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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
134/265

4-45.

 前話あらすじ

 のんびりと散策気分で宝探しをする一行。

 特に何も発見のないまま昼までを過ごし、そこから更に散策を続ける。

 そんな一行であったが、やがて念願のお宝を発見するのであった。





 『神鉄』は神が顕現した地で稀に発見される神属性を宿した金属だ。一度でも武具や何らかの道具に加工すると鋳潰すことだけはできなくなる――破損などは当然ある――という特徴はあるが、あらゆる面で魔鋼やミスリルを上回る性能を持つ。

 一方の『ミスリル』は魔力の濃い鉱脈で採掘されることがある金属で無属性の魔力を宿している。魔鋼よりも魔力伝達性などの魔力関係で若干上回り、物理的強度は若干下回るというのが、この金属の特徴であった。こちらは神鉄と違い、加工後の鋳潰しからの再加工も可能である。

 なお、今回の比較対象として出した魔鋼は闇属性の黒魔鋼や水属性の青魔鋼というように各種属性により種類は分けられるが、属性による効果以外の金属性能は属性関係なく全て共通だ。この世界では属性による有利不利という概念は存在しないのである。









 国之穏姫命の一件で得た記憶から神鉄とミスリルを探り当てた彰弘は空を見上げた。今回の発見に、またメアルリアの一柱であるアンヌが何か関わっているのではないかと考えてしまったからだ。

 そんな彰弘の様子にサティリアーヌは苦笑を漏らす。

「神様は空にいるわけじゃないし、多分違うわよ。まあ、この神域結界にうちも関わっているから全くの無関係とは言わないけど、意図したものじゃないと思うわ」

 着火と煙草消却の魔導具は彰弘の荷物の中に入れられていたし、マジックバングルも高い確率で訪れるであろう住んでいたアパートの部屋に彼以外では動かすことさえできない特性のものが置かれていた。

 今までのアンヌの行動に鑑みると、確かに今回のことは迂遠に感じる。

「今までが今までだったからなあ」

 自身も苦笑を浮かべながら彰弘は崩れた岩から覗く金属塊へと視線を戻した。

「分からないでもないけどね。それはそれとして、さくっと回収しちゃってアキヒロさん。約束どおりそれはあなたのものよ。ガルドの餌にするも良し、ケインドルフさんに渡して武器にしてもらうも良し。今後のことを考えるなら武器を作ってもらう方がいいと思うけど」

「随分と気軽に言うな、おい」

 希少且つ有用な金属を何の気負いもなく譲るという言葉を受け、彰弘は驚きからようやく脱したその場にいるサティリアーヌ以外に目を向ける。

 しかし何故か誰とも目を合わすことができない。揃いも揃って皆が彰弘から顔を背けたからである。

「何故、目をそらす」

「だってあなた、その厄介事の種をこちらにも渡そうとするのではなくて? 今以上はいらないわよ」

「同じく。輝亀竜の甲羅だけで十分過ぎます」

 ミレイヌとアキラの言葉に残る二人も頷いた。

 各種魔鋼製の武具でさえ値段や維持費の問題もあり、本来なら一流となって初めて使うようになるもの。その上位素材である輝亀竜の甲羅を使った武具が手に入ることが確定しているのだから十分というものだ。

 半ば伝説のような金属である神鉄は魅力的だが、厄介事に遭遇する可能性を考えると、できれば遠慮したい類のものであった。

「今のアキヒロさんなら持ってても、そう簡単に厄介事にはならないわよ。まだアンヌ様の加護のことを隠してたりするなら別だけど、今は隠しているわけじゃないし。ほらほら、さっさと回収する。で、出発出発」

「分かったよ」

 彰弘は崩れた岩から露出している金属塊に手を当てマジックバングルに収納し、ため息を一つ吐き出した。

 神鉄はお宝といっても過言ではない。だが彰弘にとっては分を超えたものであることは確かだ。そのため彼は損をするわけではないのに妙な疲れを感じたのであった。

 なお、神鉄はガルドの好みではないようだ。彰弘が何かを聞く前に「(あるじ)の剣を作るのが最良じゃ」と念話で伝えた後は、皆に遅れぬように歩きつつも、無言で地面に落ちている石を食べ続けていた。









 神鉄とミスリルの混じった金属塊の回収を終えた彰弘たちは宿泊地代わりとして決めた仮設のメアルリア神殿へと向かっていた。

 途中でゴブリンやロックリザードが数体ずつ襲ってきたりもしたが、それらはサティリアーヌが試作ロングメイス試し打ちとばかりに張り切り倒している。上々の結果であったお蔭で彼女以外は一度も戦わずに歩みを進めることができていた。

 そして暫くが経ち日も傾き始めたころ、歩き続けた彰弘たちの目に、とても仮設とは思えない建物が見えてきた。

「仮設とは一体何なのか?」

 思わず足を止めた一行の誰かが呟いた。

 さもありなん。そこにあったのは遠目で見ても、しっかりとした石造りの神殿であったからだ。大きさは縦横が二十メートル程度で高さは普通の二階建ての家の五割増しほどもある。冗談抜きで仮設の規模を超えていた。

「んー、これには私も驚きよ。当初の予定だと木造の平屋だったはずだけど。良い岩場があったから頑張っちゃったみたいね。流石、うちの人たちってところかしら」

 上機嫌でサティリアーヌが言う岩場というのは、今しがた自分たちが歩いてきた土地のことだ。思い返してみると神域結界の近くはそうでもないが、少し離れたところには随分と人工的な切り口の岩が見えていた。

「メアルリアってのはそんなんばかりなのか」

「現段階の結界維持は過不足なく魔力を注ぎこむ必要があるの。それが一段落したらゆっくりと十分に休まないとね。この辺は誰かが住んでいるわけではないし、切り出した石も環境を破壊するほどじゃない。なら当然よ」

 平穏と安らぎを自分の手で掴み取るためには戦いの最前線に立つことも厭わない彼ら彼女らにしてみれば、誰の迷惑になるでもない快適な神殿の建立するのは当然だ。どれだけ困難であろうとも、自らが平穏で安らげる時間を過ごすための努力は惜しまないのである。

 なお、信徒の中には木造の家が良いという者も当然いた。その者たちは石造りの神殿とは別に簡素な木造の建物を建て、そこで寝泊りしながら結界の維持にあたっているのである。

「本当にメアルリア教って特殊ね」

「そうですね。普通はやろうと思ってもできるものではありません。大抵はどこかで妥協してしまうのが人です。だからこそ現存する宗教で最も古くからあり、力もあると言われているのに信徒数がそれほど多くないのでしょう」

 呆れ半分、感心半分といった感じでミレイヌとバラサが言葉を交わす。

 しかしそんな二人にサティリアーヌが口を挟んだ。

「そこはちょっと違うわね。別に妥協を受け入れていないわけではないのよ。妥協したとしても、その結果平穏無事で安らいだ生活を送れるのなら万々歳じゃない」

 サティリアーヌの言うことは、もっともだ。

 最初に考えた方法が、そしてその先が最善だとは限らない。平穏を、そして安らぎを求めて行動し途中で妥協する。しかし妥協した結果、最初に考えた方法とは違う道に入ることで求めていたものが手に入るならば何も問題はないのだ。

「自分が努力することで、というわけではないのですか?」

「違うわね。結果的には努力することになるんだけど、そこは重要じゃないのよ。要は自分が望む平穏と安らぎに他人へ必要以上の迷惑をかけないで辿り着ければ良いわけ。だから、うちは誰かを勧誘することはないし、殊更何かをしろと指示することもない。他のとこみたいに入るのにも出て行くのにも特別な理由はいらないわよ」

 とはいえ、メアルリア教にも最低限の義務みたいなものはある。それは自分たちが生活していくために必要な糧を得ることだ。あくまで生きている間の平穏と安らぎが対象であるから、死を前提としたそれは対象外なのである。

「よく分かりませんね……」

 真剣な顔のバラサの口からそんな言葉が漏れる。

 バラサと同じような表情なのは、ミレイヌ、それからアキラとショウヤだ。

 サティリアーヌは困ったような笑みでその様子を見ており、彰弘は苦笑気味。

 平常運行なのは未だに動きつつ石を食べているガルドである。

「ま、そんなに深く考えないで。正直に言って私も今している行動がそれに向かっているのか疑問がないわけじゃないし、そもそも自分が求める平穏とか安らぎもよく分かってないしね」

「要は他人に不必要な迷惑をかけずに、好きなように生きれば良いってことさ。結果は後から付いてくる」

「また随分と気楽な発言するわね」

 サティリアーヌに続いた彰弘に、ミレイヌは呆れたような言葉を出した。

 それに対して彰弘は、「世の中、そんなもんだ」と肩を竦める。

 実際問題として、自分がどう望もうが理想の結果となることはほとんどない。ならば、そのときそのときを精一杯生きれば良い。それが後にどのようになるかは、なってみなければ分からないのだから。

 そんなこんなで神殿が見える位置で立ち止まり数十分。彰弘たちが雑談をしていると、何やらあまり歓迎したくない雰囲気が漂ってきた。

「なあサティー。あの入り口付近で何やらよろしくない雰囲気を感じるんだが。しかも片方は知り合いだ」

「そうね。私は両方知ってるわ。二人の方の少女は知らないけど、もう一人は知ってる。相対している三人もね」

 そんな彰弘とサティリアーヌのやり取りに、残る四人も神殿へと顔を向けた。

 神殿の入り口前には五つの人影がある。人影は二対三で向かい合って何やら言い争いまではいかないが、それに近い雰囲気で話をしていた。

 なお、二人の内の一人はサティリアーヌが着ている服と同系統だが多少華美に見えるもの身に着けた女で、もう一人はどこにでもあるような服を着た少女だ。

 彰弘が知り合いだといった三人の方は男が一人と女が二人で全員冒険者の姿をしている。この三人は以前彰弘が竜の翼パーティーの位牌回収依頼に同行したときに出会った、潜む気配というパーティーであった。

「さてと、見かけたからには無視はできないかな」

「同感。ちょっと相性は良くないんだけどね。にしても、あの人あんな感じだったかしら?」

「潜む気配は私も知らないわけではありません。あんな風に怒るような人たちではなかった記憶がありますが」

「ですよね。私も隊長と同じ感じを受けていました」

「バラサ?」

「私もお嬢様と同じで詳しくは知りません」

 三者三様の反応を彰弘たちが表す間も、潜む気配と相対する二人の会話は続いていた。

 その様子に彰弘は仲裁に入ることに決める。

 両者の間で戦いにはならなそうであるが、このままここで次第に激しくなっていく会話を見ているのは気分的に良くない。

「とりあえずサティーは二人の方を頼む。ジェールたちはこちらで話を聞くから」

「いいわよ。あの人、格上だけどそれとこれとは別だしね」

「んじゃ、行こう」

 短くやり取りした彰弘とサティリアーヌは揃って歩き出し、その後を残る四人と一体が続く。

 神殿前の五人は強めの言い合いから言い争いに発展したためか、自分たちに近付く彰弘たちに気付く様子はない。

 そのことに疑問を感じつつも、彰弘たちは進める足を速めるのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



二〇一七年 二月十九日 二十一時三十七分 誤字修正

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