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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
133/265

4-44.

 前話あらすじ

 邪神の顕現により亡くなった人たちに彰弘たち六名は黙祷を行う。

 そしてそれにより、幾分気分を落としてしまったアキラとショウヤをミレイヌなりに励ましたり。

 そんなことがありつつ、その日は早々に野営へと入ってしまう一行であった。




 朝食後、野営地を引き払った彰弘たちは神域結界に沿うように、のんびりと歩いていた。

 彰弘の側を歩くのはバラサにアキラとショウヤだ。

 ミレイヌとサティリアーヌは、彰弘たちよりも神域結界に近いところを進んでいる。

「正直、私には何の違いがあるのか分かりませんね」

 いくつかの植物を指差しながら、何やら真剣に話をしているミレイヌとサティリアーヌの姿を横目で見つつ、ショウヤが周囲を見渡す。

 今現在、彰弘たちがいるのは草原のような場所だが、ショウヤの言うように変わったところはないように見受けられる。しかし魔力を視ることができる者からしたら、普通でないことは一目瞭然であった。

「見た目はそうだな。でも、ここらの植物はとんでもないぞ。どう見ても、そこらに生える雑草なのにマナマジ草と同じくらいの魔力がある」

 マナマジ草は魔力を少しだけ回復させるポーションを作る材料である。当然、それなりの魔力をその身に蓄えているのだが、それはこの草がそうでないものよりも多くの魔力を蓄えることができる性質を持っているからだ。

 勿論、普通の草も多少は魔力を蓄えられるのだが、その量は微々たるものであってマナマジ草のようにポーションを作る材料となるほどではない。

 つまり神域結界近くの草は、普通では考えられない状態となっていたのである。

「それはつまり、ここらに生えている草を採取していけばポーションを作れるということですか?」

「それだったら大儲けなんだろうが、多分そう簡単にはいかないんだろうな」

「うん。アキヒロさんの言うとおり、そうは問屋がおろさないみたい」

 二種類の方法で採取した雑草を手に持ったサティリアーヌが、いつの間にか彰弘たちの側まで来ており、ショウヤの言葉に答えた。

 サティリアーヌと話をしていたミレイヌも同じように両手に草を握っている。

「こっちは地上に出ている分だけ。で、こちらは土ごと取ったもの。どちらも結界からちょっと離したら、魔力が抜けて普通の草になっちゃったわ」

「それって魔力を蓄えることができるようになっていたんじゃなくて、ただ単純にその場にあったから結界から漏れ出た魔力が通っていただけってことか?」

「そうね。イメージ的には魔導回路などで使う魔力線のようなものかしら。草の中で魔力がすごいゆっくりと巡回しているから勘違いしやすいけど、よく視ると……感じるでもいいわよ。ともかく、そうすれば魔力が留まることをしないで動いているのが分かるわ」

 しゃがみ込んで彰弘は足元の雑草に視線を固定させて観察を始める。そしてそれから少しして立ち上がると、「確かに」と呟いた。

「まあ、元よりも多くの魔力を通すことができるようになっているから、物好きな研究者なら買い取ってくれる可能性はあるけど……もう一年以上も経ってるしね。売れても二束三文というとこかしら」

 実際、この辺りの植物や石などは、世界融合による影響がある程度落ち着いたころに採取採掘されて研究が行われていたが、結果は実用性が皆無といったものであった。今では物好きであったり、諦めが悪い研究者が細々と研究をしているだけである。

 勿論、例外はあった。マジマギ草同様の性質に変化している雑草も、魔鋼の鉱石のようになっている石も神域結界周辺で見つかっていたのである。ただそれは極稀で、とても労力に見合う対価にはならない程度であった。

「そうそう、うまい話は転がってないもんですね。いや、たなぼた的に輝亀竜の甲羅を使った装備を手に入れられることになった私が言うのも変な話ですが」

「ショウヤよりも私の方がね。上への報告は少々面倒というかあれでしたが、長期休暇もいただき、仕事中の装備も一新される。ついでにプライベートの分の装備までも作ってもらえるとか。何なんでしょうね、これ」

 苦笑気味のショウヤにアキラが口を開く。

 世の中どこに幸運が転がっているか分からないものである。

「私も同じ気持ちね。それはそれとして、この後はどうするのかしら?」

 自身もたなぼたの一員であるミレイヌは、アキラとショウヤに同意しつつも彰弘へと顔を向ける。

 今回の宝探しを言い出したのは彰弘であるし、実質今この場にいる面々のリーダー役となっているのも彼だからだ。

「まだ探し始めたばかりだからな。とりあえず、飽きるまでは散策と行こうか」

「それなら、このまま進んで今日の夜は仮設の神殿に泊まらせてもらいましょ。ここから半日くらい進むと、この神域結界を維持するために造られたうちの神殿があるから。それに運が良ければ、本当に変化した有用なものを見つけられるかもしれないし」

「というわけだから、サティーが言う神殿まではこのまま進む」

 サティリアーヌの提案を受け入れた彰弘の言葉に反対意見はなく、一行はこのまま散策を続けることにしたのであった。

 なお、ここまで一切話に出てきていない輝亀竜のガルドはどうしていたかと言うと、彰弘たちから余り離れていない場所を単独で歩き、地面に落ちている石を探し出しては食べていた。石も雑草と同じように、ほとんどが完全な変化をしているわけではなかったが、興味本位で今日の早朝に地面に接していた石を食べ、そこに通った魔力を自分のものとできることを知ったのである。









 太陽が真上に来たことで彰弘たちは昼休憩とすることにした。

 宝探しの成果は今のところ皆無――ガルド除く――だが、実際のところは暇つぶしの面が強い今回の行動なために、一行の雰囲気は別に悪くない。

「後、四時間も行けば神殿に着くと思うわ」

 串焼きにしたオークのモモ肉を咀嚼し飲み込んだサティリアーヌは、これから進むべき方向へと顔を向ける。

 神域結界の回りには全部で六つの神殿がある。これらは六つそれぞれが異なる教団の施設だ。そんな神殿という施設の目的は半径にして百五十キロメートルにおよぶ結界を維持する要としての機能と、それに魔力を注ぎこむための人員の生活場所である。

「それにしても、百五十キロとか全く想像できないんだが。そんなのよく維持できるな」

「大規模結界ではあるけど機能が限定されているから、必要な魔力は現実的なレベルよ」

「そんなもんかね。ちなみに俺だと何人くらい必要なんだ?」

「うーん、一か所で百アキヒロくらいかしら」

「それ、現実的なレベルか?」

 現在の彰弘の保有魔力は、一般的に熟練と呼ばれる魔法使いの数倍はある。その彼が六百人いなければ結界は維持できないというのだから、現実的とはどこの現実なのだという話だ。

 実際、ここ最近急激に力を付けてきており保有する魔力も上がってきているが、それでも彰弘の半分以下の保有魔力しかないミレイヌは絶句していた。純粋な魔法使いであるからこそ、どれだけの魔力が神域結界維持に必要なのかを正確に察したのである。

「まあまあ、普通じゃないかもしれないけど現実にどうにかなってるんだから気にしない気にしない。それよりご飯食べて、まったり休憩して、そんでもって行きましょ」

 確かにここで彰弘たちが気にしようが気にしまいが、何らかの異常が起きない限り結界は維持される。サティリアーヌの言うように気にせず自分たちのことを考えていた方が精神衛生上良い。

 結局、この後彰弘たちは何事もなく食事を終わらせ思う存分休憩をし、その場を後にしたのであった。









 午後も彰弘たちは午前と変わらずのんびりと散策していた。勿論、無目的に歩いているわけではない。有用そうなものを探しつつ、今晩の宿泊地になるはずの神域結界を維持するために建てられた建物の一つであるメアルリア教団の神殿へと向かっているのである。

「あれは岩場かな。ガルドが喜びそうな石があれば良いが」

「((あるじ)よ、今までの石も美味とは言い難かったが十分に有用であった。気遣いは無用じゃ)」

「(そうは言うがな。美味くなさそうに食べてる顔を見るとな)」

「(むう。顔に出ておったか……というか、よく気付かれたな(あるじ)よ。ワレの顔は、この通りなのだが。いや、嬉しいのだがの)」

「(まあ、なんとなくな)」

 彰弘を見上げるように首を伸ばし上を向いたガルドの顔は、紛うことなき爬虫類である亀のそれだ。多少、角のようなものがあり鋭角的な顔をしているが、表情が簡単に分かるよな顔はしていない。

 念話とはいえ、意味の分かる声を交わせることに加え、常日頃から食事まで一緒にとってるからか彰弘はなんとなくではあるが、ガルドの喜怒哀楽が分かるようになっていたのであった。

 と、そんなことを彰弘がガルドと話している内に、一行は草原と岩場の境目へと差し掛かる。

「さあガルド。美味い石を探すぞ!」

「(心得た(あるじ)よ! とりあえず、片っ端から食ってみせるぞ!)」

 彰弘の声に答えたガルドは一目散に岩場へ突撃を開始した。

 それを見ていた一行は、思わず動きを止める。

「あらら」

「凄い……勢いね」

「動きが嬉しそうなのは気のせいでしょうか、お嬢様」

「嬉しそうというか、はしゃいでるように見えるな」

「ああ、隊長にもそう見えますか。私にもそう見えます」

 口々にガルドについての感想を声に出す皆に彰弘は軽く笑みを浮かべると、一言「行こうか」と歩き出した。









 岩場の石も草原の雑草と同じような状態であった。神域結界から漏れ出した魔力により、そこにある内は大量の魔力を保有しているように見えるが、少し離すと元とほとんど変わらない石へと変わる。

 しかしそれでもガルドにとっては、味はともかく有用な石が豊富にある良き場所であった。

「さてさて。何か良いもんはないかな」

 彰弘はそんなことを口に出し岩場を歩く、その後ろをアキラとショウヤ、それからミレイヌとバラサが回りに目をやりつつ進む。

 残るサティリアーヌはというと、前を行く五人と一体の少し後ろで足を止めていた。目の前には自身の背丈の倍ほどの岩がある。

「むぅ?」

 サティリアーヌは目を凝らし岩へと意識を集中させ、それからおもむろに輝亀竜の甲羅を用いて作られた試作品のロングメイスを振り上げた。

 今まで見てきたものと、どこかが違う気がしたのである。最初は何となくといった違和感でしかなかったが、意識を集中することで明らかに他のものとは違うことが分かった。他の石や岩は、そしてこれまでに見てきた植物は魔力が巡回していたとしても、それは必ず地面を通したものだ。勿論、今目の前にある岩も魔力は似たような巡回をしているのだが、一部が地上に出ている岩の中心部分に留まり動いていないのである。

 とはいえ、このままでは詳しいことが分からない。だからサティリアーヌはロングメイスを振り上げた。岩を破壊して中を調べるために。

「はぁぁああ!」

 普段からは想像できない気合の入った声がサティリアーヌの口から上がり、それと同時に並の膂力では扱えないロングメイスが岩へと叩きつけられる。

 次の瞬間、大きな鈍い音を周囲に響かせ岩が砕かれた。

「敵か!?」

 サティリアーヌの大声と大きな音に彰弘が二振りの剣を抜き放ち振り返る。それに続いて残りの面々も、それぞれ武器を構え振り向く。ガルドまでもが石を食べるのを止め振り返っている。

 そんな緊迫感を出す五人と一体に、サティリアーヌは「あちゃー」と口を動かし、続いて「ごめんね」と緊張感のない声で答えたのであった。









「気付かずに先に進んだのは確かに俺らが悪い。悪いがな、いきなり何てことをするんだ」

「ごめんなさい」

 砕けた岩の側でばつが悪そうな顔でサティリアーヌが再び謝る。

 彰弘の言うように、一人遅れていたサティリアーヌが付いてきていないことを確認せずに進んだ彼らも良くないが、だからといって遅れた上に無駄に緊迫感を煽る行為をした方も無罪とは言えない。

「で、何を考えてそんなことをしたんだ?」

 ロングメイスの直撃を受けて中心部付近が顕わになった岩へと目を向けた彰弘がそう言うと、サティリアーヌは「これよこれ」と周囲の岩とは明らかに違う色をした部分を指差した。

 そこには、鉱石ではなく金属の状態で乳白色と銀白色が交じり合った塊がある。直径は五十センチメートルほどで、割合は乳白色が二の銀白色が八といったところか。

「実際のところ、これは何なのですか? 凄く厄介なもののような気がするわ」

「魔鋼よりも魔力は多いな。銀白色の方は普通だが、乳白色の方は恐ろしくはっきり、というか魔力が輝いて視えるぞ」

 魔力を視ることはまだできないが、感じ取ることはできるミレイヌが引き気味にサティリアーヌへと問いかけ、彰弘は目を細めた。

 魔力は質や濃度、視る者感じる者の個人差により捉えられ方に違いがある。しかし一人前と言えるまでに成長したミレイヌが厄介と表し、彰弘が輝いて視えると言ったものなど、普通は目にすることができない。

 つまりは、それほどに岩の中で変化を遂げたこの金属塊は希少である確率が高いのだ。

「ふふん。聞いて驚け! ケインドルフさんもきっと喜ぶわよ。なんと、銀白色はミスリルで、乳白色は神鉄なのよ!」

 ドヤ顔で声を上げるサティリアーヌに、彰弘たちは身動ぎ一つしない。

 驚きがないわけではないし、サティリアーヌの言葉が分からなかったわけでもなかった。

 ただ彰弘たちは、この世で上から数えた方が早い強さと希少性を持つ金属に言葉が出ないだけだったのである。

お読みいただき、ありがとうございます。

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