの姿は忙しい時間帯を過ぎた食堂の一角にあった。

 ジェールたちの用事とはリーベンシャータが連れた少女が本当にガッシュに住んでいるのかの確認と、この街の神殿への連絡である。

「まず私の方は連絡も要請も特に問題なく終わりました。念のため神殿の者にリーベンシャータ大司教のことを確認してみましたが、数日前にあなた方と訪れて以来顔を見せにきてはいないそうです。噂の類も聞いていないと」

「こっちも同じだね。それとなく知り合いとかに聞いてみたけど、昨日から今日にかけてあの人の姿を見たことがある人はいないみたいだ。門を通ってなくて噂すらない。あれだけ目立つ美人だから……これはやっぱり来ていないと考えていいんじゃないかな」

 勿論、門を通らずに街の中に入り誰にも見つかっていない可能性がないわけではない。リーベンシャータほどの力があれば、門ではなく壁を乗り越えて街に入り、また出ることも不可能ではないからだ。

 だが、それをする理由が見当たらない。仮にどうしても街の外で見つけた少女を誰にも知られることなく街の中に入れなければならないのなら、それをする理由にはなるのだがジェールたちが確認した結果それはないと断定できた。

「そうですね。ところで、そちらはどうでしたか?」

「キミの言ったとおりだったね」

「うん、なかったー」

「あの少女が言っていた特徴のある区画に行って、その家を探してみましたが、そこにあったのは総管庁の役所でした。周囲にいた人にも確認してみましたが、少女が名乗った名の人物が住む家は存在しないようです」

 潜む気配三人の話を聞いたスティックはやっぱりといった顔をする。

 事前に少女が言っていたという場所の特徴はガッシュに存在する総管庁の役所が建つ場所の特徴とそっくりだった。そのことをスティックはジェールたちに伝えていたが、それでもその場所を確認しに行ってもらったのは念のためだ。

 万が一その家が実在した場合、放置すると後々の火種になる可能性があったのである。

「さて、とりあえずここでの用事は終わったんだけど、この後はどうするの?」

「予定どおり今日中に戻ります。この時間でしたら日が落ちる前にフィーリス様へと報告ができますから」

「んじゃ、そういうことで。ご飯食べたら出発しようか」

「さんせーい。お腹ぺこぺこだよー」

「良いと思います。空腹では力もでません。ですがフーリは食べ過ぎないように」

 この後、ジェールたちは昼食をとり束の間の雑談を楽しむ。

 そしてその日の内に街を出発することを門番に驚かれながらも、ジェールたち四人はガッシュを後にしたのである。

お読みいただき、ありがとうございます。

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